Cutting Edge

2025年5月23日

クランチロールにおけるエンジニアリング:アニメファンに究極の配信プラットフォームを提供するために

昨今、海外でのアニメやマンガ人気が高まっていますが、クランチロールは、これらの活気あるコンテンツを海外で幅広く提供する究極のプラットフォームです。

そのクランチロールでエンジニアリング担当のシニア・バイスプレジデントを務めるサミル・アメッドは、200以上の国と地域に世界最大級の作品数を誇るアニメを配信するプラットフォームの構築を指揮しています。サミルの率いるエンジニアリングチームでは、日本語の「改善」の思想をもとにコードを開発しています。

今月末に実施されるクランチロール・アニメアワード2025に先立ち、急速に拡大するコンテンツエコシステムをどのように構築し、サポートしてきたのか、そして、ファンがどうアワードに関わっているのかについてサミルに話を聞きました。


*クランチロールの配信サービスは日本では提供されていません。

  • サミル・アメッド

    エンジニアリング担当
    シニア・バイスプレジデント
    クランチロール

アニメにかける想いとクランチロールでの経験

──クランチロールに入社した動機は何ですか?また、クランチロールでの仕事のどんな点に一番興味を持ちましたか?

私のアニメへの情熱と、これまでエンタテインメント業界で培ってきたストリーミングや動画配信のための大規模プラットフォームを構築する経験の両方を活かせると思い、クランチロールに入社しました。クランチロールで働くことによって、私生活と仕事を結びつけることができる、つまりセレンディピティのような出来事でした。

個人の面では、私は日本文化やマンガにインスパイアされたアニメへは並々ならぬ愛情を持っていて、仕事の面では、ごく初期の段階にあるものを作り上げることに非常にワクワクしました。入社当時のクランチロールはまさに、生命が吹き込まれて、花を咲かせる準備ができている種のようなものでした。技術的な変革をもたらす、これこそが、私がクランチロールに入社した理由です。当初、小規模だったプラットフォームを、1,700万人の有料会員にサービスを提供するほど拡張可能なプラットフォームへ変革させる仕事は非常にやりがいがあります。

──アニメとの出会いはどのようなものでしたか?入社後、アニメとの関係に何か変化はありましたか?

私がアニメやマンガに興味を持ったのは、幼い頃にテレビで初めて『AKIRA』を見た時にまで遡ります。放映当時、そのアニメーションやストーリーの伝え方、音楽に圧倒されたことを今でも覚えています。

『AKIRA』を通じてアニメに夢中になり、そこからは雪だるま式にさまざまなアニメを観るようになりました。今はクランチロールで働いているので、より多くのアニメに触れることができますし、社内には、私のようアニメファンがたくさんいるので、おすすめ作品を共有し合っています。そして、社内でアニメについて活発に意見交換をすることで、私はさまざまなジャンルのアニメを探求するようになり、仲間が勧めてくれた番組を観るようにもなりました。クランチロールに入社してから、探求するジャンルや、観るジャンルがより多彩になったと感じています。

──クランチロールで配信された作品の中で個人的に一番好きなものを教えてください。

『炎炎ノ消防隊』は、私がこれからもずっと好きであろう作品です。色彩豊かで、楽しいだけではなく、主人公が、最初はヒーローではないのに、やがてヒーローになっていく、というストーリーも素晴らしいと思います。
『ブルーロック』もとても好きな作品です。私は大のサッカーファンなのですが、観ていて本当に楽しいですね。『僕のヒーローアカデミア』は、娘と一緒に観ているのですが、楽しくて観やすい上に、子供たちに良い道徳観を与える、大変素晴らしい作品だと思います。

左から『炎炎ノ消防隊』、『僕のヒーローアカデミア』

技術的な面では、『俺だけレベルアップな件』でしょうか。これは、間違いなくクランチロール最大のヒット作の1つでしたので、配信前に十分に準備をする必要がありました。エンジニアとしては、配信時にファンが何の問題もなくスムーズにアクセスできる環境を何としてでも整えたかったのです。

『俺だけレベルアップな件』

クランチロールが活用するテクノロジーの数々

──現在、クランチロールのライブラリーは12の言語に翻訳されています。日本語のオリジナルコンテンツをより多くのファンに届け、楽しんでもらうために、ローカライゼーション(翻訳・吹き替え)にはどのように取り組んでいるか教えてください。

ローカライゼーションは、最も興味深い取り組みの一つではないでしょうか。サービスの中には、ローカライズする部分とグローバルで共通にする部分があります。ローカライゼーションは、まず、画面上の情報から始まり、プラットフォーム上の作品名、詳細、説明文を翻訳し、次に、コンテンツ自体に字幕や見出しを追加するという工程を踏むのですが、そこに、新しい言語をもっと簡単に追加できるシステムを構築しました。これにより、以前は何ヶ月もかけて新しい言語や地域を追加していた工程が、今では数週間にまで短縮できるようになりました。

クランチロールでは、吹き替えの多くを社内で行います。まず、日本語の台本をさまざまな言語に翻訳した後、その言語の文化に適したトーンになるように編集し、それから吹き替えに入ります。ダラスとロサンゼルスにある吹き替えスタジオに声優やタレントに来てもらってコンテンツを吹き替え、編集チームに戻します。その音声が動画に組み込まれることで、さまざまな言語での吹き替え作品が完成するのです。

──クランチロールのようなサービスには、どのような技術的な要素が含まれるのでしょうか?

まずはユーザーが触れるクライアントアプリケーションがあります。モバイル機器、タブレット、セットトップボックス、スマートテレビ、インターネットサービスプロバイダーといったクライアントアプリケーションには、私たちチームで作ったコードが使われています。コーディングはReactのような最新のウェブ技術を多く使用しておりますし、また、AndroidではKotlinのようなプログラミング言語を使用し、クライアント間で可能な限りコードを再利用できるようにしています。

サーバー側のバックエンドでは、拡張性が必要になります。サービスプラットフォームは、新エピソード配信時のピークに対応できるように構築されています。そのピーク時には、何百万人ものお客さまがお気に入りの番組をいち早く見るためにプラットフォームにログインするので、それに対応できる必要があります。そのため、AWSやGoogleなどのクラウドプロバイダーと協業し、多くの地域でグローバルに展開できるインフラを構築しています。また、バックエンドにはNode.js、Go、Pythonといったマイクロサービス技術を活用していますし、DynamoやMongoといったデータベース技術もたくさん使っています。現在私たちが使っているツールボックスは、かなり充実していると言えるでしょう。

──技術面において、クランチロールが提供するサービスの独自性はどのようなところにありますか?

多くの機能をアニメ専用に構築してきたことだと思います。おすすめ機能のカスタマイズ、吹き替えと字幕の管理など、アニメの世界で、ユーザーが視聴リストを管理するための機能は、従来のテレビのそれとは大きく異なります。アニメでは、作品名に章やストーリー情報が含まれるのですが、それらの作品は、テレビシリーズから映画にストーリーが移行し、そしてまたテレビシリーズへ戻るなどします。その変化のフローを管理するために、さまざまな構造、サービス、コードを開発する必要があるのですが、私たちは常に、ユーザー体験の中にアニメの要素を織り込むべく新たな方法を探求しています。

例えば、『怪獣8号』では、アニメのスタイルを模したカウントダウンや、大きな怪獣同士の戦いなど、番組の内容をもとに格好いいグラフィックを追加しました。私たちは、単なるストリーミングプラットフォームではなく、アニメファンのためのアニメ専用プラットフォームを提供しているのです。

アプリ上の『怪獣8号』のグラフィック

──クランチロールの価値観のひとつに日本語の「改善」があります。この考え方は、クランチロールのエンジニアリング文化をどのように形成しているのでしょうか?

「改善」は、私たちの活動すべての中心にあります。私たちはプラットフォームを運営する上での卓説性、プラットフォームの信頼性向上、インシデントへの対応方法の改善、日常使用におけるプラットフォームの拡張性など、常に改善できることはないかと考え、進化させています。

そのためにはデータを活用することが重要です。私たちはデータ主導の組織で、多くのデータを追跡し、様々な機能を定期的に見直し、週ごとに、月ごとに改善して、どんどん良くしていきます。

クランチロールのロサンゼルス オフィス

──クランチロールのエンジニアがファンのためのプラットフォームを設計、構築する際に、一番大切にしていることは何ですか?

一つ目は、私たちが常に「ファン・ファースト」の観点で考えていることです。クランチロールのエンジニアにとって、プラットフォームの構築とは、単に設計すること、要件を満たすことではなく、ファンの視点に立ち、アニメ文化をいかにさりげなくプラットフォームに織り込むか、なのです。私たちは設計チームやプロダクトチームと密に協力して、どの部分を特別なものにできるかを探っています。

もうひとつには、Simulcastsの提供があります。これは、日本で放送されたコンテンツをできるだけリアルタイムに近い形で海外でも観られるようにするものです。日本で放送されてから世界中のファンに届けるまで、文字通り1時間のタイムラグがあります。その間に、まずコンテンツデータの転送やコード変換を行います。そして、配信の準備を整えた後、配信します。

──クランチロールの数ある技術の中で、ソニーのグループ各社とコラボレーションした技術はありますか?

はい、たくさんあります。最近の事例で言うと、PlayStationのユーザーがワンクリックでクランチロールのアカウント作成・登録ができるようになる機能です。これによって、PlayStationのユーザーは別途アカウントを作成する必要がなく、ワンクリックでクランチロールのサービスにログインし、アニメを観ることができます。私たちはまた、クランチロールのユーザーが観たいものをよりよく理解するために、データについてもPlayStationと協力しています。

──2024年末に「Crunchyroll Arc」を発表されましたが、これはプレミアム会員がストリーミングした作品に基づいて、パーソナライズされた「1年の振り返り」機能や、「証明すべき何かを持つ多面的なヒーロー 」や 「独自のルールを作るハードボイルドな探偵 」といったカスタマイズされたペルソナを提供する機能が含まれます。この機能について教えてください。技術的な観点から、エンジニアリングチームはどのように取り組みましたか?

2024年にこのサービスを開始しました。開始直前に電子メールで発信して、このサービスを開始したのですが、ユーザーはその年のアニメにまつわる自身の軌跡を知る機会となり、大変好評でした。ソーシャルメディアでもシェアされたほどです。その翌年には、さらに規模を拡大する必要があると考え、モバイルにもこのアプリを導入して、ユーザーがその年のアニメ視聴記録を振り返れるようにしました。これを実現するためには、多くのデータを統合する必要があったため、ペルソナを作成して、ユーザーを分類しました。そして、それらのデータを躍動感のあるアニメーションに変えて、ユーザーの1年の軌跡をアニメで表現しました。ユーザーが、ペルソナや一番好きな番組やストーリーを通して、自身のアニメの世界を紹介できる面白い機能だと思います。

Crunchyroll Arcのグラフィック

クランチロール・アニメアワードをはじめとしたさまざまな場を通じてファンコミュニティーを形成する

──クランチロールの従業員の多くはアニメファンだと思います。皆さんのファンとしての経験が今後のロードマップに影響を与えることはあるのでしょうか?

クランチロールの従業員は大のアニメファンであり、よくアイデアを出してくれます。私たちはそうしたアイデアを積極的に受け入れますし、そのうちのいくつかはシステムに組み込まれたり、小さな改良に活かされていたりします。また、毎年ハッカソンを開催して、革新的なアイデアや新たな手法を探求しています。

──クランチロールが成長を続ける中で、どのような技術人材を求めていますか?

一番大切なことは、問題解決能力だと思います。私たちの最大のチャレンジのひとつは、常に新たな限界に挑むことです。ですから、腕まくりをして、その問題に取り組み、解決することは、非常に価値のあるスキルのひとつだと思います。また、いつ、どのように、適切な場所でAIを使うべきかを理解していることは、すべてのエンジニアにとって必要不可欠なことです。

──今月、東京でアニメアワードが開催されますが、どのように投票プロセスにファンを巻き込んでいるのでしょうか?

アニメアワードはとても大掛かりなイベントなので、その年のアワードが終わるとすぐに、翌年のアワードの準備を始めないといけません。できるだけ多くのファンに投票してもらって、素晴らしいアニメやストーリー、ライセンスを世の中に広げたいので、これまで以上に野心的な目標を掲げて準備を進めています。アワードをローンチしたばかりの頃は、さまざまな施策を講じました。当初、ユーザーが投票できるプラットフォームは1つしかなかったのですが、今では携帯電話やウェブでも投票できるようにし、今後さらにタッチポイントを拡大し続けていきます。
そのためには規模の拡大が必要です。特に最初の数日、数週間は多くの投票があります。投票期間中、ツールがうまく機能しているかを確認するために、指標やデータをよく確認しており、その際に投票数は把握できるのですが、結果までは見えないため、毎年、結果発表は私たちにとっても驚きなのです。投票者数については、年々記録を更新しており、今年は5,100万票もの投票を頂きました。クランチロール・アニメアワード2025をぜひご視聴ください。

2025年5月25日(日)に開催されるクランチロール・アニメアワード2025は、クランチロールのTwitchYouTubeチャンネルに加えて、SONY PICTURES CORE、さらにソニーグループのYouTubeチャンネルでもライブ配信されます。 クランチロールからの配信には同時通訳が入ります。日本語でお楽しみになりたい方はSONY PICTURES COREまたはソニーグループのYouTubeチャンネルをご覧ください(ソニーグループからの配信は午後6時からの授賞式のみ)。

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