SONY

メニュー
サイト内検索ボタン

検索

Technology

連載:Inside the Minds of Sony’s Corporate Distinguished Engineers #1:小林 由幸
機械学習を誰もが使える当たり前の技術に

ソニーのトップエンジニアが、自身のキャリアと研究開発テーマ、ソニーにおけるエンジニア像について語ります。
第1回は、AI開発環境の普及に取り組む、R&Dセンターの小林由幸です。

Corporate Distinguished Engineer
ソニーは、変化の兆しを捉え、持続的な成長のために、技術戦略の策定及び推進と人材の成長支援を行う技術者を「Corporate Distinguished Engineer」として認定しています。

プロフィール

  • 小林 由幸

    ソニーグループ株式会社
    R&Dセンター
    Tokyo Laboratory 19
    主任研究員
    Distinguished Engineer

中学から自作ソフト制作、音楽活動も

三重県安濃町(現・津市)生まれ。のんびりした田舎で育つ。パズル感覚で取り組める算数や理科が好きだった。

幼い頃、田んぼのあぜ道を整理する重機を見て、かっこいいと思ったのが機械に興味を持つきっかけでした。幼稚園の文集には「巨大ロボットを作る人になりたい」と書いた覚えがあります。
小学生になると、テレビゲームに夢中になり、遊んでいるうちに、自分でもゲームを作りたいと思うようになりました。中学入学時にソニーのMSXパソコンを買ってもらって、プログラミングを始めました。当時は、自作のプログラムを投稿する雑誌があって、その常連になっていました。高校では、ゲームやユーティリティツールなどの自作ソフトウェアを、当時あったソフトウェアの自動販売機を通じて販売し、高校卒業時にはゲーム会社からスカウトの手紙もいただきました(笑)。この頃からなんとなく、自分は理系をめざすのだろうなとは思っていました。音楽にも熱中していました。小さい頃ピアノを習っていたこともあり、高校、大学と音楽活動を続け、自分のもう一つのルーツになっています。

学生時代はプログラミングや電子音楽に夢中の小林。一方で、授業にはあまり興味がなかった。

中学の頃からあまり授業をきちんと聞いて勉強するタイプではありませんでした。授業中はゲームキャラクターのドット絵を描いたり、作曲したり。理系に進むだろうと思っていたものの、理系の学科として何があるかもよくわかっていなかったですね(笑)。実をいうと、微分・積分を理解したのもソニーに入社した後で、しばらくは、昔の教科書を引っ張り出してきて学び直すことも多かったです。一方電子音楽の作曲に欠かせない音声の波形処理などは独学でそれなりの知識はありましたが、その技術領域をデジタル音声信号処理と呼ぶことは入社した後に知りました。
大学時代は電子音楽の作曲に没頭していましたが、そのうち、音の入力作業が煩雑で、専用の高価な機材が必要なことに疑問を抱き、誰もが楽に作曲できる仕組みを作りたいと考えるようになりました。そこで、自作のDAW(録音・編集など一連の音楽編集作業を行うシステム)ソフトウェアを無償で公開したところ、数十万回ダウンロードされました。いろんな人に使ってもらうことでたくさんの音楽作品が生まれます。自分が作ったツールが楽しんでもらえて、大げさにいえば芸術の振興に貢献できる、そこにワクワクしました。目の前にある障壁を取り払うことで、何かやりたいという動機を持つ人をエンゲージしたい。これは、今も大切にしている考え方です。

幼いころから音楽は身近な存在

DAWを制作していることを知ったソニー社員からの声かけが、ソニー入社へとつながっていく。

学生時代に偶然、ソニーの社員に音楽ソフトをつくっていることを話す機会があり、その後アルバイトに誘われて「DRE-S777」という業務用のサンプリング・リバーブの開発を手伝うように。その中で「入社試験を受けてみないか」と誘われました。学業に真面目に取り組んだわけでもない私にとって、ソニーは正直全く縁のない会社だと思っていました。でも、職場にいる人たちが率直にいって面白かったんですよね。ジェネラリスト的に何でもしっかりこなす優秀な人もいれば、一風変わった人もたくさんいる。それでいて全体の平均点はものすごく高い。ここなら楽しく仕事ができそうだなと。今も変わらない人材の多様性、懐の広さに惹かれましたね。

要素技術からさらに上流へ、機械学習との出会い

1999年にソニー入社。業務用オーディオの信号処理やプログラム開発に取り組んだ。その後、組織変更により研究所へと異動する。

研究所では、従来取り組んできたアプリケーションとしての音楽制作ツールの開発から、音声信号処理の研究がメインに。オンライン会議にも取り入れられているエコーキャンセラー技術や、音楽の波形を入力して解析する12音解析技術の開発に取り組みましたが、要素技術の上流にある基礎技術の面白さに気づくきっかけになりました。
ソニー独自の「12音解析技術」は、楽曲の信号を半音階毎に解析して、その曲の「ムード」などを認識する技術です。たくさんの音楽のメタデータを自動的に抽出、分類することで、ユーザーの好みの曲のプレイリストを一瞬で作ることができます。
一人プロジェクトで自由にやらせてもらい、いつしか協力者も増え、最終的にグループのいろんなプロジェクトに採用されたので非常に満足度の高い仕事でした。

業務用オーディオの設計から研究所に異動した頃

12音解析技術は「認識技術の塊」。機械学習の可能性に惹かれていく。

コード進行やジャンル、曲の明るさや暗さ。そうしたものを認識するためには、現在注目を集めている機械学習技術の活用が必要で、実際に触ってみると大きな可能性を感じました。この技術を他の分野、世の中全体に応用することができたら、どんなすばらしいことが実現するだろう。あらゆる知的な作業が自動化できる未来が見えたのです。
もともと、機械学習、ニューラルネットワーク自体は1960年代から研究され、ソニーも比較的早期から取り組んでいました。カーナビの音声認識機能なども業界に先駆けてソニーが取り入れたそうですし、先代のAIBOなどのロボットでも活用されていました。12音解析術でも、そうした開発に携わった人たちから多くのアドバイスをもらいました。当時は機械学習という言葉すら知らなかったのですごく参考になりましたね。

基礎技術は数学のようなもの、みんなで答えを探していく

機械学習を誰でも使えるようにする。現在に至る長い挑戦が始まった。

AI研究に早期に取り組み実用化した企業が、次世代の競争力を持つことは明らかでした。2006年頃から本格的に機械学習技術の研究開発をスタート。以来、機械学習を使いやすくするツールづくりに一貫して取り組み、「Neural Network Console」などのツールが誕生しました。
当時苦労したのは、機械学習によってどんな便利な未来が実現するか、そのコンセンサスがソニー社内においてもなかったことです。もちろん応援してくれる人も多かったのですが、技術的なバックグラウンドについて懐疑的な人もいて、「機械学習で何ができるの?」と必要性について理解を得られないことも多かったです。私は空気を読まないので(笑)、ただひたすら機械学習の重要性を訴え続けてきました。特に、機械学習の技術研修の講師を引き受けたり、他部署から人材を受け入れて機械学習についてOn the Job Trainingで教えてエバンジェリストとして活躍してもらったりといった教育活動、サポート活動に注力しました。テレビやオーディオなどソニーの主力製品分野にとどまらず、工場の製造現場も含め、需要があるところについては分け隔てなくサポートしたいというスタンスで活動してきた結果、今では工場の製造現場など、広く活用いただけています。
ソニーに、社員が自主的に研究開発に取り組む「机の下活動」の文化があったことも今まで機械学習の普及活動を続けられた一つだと思います。

Neural Network Consoleのメイン画面

「機械学習の研究開発を続けてきたことがソニーにおける自分の貢献」と語る小林。研究開発の方向性についてこう語る。

基礎技術に近づくほど、一つの会社でその理論や技術を囲い込むのではなく、例えば数学の世界のようにみんなで協力して新しい数式を見つけ出していくものだと思っています。機械学習も、世の中全体でより役に立つ技術を実現していくオープンイノベーションに近い形で発展が進むと思います。
ですから、ソニーだけで開発を進めていくというよりも、我々がしっかり社外に向かって情報発信できていれば、自然な形でそれを得意とする人たちが集まってくるはず。ソニーがそういう目的を共有する人たちの「場」になれるかどうかが重要ですね。
また、グローバルに多角的に事業を提供しているソニーならではの強みとして、いろんな方面にそれぞれのプロフェッショナルがいる。連携して技術を掛け合わせることで、さまざまな可能性が広がっています。その点は大きな魅力です。特に、知的好奇心を満たす探索や芸術分野で機械学習が浸透した将来、エンタテインメントビジネスを持つソニーができることに今からワクワクしています。

機械学習は必ず世の中を幸せにする

今後、機械学習をはじめ基礎研究に取り組む人にとってソニーは魅力的な職場になるのだろうか。一緒に仕事をする新しい仲間への期待とは。

機械学習はまだ黎明期で応用は始まったばかりです。私たちから見ると、機械学習とはコンピュータやソフトウェアそのものです。「機械学習で何ができるのか」という質問は、数十年前の「コンピュータで何ができるのか」という質問と同じです。答えは「何でもできる」。知的な作業の中で単純なもの、何度も繰り返し行うような作業についてはすべて置き換えられると思っていいでしょう。どのようにして応用できる範囲を広げていくかが自分にとってのこれからの大きなテーマで、ソニーグループの中にも多くの需要があると確信しています。
将来、機械学習が世の中を劇的に変えていくことがわかっている人、見えている人にはぜひソニーに来ていただき、先行して研究開発に取り組んで、世の中を「ガラ変」させてほしいと思います。
さらに言えば、半導体から始まり、電子回路、コンピュータ、ソフトウェア、インターネット、AIまで連綿と続いてきた技術の系譜の先に来るもの。それは私も全く知らない世界かもしれません。「ディープラーニングはもう古い、次はこの技術だ」と情熱をもって新しいことに取り組む人とぜひ一緒に仕事がしたいです。
一社だけで自分のやりたいことを完結できる時代ではありませんし、個人の興味も経験を積むにつれて変わっていきます。その時、興味を持っていること、やりたいことに対して能力を100%発揮できる職場を作っていくことが、私たちの使命だと思っています。ゴールはありませんが、常に改善し続けていきます。ともに働く仲間たちが一番やりたいことを実現できる会社になるよう頑張ります。

最後に、Distinguished Engineerとして描く夢を尋ねた。キーワードは「短縮」と「加速」。

将来の目標は、短期的には黎明期である機械学習、AIを当たり前のツールにしていくこと。一部の開発者のものではなく、みんなのものにしていくことです。AIは人の仕事を奪う、人の生命を傷つけるといった声もありますが、私にいわせればナンセンス。機械学習の活用が当たり前の未来を1年でも2年でも短縮できれば、その分、世界を幸せにできると確信しています。これが当面のミッションで、誰でもAIを活用できるツール開発にこれからも取り組んでいきます。
長期的には、先ほど触れた機械学習の先の技術をいかに早くキャッチアップして社会実装できるか。最先端のテクノロジーは、必ず世界を幸せにします。私のライフワークは、社会実装の期間を短縮し、人類の進化を加速させること。その実現のためにこれからも活動を続けていきます。

テレワーク環境を整えた自宅にて(右)

関連リンク:
Corporate Distinguished Engineer
AI×ロボティクスにおけるソニーらしさとは?

前の記事

SID Fellowの称号授与の栄誉に輝いた、
Corporate Distinguished Engineer 野本 和正

2021年6月24日

次の記事

連載:Inside the Minds of Sony’s Corporate Distinguished Engineers #2:マーカス・カム

2021年8月27日

Stories 一覧へ

このページの先頭へ