ソニーデザイナーが共有する
言葉で表せないもの

高木 紀明

インダストリアルデザインを手掛けてきたデザイナーが語る
ソニーデザインのフィロソフィー

「見えないものを可視化する重要性」

ソニーのデザインフィロソフィーについて、どのように受け止めていますか?

私も昔は青い時期があって、「フィロソフィーなどと言っている暇があるなら、ひとつでも原型になるものを創造するべきだ」と考えていたときもありました。しかし、後進の育成や、社内及び社外へ向けたメッセージとして、見えないものを可視化する必要性の重要性を感じたときに、考えが変わっていったのです。今では、「先駆」「本質」「共感」それぞれを駆使しなければ、「原型」を創ることはできないと考えています。

人のやらないことを
やるために、日常で目を配る
ソニーのデザイナー、高木 紀明がソニーデザインフィロソフィーの「先駆」について語ったものをコンピュータグラフィックスで表現した映像です。

一番心に刺さっているのは、ソニー創業者の一人である井深大さんが口にされていた「人のやらないことをやる」という言葉です。ただ闇雲に効率だけを求めるのでは、「先駆」は創れません。普遍的な考えに縛られず、自由に新しい流れで、時には普遍性を壊していくことが求められます。ありきたりな日常に思わぬきっかけが埋もれていることもありますから、人のやらないことをやるために、それらを見落とさないよう、普段からすごく意識しています。

何度も考えて
可能性を研ぎ澄ます
ソニーのデザイナー、高木 紀明がソニーデザインフィロソフィーの「本質」について語ったものをコンピュータグラフィックスで表現した映像です。

そして、新しいコトやモノというのは、往々にして人の拒絶を誘発します。なぜなら、誰も見たことがないからです。そこで重要になるのが「本質」。それを見極めるには、生み出したものが、新たなスタンダードに相応しいかどうか、何度も考えて可能性を研ぎ澄ますこと。そして、過去の事例を遡り、新たに生み出したものが、その軌道の延長線上にあるかどうかも大切です。

大切だと思うポイントを深く
掘り下げて自分のものにし、
他の人とリンクさせていく
ソニーのデザイナー、高木 紀明がソニーデザインフィロソフィーの「共感」について語ったものをコンピュータグラフィックスで表現した映像です。

さらに、「共感」を得るには、やはり経験値が物を言います。世の中には様々なデザインのヒントが存在しますから、どれだけそのヒントに気づけるかによって、生み出すものが変わってきます。知見を広げ、大切だと思うポイントを深く掘り下げて自分のものにしていく。そういった経験値が他の人とリンクすることで「共感」が生まれていくのだと思います。選り好みをせず、否定せずにアンテナを張っていることが大切です。

想像創造を繰り返す
ことが、この世にないものを
創り出す手段

ソニーのデザイナーとして、大切にしていることは何ですか?

正直、フィロソフィーは精神論に近いので、全てを言葉で明らかにするというのは難しいところがあると思っています。今までも多くの先輩方がソニーのデザインフィロソフィーについて議論を重ねてきましたが、それでも全てを可視化することは叶っていません。しかし、それでもソニーのデザイナー同士には、言葉にできない何かを共有する瞬間が確かにあります。

私が一番好きなソニー製品に『サイバーショット® DSC-F505V』というカメラがあるのですが、仕事で何か壁にぶつかると、一日中これをいじっていたものです。そういったときに、「だからこうなっているんだ」ということにふと気付くことがあります。まさにモノが語ってくる感覚です。詰まるところソニーらしさとは、製品という軌跡が語るものだと思うのです。

私は、日々のクリエイティブで自分の意識を「現実と理想」、言い換えると「現在と未来」の狭間に居るように心がけています。その上で想像創造を繰り返す。これがこの世にないものを創り出す手段であり、デザイナーとしても大切にしていることですね。

サイバーショット® DSC-F505V

ソニー製品に魅力を感じたエピソードを教えてください

幼少の頃に、Mr.neLLo(ミスターネロTV-501)というテレビを父が購入し、横になってプロ野球を見ていたのを覚えています。人の頭の角度に合わせて画面の角度を変えられるこのテレビはどのような発想から生まれたのか、自分には想像もつきませんでした。ですが寝転んで使用する姿を見ていると、人に近づく為のデザインであるはずのに、父がそのテレビに頭の角度を合わせているようにしか見えないんですね。斬新なアイディアにも意表を突かれましたが、それよりも逆に人がモノに寄り添ってしまう力に驚きました。それがソニー製品を気にするようになったきっかけでした。

Mr. neLLo ミスターネロTV-501

デザインの役割が広がる未来、
その世の中に感動を与えたい

デザインが今後、世の中に寄与できるとしたら?

一昔前と違ってデザインという言葉は、環境や社会に至るまで幅広い範囲に使われる言葉になりました。こういった社会の流れからすると、今後、デザインが世の中に寄与できることは、ほとんどすべてのことが当てはまるようになっていくと感じています。

実際、仕事の案件もUXデザインやコミュニケーションデザインなどが増えています。これから様々なことをデザインで解決していく世界が訪れるのだと考えると、ワクワクもするし、不安もありますね。デザインの力でもたらされている利便性や円滑な事柄というのは、慣れてしまうと当たり前になって、少しの不具合でも目に付くようになります。テクノロジーやシステム、構造がどんどん複雑になっていくにつれ、デザイナーの負担も増えていくことでしょう。

顧客の期待を裏切らない事でさえ困難であるのに、その期待を超えて感動をもたらすとなると、至難の業といえます。ですが、それが「原型」を創るということなのです。そう考えると、改めて身が引き締まる思いです。

原点回帰の為再び訪れたルーブル美術館

高木 紀明

1995年ソニー入社、ソニーデザインにおけるほぼすべてのカテゴリーの担当を経て現在に至る。
「NEX」シリーズや「DSC-RX1」などのデジタルカメラ、「aibo」、「Vision-S Prototype」等のプロダクトデザインを担当。