—— 今後10年間、エンタテインメントの世界はどのように変化していくと思われますか?
大きく変わるのは、Z世代が年齢的に社会のリーダー層に進出する20年後だと考えていまして、10年後はオールドメディアと新しいメディアが交錯している過渡期だと予想しています。ただその過渡期の段階でも、クリエイターのコンテンツの創り方やユーザーの楽しみ方は大きく変わっていると思います。すでに現在、コンテンツはテレビだけではなく、ネット配信で楽しむことが多くなっています。10年後は、クリエイターもユーザーも、テレビのクール(3ヶ月単位の番組の放送期間)や尺(映像や楽曲の長さ)というフォーマットから自由になっているでしょう。その結果、クリエイターはこれまでの時間の制約や既存の枠組みなどにとらわれず、自由に発想し、創りたいものを創れるようになり、海外に発信することも普通になっていくと考えます。そうした状況の中、私たちプロデュース側は「いつ、どこで、どんなデバイスで楽しんでいるのか」を見極めて、ユーザーごとのストーリーに合わせた提供方法を考えていかなければなりません。
—— この先、クリエイションの現場では何が重要になると思われますか?
今後、クリエイションの現場ではマーケティングやコミュニケーション戦略がより一層重要になってくると思います。クリエイターが素晴らしい作品やIPを生み出したとしても、それが世の中に伝わっていかなければ、その感動は広がっていきません。さらに、この先デジタルデバイスやメディアは益々多様化していきます。その中で、クリエイターの作品一つ一つに合わせて「その作品の面白さをどのメディアに、どういう順番で出せば、世界に広がっていくのか」という戦略を緻密に構築していくことが重要です。そのときに役立つものが、テクノロジーです。メディアの多様化に比例して膨大になるデータ等を分析して「次にどうすべきか」「どんなパターンがあるか」を導き出し、クリエイターとともに柔軟に戦略を練る時代が加速すると思います。例えばAIは現在、コンテンツ制作を支援する役割で注目されていますが、マーケティングツールとしても大きな役割を果たすと考えています。
—— エンタテインメントとテクノロジーの関係性について、ご自身の考えを教えてください。
私は以前より、「エンタテインメント×テクノロジー」をテーマに新規事業の創出を手掛けてきました。その過程でヒントとしてきたのは、SFをテーマにした映画や小説、アニメです。それらの中には、ARやVRが当たり前にある世界など、未来のストーリーが描かれています。その未来のストーリーは、私たち人間が夢見ているもの、つまり、多くの人が実現したい未来なのではないかと思います。例えば、小型軽量のARグラスを用いたエンタテインメント体験なども現実味を帯びてきています。私は、そのような未来の体験をいち早く具現化し、ユーザーに届けたいと考えており、それを実現できそうなテクノロジーの開発動向に注目しています。テクノロジーにはSFに描かれているような未来を実現させていく形で進化していく面があると思います。
—— 未来に向けて、どのようなエンタテインメント体験を構想していますか?
今興味を持っているのは、新たなコミュニケーション技術によって"リアリティ"の概念を広げることです。今後、遠くにいる人とタイムラグなく意思疎通や会話ができるような体験が重要になっていくと思っています。ゲームの世界では、各プレイヤーが異なる場所からアクセスし、オンライン上で一緒にプレイすることが既に普通になりましたが、私はリアルの場においても、各プレイヤーが別の場所にいながら、一緒にプレイしているように感じる体験を構想しています。そのような考えから、「THE TOKYO MATRIX」では"フィジカルな会場に遠方の人がリアルタイムに参加できる"体験を実装することを目指しています。現在は初期ステップとして、会場にはいなくても、webアプリから「支援ポイント」を送ることで、リアルに参加しているパーティーのプレイを有利にすることができる「支援システム」を実装しています。今後はもっとリアルタイムに会場外から参加でき、応援しているパーティーを助けたり、ライバルを邪魔したりできる、場所という制約を超えた新しいリアルな体験を追求したいと思っています。
また、もう一方で注力しているのが、インタラクティブ性を取り入れた、その人だけのパーソナライズ体験の構築です。現在「THE TOKYO MATRIX」ではソニーの音声合成技術を使って、キャラクターがプレイヤーの名前を呼んでいますが、今後は「今回は何回目の挑戦だね」という会話からゲームが始まるなど、パーソナライズ化を進めることで、体験をよりリッチにしていきたいと考えています。
—— 「フィジカルとバーチャルの融合」はエンタテインメントの世界にどのような影響を与えると思われますか?
私たちは「フィジカルとバーチャルを地続きで楽しめる」体験をつくっていきたいと考えています。これは、「フィジカルの世界をバーチャルに再現する」ということではありません。フィジカルとバーチャルが相互作用し、1つの世界・体験になっているというイメージです。例えば、スマホで遊んだゲームの点数によって、リアルなアトラクションの体験が変わっていき、さらにその体験結果が、スマホ側にフィードバックされるようなことが挙げられます。ジャーニーがずっとつながっていくような、フィジカルとバーチャルが地続きになる関係性をつくることができれば、新しいエンタテインメントになると思っています。
—— 近年、エンタテインメント業界で注目されるトランスメディア・ストーリーテリングについて、どのように考えていますか?
ソニーミュージックグループでは、IPのさまざまな楽しみ方として、グッズやイベント、展示会、オーケストラコンサート、体験型アトラクション、2.5次元ミュージカル、カードゲームに展開するなど、トランスメディアに取り組んでいます。楽しみ方は今後も増えていくので、新たなクリエイターやパートナー企業との連携を常に意識していく必要があります。エンタテインメントの世界は動きが非常に早いため、有望なIPがあれば「次はイベントに、その次はコンサートに」と即座にいろいろな展開ができるように準備しておくことが、IPを大きく拡大させるきっかけになります。
—— ソニーミュージックグループおよびソニーグループの未来について、どのような考えを持っていますか?
ソニーミュージックグループの役割は、世の中に感動をもたらすヒットを出し続けることだと考えています。それには日々新しいことを考え、コンテンツを提供し続けることが大事だと思っています。私たちの会社はミュージックという名前がついていますが、音楽だけではなく、アニメやゲーム、キャラクターなどエンタテインメント全般を手掛けています。そのような幅広い事業領域を生かしながら、一つ一つのIPの素晴らしさや可能性を広げていきたいと思います。
また、ソニーグループの一員であることに、大きなアドバンテージを感じています。私たちソニーミュージックグループが海外展開をする際には、世界各地に拠点があり、人材がいるソニーのグローバルネットワークを活用すれば、世の中を驚かすような体験の創出にも挑戦できると思います。これからも私たちはエンタテインメントの世界で挑戦を続け、グループ社員やパートナー企業、クリエイターから「一緒にやろう!」と言ってもらえるような存在になりたいと思っています。