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最先端と成熟の共存。「wena」に流れるものづくりの思想。

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2016年に一般発売が開始された、ソニー独自のコンセプトを持ったスマートウォッチ「wena」シリーズ。バンド部分にスマートウォッチ“本体”を組み込み、ヘッド部分を自在に交換できるアイデアも注目を集めました。このソニー発のユニークなスマートウォッチは、事業責任者である對馬さんが入社1年目のときに提案して生まれた事業だといいます。「wena」のプロジェクトを牽引する對馬さんに、大きな企業のなかでスタートアップ的に働くことの楽しさや難しさ、プロダクトへの想いなどをお伺いしました。
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對馬 哲平
ソニー株式会社 モバイルコミュニケーションズ事業本部 wena事業室
2014年にソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)入社。新入社員研修時に高く評価された「wena wrist」のアイデアをもとにスタートアップの創出と事業運営を支援する「Sony Startup Acceleration Program」のオーディションに応募し合格。同期社員3名とプロジェクトを立ち上げた。入社2年目の2015年より、wena事業の責任者となる。

新入社員が事業責任者になった、ひとつのアイデア。

—スマートウォッチ「wena」シリーズですが、新入社員だった對馬さんのアイデアから立ち上げられた事業だそうですね。

入社直後に3ヶ月間で好きなものを作っていいという研修がありました。それで腕時計のバンドの中にスマートウォッチの機能を入れてみようと思って。市販のスマートバンドを分解して活用したり、3Dプリンターで作ったり、試行錯誤するなかで実現できそうな手応えを感じました。

—そもそも、なぜスマートウォッチだったのでしょう?

実は学生時代から、アナログ時計の美しさとスマートウォッチの便利さを共存させることはできないか、と考えてはいました。

—学生のときからですか! ずっと温めていたものだったのですね。

スマートウォッチは10年前くらいから使っていましたが、アナログの腕時計も好きで、どちらも使うと二つ同時に付けることになってしまう。当時はスマートウォッチが今より普及していないこともあって変な目で見られる。それがいやで、ふたつの時計を共存させることはできないのかと思っていました。研修をきっかけにそれをかたちにした、というわけです。

對馬さんが学生の頃に描いたアイデアスケッチ

—その研修があるからソニーに入社したというのもあるのでしょうか。

いえ、実はまったくの偶然です。私はスマートフォンが流行る前からPDA(多機能情報端末)が好きで、高校や大学時代にPDAをいじって自分用にカスタマイズするということをしていました。それが高じてこの業界の製品はもっとこうあればいいのに、という自分なりの哲学や思想が生まれてきました。その想いはずっと私のなかにありますね。

—それならスタートアップという選択肢もあったのでは?

スタートアップは就職する際の選択肢にはありました。けれど、私は大学内スタートアップでアルバイトをしていた経験もあって、製品を作り、事業を育てていくことの厳しさは身をもって理解しているつもりです。多くのスタートアップは、量産化の壁にぶつかります。好きな製品を10台作るのと、100万台作るのはまったく違う。100万台に耐えうる設計は、それを実現しているところでしか学べない。ソニーに入社したのは、量産化まで睨んだ製品を作る、ということを学べると思ったからです。

—なるほど。それが新入社員の研修で好きなものをかたちにする機会と一致したのですね。

本当はソニーで勉強して、自分なりにエンジニアとして一人前になったタイミングで事業をやろうと思っていました(笑)

大きな企業のなかで、スタートアップのように働く。

—研修でアイデアが評価されてから、翌年にはプロジェクトが立ち上がっています。事業化まではスムーズに進んだのでしょうか?

いいえ。事業化するとなると、そもそも何をしたらいいのかわかりませんでした。ですから、まずはプレゼン資料を用意して色々な人に話を聞きました。先輩社員にランチの時に話しました。そこで、いろいろな質問が返ってくる。調達部門の人なら物流や商流、想定している製造工場のこと。法務部門の人なら販売会社との売買契約やドメインのこと、特許のこと。自分達の専門性の観点から、私がやりたいと思っていることへの質問がくるのです。

—高い専門性をもった質問を色々な角度からされるというのは、鍛えられそうです。

30人くらいに聞くと、ほとんど新しい質問が出てこなくなりました。そこで30人の質問に答えていくことで、課題が明確になり事業化に近づくのではないかと思いました。

—それは面白い発見ですね!

そうですね。100人に聞いたからといって線形的に質問が増えていくわけではないです。それである程度考えるべきことが網羅できたタイミングで、社内で新規事業オーディションのようなものがあって応募しました。そこで評価されて、事業化検討をすることになりました。

—プロジェクトの立ち上げには一緒にやる仲間が必要になります。

どこの誰だかわからない人に集めてもらったメンバーとは事業はつくれません。はじめのメンバーは3人や5人。どのスタートアップでも、自分で誘ってきています。私も先輩社員で一緒にやりたいと思う人がいたらと声をかけて、集めていきました。

—どのような仲間を集めましたか?

当時の私は新入社員ですから、マネージャーとしての経験はありません。だから自分で考えて行動できる、勝手に「こんなのつくったよ」と持ってきてくれるような人と働きたいと強く思っていましたね。事業責任者は私一人ですから、たとえばメカの担当も一人です。するとメカのことは自分一人で決められる。自分で見られる範囲、決められる範囲がとてつもなく広い。「うちに来たら何でも自分のやりたいようにできる」ということを伝えて口説いていました。

—そうして仲間を集めて本格的にプロジェクトが始動するわけですね。

うまくいっているときは簡単です。クラウドファンディングをやったら1億円を超え、当時の日本最高額にもなりました。華々しいデビューはしたのですが、2年、3年と経っても事業はなかなかうまくいかず、チームメンバーも疲弊してヘトヘトでした。一緒に創業した初期メンバーも辞めてしまったり、チームが崩壊しかけていました。情熱だけで働ける期間は限られているなと実感しました。

—それでも事業をやめなかった。

チームメンバーは皆、いいものを作りたいという強い想いで私のチームに来てくれたので。初心に戻って、それをやり直そうという話をしました。それでもダメだったら、もうこの事業をやめようとも言いました。これまで情熱で押し切っていた部分を、効率よく進めていくためにどうすればいいか、といったことも考えながら一つひとつ体制を整備していきました。そうして完成したのが「wena3」です。

—決してスムーズに進んだわけではなかったのですね。

おかげさまで「wena3」は売れ行きが好調でした。課題も乗り越えて、今は次に向けて動いているところで、結構たのしい時期ですね。

好きなものに対する「もっとこうなればいいのに」が、ストーリーをもったアイデアになる。

—次に動いているとのことですが、對馬さんにとってプロダクトをよくしていくアイデアの源泉はどういったところからくるものなのでしょうか。

アイデアは単独ではあまり意味がないです。そこにストーリー性を持たせる、情景を持たせる、アイデアをストーリーとセットで作ることを大切にしていますね。特に自分自身が好きなものに対しては、「これはもっとこうあるべき」、「この技術はもっとこういう方向に進むべきだ」という想いが生まれてきます。それがアイデアの源泉のようなものかなと思います。

—そういった改善思考のようなものを持つようになったのはいつ頃からでしょう?

実は中学3年生の頃から一人暮らしをしていましたが、結構きっちりやっていました。掃除、洗濯から支出の管理まで細かくきっちりやるのが好きで。その頃から自分ルールがいろいろ出来上がっていって、自立して考えていくことが当たり前になったのかなと思います。その思考の延長として「これはこういうふうにやるべきだ」というものが自分の中にあって、関心のあるものに対する思想みたいなものが出来上がってきたのかもしれません。

—パッと閃くというよりは、「もっとこうしたい」という想いからくるものなのですね。

どちらかというと玄人目線ですよね。商品やサービスにすごく詳しくて、深い課題に辿り着こうとしている感じです。そのアイデアや商品、サービスに共感して、最初の人は買うわけじゃないですか。その共感を生むのは、根底にあるコンセプトや思想だと思っています。

—その思想に辿り着くための深い洞察や思考ということですか?

よく「人がやっていないことをするのが大事」ということも言われますが、そういう経験からの方が、人が考えていないことを思いつく。たとえば、私は捕鯨についてほとんど考えたことはありません。でも、実家が捕鯨をしている友人はものすごく捕鯨について考えている。そういう個人の思想や感情が大事だと思います。だって私は、捕鯨のアイデアなんてまったく思いつきませんからね。

こだわりや想いを実現していくことが、新しい事業になる。

—「wena」の今後の展望について教えてください。

初代を作ったのが2016年。そこから世の中は動いて市場はどんどん変化しています。私自身、腕時計とスマートウォッチをひとつにしたいという想いはもちろんありますが、単にそれだけでいいのかという疑問も抱いています。将来的には腕時計をスマートウォッチにするだけではない、新しいプロダクトを目指したい。詳細は言えませんが(笑)

—詳細が知りたいです(笑) いつぐらいに世の中にお披露目されますか?

詳細はお話しできませんが、なかなかおもしろいものができると思うので、期待していてください。

—「wena」を通じて對馬さんが作りたい世界、ビジョンとはどんなものなのでしょうか。

言葉にするような大それたものではありませんが、強いて言えば自分自身のこだわりや想いを実現していくということです。個人的には最先端の製品はもちろん好きですが、成熟しきったものも好きです。なくならないでほしいものが、たくさんある。それらが共存するような製品を作っていきたい、という想いは私の中にあるのかもしれません。万人に受け入れられるようなものではなく、一部の熱狂的な人たちのコミュニティで成り立っている。そんな製品を作ることをやっていきたいですね。

—とてもソニーっぽいですね。

よく言われます。でも、「wena」以外はほぼやったことがないので、私自身はよくわかりません(笑)。いまはスマートフォンで何でもできる時代ですが、新しい製品というのはどこか尖ったところがないと生まれてこない。限られた用途で、限られた人々から熱狂的に支持されるところから、大きく事業が拡がるパターンも実際にありますから。私も腕時計に取り付けられるスマートウォッチというところからはじめていますが、それをもっと拡げていきたいと思っています。

<編集部が見つけた對馬さんのパーパス>
ソニー独自のスマートウォッチの生みの親である對馬さんのお話は、「自分が好きなものが、こうあるべきだと思うものを作る」という、ものづくりの原点を改めて教えられたような気がします。プロダクトに対する個人の想いに人が集まり、尖ったものが生まれ、世の中に拡がっていく。對馬さんが体現しているのは、そんな古くて新しいものづくりのあり方。次の「wena」がどんなものになるのか、さらにその先に對馬さんが何を作るのか、とても楽しみになりました。

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