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Seeds of Emotion

Seeds of Emotion

音をささえる、人たちがいる。
- Behind the Sound -

仲間とともに、今日も技術に熱くなる。

日課の散歩を終えて、家を出る。
会社の扉を開け、仲間に声をかける。

いつもの席に着き、治工具を手に取る。
自分の手に驚くほどフィットする、完全オーダーメイドの電動ドライバー。

さあ、今日もはじめよう。まずは部品の確認。
部品には微妙に個体差があるから、丁寧に見なければ。

左側のパレットから部品を取り、コードを通していく。
ヘッドホンの機構は複雑だ。中で引っかからないように神経を研ぎ澄ませる。
部品を手に取る順番も、力のかけ具合も、すべて決めてある。

ビス留めは特に集中する。周りの音は、もう何も聞こえない。
イヤーパッドの位置はRとLでズレていないか?
ズレていない。本当に? もう一度確認する。本当に本当に、ズレていない?
よし、これでOK。作業着手から6分と少し。まずまずのペースだ。

ふと周りを見渡せば、手元に全神経を集中させている技術者たちと、
より良い環境を模索してくれている仲間の姿がある。
空気がピンと張り詰めた緊張感。
頼れる仲間がいる安心感。
いい音をつくろう。私たちはソニーの技術者だ。

INDEX

誰もが能力を最大限発揮できる環境を、末長く。

「ソニー・太陽の歴史は、障がいの有無で人を区別するのではなく、人としての自立とその環境づくりを目ざしたいという創業者の想いから始まったんです」。
そう語るのは、ソニー・太陽代表取締役社長の西島 史隆さん。聞くと、ソニー・太陽はこの「自立」という言葉に強いこだわりを持ち、40年以上にわたり運営を続けてきたとのこと。
「社会福祉法人『太陽の家』の創設者である中村 裕博士の『世に身心障がい者はあっても、仕事に障害はありえない、身障者に保護より働く機会を』という理念に、ソニーの創業者のひとりである井深大が深く賛同したのが1970年代。これがきっかけで、1978年にソニー・太陽は設立されました。障がいの有無によってできる/できない仕事を決めつけたり、働く場所を与えるにとどまったりと、かたちだけの雇用創出で満足するのははっきり言って意味がありません。一人の社員として自分の仕事に責任を持ち、生き生きと働く。そうした真の意味での自立を実現することが何よりも大切だと私たちは考えています」。

ソニー・太陽株式会社の 代表取締役社長 西島 史隆
社員同士がコミュニケーションをとる様子

「自立を実現するために必要なのは、社員一人ひとりの能力を最大限発揮できる環境をつくること、そしてそれが持続的に続いていくようにすること、この二つです」と西島さんは続ける。
「障がいがあって作業がしにくい場合、その社員に適した施設設備や補助器具を用意する。心身の健康を管理できるよう、産業医など支援機関と連携する。どのような障がいがあるかではなく、どのような仕事への意欲があるのか、どのような適性があるか、といったポテンシャルに応じて環境を整え、長く活躍できるようにすることで自立に向かっていくのだと思います」。なぜそこまで自立を重んじるのか。そう聞くと、西島さんの声に熱がこもった。
「ソニーの製品の質を守り続ける責任とプライドがあるからです。多くのハイエンドモデルやお客様の手元に届く完成品を手がけている以上、一切の妥協や過失は許されません。ソニーの技術を注ぎ込んだ最高の音を届けているのだという当事者意識のもと、自分の業務に向き合う。自立して働くということは、そうした一技術者としての使命感を持つことにもつながるのです。だからこそソニー・太陽には、神業だ、と思わず言いたくなるようなスキルや視点を持った社員が多数在籍しています」。

焦点を当てるのは障がいの有無ではなく、技術者としての素養や向上心。そのために徹底的に環境を変えていく姿勢が、ソニー・太陽を進化させてきた。根底にあるのは、音のつくり手としての覚悟だったのだ。

つくり手の声をかたちにする。

環境を変えると一口に言えど、誰もが働きやすい環境にするためには無数の工夫と度重なる改善が必要となる。しかし人事総務部 統括部長の佐藤 祐親さんは「変え続けるのは当たり前ですし、ずっとそうしてきました」と言う。
「ソニー・太陽が設立されてから40年以上経ちますが、当時から職場のアクセシビリティ(誰もが働きやすい環境の実現)に取り組んできたため、施設内はどこも『誰にとっても使いやすいか』を前提に作られています。その証拠に、段差が一つもないんですよ。分厚い防音材を敷き詰めた無響室(音の検査をする部屋)ですら。また、健康管理短時間勤務制度など多数の制度を導入し、健康面のサポートもしています。そして今ある環境に満足せず、もっと良くできないか、本当に誰もが使いやすいのかということを日々考え、改善し続けている。障がいの種類もさまざまなので、社員が増えるたびに環境を見直すんです」。
ハードとソフト両方から環境改善をし続けてきた理由について、佐藤さんもまた「合理的配慮の考え方があるのは大前提、品質を追求するものづくりの会社としての使命を全うするためです」と語る。
「そこで大切なのは、使いづらい、もどかしいと感じている技術者本人の声をすくい上げること。どの改善も、現場の声から始まっています」。

ソニー・太陽株式会社 人事総務部 統括部長 佐藤 祐親
分厚い防音材を敷き詰めた無響室(音の検査をする部屋)

技術者本人の声をすくい上げている代表例に、生産技術課によって生み出された作業机や治工具、製造フローをまとめたマニュアルなどがある。生産技術課の伊藤 匠海さん、原 久乃さんに話を聞くと、「業務としてヒアリングの時間を設けるというより、休憩時間も含めて日頃から技術者とコミュニケーションを取ることで、生産技術課としてできることはないか日々探しています」と返ってきた。
「例えば、30年以上製造を続けているモニターヘッドホン『MDR-CD900ST』の製造マニュアルに対し、イラストでの記載が多く実際の部品との乖離がある、指示が複雑でパッと見た際に理解しにくい、という声が上がっていました。そこで3Dでの記載に変更したり、技術者の経験値に関わらず誰でも一目でフローが分かるようにしたりと全面的に見直しました。製品を作っているのはあくまで技術者たちです。生産技術課がどう思うかではなく、技術者がどう思うかを軸に業務に向き合っています」と伊藤さんは語る。

ソニー・太陽株式会社 プロダクトビジネス部 生産技術課 製造技術係
伊藤 匠海
ソニー・太陽株式会社 プロダクトビジネス部 生産技術課 生産技術係
原 久乃

伊藤さんも原さんも、「技術者たちが業務に向き合っている姿を見ると、気が引き締まります」と口を揃える。
「お客様からの信頼や期待に確実に応えようとする信念を感じるんです。だから私たちも、技術面で何かサポートできないか、もっと作業がしやすくできないか追求したくなります」。

いいものをつくることが、私たちの務め。

こうした環境に対し、『MDR-CD900ST』の組み立てを担当する立川 幸一さんは「ありがたい、という言葉に尽きます。私は指に障がいがあるのですが、ビス止めに使う電動ドライバーを私の手に合うように改良してもらったこともあり、より早く、正確に作業ができるようになりました。」と笑顔で語りつつ、「だからこそ」と続ける。
「いい環境がある以上、いいものをつくることが私たちの務めだと思います。同じ作業でも、昨日より上手くできないか、より良い工程はないか、日々探しながら仕事に取り組んでいます」。
ヘッドホンは、頭部に装着する製品のため比較的小型で軽量ではあるが、その内部は無数の部品が張り巡らされており、組み立てには細心の注意を払うそうだ。
「ヘッドバンドに通すコードが途中で引っかかってしまったり、中の部品を傷つけてしまったりしたら音質に影響を与えてしまいます。説明するのが難しいのですが、ピシッとまっすぐ、最も綺麗なかたちで通す必要があるんです。それに最終的にRとLのスライダーの位置がズレていれば、ビスを的確に留めることはできない。最初の部品を手に取るところからすべてのビスを留め終わるまで、一切気は抜けません」。

(左)自分専用のカスタムツールを使用して作業している様子
(中・右)ヘッドホンを組み立てる様子

また、技術者の中には製品の組み立てから検査、梱包まで一貫して行う者もいる。ハイエンドモデルのレコーディング用マイク『C-800G/9X』を手がける田中 卓さんもその一人だ。組み立ても検査も非常に高いスキルを求められるこの製品は、田中さんがメインで担当している。手足に障がいのある彼の作業机は、完全オーダーメイドでカスタマイズされているそうだ。
「一つの『C-800G/9X』を組み立てるのに必要な部品は100以上、かつ治工具の種類も多いのですが、それらすべてにすぐ手が届き、体勢的にも疲れにくい環境を用意してもらいました。こうした環境があるからこそ、私は品質第一で生産性を上げ、より多くのお客様に製品を届けていきたいと常に考えています」。
謙虚に話す田中さんだが、他の社員が言うに「田中さんのスキルは他の社員に真似できない」そうだ。
「組み立てたマイクの音の検査をする際は、無響室で細かくチェックしていきます。経験上、ノイズの原因は大体分かるので、少しでもノイズを感じたら調整し、またチェックする。その繰り返しです」。

ソニー・太陽株式会社 プロダクトビジネス部 生産2課 1係 立川 幸一
ソニー・太陽株式会社 プロダクトビジネス部 生産1課 2係 田中 卓

ちなみにお二人の仕事以外の楽しみは? と聞くと、照れくさそうに答えてくれた。立川さんは愛車をカスタムしてドライブに行くこと、田中さんは自宅付近のフェリー発着場で出航する船を見送ることだそうだ。仕事では高い集中力が求められる分、そうした時間がリラックスできる至福のひと時とのこと。
卓越したスキルを持つ社員が、障がいに関係なく長く活躍できる場を設けること。仕事を含め生き生きとした毎日を送れるようにすること。そして、その技を継承できる環境を保ち続けること。その努力によって、ソニー・太陽は今日に至るまで高品質な製品を数多く生み出してきたのだ。

音への想いが、伝播していく。

ソニー・太陽でこだわり抜いて作られた製品は、音を追求するさまざまなユーザーのもとへと届けられていく。レコーディングエンジニアの米山 雄大さんと、マスタリングエンジニアの片田 浩史さんは、20年以上『MDR-CD900ST』を愛用しているそうだ。お二人とも、数多くのアーティストの作品制作に携わってきた音づくりのプロフェッショナルである。なぜ『MDR-CD900ST』を使い続けるのか、その想いを聞いてみた。
「『MDR-CD900ST』の鳴り方が自分の中に定着している、というのが一番大きいです。この業界に入ってから、大体どこのスタジオにも置いてありましたし、20年前と音が違うというようなこともなく、個体差も少ない。安心して聞くことができるからか、アーティストの方もこのヘッドホンを使う方が多いですね」と語る米山さんに対し、片田さんも「分かります」と言う。「私自身、学生時代から『MDR-CD900ST』を使ってきました。ノイズが少ないため、マスタリングする際も調整しやすいですし、逆に気になる点も発見しやすい。他のヘッドホンだとファジーにまとまってぼやけてしまうところも、とてもクリアに鳴らしてくれるんです」。

左から、ソニー・ミュージックスタジオ レコーディングエンジニア 米山 雄大さん
ソニー・ミュージックスタジオ マスタリングエンジニア片田 浩史さん
『MDR-CD900ST』

続けて片田さんは、『MDR-CD900ST』がソニー・太陽で作られていることについて「すごい技術だと思います」と語る。
「これだけのクオリティのものを、何十年も作り続けているという事実にただただ尊敬の念を感じます。音づくりのプロフェッショナルの方々が、とても丁寧な仕事をしてくれているおかげで、こうして私たちも音に向き合うことができるんです」。
米山さんは「その技術を、どうか守り続けていただきたいです。『MDR-CD900ST』もしも生産が終了するなんてことになったら、デッドストックが高騰するでしょうね。音楽に携わる数多くの人々が、代わりになるヘッドホンを探す旅に出ると思います」と語る。

今でなお、こうして多くの人々にこだわり抜いた音を届け続けているソニー・太陽だが、その進化の勢いは止まるところを知らない。技術者の立川さんも田中さんも「もっといいものを生み出していきたい」と言う。そして代表取締役社長の西島さんは、組織力をさらに強めていきたいと語る。
「今後は“全社一体”をキーワードに、部署も職種も関係なく全員で協力し、より改善・改革を進めていきたいと考えています。時代の変化により、課題はこれまでよりも複雑かつ多様になっていくことでしょう。それらを一丸となって解決していくことが大切だと思います」。

最後に、その先に何を目ざすのかと問うと、西島さんは「共生社会を実現すること」と答えた。
「私たちは、人によって異なる不自由さを取り除くことは当たり前だと考えています。特別な意識のもと行っているわけではありません。この考え方を世の中に広く発信すると同時に、自分たち自身が体現し続ける。その結果、同じような考えを持つ人々が増え、社会全体がより良い方向に進んでくれたらこの上なく嬉しいです」。

設立から40年以上、理念を継承し、職場のアクセシビリティを高めて音を追求してきたソニー・太陽。その想いは音を通じて、技術者から音楽のつくり手、その先にいる音楽を愛するさまざまな人へとつながっている。同時に、障がいの有無に関わらず誰もが自立を実現する社会に向けた、大切な一歩にもつながっているのだ。

Seeds of Emotion 〜 一人ひとりから広がる、感動の種 〜

西島 史隆 (にしじま ふみたか)

ソニー・太陽株式会社 代表取締役社長
ソニーグループ 各国・地域の生産戦略をはじめとする事業運営に従事した後、2022年より現職。

Seeds of Emotion 〜 一人ひとりから広がる、感動の種 〜

凄技を持つ技術者たちが
自立して生き生きと働く姿を目にしたこと

西島 史隆さんのプロフィール画像

佐藤 祐親 (さとう ゆうしん)

ソニー・太陽株式会社 人事総務部 統括部長
人材施策の企画や制度規則の策定・実行など職場環境づくりを担当。

Seeds of Emotion

創立以来追求してきた
「誰もが働きやすい環境」をさらに更新できたこと

佐藤 祐親さんのプロフィール画像

伊藤 匠海(いとう たくみ)、原 久乃(はら ひさの)

ソニー・太陽株式会社 プロダクトビジネス部 生産技術課 製造技術係
ソニー・太陽株式会社 プロダクトビジネス部 生産技術課 生産技術係
主に製品の生産維持継続、量産導入業務や治工具・設備の開発を手がける。

Seeds of Emotion 〜 一人ひとりから広がる、感動の種 〜

現場の声をもとに開発・改良した設備を
つくり手に喜んでもらえたこと

伊藤 匠海、原 久乃さんのプロフィール画像

立川 幸一(たつかわ こういち)

ソニー・太陽株式会社 プロダクトビジネス部 生産2課 1係
主にヘッドホン『MDR-CD900ST』の組み立てを担当。

Seeds of Emotion

昨日よりも、よりよくできないかと
日々探しながら働けること

立川 幸一さんのプロフィール画像

田中 卓(たなか たく)

ソニー・太陽株式会社 プロダクトビジネス部 生産1課 2係
主にレコーディング用マイク『C-800G/9X』の組み立てから梱包までを担当。

Seeds of Emotion

自分に合った環境で
品質第一で仕事に向き合えること

田中 卓さんのプロフィール画像

米山 雄大(よねやま ゆうた)、片田 浩史(かただ ひろふみ)

ソニー・ミュージックスタジオ レコーディングエンジニア
ソニー・ミュージックスタジオ マスタリングエンジニア
幅広い音楽作品制作の録音・編集、ミキシング・マスタリングを手がける。

Seeds of Emotion 〜 一人ひとりから広がる、感動の種 〜

クオリティの高いものを
安定して長年作り続けている技術があること

米山 雄大、片田 浩史さんのプロフィール画像

Seeds of Emotion

多くの可能性が拓かれる未来を目指して。
感動の種をまき、人や社会と響きあいながら紡ぐストーリーを紹介します。