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Interview

ルーカス・ドン
映像作家

テクノロジーと、
共同制作に基づく
芸術としての映像制作

グローバル企業の広告や、著名なデザイナーや建築家と共作による映像で知られる、気鋭の映像作家ルーカス・ドン。本ウェブサイトで紹介されている「Creative Entertainment Vision」のコンセプトビデオの監督も務めた彼に、クリエイターとしての自身のこれまでの歩みとともに、10年後の未来に向けた映像制作の世界の変化の見通しについて、考えを聞きました。

—— 映像制作に興味を持ったきっかけを教えてください。

映像制作に魅了されたのは、10歳の時で、当時一般的になり始めたYouTubeでさまざまな種類の映像を見ていました。特に、カットを繋ぎ合わせる動画の編集プロセスは理解が難しく、私には魔法のように感じられました。でもそれを何とか自分のものにしたい、と思っていました。当時、スケートボードに夢中だった私は、身近なものに目を向け、放課後に友人たちと香港の街中でスケートボードをする様子を撮影し始めました。成長とともに、興味や環境、友人は変わっていきましたが、映像制作は私が世界と関わっていく中で、不変の要素であり続けました。

高校時代は建築物や空間をモチーフに、一見静止した瞬間のように感じられるそれらから視覚的に面白いものを生み出すことに挑戦していました。私はいつも、自分の手の届くものだけで何かを作ろうと努力していましたし、逆にそのような制限から、映像作家として多くのことを学びました。進学した南カリフォルニア大学では映画を学びながら、建築家やデザイナーのために広告やブランドの映像を作り始めましたが、彼らの正確で綿密なこだわりを自分の映像作品にスポンジのように吸収していきました。その時の経験は、今日の私にも蓄積されているものだと思います。

—— 今回、監督として関わったコンセプトビデオ「Creative Entertainment Vision」に描かれているような未来を思い描いていますか?

はい、思い描いている未来のイメージはあります。指をパチンと鳴らせば何かが創作できるような単純なものではないと思っていますが、未来には、アイデアに関するやり取りがより簡単になるツールがもたらされていると思います。頭の中に浮かんだものを共有するプロセスが、より簡略化されていくと思います。テクノロジーがどんなに“進化”したとしても、映像制作にはなんらかのコミュニケーション能力が求められると思います。私たちがいろいろな人と一緒に働くのは、多くの人の助けが必要だからではなく、映像制作が多くの視点を集めたものであるからです。その楽しさは、ボタンを押して何かを作り出すことではなく、他の人と一緒にアウトプットを議論し、洗練させていくことにあるのです。

この作品を制作するにあたり、初めてバーチャルプロダクションを使いましたが、何ができるのかを目の当たりにして驚きました。今回の動画のすべてのカットにバーチャルプロダクションとCGを使用しているのですが、生の映像と完成した作品とには明らかな違いがあります。また、バーチャルプロダクションのステージのスケールには圧倒されました。先端技術が提供する大きな可能性と同時に、緻密な準備の下に制作を行うことの必要性も感じさせられました。このようなハイテクツールは映像制作のプロセスを大きく効率化する一方、最終形がどうあるべきかを正確にイメージすることが必要なため、明確かつ方向性の定まったクリエイティブのビジョンがいっそう重要となります。技術の進化により、一部の側面では簡素化が続いていくのでしょうが、クリエイティブの核となるアイデアは常に必要であり、それが撮影現場でのあらゆる決定の根拠になっていくことは変わりません。

—— 今後10年で、エンタテインメント業界(特に映画業界)はどのように変化すると予想しますか?

予見できないような変化がたくさん起こると思います。例えば、衰退が予測されていたアメリカの主要都市の映画館は予想外の大復活を遂げましたが、これは、テクノロジーの向上とは関係のないことでした。私が確信を持っているのは、映像制作の技術がより身近かつ今より進んだものになればなるほど、最も思いのこもった物語がトップに躍り出るということです。

—— 映像制作において、次の10年で何が変わり、何が変わらないと思われますか?

次の10年で、映像制作の本質は変わらないと思います。なぜなら、映画制作とは、本質的に共同作業に基づいた芸術であるからです。理論的には私が多くの役割を自分でこなすことができたとしても、それは本来の映像制作ではありません。映像制作とは、あらゆるところからアイデアを集めて、コラボレーションを行っていくことです。このコラボレーションによるシナジーは非常に重要で、新鮮な視点があってこそクリエイティブのプロセスが活気のあるものになります。たとえ、技術の進歩により、映像制作がボタン一つで行えるような単純化がなされたとしても、最高の映像作品は常に、さまざまな人とアイデアが豊かに混じりあったものであるでしょう。

私の考える、より合理化されるであろう領域の一つは、プリビジュアライゼーションです。合理化により、映像制作者はより迅速にコンセプトを練り上げることができるようになるでしょう。アイデアを持ち、それが実現されるのを見ることで多くを学ぶ者としては、短期間に複数のプロジェクトから学ぶ能力は非常に貴重です。この迅速なトライアルプロセスによって、良くないアイデアには速やかに見切りをつけ、本当に有望なアイデアだけに集中できるようになります。だからこそ私は、一つのプロジェクトから次のプロジェクトへと速やかに移行し、絶えず進化と改善を続けることを支持しています。実を結ばないかもしれないアイデアにこだわらないことで、生産性と創造的なアウトプットの双方を高めることができます。

※映像制作の初期段階において、各シーンの検討用に仮で制作される映像のこと

—— 今後10年間で、トランスメディアは映画にどのような影響を与えると思いますか?

確かなことを言うのは難しい質問です。トランスメディアに対する新しいアプローチはこれまでにもありましたが、結局は定着しませんでした。しかし、トランスメディアが、作品の本筋や意味を変えることなく、観客の好みに合わせてコンテンツを調整し、ハッピーエンドや悲しい結末といったバリエーションの異なるエンディングを提示することができるならば、インパクトのあるものになりうるかもしれません。人々から支持を得るためには、作品の背後にある作者の意図が明確に残っている必要があると思います。

視聴者が主体性を持つVRのような没入型フォーマットの場合であっても、その背景世界はクリエイターが綿密に作り込んだものです。細部に至るまで考えを巡らし、視聴者を導きながら、ある種の自由が提供されます。私たちはさまざまなレンズを通して世界を見るために映画を見ますが、そのことが失われないようにすることが大切だと思います。

—— 今後、ソニーグループに期待すること、また、ソニーグループがさらに注力すべき分野は何だと思われますか?

技術の発展とともに、バーチャルプロダクションをより身近なものにすることができれば面白いと思います。現在は、バーチャルプロダクションにおいて撮影セットを作るために必要となるプリプロダクションが大きなハードルとなっていますが、このシステムによって撮影セット上でより多くのことを自在に変更できる柔軟性が確保されれば、大きな改善となります。また、私はよく、クリエイターに対して高い柔軟性とパワーを提供し、映像制作コミュニティに大変愛されているソニーのデジタルシネマカメラ『VENICE』で撮影するのですが、ソニーがカメラを進化させ続け、より小さく、軽く、使いやすいものにしていくことは非常に重要です。そして、ソニーには引き続き、私たち映像制作者の声に耳を傾け続けてほしいです。私たちのニーズを理解することは、ソニーの製品・サービスの強化とイノベーションに直接影響を与えるからです。

Profile

香港、東京、ニューヨークで育った映像作家ルーカス・ドンは、建築物の複雑なディテールや、完璧主義にまつわるパーソナルストーリーに焦点を当てた、デザイン志向の映像制作に情熱を注いできた。デンマークの建築家ビャルケ・インゲルスや、音楽アーティストのビョルン・ウルヴァエウスといった世界的な著名人と仕事をし、彼らの表現に焦点を当てたドキュメンタリーを制作している。現在は、ロサンゼルスを拠点にメジャーブランドのコンテンツの監督などを行っており、最近では本ウェブサイトで紹介されているソニーグループの「Creative Entertainment Vision」のビデオ制作の指揮をとっている。

Background