—— 昨今、アニメやゲームの業界では制作スタジオのブランド化が進み、特定のスタジオの作風が支持を集めることも珍しくありません。CloverWorksもまた、A-1 Picturesの高円寺スタジオをブランド化して発足したスタジオですね。
私がA-1 Picturesへ入社したきっかけは、アニプレックスが立ち上げたスタジオであり、メーカーによるスタジオの先駆けとして興味を抱いたからです。CloverWorksはA-1 Picturesから2018年に分社化する形で設立されましたが、立ち位置においても制作環境においても、アニプレックスの後ろ盾を抜きにしては語ることができません。制作会社単位では利益が生まれにくい構造が長らく課題とされるなかで、メーカーがスタジオとともに制作環境の向上に努める体制があるからこそ、それが作品のクオリティに結び付き、ファンからの支持につながっていると感じます。
その点で、A-1 Picturesには約20年にわたって築いてきた、安定したものづくりの体制があります。私としてはそれを受け継ぎながら、よりトレンド感を意識したスタジオづくりを心がけているところです。
—— アニメ作品の世界観には、フィギュア、ゲーム、実写映画などさまざまな形で展開される中でも、コアを担う力があると思います。原作がある作品も、色や動き、音などでアニメーションならではの映像表現を作ることができます。こうしたクリエイティブのあり方について、どうお考えでしょうか。
まず原作がある作品の場合は、原作を尊重しつつ、1クールでアニメーションとしての面白さをどう表現するかが問われます。お客様はそれぞれに、自分の脳内にある原作のイメージを求めるもの。動きや声優による表現を通してそのイメージにどう近づくか、どう超えられるかが重要になります。
また、世界観や色のトーン設定については、監督のビジョンが大きく反映されます。ただ、監督、作画監督、撮影監督、美術監督など"監督"と名の付く役職がたくさんいるのがアニメ業界の特徴です。例えば森のシーンの光の表現であれば、暗いのか明るいのか、夕方ならばどんな色なのかを美術監督が提案し、監督のOKを得て撮影処理をおこないます。さまざまな職能のチームワークで作品ができあがっている以上、個々の能力をどう生かすかが極めて大切だと考えています。
—— 近年、2Dと3Dの組み合わせによる表現が増えてきていると感じます。CloverWorksにおけるCGの活用の仕方や今後どのような変化が考えられるか、教えてください。
業界の流れと同じく、3DCGはあくまで補助として、2Dとなじむ表現を念頭に置いています。例えば、角から曲がってくる車を2Dで描くのには大変な労力が必要です。そこで、3DCGで車を制作して2D処理を入れる。画面の破綻を防ぎつつ、労力を削減するために3DCGを使います。同様に、アクションシーンなどで2Dのキャラクターが互いに回り込んだり追い越したりなど、カメラ位置も含めてキャラクターがいる場所が激しく入れ変わる場合などは、背景を2Dで1枚1枚描く労力を低減するため、背景をまるごと3DCGで制作し、カメラ位置を自由に変えて撮影できるようにしています。いずれの場合も3DCGが違和感なく2Dになじんでいることが大事です。2Dで魅力ある表現を心がけつつ、背景などは3DCGにするといった形で使い分けています。
今も、例えば『鬼滅の刃』のように視聴者にとって違和感のない表現で、CGはすでに非常に多くの場面で使われています。当社ではこれまで背景は線で描いたものを背景美術に渡して着色する流れだったのを、『WIND BREAKER』では線を3D出力して手描きで仕上げています。視聴者から精度や緻密さが求められるようになったこともあり、同じ空間が何カットも繰り返し出てくる場合は、CGで制作したほうが正確性を担保できるからです。3Dレイアウトを使って作業するケースは、今後も増えていくと思います。
—— 2Dのジャパニーズ・アニメーションは、今や世界的な支持を集めています。その上で、次のステップをどう見据えていますか?
海外でも今や「アニメーション」といえば、日本のアニメを思い浮かべる方が多いでしょう。その要因としては、情報の伝達速度が上がったこと、「Crunchyroll(クランチロール/ソニーグループ傘下のアニメに特化したDTCサービス)」をはじめとする配信事業の拡大などが挙げられます。ただ私としてはそれだけでなく、作品に描かれる日本の文化が魅力的に受け止められていることも大きいと思います。こうした足元の要素をまず見つめ、受け継いでいくことも大切な使命ではないでしょうか。
—— AIの導入によって、10年後にはさまざまな進展が見込まれます。例えば動きの最初と最後のコマだけを描いて、中間の動きを描写する。あるいは、キャラクターの口の動きを各国の言語に対応して補正したり、視聴者の感情に合わせたストーリーを展開したり。こうしたインタラクティブな仕組みについて、どうお考えですか。
確かに、AIの活用は一定の領域で加速するでしょう。ただ、私たちはこれまで築いてきた2Dアニメの魅力を信じてスタジオを運営しています。作画の精度を高めるのは当然のことですが、人間によるブレや揺らぎなどの要素には、AIには割り出せない魅力があるはず。その上で、AIをどのように取り入れて、人間による表現をどう生かすかが問われていくと思います。
—— ソニーグループでは、最先端の技術を活用してゲームや音楽、映画などを手がけており、『スパイダーマン:スパイダーバース』のように、原作のIPをさらに広げた世界観を設計し、さまざまな体験軸へ広げていくトランスメディアの展開にも意欲的です。その点で、どのような可能性が考えられるでしょうか。
何よりもまず、アニメとして魅力のある作品であればこそ、領域を超えた展開も可能になると思います。そのために、クリエイターの新たなアイデアが生まれる環境を整えるのが私の役目です。例えばスタジオの制作環境。CloverWorksの本社移転時に「なるべく会話が生まれる環境にしたい」という声が挙がりましたが、これは言い換えるなら"有益な無駄"があることだと思います。ふとした雑談など、一見無駄と思われるところからアイデアは生まれるものです。
加えて必要なことは、アニメ業界の経済的構造を変えることですね。未だに紙と鉛筆から脱していない状況を、テクノロジーの下支えによって効率化しつつ、表現として守るべきところは守っていく。制作の手法を受け継ぎつつ、クリエイターが才能を発揮できる環境をいかに作り上げていくか。そこは、AIには取って代わることのできないナチュラルな部分であり、最も大切な領域だと思います。
その点でソニーグループはこの業界においても、クリエイターやアーティスト支援を積極的におこなっていると感じます。新しいテクノロジーを活用しながらも、表現の核心となる部分に関してはクリエイターがじっくりと時間をかけて新たなアイデアを創出できるよう、バックアップしていく姿勢が大切ではないでしょうか。