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Spresenseで宇宙から地球をモニタリングして地球環境を考える
~プロジェクトメンバーインタビュー~

左上:ソニーグループ株式会社 R&Dセンター Tokyo Laboratory 14 木村 学
右上:ソニーグループ株式会社 R&Dセンター Tokyo Laboratory 14 永田 政晴
左下:ソニーグループ株式会社 R&Dセンター Tokyo Laboratory 14 堀井 昭浩
右下:ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社  IoTソリューション事業部 製品1部 太田 義則

ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(以下、ソニーセミコンダクタソリューションズ)で開発・販売を行っているシングルボードコンピュータ『Spresense™』。このIoT向けのマイクロボードを宇宙空間で利用し、地球のモニタリングに活用するプロジェクトがソニーグループ株式会社(以下、ソニー)の R&Dセンターとソニーセミコンダクタソリューションズで進められており、JAXAの「革新的衛星技術実証プログラム」の2号機プロジェクトにおいて今年度中に宇宙空間での実証実験が始まる予定だ。
Spresenseをどのように利用しようとしているのか、またその先に目指すものについて、プロジェクトメンバーに話を訊く。

JAXAとともに、「宇宙の敷居を下げる」ことを目指す

──今回Spresenseを活用し、JAXAのプログラムに応募したきっかけ、理由を教えてください。

太田:Spresenseは、オープンプラットフォームとして多くの方に知っていただき、自由に開発をしてもらうために、Maker Faireなどのイベントに出展していました。そのようなイベントを通じて、JAXAの方の目に留まったのがきっかけです。Spresenseの低消費電力や、基板の製造プロセスとして放射線に強いのではというあたりに宇宙での活用に可能性を持っていただいたのかなと思います。

また、JAXAは国産技術、製品を増やしていくということを目指しており、革新的衛星技術実証プログラムに応募してみてはどうかとお誘いを受けました。非常に魅力的なお話でしたが、私たちには宇宙に関する知識がなく、Spresenseのチームは少人数のため、本当にやりきれるのかという点で非常に悩みました。

社内でこの2号機プロジェクトに一緒に取り組めそうなメンバーを探している中で、以前共に仕事をしたこともあり、昨今の地球環境・社会課題解決への貢献を目指すプロジェクトを進めているTokyo Laboratory 14の堀井に声をかけました。

革新的衛星技術実証2号機 小型実証衛星2号機(RAISE-2) © 宇宙航空研究開発機構(JAXA)

堀井:私の統括するTokyo Laboratory 14では、ユニバース(以下、UNVS)プロジェクトと社内で呼称している活動を通して、現在様々なところで顕在化している地球環境の問題に対して、ソニーの技術でどのように貢献できるかという検討をしています。例えば、世界のあらゆる場所にセンサを配置して、そのデータをクラウドに集約し、問題の予兆を見つけられるようにするというようなことです。
このようなセンシングを行うにあたって、宇宙から俯瞰的にデータを取って活用するというのは効率的です。私自身も宇宙には以前から興味もありましたので、太田からの相談を受けてやってみようと思い、木村とこの2号機プロジェクトでどのようなことを実験すべきか、検討を始めました。

木村:内容については堀井と時間をかけて悩みましたが、その時に考え抜いて出した答えが「宇宙の敷居を下げる」ことでした。
宇宙は、つい最近まですごく遠いところの話だったのですが、この10年くらいで宇宙関連のベンチャーの隆盛もあり、そういった距離感や雰囲気は払しょくされつつあります。そのような状況で、JAXAとソニーが技術の力で、もっと敷居を下げる、あるいは敷居を取り払って、思い付いたアイデアを簡単に実験、実現できる場を作れないか、という提案をしました。

放射線、熱、振動・・・さまざまな課題をクリア。
Spresenseの底力。

──Spresenseはシングルボードコンピュータとしてどのようなところに強みがあるのでしょうか?

太田:まずは低消費電力でありながら高い処理能力を有していて、画像や音の演算もできることです。音に関しては、ハイレゾの再生や入力にも対応しており、この性能を活用して、工場での設備の故障予知に使用いただいているケースもあります。

SpresenseはIoT向けということもあり、LPWAの様々な方式へのサポートを積極的に進めています。また、GPSをはじめとした世界中のGNSS(全球測位衛星システム)もサポートしており、本プロジェクトでも活用されています。

シングルボードコンピュータ『Spresense』

──宇宙という新境地をめざすにあたり、どのような課題やチャレンジがありましたか?

永田:宇宙で衛星を運用するにあたり、放射線や衝撃、熱など様々な課題をクリアしなければなりません。
宇宙空間では、宇宙線といわれる高エネルギーの放射線が飛び交っていて、その主成分である陽子が物体にぶつかったときの影響をSEE(シングルイベントエラー)と呼んでいます。陽子はプラスの電荷をもつ粒子なので、Spresense のような基板では、0と1が反転したり、貫通電流が流れて素子が焼けて壊れたりなど、さまざまな影響が考えられます。

Spresense に実際に放射線をあてて、どの程度の放射線量でどのくらいのエラーが発生するかを実測し、軌道上でのエラー数を推定しました。結果として、今回の2号機プロジェクトが通る衛星軌道では、メモリエラーは月に数回程度は起こってしまうが、都度再起動すれば運用できるのではないかというところまでは分かっています。

また、今回打ち上げに使われるイプシロンロケットは固形燃料を使っているため、発射時やロケットから衛星を分離する際に大きな振動が加わります。数百Gで揺らす試験やそれ以上の衝撃を与える試験を Spresense 単体で行いましたが、全く壊れず、これには私自身も驚きました。

最後は熱問題です。宇宙空間は真空なので、空気の対流がなく、熱を持っている物体は熱くなる一方です。ファンを回してもファン自体が熱源になってしまい余計に熱くなります。

木村:宇宙空間には大気がないので対流で熱を逃がすことができません。一般的なプロセッサだと自熱で溶けてしまうと思いますが、Spresense は低消費電力ということもあり発熱が非常に小さく、基板についている4本のねじからの伝導で十分に対応できました。

技術検証だけではなく、次世代への学びにもつなげたい。

──2号機プロジェクトでは、Spresenseを宇宙空間でどのように実証するのでしょうか?

永田:Spresenseの特長である画像処理技術や内蔵GNSSなどを活用して、宇宙から地球を客観的に見るための基礎技術の検討を行っています。

その1つが、衛星の姿勢を正確に推定するアルゴリズムです。地球の状態を適切にモニタリングするためには、衛星が意図した姿勢を保つことが不可欠です。衛星の姿勢を推定するために、本プロジェクトでは、3つの方法で推定を行っています。

1つめですが、衛星にはSpresenseの基板を搭載したSPR-BOXを2つ積んでいます。1つは地球側を向いており、もう1つは宇宙側を向いています。星空を撮影して、星の位置関係から自分の姿勢を推定するスタートラッカーという技術があるのですが、宇宙側に向いているSPR-BOXでこの検証を行います。
2つめは、GNSSの活用です。SPR-BOXには複数のGNSSアンテナが付いていて、GNSS信号の位相差を使って姿勢を推定します。
3つめは、ドローンなどにも使われているIMU※(慣性計測装置)による推定です。IMUはJAXAと共同研究により実現しています。

※:マルチIMU方式による慣性センサの高精度化についてはこちら

それぞれの方法で精度やリアルタイム性が異なりますので、これらを組み合わせてより高精度な姿勢推定を行うことをめざしています。また、衛星と地球との間での通信時に感度を良くするためにアンテナを調整する時も衛星の姿勢は重要になります。

SPR-BOX

また、Spresenseにより、スタートラッカーの技術を比較的安価で実現することができる点も大きな強みです。一般的なスタートラッカーは、輸入品がほとんどということもあり、非常に高価です。それを Spresense を活用することで、数万円くらいのコストでの実現に挑戦します。これも我々が目指す「宇宙の敷居を下げる」ことにつながっています。

──地球側を向いているSPR-BOXはどのような役割でしょうか?

永田:こちらは、カメラを使って地球を撮影してそのデータを活用することを考えています。プロジェクトとしては、まずはたくさん撮影して、宇宙から撮影するための、露出やホワイトバランスなどの撮影条件をデータとして蓄積していきたいと考えています。

──今年度(2021年度)中に打ち上げ予定の2号機プロジェクトの試験スケジュールを教えてください。

永田:実証期間は1年間の予定で、打ち上げから最初の1、2ヵ月では、先ほど申し上げたようなカメラでの撮影条件などの基礎的な画像を取得し、知見を獲得していきます。その後2、3ヶ月で、開発しているスタートラッカーなどのアルゴリズムを軌道上で実験して、精度を上げていければと考えています。GNSSとIMUに関しても、随時データを監視して宇宙でどのくらいの精度を保てるかという実績を積み上げていきます。

木村:後半は、子ども向けの学習コンテンツの提供に向けての準備を行う予定です。
先ほど「宇宙の敷居を下げる」と言いましたが、UNVSプロジェクトでは技術的に敷居を下げるというところに加えて、多くの人、特に次世代をになう子どもたちに宇宙からのコンテンツを活用してもらうことを考えています。

例えば、小学生の夏休みの自由研究で、宇宙から観測しましたみたいなことができたらとても夢があると思いますし、子どもの自由な発想が新しい宇宙産業や人類の発展につながったら面白いですよね。
そして、子どもたちにとっても、宇宙に興味を持ってもらう、地球を客観視する機会を提供することで、自分たちが住んでいる地球がどのようになっているかを実感してもらい、未来への行動につなげてもらいたいなと思っています。

ソニーの技術で「三方よし」をめざす

──今後の展開について教えてください。

木村:ソニーの技術をうまく使って、お客さまにとってもよし、地球にとってもよし、我々にとってもよし、という言わば近江商人の「三方よし」を実現できるプロジェクトだと思っています。その実現のために2号機プロジェクトで宇宙活用のスキルを蓄積して、次のステップにつなげていきたいと思っています。

太田:このプロジェクトはSpresenseとしては非常に大きなマイルストーンになっていますので、宇宙空間での実績を積んで、様々な事業に繋げていければと思っています。ソニーセミコンダクタソリューションズには高いイメージング&センシング技術がありますので、これらの技術との連携も加速していきたいと思います。

堀井:今回のプロジェクトを通じて、「ソニー×宇宙」の取り組みについて世の中の人々にもっと認識いただけると嬉しいです。ソニーグループでチャレンジしたいと考える学生、これまでのソニーグループの領域が直接結びつかなかった宇宙工学や物理学などを専攻する方にもぜひ加わってほしいと思います。多様な視点から物事を考え、議論することで、良い技術を生み出すというループを作っていければと考えています。

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連載:Inside the Minds of Sony’s Corporate Distinguished Engineers #5:マグダレナ・ワソウスカ

2021年10月1日

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