AIの利活用と責任

アリス・シャン
AI倫理担当グローバルヘッド
ソニーグループ株式会社
AIは、私たちが世界をどのように理解し、関わっていくのかを変え、社会に革命を起こしています。ソニーは、AIの利活用を通じて、世界中に感動を提供するとともに、平和で持続可能な社会の構築に貢献することを目指しています。そしてソニーは、AIの開発および利用を一層拡大していくにあたり、多様性および人権の尊重、差別の防止、透明性の追求および信頼性の向上を担保することを規定したソニーグループAI倫理ガイドラインの遵守を徹底しています。
ソニーでは、AI倫理に関して4つの目標を掲げています。第1に、ソニーにおけるAI倫理の取り組みは、ソニーのグローバルな競争力の維持、強化に貢献するものでなければなりません。AIをソニーの持続可能な競争優位性として推進・加速するためには、AIを倫理的な方法で利活用するための能力に投資する必要があります。AIは新しいテクノロジーであり、予測できない影響が発生しうることを考えると、この点を軽視することはできません。これにもとづく第2の目標は、AIの利活用に伴う法律、ブランドイメージ、および倫理上のリスクを評価し、低減することです。AIの倫理に関する懸念に対し、事後的ではなく、事前に対処する姿勢が必要であると考えます。第3に、ソニーがグローバルに業界をリードするテクノロジー企業であることに鑑み、ソニーのAI搭載製品およびサービスは、国籍、ジェンダー、および他の属性を問わずすべてのお客様にとって適切なものでなければなりません。最後に、ソニーの目標は単に社会における最新のAI倫理の実践に対応するだけでなく、責任あるAIの実現に向けたリーダーになることです。
ソニーは、これらの目標を実現するため、2018年に多くの企業に先がけてAI倫理ガイドラインを策定しました。さらに2019年12月には、ソニーグループAI倫理委員会を設置しました。役員レベルのマネジメントにより構成される同委員会は、リスクが大きいAIの利活用事例について検討し、是正あるいは中止に関する勧告を行う意思決定を下す役割を担っています。また、ソニーにおけるすべてのAI製品に対して、倫理上の懸念について評価を行う方向性を定めました。2021年には、ソニーの各組織にAI倫理に関する専門知識とサポートを提供するための組織として、AI倫理室を設置しました。さらに、数か月にわたる試行・準備期間を経て、2021年7月にはエレクトロニクス製品を対象とする品質マネジメントシステムにAI倫理アセスメントを必須の遵守事項として規定・施行しました。
AI倫理アセスメントの主なコンセプトとして、「AI Ethics By Design」が挙げられます。倫理的な問題は、AIを搭載する製品の開発ライフサイクル終盤に至ってから検討されるのではなく、開発ライフサイクルの各段階、すなわちプログラムのコードの冒頭の1行を書き出す前の企画段階から、設計、製造、および出荷を通じて評価する必要があるものです。
このアセスメントを導入して以来、AI倫理室では100件以上の事例を確認してきました。具体的には、ソニーのイメージセンサー技術を搭載したスマートカメラソリューション、ビデオ制作ソリューション、およびその他のエレクトロニクス製品といった事例です。人々の健康や生活に影響を及ぼしうる高リスクの使用事例については、AI倫理委員会に報告を行っています。特定のAI利活用事例について開発が中止された事例もあります。
ソニーのAI倫理の戦略におけるもう一つの重要な構成要素は、研究と実践の融合です。ソニーはこの戦略に基づき2021年にAI倫理に関する研究のフラッグシッププロジェクトを立ち上げました。同プロジェクトはソニーAIの中核として、AI関連の製品/サービス開発において発生しうる課題について最先端の研究を進めています。具体的には、倫理的なデータ収集や、アルゴリズムにおけるバイアスの検知や軽減等に取り組んでいます。
ソニーではさらに、AI倫理に関する問題に取り組む他の企業、組織、および学術機関との積極的な対話を進めています。ソニーは、さまざまなステークホルダーが参加する「Partnership on AI」や「Global Partnership on AI」をはじめとする関連団体のメンバーであり、世界各国におけるAI関連の政策イニシアチブに対して知見を提供しています。
私たちは、倫理的なAIを実現する上で、ソニーがリーダー企業となる資格を十分に持つと確信しています。米国に拠点を置くテクノロジー企業や欧州の法規制・基準が大きな影響力を持つこの領域において、エンタテインメント、エレクトロニクス、および金融サービスといったさまざまな事業を持つソニーは、多様性のある、グローバルかつユニークな視点を提供することができます。
エンタテインメントとテクノロジーが交差する製品やサービスを提供する、というソニーの価値創造は、AI倫理と密接に結びついています。私たちは、人間のクリエイティビティや好奇心をAIに置き換えるのではなく、むしろAIを活用してそれを拡張したいと考えています。ソニーは、専門研究機関であるEthisphere Instituteにより、World’s Most Ethical Companies(世界で最も倫理的な企業)の一社に継続して選定されてきました。AI倫理室およびソニーAIにおける取り組みを通じて、私たちはこれらの価値を実践し、さらに充実したAI倫理の実現を目指しています。