クリエイターを支援し続けることが
自分たちの使命
PlayStationのIP(自社制作タイトル)の映画・テレビ番組化を推進する制作スタジオPlayStation Productionsの統括責任者であるアサド・キジルバッシュ。「アンチャーテッド」の映画化や「The Last of Us」のTVドラマシリーズ化などを手がけてきた彼に、10年後の未来に向けて、ゲームやエンタテインメントの世界はどのように変化するのか、考えを聞きました。
PlayStationのIP(自社制作タイトル)の映画・テレビ番組化を推進する制作スタジオPlayStation Productionsの統括責任者であるアサド・キジルバッシュ。「アンチャーテッド」の映画化や「The Last of Us」のTVドラマシリーズ化などを手がけてきた彼に、10年後の未来に向けて、ゲームやエンタテインメントの世界はどのように変化するのか、考えを聞きました。
ゲームは将来、テクノロジーとAIの進歩によって、よりパーソナライズされ、プレイヤー1人ひとりにカスタマイズされた体験ができるようになると想定しています。技術の進化によって、キャラクターの感情表現がより豊かになることで、より深く、感情に訴えかけるようなストーリーテリングが促進されていくでしょう。それに伴い、クリエイターたちはより感動的なストーリーの創作に注力できるようになると思います。つまり、ゲームの焦点がビジュアル表現から、プレイ後もずっと心に残るような没入感のある物語へと移行していくのです。そのような未来において、PlayStationはゲーマーのコミュニティに、高品位で予想もつかない、そして記憶に残るストーリーを提供し続ける必要があると思います。
私は、AIが個々のプレイヤーに合わせてパーソナライズした体験と意味深長なストーリーを生み出していくと考えています。例えば、ゲーム内のNPC(ノンプレイヤーキャラクター)がプレイヤーの行動に基づいて対話することが可能になり、よりパーソナルな体験に感じられるようになるでしょう。このようなゲーム体験の進化は、デジタルネイティブで、パーソナライズされたものを好み、より意味のある体験を求めるZ世代やα世代にとって重要なポイントになると思います。
私たちは大前提として、最も想像力豊かな世界と創造的なストーリーは、ゲームから生まれると信じています。現に、さまざまなメディアで活躍するクリエイターたちが小さい頃からゲームに慣れ親しんでおり、傾倒しています。PlayStation Productionsは、そのようなトップクリエイターたちがPlayStationのIPをそれぞれのメディアに向けて、魅力的なストーリーに変換するための器として機能しています。私たちは現在、大きなIPの映像化にフォーカスしていますが、PlayStationにはファミリー向けからホラーやSFまで、さまざまな層のニーズに応えられる幅広いジャンルのIPがあり、これらは映像化の可能性を秘めています。一方、私たちはゲームのIPを単に他メディアに変換するだけではなく、グローバルなエンタテインメント・フランチャイズの構築にも取り組んでいます。クリエイションにとって大切なのはストーリーで、ゲームはそれを届ける一つの手段にすぎません。映画、テレビ、ロケーションベースのエンタテインメントなど、それぞれの媒体にはユニークなストーリーテリングの機会があり、それらを効果的に活用していくことで、一つのストーリーをより多くの観客に届けることができます。IPの活用には原作へのリスペクトが欠かせませんが、原作に敬意を払い、情熱をもって取り組めるトップクリエイターと手を組むのがベストです。ゲームという枠を超え、IPの世界を豊かにし、観客を多面的に魅了することを目指しています。
コロナ禍を経て物理的なつながりが求められる時代になり、LBEはますます重要になっていくと思います。そして技術の発達により、LBEではMixed Reality(複合現実)の概念が普及していくでしょう。ゲーム内のビジュアルが、テーマパークなどLBEにシームレスに活用できるようになり、その物語をより豊かに体験できるようになってきています。テーマパークの核となるのはストーリーテリングですが、ソニーのバーチャルな技術とフィジカルな空間を融合させれば、これまでにないストーリーを創出できるかもしれません。ソニーが持つゲーム、映画、テクノロジーといったユニークな事業をLBEにいかすことは、ソニーにとっても次の重要なステップになると思います。
私たちも以前より、PlayStationのIPの映画・テレビ番組化を進めながら、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントとともに次のステージとしてLBEへの展開方法を常に考えてきました。実際に「アンチャーテッド」を映画化し原作のファンに新しい物語を提供しながら、これまで同作を知らなかった方にもリーチする一方、『UNCHARTED: The Enigma of Penitence』という新しいジェットコースターをスペインのテーマパークに、そして『UNCHARTED ESCAPE ROOM』という脱出ゲームを米国のテーマパークに展開し、ゲーム、映画、LBEを共生させた世界観の拡張に取り組んでいます。
※テクノロジーの導入によって、リアルな場に新たな価値を生み出す、新しいエンタテインメント。
テクノロジーによってストーリーテリングが民主化され、クリエイターにとって身近なものになっていき、ソニーはその流れを促進できる特異な立ち位置にいる、と想像します。ゲームのlevel of fidelity(デザインの精密性)が大幅に向上し、ソニーのボリュメトリックキャプチャやバーチャルプロダクションの技術を活用すれば、ゲームのアセットをアニメーションや実写映画に転用できるチャンスがあります。今ではUnreal Engineなどのゲームエンジンが、バーチャルプロダクションにも使用されているため、クリエイターはメディア間の制約を感じることなく、ストーリーテリングに集中できるようになっています。このような自由はクリエイターの創造性を育み、魅力的な体験の創出につながるでしょう。
ソニーの役割は3つあると思います。「ストーリーや活動を通じて感動を与えること」、「未来のビジョンを描いて可能性を示すこと」、そして「テクノロジーを通じてクリエイターを支援すること」です。私たちは人々のインスピレーションを喚起し、可能性を示し、ツールを提供することで、クリエイターに夢を実現する力を提供します。このようなソニーのパーパスを起点とした思いを、グループ全体に浸透させ、「ソニーは人々の生活に喜びをもたらすために存在していること」を従業員全員が再認識することが大事だと思います。スケジュールやコストなど考えるべきことが山積する中でも「喜びを生み出す」という私たちのコアミッションを忘れてはいけません。このミッションは私たちの特権であり、世の中の分断とは一線を画すものです。PlayStationの事業においては常に「喜び」が私たちの大きな指針になっています。
PlayStation Productionsは「思いがけない、記憶に残る、楽しいストーリーテリング」の導き手でありたいと思っています。ゲーム作品の映画化やテレビ作品化において業界をリードし、ソニーグループのコラボレーションの力を示したいと考えています。また、そのようなコラボレーションを通じて生まれる相乗効果とグループの一体感が、ソニー全体の成功につながると思います。
ソニーがなすべきは、クリエイターによる新たなエンタテインメントの創造を、そのリスクも含めて受け入れ、支援すること。安心は自己満足を意味し、不安は革新を意味します。失敗から学ぶことで、私たちは前進します。クリエイターは未知の領域に挑戦するからこそ、独創性を育むのです。たとえ不確実な状況であっても、クリエイターを信頼してサポートし続けることが、素晴らしい体験を生み出す過程なのです。
PlayStation Productions統括責任者 兼 PlayStation Studiosプロダクト担当責任者であるアサド・キジルバッシュ。ソニー・インタラクティブエンタテインメントで18年以上のキャリアを誇り、過去にはゲームマーケティング部門のバイスプレジデントを務めた。ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントの豊富な知見を持つメンバーと連携し、映画・テレビ番組の制作に30年以上携わるチームと共に、『Twisted Metal』「The Last of Us」「アンチャーテッド」といったPlayStationのゲームIPを映画・テレビ番組化し、PlayStationのコミュニティ内外を問わず人々の心に響く体験に仕立てた。