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グループ内の多様な専門性を認め合い、
時代が求めるプロの道具をつくり出す


約30年ぶりに誕生したモニターヘッドホン「MDR-M1ST」は、レコーディングスタジオをはじめとする
音楽を創るプロの現場で、自宅やスタジオでの録音やDTM作業まで、幅広く愛用されています。
まずは、前身となったプロ仕様のモニターヘッドホン「MDR-CD900ST」から続く
エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション事業と音楽事業のコラボレーションによる開発の歴史を聞き、
今回新モデルに生かされたソニーグループのダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンの力について、
プロジェクトのメンバーに話を聞きました。

中山 博文
株式会社ソニー・ミュージックソリューションズ、ソニーミュージックスタジオ東京
潮見 俊輔
ソニー株式会社、MDR-M1ST音響設計担当
野口 素弘
株式会社ソニー・ミュージックソリューションズ、ソニーミュージックスタジオ東京 レコーディングエンジニア
森 紀子
株式会社ソニー・ミュージックソリューションズ、MDR-M1ST営業・販促担当

30年以上前から始まっていたスタジオとの共同開発

潮見:ソニーでは、2013年頃から、特に日本市場において高音質な音楽を楽しめるハイレゾ※1の普及に力を入れています。しかし、音を生み出す現場であるレコーディングスタジオには、ハイレゾ対応のヘッドホンが当初なかったので、対応するヘッドホンが必要だと考え、自由研究的に有志での開発を進めていました。ソニーのモニターヘッドホン※2には、30年以上前に誕生し、今も多くの音楽制作のプロに愛用されているMDR-CD900STというモデルがありますが、その開発を共同で行ったソニーミュージックスタジオ東京に試作機を持ち込み、レコーディングエンジニアの方に試聴してもらったことから、MDR-M1STの共同開発が始まりました。

  • ※1ハイレゾリューション・オーディオの略。CDの約6.5倍の情報量で、CDでは再現できない音のディテールやニュアンスまで表現できるデジタルオーディオ
  • ※2スタジオなど音楽制作の現場で音をモニタリングするために開発されたヘッドホン

中山:MDR-CD900STは、音楽がアナログからデジタルに大きく移行した1980年代後半、CDの音に対応して商品化されたコンシューマー向けのヘッドホンMDR-CD900をベースとして開発されました。コンシューマー向けのヘッドホンを、音楽を録音する現場でも使えないかと、ソニーとCBS・ソニースタジオ(現ソニーミュージックスタジオ東京)が共同開発したのです。当時ソニーでは、ハードウェアとソフトウェアがビジネスの両輪だと言われていて、現場にもそういった意識があり、グループ会社間での協業が行われたのだと思います。ソニーのエンジニアもスタジオのエンジニアも、音楽制作に関わるそれぞれの分野の第一線で活躍している人たちでしたので、お互いにプロフェッショナルとして認め合いながらも、妥協することなく自分たちが目指す音を突き詰めていくことができ、協業を成功に導いたのだと思います。

MDR-M1ST(左)とMDR-CD900ST(右)

ハイレゾ時代の新たなモニターヘッドホン開発への挑戦

潮見:今回、共同開発が始まった当初は、MDR-CD900STのハイレゾ版を作ろうという話もありました。しかし、DTMなどが普及し、これまで再現できなかった帯域の音が使われるようになるなど、30年前とは音楽の作り方が変わってきているため、MDR-CD900STとは異なる今の時代に合ったモニターヘッドホンを作ろうということになりました。そして新しいモデルを作る以上、「良いものでなければ世に出さない」というスタンスで開発に臨みました。納得がいくまで、何年かかろうとも開発を続けさせてくれる会社の寛容さがなければ、MDR-M1STは誕生していなかったかもしれません。

  • DTM(Desk Top Musicの略):パソコンを利用して楽曲を制作する音楽制作の手法

野口:最初は私の上司のレコーディングエンジニアがMDR-M1STの開発に携わっていたのですが、若いエンジニアも加わった方がいいのではないかという意見があって、途中からプロジェクトに加わりました。新しいヘッドホンを作ることには関心があったので、自分も関わってみたいという気持ちで参加しました。

潮見:野口さんの他、プロジェクトには5名のスタジオエンジニアの方々に加わっていただきました。年齢層も幅広く、マスタリングや機材メンテナンスなど担当する仕事もさまざまなエンジニアの方に参加いただいたことは、設計者としてはとてもありがたかったです。実際に使用されるスタジオエンジニアの方と直にやり取りをしながら設計することは、緊張感もあるし、やりがいもありましたね。私自身、過去にコンシューマー向けフラッグシップヘッドホンなどの設計経験があり、自分の中に良い音の基準を持っていたものの、それを一旦横に置いて、スタジオが求める良い音を理解しようと思い、まっさらな気持ちで向き合いました。スタジオエンジニアの方々も私の意志を受け入れてくださって、真摯に対応してくださいました。やり取りの中で、オーディオエンジニアとしての私の音の聴き方と、スタジオエンジニアの方々の音の着目点に違いがあることも認識していきました。リスニングモデルだと、客席とステージ上のようにある程度空間や距離を感じられるような音作りをしますが、スタジオでは音楽の多様な表現をより詳細に聴きとりたいというニーズから、リスニングのような空間感を維持しつつ、さらに近距離的な音像表現力も求められました。また通常のリスニングでは聴かないような大音量での再生時にも、特に傾聴して聴きたい人の声やメロディ楽器の音が耳に刺さらず歪感がないことが求められました。実際に一緒に音を聴きながら、体感含めて理解をしていきました。ダメ出しもたくさんいただき、正直大変なことありましたが、遠慮のない意見をいただけて、とてもうれしかったです。

野口:潮見さんはヘッドホンを作るエンジニアですが、私たちは音を作るエンジニアなので、良い音に対する考え方も違いました。その違いを理解し合うために、仕事が終わったあとも、よく話をしていました。スタジオエンジニアの中でも私は潮見さんと年齢が近く話しやすかったこともあり、彼が悩んだり凹んだりしているときは、一緒に飲みに行ったり、話をすることがありました。

潮見:お互いの子どもの年齢が同じくらいで、ライフスタイルも似ているし、音楽が趣味という共通性もあり、仕事以外の話もたくさんしましたね。お互いをよく知ることで、相手の意志を尊重しながら自由に意見を交わすことができるようになりました。より深く仕事の会話もできるようになったと思います。

スタジオエンジニアが考える良い音を理解するため、何度も同じ音を聞きながら議論を交わした

生産や販促の現場にも垣根を越えた活動が広がる

潮見:MDR-M1STは、大分県にあるソニー・太陽株式会社で製造されています。私たち音響設計エンジニアとの窓口を担当してくださった方が音楽好きで、どのように録音スタジオで実際に音楽が制作されるのか興味があるという話をされていました。それをスタジオのみなさんに話したら「ぜひ、大分からお越しください」と言ってくださり、ソニー・太陽の方々のスタジオ見学が実現しました。そしてスタジオエンジニアの方々も実際に製品が作られているところを見たいということで、一緒にソニー・太陽に見学に行きました。ソニー・太陽はソニーグループ株式会社の特例子会社で、高い技術を持った作り手の方々が、様々な個性を生かして、ヘッドホンを一つひとつ丁寧に手作業で作っています。ソニーの数ある製造事業所の中でも、モノの作り方が職人的というか、とてもユニークな工場です。どのような人が、どのような工程で、どのような思いで作られているのかをお互いに理解し合うことができたことで、その後、自分たちが仕事に向き合うときの意識が大きく変わったと思います。

森:MDR-M1STの営業・販促でも、通常のビジネスのやり方の垣根を越えた活動がありました。モニターヘッドホンはプロ用の製品ですが、今回はコンシューマー製品を販売しているソニーマーケティングからの申し出で、コンシューマー向けの製品イベントに出展しました。音楽愛好家など、プロではないが非常に音楽好きといった方々にもアピールすることができたと思います。販路についてはこれまでのルートに加え、ソニーストアでの販売も開始しました。DTMでの自宅作業や、YouTubeなど個人向け配信サービスなどの普及により、多様化するお客様にもお届けできるようになったと思います。
また、MDR-M1STのプロダクトデザインにはグッズなどを担当しているソニー・ミュージックソリューションズのデザイナーが加わっており、MDR-CD900STのブランドを継承したい製品エンジニア側と、全く新しいものに位置づけたいスタジオエンジニア側との、異なった意見をうまく調和しています。ハウジングの赤いラインは一目でMDR-M1STであることがわかるようにデザインされたと聞いています。ホームページに掲載する写真にもこだわっていて、人物はモデルではなく同社のスタジオエンジニアを起用することで、実際に使用される場面のリアリティーを追求したそうです。

ホームページに掲載する写真。リアリティーを追求し、モデルではなくスタジオエンジニアを起用

多様なニーズに対応する新しいモニターヘッドホンに

野口:MDR-M1STが製品化され、私たちのスタジオにも導入されましたが、私自身は最初、使い慣れたMDR-CD900STからの移行には少し時間がかかりました。今ではすっかり慣れて、このヘッドホンで作り込んだ音がスピーカーで聞くとこうなるという想像ができるようになり、とても使いやすいです。付け心地がいいので、長時間使っていても疲れないのがいいですね。ミュージシャンの方からも、音が良くなった、聞きやすくなったと好評です。ケーブルが着脱式なので、自分好みにカスタマイズするなど、楽しんで使っていただいているミュージシャンも多いです。中にはMDR-CD900STのちょっと尖った感じや、ボーカルが前に出てくる感じが好きだという方もいらっしゃいます。ボーカリストとギタリストでは求める音も違うので、用途に合わせて使い分けていただければと思います。MDR-M1STはリスニングにも向いているので、チェックするときはMDR-M1ST、音を録るときはMDR-CD900STという使い分けがあってもいいですね。2種類の選択肢があるということは、とてもいいことだと思います。

森:MDR-M1STは、販売店様からの反響も大きかったです。プレスリリースの後、販売店様から在庫や納期、プロモーション用の画像提供など、さまざまな問い合わせを数十件もいただきました。ある販売店様では、SNSでお客様向けにMDR-M1STの情報をアップしたところ、通常の20倍もの「いいね!」が付いたというご連絡をいただきました。また、発売前に複数の販売店様にデモ機を貸し出ししたときは、商品の写真に加え梱包箱や、詳しく丁寧な試聴レポートなど、どの販売店様も愛情をもってSNSに情報をアップしていただきました。みなさんがMDR-M1STの登場を長く待ちわびていたんだと感じましたね。

MDR-M1STは音の良さや使い勝手の良さで、スタジオエンジニアやミュージシャンから高い評価を得ている

技術を検証する場を提供することもスタジオの役割

潮見:モニターヘッドホンは、今後も音楽制作の環境や技術、時代の変化に合わせて進化していくと思います。新型コロナウイルス感染症対策でテレワークが増えて、いつでもどこでも仕事ができるようになっているので、自宅などリモート環境での使いやすさも高まっていくのではないかと思います。また、MDR-M1STはハイレゾへの対応が開発のきっかけになりましたが、今後は360 Reality Audio(サンロクマル・リアリティオーディオ)などの最新の立体音響技術に対応したプロ用機器が開発されるかもしれないですね。私は、個人的にこれまで音楽に救われたと思うことがたくさんあって、今は「音楽に恩返しをする」ことを人生のテーマにしています。自分が音楽を作る人たちと関わることで、音楽とお客様の架け橋になれるような仕事を続けていきたいと思っています。

野口:テレワークで、自宅で作業をしているとき、子どもの声を録音してヘッドホンで聞かせたことがあるんですけど、「私の声ってこんななの?」と驚いていました。これは小さな出来事ですが、こういった子どもの新しい経験を広げられるような仕事や働き方ができればと思います。音楽を通して作ったものを世の中に届ける仕事ができるのは、とても幸せなことだと思っています。音を作るエンジニアとしては、これからもいいものを作り続けていきたいし、新しい機材には柔軟に対応していきたいです。そして、レコーディングエンジニアの仕事の中から、新しい技術や製品の開発につながるようなヒントを見つけられたらいいなと思います。

森:私は各種メディアに向けた取材対応も担当していたのですが、その取材の中で、本製品には約4年もの長きにわたる試行錯誤が繰り返されていたことや、関わった方々の熱い思いを知りました。開発から製造、販売まで、すべての人がひとつの目標に向かって作り上げられた製品で、その一員としてとても貴重な経験をさせていただいたと思っています。今回のプロジェクトを通して、組織の垣根を越えた横のつながりの大切さをあらためて感じました。ここで知り合ったメンバーとは、困ったことがあったらすぐ相談できる間柄です。この経験を大切に、今後も仕事に生かしていけたらいいなと思います。

中山:今回のMDR-M1STもそうでしたが、ソニーが技術開発をする上で、実際にクリエイターがどのように使っているのかを検証する場を提供することも、ソニー内でのスタジオの役割のひとつであると思いますし、これからも担っていくことになると思います。ここまで密接に関わり合えるスタジオがあるのは、ソニーの強みではないでしょうか。ソニーでは、昔からグループ内での協業が、特に意識することなく普通に行われていました。それは、これからも続いていくと思います。

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