技術戦略のデザイン -ソニーにおけるアクション・リサーチ-

Abstract

本発表は、「経営戦略の設計(デザイン)はいかにして可能になるのか?」という問いに部分的に答えるべく、全社戦略・事業戦略・機能戦略の三層のうちの機能戦略レベルに焦点を当て、戦略策定のアクション・リサーチ(e.g. Adelman, 1993; Lewin, 1948)の可能性を探ったものである。こうしたアクション・リサーチの中でも、本研究では特に、臨床的アプローチ(伊藤, 2022; 金井, 2011)を用いて、ソニーグループにおいて実際に利用できる技術戦略・技術経営の使用理論(e.g. 伊藤, 2018)の構築を試みている。
こうした研究が必要となる背景には、次のような経営学術界の現状がある。これまで、オペレーションズ・マネジメント研究は、自動車(e.g. Clark & Fujimoto, 1991)、農業・農作物(e.g. Gupta et al., 2023)といった幅広い物理的な形のある人工物の品質・生産性向上から、物流サービスや医療や計算機プログラミングなどの物理的な形を持たない人工物・プロジェクト(e.g. Kavadias, 2014)の品質・生産性向上まで、多くの産業に共通で適用できる理論を生みだしてきた(Meredith & Shafer, 2019)。その一方で、同じく人工物のひとつであり、戦略系コンサルティングファーム等からすれば「生産物」でもあるはずの経営戦略については、既存の品質管理・生産管理手法を適用するという発想での研究が見られない2。
本研究は、この点をオペレーションズ・マネジメント研究と経営戦略研究の「ミッシング・リンク」であると考える。すなわち、オペレーションズ・マネジメント研究は様々な製品やプロジェクトの品質管理・生産管理について独自の進化を遂げており、同時に、経営戦略研究は経済学や社会学等の知見を取り込みながら独自の研究を遂げているのに、なぜか両者の接合領域にはほとんど研究が存在しない間隙が残されているのである。
しかも、近年の変動が激しいビジネス環境においては、企業は優れた戦略からさえも一時的な競争優位しか得られなくなるため、経営戦略やビジネスモデルの量産理論が必要となると考えられる(岩尾, 2024)。こうしたことから、経営戦略策定プロセスに品質管理・生産管理の理論・手法を援用することの重要性も増しているだろう。
上記の問題意識に基づき、本発表では実際の企業(ソニーグループ)における技術戦略策定のプロセス・コンサルテーションおよび実務家との対話を通じて、経営戦略の品質管理研究の第一歩として「技術戦略の品質管理」の道筋を示す。具体的には、経営分野におけるアクション・リサーチについての先行研究とその限界を明らかにし、先行研究の限界を踏まえた本研究の研究手法を提示する。さらに、ソニーグループにおける臨床的研究によって生まれた技術戦略理論(使用理論)を提示し、実際のリチウムイオン電池の事例においてこの使用理論の有効性を確かめる。

View Publication

著者

* 外部の著者

所属
Sony Group Corporation
学会・学術誌
組織学会
2024