Interview
- 屋代 陽平 鎌田 海依 増田 雅子
- ソニー・ミュージックエンタテインメント / The Orchard Japan
音楽×テクノロジーから広がるエンタテインメントの未来
小説を音楽にするプロジェクトを出発点に、アニメ『【推しの子】』のオープニング主題歌「アイドル」が世界的なヒットを記録するなど、分野を超えたアプローチで注目を集めるユニットYOASOBI。ソニー・ミュージックエンタテインメント(SMEJ)でプロデュースを務める屋代陽平と鎌田海依、The Orchard Japanでディストリビューションなどに携わる増田雅子が、10年後を見据えた音楽×テクノロジーの可能性とエンタテインメントの展望について語り合いました。
—— YOASOBIは、デビュー翌年の2020年に東京都渋谷区公認の配信プラットフォーム「バーチャル渋谷」とのコラボレーションでMR(Mixed Reality)コンテンツを公開したり、24年に開催したツアー「ZEPP TOUR 2024 "POP OUT"」でも3D映像を用いた没入体験を実施したりなど、フィジカルとバーチャルの融合に意欲的に取り組んでいます。エンタテインメントの10年後を考える上で、先進的な体験のもたらす価値をどう考えていますか。
屋代:音楽のライブを例に挙げるなら、コロナ禍を経て、フィジカルな表現の価値がより高まってきていると感じます。つまり、大勢の人々が一カ所に集まって同じ時間と体験を共有することに大きな意味がある。ライブ体験のフィジカルな価値そのものは、この先の10年においても揺らぐことはないでしょう。
ただし、その体験を作り上げるプロセスや、観客のユーザビリティといった側面においては、大きな変化が起こり得ます。例えば、ライブ会場のキャパシティという制約がバーチャルとの融合によって解消されるかもしれませんし、バーチャル技術によってステージ上を完璧に見渡すことのできるリアルな体験を実現できるかもしれない。いずれにせよ、演出のさまざまな側面において、メタバース的な世界線とのハイブリッドな体験を届ける技術が少しずつ入り込んでくるように思います。
鎌田:個人的に驚かされたのは、2023年にラスベガスに誕生した大型アリーナ「Sphere(スフィア)」です。その名のとおり球形の空間がLEDパネルでほぼ完全に覆われていて、会場のレイアウトも大きく変えることができます。空間のあり方によって実現できる表現が大きく広がり、アーティストに対しても「この場所でライブをやりたい」という意欲とクリエイティビティを引き出す力がある。空間とアーティストのクリエイティビティが相乗効果を及ぼし合うことで、新しい流れが加速していくと感じました。
「ZEPP TOUR 2024 "POP OUT"」の3Dメガネを用いた演出
Photo by Kato Shumpei
—— 音楽とテクノロジーとの掛け合わせによって、音楽体験がより多様かつ、イマーシブなものになっていくわけですね。
屋代:大切なことは、テクノロジー・ファーストに陥らないこと。そして、アーティストが「作りたい」と思う表現と、お客様に「また観たい」と思ってもらえるような満足度を満たすために何ができるか、この二つをいかに合致させるかだと思います。その点で「ZEPP TOUR 2024 "POP OUT"」での3Dメガネを用いた演出は、現在の技術的制約から考えても、数千人規模の会場だったからこそギリギリ達成できた試みでした。日本では最大約2000人、ロサンゼルスでは約5000人のキャパシティでしたが、まず日本のすべての会場で実現を目指し、そこで手応えを得て、アメリカでも展開することができたのです。取り組みを重ねながら、次に向けて何ができるかを考えていく。このプロセスが大切だと思います。
鎌田:要は言語や場所を超えて、ライブ体験の可能性をいかに広げていくか。言葉では共通理解として深い所まで到達できなかったとしても、音楽とワクワク感を掛け合わせる試みによって、より深い楽しみを実現できたと感じています。その意味では、テクノロジーと音楽との親和性は非常に高い。生で味わう没入感にはまだまだ伸びしろがありますし、この方向性で挑戦を続けていく価値は大いにあると思います。
そう考えると、Epic Games社のゲーム『フォートナイト』のように何千、何万人もの人々が同時に楽しめるバーチャルな環境が成熟したとしても、アーティストと観客がフィジカルで接することの価値はこの先も上がっていくはず。その上で、バーチャルとの組み合わせの選択肢が増えることにより、アーティストのアイデアをもっと自由に実現できる未来が訪れると思います。
屋代:そもそも現時点で想像している"フィジカル"と"バーチャル"の区別さえ、10年、20年先には変わっている可能性があります。そうすると、"生のライブの良さ"も将来的には物理的な会場のキャパシティを超えて何百万、何千万人という規模で届けられるようになるかもしれない。これまでの人間の感覚や神経の限界を超えた疑似体験の可能性はもちろんのこと、そうした体験に触れて育っていく子どもたち、将来のアーティストが作るものは、私たちの想像をはるかに超えて面白いものになっていくのではないでしょうか。
—— そうした状況下で、ライブにおけるアーティストとファン、あるいはファン同士の関係は、どのように変化していくと考えますか?
鎌田:「YOASOBI ASIA TOUR 2023-2024」で韓国や台湾、香港、シンガポール、インドネシアなどアジア各地を回る中、各地で自然発生的にコミュニティが形成されている様子を目の当たりにしました。今はまだ日本のファンと海外のファンでは得られる情報量にどうしても差が出てしまう状況であるにもかかわらず、どうしたらYOASOBIをもっと応援できるか、真剣に考えてくれていて、ポジティブな熱量を感じましたね。国内外向けの発信をよりシームレスにしていくことで、ファンのコミュニティ活動をもっと盛り上げていけるはずだと考えています。
屋代:近年、SNS上のファン同士の交流にも変化が見られます。かつては現実世界の個人とSNS上の人格が比較的リンクしていましたが、今の10〜20代は"仕事用のアカウント"、"趣味のアカウント"といった大きな枠にとどまらず、"YOASOBIの応援用"、"King Gnuの応援用"といった形で、好きなアーティスト別に応援するアカウントや人格を自然に使い分けるケースが珍しくありません。これがメタバースにも展開されていけば、ファンの人格がより多様化して、コミュニティのあり方もこれまでとは異なる次元に突入すると思います。
一方で、2010〜20年代前半はSNSをはじめとするUGC(User Generated Content/ユーザー生成コンテンツ)の成熟を背景に、UGCでの盛り上がりが楽曲のヒットにつながる流れが一般化してきました。YOASOBIもこうした中で育ってきたアーティストです。では、一般ユーザーによって作られるUGCと、プロフェッショナルが作り出すPGC(Professional Generated Content/プロによる制作コンテンツ)の違いは何かと考えると、今のところは質の問題が大きい気がします。その質の差が、テクノロジーの進化によって見分けが付かなくなっていくとしたら、アーティストとファンの構図もまた、単純に"コンテンツを提供する側"と"享受する側"のコミュニケーションにとどまらないものになる。それがUGCのセカンドフェーズであり、AIやブロックチェーンのような技術との融合とともに、今後の10年の鍵を握る要素になっていくのかもしれません。
Photo by Kato Shumpei
—— YOASOBIのコンポーザーであるAyaseも、UGCをベースとするボカロP(ボーカロイドプロデューサー)出身です。音楽事業会社としては、こうした才能を発掘し、育てていく役割がより重要になっていくということでしょうか。
屋代:それは、プロジェクトのサイズ感や性質によりけりだと思います。プロフェッショナルの職能でクオリティを突き詰めた作品を作り上げるのか、お客様同士が共有できる世界観を提示して参加の自由度を高めていくのか…。いずれにせよ、UGCを巻き込む取り組みは絶対的に必要ですし、私たち自身もまた、アーティストとユーザーの間を取り持つ立ち位置を見定めながら、どの程度コントロールが必要かを考えていかなければならないと思います。
増田:例えばUGCによって新たな楽曲が生まれたとして、そこに制作者名がクレジットされ、権利的な事柄がクリアになれば、ユーザーとアーティストを区別する必要はなくなるでしょう。ブロックチェーンのように、デジタルな表現であっても制作者名を明記して権利を保障する方法も確立されつつあります。しかも、音楽にはサンプリングという制作手法があるわけですから、その方法論をオフィシャルに実施できるようになれば、表現の可能性としてもより面白い展開につながるはず。ただ現時点では、国や地域によって著作権をはじめとする法律に差があり、SNS上の共同作業をもってオフィシャルな制作とするにはまだハードルが高いのが実情です。法整備などを背景に、いずれ一気に活性化する時期が訪れる気がします。
—— 増田さんはSMEJを経て、The Orchard JapanでYOASOBIをはじめとするアーティストのディストリビューションやデータ分析、権利の管理などさまざまな支援に携わっています。今後、アーティストやクリエイターの支援のあり方はどう変わっていくと考えますか?
増田:The Orchardの強みは世界各地に拠点を構えており、各地域の情報をタイムリーにキャッチできることです。それでも、現地のファンの動向はその場へ行って体感しなければわからない。YOASOBIに関しても、ツアーを通して各地のファンに対する解像度がグッと高くなりました。そのなかで感じたのは、海外で勝負したいと考えるなら移住するのが当たり前だった時代から、より大きなチャンスがアーティストたちの前に開けつつあるということです。グローバルなネットワークを駆使して、アーティストのチャンスをいかに広げていくか。さまざまなアプローチがありますが、リアルな体験を通して得られる感動にこそ、次のフェーズにつながるきっかけがあると実感しています。
—— 大手のレーベルなどに所属しないアーティストであっても、デジタル技術の進展によって自ら世界へ発信できるようになった状況をふまえて、新人アーティストの発掘や支援のあり方は今後、どのように変わっていくでしょうか。
増田:確かに、作品制作から各国・地域のファンに向けた発信まで、アーティスト側のできることが広がった半面、やるべきことも増えています。自分の手ですべてをコントロールしたいのか、それとも表現に集中したいのか。あるいは、ニッチな音楽表現を通して少しずつ各地のファンへ届けたいのか、できるだけ世界中の多くの層へ届けたいのか。アーティストのスタンス次第で、ディストリビューションや支援のあり方もより多様化していくでしょう。
屋代:新人発掘に関しては現実問題として、どうしてもデータでは割り切れない部分があるというのが率直なところです。SNS上の評判をAIが分析して、将来的に伸びそうなアーティストを抽出することは技術的に可能ですが、でもそれはアーティストにとって、「この人と一緒にやりたい」と思わせる理由にはならないと思います。自分の経験としては、アーティストとの信頼関係はもちろん、同じ目標や前向きな努力を共有できるかどうかが重要だと感じます。
鎌田:今の時代の人々が何をきっかけにアーティストに注目するかを考えると、SNSの果たす役割が非常に大きいのは事実です。SNSで楽曲や動画に触れ、接点を深める中で、ライブに行きたいという意欲をそそられる。ですから自分も同様に、なるべくSNSに目を配って、気になる人を見つけたらライブへ足を運び、自分の体験を踏まえて声をかけてみるように心がけています。そこは、お客様がファンになるプロセスと同じやり方ですね。
屋代:一方で、アーティストの表現の幅や手段もまた、これまでになく広がってきています。例えばCreepy Nutsにしても、R-指定はラッパー、DJ松永はDJですが、バラエティ番組への出演や役者としても才能を発揮しています。真摯に向き合ってものづくりしている人たちであるほど、さまざまな角度から人々の心をつかむ素質を持っている。彼らの得意分野をどう生かすことができるか、常に先の可能性を考える姿勢が大切だと思っています。
Photo by Kato Shumpei
—— ソニーグループには音楽だけでなく、ゲームや映画、アニメなどの多様な事業領域があります。例えばアニメのキャラクターがゲームや映画など、領域をまたいでいく「トランスメディアIP」の展開も有望視されます。増田さんがSMEJで楽曲提供や運営面で携わっていたようなLocation-Based Entertainment(LBE)への展開も含め、新たな展開のあり方を模索する上で、YOASOBIは一つの模範的な事例といえます。今後の可能性をどう見据えていますか?
屋代:確かにYOASOBIの発端は、小説投稿サイト「monogatary.com」の小説を音楽にするプロジェクトでしたし、『アイドル』とテレビアニメ『【推しの子】』のようなコンテンツ面の連携も大きな要素になっています。ただ難しいのは、日本において領域横断的な取り組みは異なる事業体同士の組み合わせが中心で、権利関係に非常に高いハードルがあることです。YOASOBIはUGCに限らず、さまざまな領域の方々に「ぜひ広げてください」というスタンスをとってきたことが功を奏しました。ただしこのやり方は、日本の現状では権利が幅広い領域に分散されるリスクにもつながります。そのなかで、テーマパークのようにあらゆる領域を統合した展開を生み出すには、ソニーグループが中心となって全体を仕切っていく姿勢が必要ではないでしょうか。
増田:フィジカルとバーチャルの組み合わせでビジネス規模が広がる一方、それをどうLBEに落とし込むか、ここは難しいところだと思います。私が携わったLBEへの展開については、コンテンツIPを長らく多言語化して展開してきたという大きな強みがありました。いずれにせよ、LBEには莫大なコストがかかる以上、お客様に対してもいかに多様な楽しみ方を提供できるかが問われていく。テクノロジーの力でそこをどう広げていけるか、期待したいところですね。
鎌田:音楽におけるアーティストとファンの接点を考えると、現状は音源に触れるか、ライブへ行くか、どちらかに限定されるケースが多く、他の選択肢が少ないように思います。その点で日本は、世界を見渡しても珍しい規模でCDショップが残っている国であり、音源とライブのいわば"中間の場"としての重要性があると思いました。こうしたフィジカルな場をアーティストとファンの接点として活用しつつ、アニメやゲームに加え、リアルとバーチャルをつなぐ試みなどソニーグループのさまざまな技術やコンテンツを連携させることで、新しい才能が集まる場所にできるかもしれません。
屋代:確かにCDショップのような存在は、非日常空間であるライブハウスやテーマパークよりも日常により近いエリアであり、フィジカル、バーチャルを問わず日常的に行ける場所として、より活発なコミュニケーションの発信源になり得ますね。
増田:ライブビューイングでファン同士が集うように、人と人とが対面できる場はやはり、密度が濃い体験につながります。私自身、思春期の頃はCDショップで店員に教えてもらうことも多く、他のお客様と情報を共有したことも大きかったと思っています。一方で今のネットクリエイターは日本各地からオンラインでつながって作品を制作し、共有しているわけです。SNSだけでなく、彼らが対面して学び合える場所ができたらいいなと思います。
また、ソニーのブランド力は長年の信頼の上に成り立ってきたものであり、今後さらに教育の領域にも力を入れるなら、親が子どもを安心して預けられる対象になり得ます。エンタテインメントの力とグローバルなネットワークをこのような場に生かしていけば、領域を超えた展開として唯一無二のものになるはず。そう信じています。
Profile
屋代 陽平
2012年ソニーミュージックグループ入社。音楽配信ビジネスを経たのち、2017年に小説投稿サイト「monogatary.com」を立ち上げる。2019年、同サイトの企画の一貫でYOASOBIプロジェクトを発足。現在も「monogatary.com」には運営、YOASOBIにはスタッフとして関わりながらさまざまなアーティスト・プロジェクトを手掛け、2024年には社内新レーベル・Echoesの立ち上げに参画。
鎌田 海依
2020年ソニーミュージックグループ入社。パッケージセールス及び、パッケージ販促担当を3年経たのち、現在はソニー・ミュージックレーベルズ SML Managementマネジメント課及び、社内新レーベル・Echoesにて、YOASOBIをはじめとするアーティストマネジメントを担当している。
増田 雅子
ソニーミュージックグループ入社後、レーベルにて雑誌、ラジオの国内プロモーション業務やアーティストのA&R・ディレクター業務に従事する。2015年、キッズ専⾨ブランド「KIDSTONE」を⽴ち上げ、現在はThe Orchard JapanのVice Presidentとして、クライアントサポートを中心に、海外オフィスと連携し、アーティストの海外マーケティングもサポートする。