Sony Outstanding
Engineer Award 2020

Sony Outstanding Engineer Awardは、エンジニアの新たな挑戦を加速させるために設立した、
ソニーグループにおけるエンジニア個人に与えられる最も価値の高い賞です。
ソニーがお客様の感性に訴える商品・サービスを開発するためにチャレンジすべき技術課題は、
要素技術開発に加えて、独創的な技術の融合や複雑なシステムの最適化など、多様な範囲に及んでいます。
これらチャレンジングな課題に積極的に挑み、大きな価値創造を成し遂げた2020年度の受賞者をその功績とともに紹介します。

像面位相差センサーを用いてクリエイターに新たな撮影体験を提供した動画AF(オートフォーカス)の開発と商品化への貢献

像面位相差センサーのデバイス優位性とその制御技術を的確にカメラの商品価値へ転換し、高速かつ安定性の高い、動画AFシステムの開発を牽引した。開発当初、動画撮影ではマニュアルでのピント合わせが多用されていたが、撮影の現場に入り込み、クリエイターから深く学ぶことで潜在的なAFの使用ニーズを発掘。「ソニーのAFでなければ撮れない」というクリエイターからの支持を獲得。映像表現において動画コンテンツ市場が拡大する中、カメラの新たな撮影体験の提供及びビジネスの発展に貢献した。

α™ボディにおける手ぶれ補正性能と長時間動画記録の両立を実現するΣ(シグマ)グラファイト放熱構造の開発

従来のイメージセンサーからの放熱構造を徹底的に見直すことで、高効率な排熱とボディ内手振れ補正の低負荷駆動を両立した。カメラ内で駆動するイメージセンサーに、メカ的に低負荷で接続し、さらに従来比約5倍(※)の高い伝熱性能を有するΣグラファイト放熱構造を開発、適用。4K8K動画の記録時間を大幅に拡大しながら、ボディ内手振れ補正5.5段性能との両立を実現した。この技術はフルサイズミラーレス一眼カメラ『α1』 『α7S Ⅲ』, Cinema Lineカメラ『FX3』に搭載され、ソニーの商品力強化に貢献した。

※ソニー調べ

カメラ向けシステムアーキテクチャの開発と商品化への貢献

デジタル一眼カメラαシリーズの新たなシステムアーキテクチャを開発した。従来比約8倍(※)の高速処理を実現するとともに、AFや画像認識などのリアルタイム処理と、ユーザーインターフェイスやネットワークといったメディア処理の負荷を最適化することで、高負荷時においても快適な操作レスポンスを実現。
今回開発したシステムは、フルサイズミラーレス一眼カメラ『α7S III』, Cinema Lineカメラ『FX6』に搭載され、αシリーズや映像制作用カメラ群であるCinema Lineの商品力向上に貢献した。

※ソニー調べ

世界初AI処理機能を搭載したインテリジェントビジョンセンサーの商品化

近年、画像処理AIを用いたサービス事業が発展し、カメラ内で完結するAI処理の可能性が注目されている。そのなかでCNN(Convolutional Neural Network)専用のプロセッサーを開発し、イメージセンサーの積層技術やCu-Cu(カッパー・カッパー)接続技術を組み合わせて、イメージセンサーとAI処理機能を1チップ化したインテリジェントビジョンセンサー『IMX500』『IMX501』を商品化した。これにより、カメラの小型化、メタデータでの出力による低遅延化やプライバシーへの配慮を実現。今後、ソニーセミコンダクタソリューションズの主力デバイスの一つとなるとともに、クラウド伝送のデータ量が大幅に減少することで消費電力削減への貢献が期待できる。

PlayStation®5用 DualSense™ワイヤレスコントローラーの開発と商品化

PlayStation®5 (PS5™)用DualSense™ワイヤレスコントローラーの開発と商品化を実現。精密な表現が可能なハプティックフィードバック、トリガーボタンに反力を発生させるアダプティブトリガー、ユーザー同士で簡単にコミュニケーションできるビルトインマイクなどの新機能の開発と、それらを低コストで実現するためのハードウェアアーキテクチャ設計および専用半導体の開発・導入を行った。DualSense™ワイヤレスコントローラーの次世代ならではのゲーム体験は、ユーザーだけでなくゲームクリエイターからも高い評価を得ており、PlayStation®ブランドの価値向上にも貢献した。

PlayStation®5の冷却設計

PlayStation®5(PS5™)過去最大の発熱量、小さなダイサイズ(ICチップ一つ当たりの面積)による高い熱密度の中、TDP(熱設計電力)駆動の条件を満たす、強力な冷却機構を開発した。
液体金属の採用・四角く成形したヒートパイプによる受熱能力の向上などにより、これらの要求を満足させる冷却系の量産化を実現。PS5™の低コスト設計・生産数量の確保・静音設計による商品力の向上に大きく貢献した。

PlayStation®5におけるHDMI2.1 4K120p/8K出力の開発と製品化への貢献

映像・音声・制御信号を1本のケーブルにまとめて送ることができる通信規格「HDMI2.1」で新たに策定されたFRL(Fixed Rate Link)信号による伝送技術を用いてPlayStation®5(PS5™)における4K120p/8K出力の開発を牽引した。あわせて、HDMI2.1 FRLソース機器として業界初となる認証を取得し、Compliance TestのSpec化を加速、接続性向上のための検証などを業界内で先行。これらの活動により、PS5における4K120p/8K出力の製品化に貢献した。

シグネチャーシリーズ・ニアフィールドパワードスピーカーSA-Z1の開発

デスクトップなどパーソナルな空間で、これまでにない音楽体験を実現する、ニアフィールドパワードスピーカー『SA-Z1』を開発した。一般的に、スピーカーリスニングはコンサートホールで聴いているようなステージ感を出せるが、良い音を楽しむ為には音調の整った専用のリスニングルームが必要だった。一方、ヘッドホンリスニングはどこでも簡単に高解像度の音が楽しめるが、スピーカーのようなステージ感の再現に不満があった。本機は、ニアフィールドリスニング時の課題を技術的に克服することで、専用ルームを必要とせず、音源デバイスとUSBケーブル1本で接続するだけで眼前に広がるコンサートホールで聴いているようなステージ感と、まるでヘッドホンで聞いているような高解像度な音の両立を実現している。

機械学習技術によるnon-player character (NPC)のゲームAI制御

非線形ダイナミクス環境下での実時間運動制御に機械学習技術を応用し、上級プレイヤーと遜色ないパフォーマンスを示すゲーム内自律型エージェント(NPC)を開発した。ここで開発された成果や技術については、今後ゲーム内のみならず、実世界のロボットによる高度な運動スキルの獲得などにも活用が期待できる。

SPAD画素を用いた車載LiDAR向け測距センサーの新規アーキテクチャ開発と商品化に向けた貢献

SPAD(Single Photon Avalanche Diode)画素を用いた車載LiDAR向け積層型直接Time of Flight(dToF)方式の測距センサー開発を牽引した。CMOSイメージセンサーの開発で培ってきた裏面照射型、積層型、Cu-Cu(カッパー・カッパー)接続などの技術を活用してSPAD画素と測距処理回路をワンチップ化し、小型化と高解像度を両立。これにより最大300mの距離を15cm間隔で高精度かつ高速に測定することを実現。本成果をISSCC(国際固体素子回路会議)2021で発表。今後商品化を目指し、車載事業への新たな貢献が期待される。

PlayStation®5向けバイナリレベル後方互換を持つGPUハードウェアの実現

PlayStation®5(PS5™)に於いて、PlayStation®4(PS4™)比5.6倍の約10TFlopsの演算性能や、Ray Tracing対応ハードウェアを実装し次世代機として魅力ある性能とフィーチャーを確立しながら、後方互換性を有するGPUを開発。この後方互換性により、PS5™発売と同時にPS4™のタイトルがプレイ可能になっている。さらに、ほぼ倍速で動作させるブーストモードを多数のタイトルで実現し、より高いフレームレートと解像度のゲーム体験が可能になった。

ディープニューラルネットワーク(DNN)を用いたユニバーサル音源分離の開発

ユニバーサル音源分離を開発し、これまで不可能だった新しい顧客体験を生み出すことに成功した。
この音源分離技術は、音声をその構成要素である音源に分離する技術で、音楽を個々の楽器の音源に分離したり、映画音声を個々のセリフや効果音、音楽に分離したりすることができる。 例えば、ムービー分離技術を使用し、映画音声をDolby Atmos方式でアップミックスすることで、オリジナルの映画音声から新たなリバイバル版を制作することができる。Sony Picture Entertainmentsはこれを利用して、Columbia Classics 4K Ultra HD™ Collectionを制作した。また、ソニー・ミュージックエンタテインメント・ジャパンは、この技術をグレン・グールドによるピアノ演奏の抽出に活用し、ピアノ曲に新たな日本語による朗読を重ね合わせることで、グレン・グールドがまるで生きているかのようなCDを新たに制作、発売した。

大音圧と高音質を実現するX-Balanced Speaker Unitの開発と商品への搭載

サイズ制約の中で大音圧と高音質を実現するX-Balanced Speakerを開発し、ソニーのワイヤレスポータブルスピーカー(SRS-XB43,SRS-XB33,SRS-XB23)、及びテレビ ブラビア®(X9500H,X9000H,X8000H)シリーズに搭載した。このデバイスは、性能実現のため音の歪みを低減する新形状の振動板を採用している。迫力のある豊かな低音、明瞭度の高い音楽再生を実現しており、AV機器の商品力向上に貢献している。

ビデオベース点群圧縮の標準化

点群は、高品質な映像コンテンツの制作を可能にする3D メディアデータフォーマットだが、大容量のボリュメトリックデータを必要とする。点群データを圧縮するには、直交投影を使用して、点群データを2Dイメージにセグメント化および変換し、2Dエンコーダ―で圧縮する。この2Dイメージ変換の新たな方法を提案し、点群データの圧縮として初めての国際規格(V-PCC:ビデオベースの点群圧縮)に採用された。この方法は、投影セグメントを8つの方向に回転させるもので、計算効率、メモリ節約、および高い圧縮率を実現。既存の2Dシステムを使って3Dアセットの作成、配布、および使用が可能となる新しい国際規格の構成ツールの一部となっている。

Fyber- 3Dキャラクターのヘアー作成およびグルーミングのためのスタンドアロンソフトウェア

アニメーションにおける3Dキャラクターのヘアーなどを生成するグルーミングソフトウェア『Fyber』を開発した。現在も開発が継続中で、Sony Pictures Imageworksのあらゆるアニメーション映画や視覚効果を使った番組で使用されている。ノードベースのスタンドアローンソフトウェアであるFyberは、アーティストにとって使い易く、キャラクターの頭髪から全身が毛で覆われた動物まで、あらゆる種類のヘアーを高速かつインタラクティブに生成したいというニーズに対応しており、グルーミング時間の大幅な減少や、新人アーティストのための学習体験向上を目標としている。
Fyberは、高度にマルチスレッド化された計算グラフ、および統合されたOpenGLとArnoldビューポートにより、高速な視覚的フィードバックを提供しながら、アーティストが求める外観を自由に実現できる優れた柔軟性を提供する。
Fyberの基礎となるエンジンは、ユーザーインターフェースとは完全に分離されているため、MayaやKatanaなどのサードパーティ制アプリケーションにも簡単かつシームレスに統合でき、ヘアーの動的な演算やビューポートへのレンダリングが可能となっている。

先端CMOSプロセスに好適な新規クロック生成アーキテクチャ開発

先端CMOSプロセスと親和性の高い、新たなクロック生成アーキテクチャ「オールデジタル位相ロックループ(ADPLL)」を開発した。これにより、従来のアナログPLL(位相同期回路)では難しかった低電源電圧動作、省面積、高性能化を実現し、商品化に貢献している。本技術は複数のLSI製品に搭載されており、ソニーのイメージング&センシングソリューション事業における重要な基盤技術の1つと位置付けられる。また、 Bluetooth® Low Energy向けに、0.5Vの低電圧で動作可能で、1mWの超低消費電力のADPLLを開発し、RFトランシーバ機能を1.9mWの超低消費電力で実現した。本成果は、ISSCC(国際固体素子回路会議)2020および IEEE Journal of Solid-State Circuitsにて発表。

ジオメトリ構造に基づく点群圧縮技術の国際標準化

MPEGでの標準化活動におけるEditorとして、点群映像データの圧縮・伝送技術についての規格化を推進し、ISO/IEC 23090-9(Geometry-based Point Cloud Compression; G-PCC)の策定に貢献した。G-PCCは、ISO/IEC 23090-5と並ぶ世界初の国際標準規格である。高い圧縮性能を持つため、膨大なデータサイズが課題となっているバーチャルプロダクションや3Dセンシングに用いるボリュメトリック映像データへの応用が期待されている。

広帯域振動フィードバック及び⼒覚フィードバック技術開発とDualSense™ワイヤレスコントローラーへの貢献

リアルな触感を提示する広帯域振動フィードバック技術と、コントローラーのトリガーボタンを介して指先へ様々な感触を提⽰する⼒覚フィードバック技術を開発。PlayStation®5用のDualSense™ ワイヤレスコントローラーへの、ハプティックフィードバックとアダプティブトリガーの搭載に貢献した。振動アクチュエーターの制御手法、振動波形のデザインツールの開発、力覚デバイスの構造とその制御手法の発明などの要素技術開発を始め、ゲームの映像・音声と組み合わせたUX価値の具体化まで、幅広い活動を担当した。

超多色細胞解析を実現するスペクトル型セルアナライザー『ID7000™』の開発・商品化

スペクトル型セルアナライザーの最上位機種『ID7000』の開発・商品化プロジェクトを、企画構想から商品化まで主導した。ソニー独自の最新のスペクトル解析技術を結集し、最大7つのレーザーと計186チャネルの光検出器、重み付け最小二乗法を基にした解析アルゴリズムを用いることで超多色解析を実現。最先端の生命科学・医学・創薬研究での「細胞のあらゆる特徴や状態を、一度に網羅的に調べたい」といった強い要望に応えた。発売以降、世界最先端の研究機関・企業に採用され、主力製品としてライフサイエンス事業に貢献している。

AIを活用した運転特性連動型自動車保険「GOOD DRIVE」の開発

AIを活用した新しいタイプの運転特性連動型自動車保険「GOOD DRIVE」を開発した。この自動車保険は、スマートフォンの専用アプリに搭載したAIで動的に変化する運転特性データを計測し、事故リスクとの相関が低いドライバーには保険料の最大30%をキャッシュバックするという、テクノロジーをコアとしたソニーならではの金融商品となっている。実現にあたり、ソニー損害保険株式会社の損害保険事業に加え、AI/クラウドといったデータサイエンスの知見や、センサー信号処理技術等ソニーグループの様々なアセットを集結させており、本成果を通じて金融を含む多様な事業を有するソニーならではのシナジーを世に示した。

PlayStation®5におけるレイトレーシング技術の開発

PlayStation®5向けにレイトレーシングソフトウェア技術を開発。レイトレーシングデータの構造管理およびトラバーサルのための最先端で革新的なルーチン、レンダリング技術、および最新のシェーダーコンパイラ技術などを実装し、ハードウェアが性能を効率的に発揮するよう設計した。このソフトウェアはPlayStation®5と同時発売の主要なゲームソフト(ローンチタイトル)で使用されており、競争力の高いパフォーマンスによって、「次世代」 への重要な差別化を図っている。

音楽業界で増加する低遅延ニーズに対応するリアルタイムデータプラットフォーム

音楽業界では長い間、複雑な権利モデルによるデータの散在が問題になっているが、そのなかで、低遅延のフロントエンドとモバイルアプリの強化を図るため、信頼性と拡張性に優れた、コスト効率の高いデータプラットフォームを構築した。グラフベースのデータモデルと組み合わせたリアルタイムイベントストリーミングアーキテクチャは、データの品質と鮮度を大幅に改善しながら、アーティストの商品イメージを豊かにすることを可能にした。このプラットフォームにより、独立系の音楽アーティストやレコード会社は、外出先でも音楽消費やソーシャルメディアのデータを包括的に把握でき、より優れた分析やマーケティングが可能になる。

Cu-Cu接続を用いた高精細なSWIRイメージセンサーの開発と量産化への貢献

化合物半導体を光電変換層部に用いるSWIR(Short-Wavelength Infrared)イメージセンサーにおいて、小口径化合物をチップ化して大口径Si基板に積層することで化合物とCMOSイメージセンサー技術を融合した製造技術と、世界初の化合物/Si異種材料間のCu-Cu(カッパー・カッパー)接続と呼ばれる積層技術をベースとした革新的な製造方式を開発し、その量産化を達成した。本技術により、圧倒的な高画質化、小型化、広帯域での高感度化が実現され、高精細なSWIRイメージングの新しい市場を創出した。

視線認識に適したレンチキュラーレンズ設計によるSpatial Reality Display 『ELF-SR1』商品化への貢献

視線認識に適した「レンチキュラーレンズ設計技術」の開発を通じ、実物があたかもそこにあるかのような立体的な空間映像を再現できるSpatial Reality Display『ELF-SR1』の開発・商品化に貢献した。Spatial Reality Displayでは視聴者の目の位置を検出しながら、左右それぞれの目に合わせた映像をリアルタイムに生成している。視聴者の位置から見えるべきオブジェクトの映像として表示することで、物体の自然な奥行表現が可能となり、これまでにないリアリティある映像体験を提供できる。

PlayStation®5におけるGPU解析技術を用いたPlayStation®4後方互換性の実現

PlayStation®4(PS4™)開発初期からGPU問題解析システムの構築を担当し、PlayStation®5 (PS5™)開発において発生したPS5™とPS4™の非互換性に関わる問題を、GPU問題解析システムを応用するアプローチにより解決に導いた。 本成果により、PS5™におけるPS4™の互換率向上と、PS5™のGPU品質に貢献。PS4™のコンテンツをPS5™でプレイすることが可能となり、PS5™ 1台で両タイトルをプレイできる、快適なゲーム環境を実現した。

融像しやすい空間映像表示の実現とSpatial Reality Display商品化への貢献

実物があたかもそこにあるかのような立体的な空間・映像の再現を可能とした、Spatial Reality Display 『ELF-SR1』のプロトタイプを開発し、実用化に向けた検討をサポートすることで商品化に貢献した。ユーザーの位置を取得し、目の位置に届くようディスプレイ面上に光源となる画像をリアルタイムに生成、表示する事で、実際に目の前に物体が現れたかのような表現を実現する。ディスプレイや比較手がかりとなる物体配置等、装置形態も含めた構成を考案し、誰もが融像しやすく、立体を感じやすい表示装置として確立した。