花は再び、新たな想いをのせて
- Passing the Bloom -
もっと、笑顔にできるから
花びらが埋め込まれた綺麗なキャンドルに、
思わず目を奪われる。
ポプリからふわっと香るやさしい匂いに、
気分がほっと安らぐ。
気持ちを豊かにしてくれるこの花たちは、
実はすでに一度、
誰かを笑顔にしたことがあるらしい。
少し時間を巻き戻してみよう。
そこは熱狂が渦巻くライブ会場。
エントランスには、
ライブ開催を祝福する「祝い花」が並んでいる。
アーティストへのエール、
この日を待ち望んでいたファンの想い、
花を手がけた者の願い。
すべての想いを乗せて、
花は、もう一度咲く。
赤、黄色、緑にオレンジ。ライブ会場の入り口やロビーに並んだ立派な花々。これから始まるライブを祝福するその花に、会場を訪れた人々は顔をほころばせながらカメラを向ける。そして何人かがふと、こんなことを考える。「このお花、ライブの後はどうなるんだろう?」
実はライブや結婚式などのイベントを飾った花の多くは、その後すぐに廃棄されてしまう。まだこんなにも綺麗に咲き誇っているというのに。その事実に対し「もったいない」と思う人は少なくないはずだ。しかしそこで終わらせずに、さまざまなイベントで廃棄されてしまった花を救うために行動に移した者たちがいた。それが、日本サステナブルフラワー協会だ。ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下:SMEJ)は同協会の活動に共感し、ライブやコンサートに贈られた祝い花の再利用プロジェクトをともに立ち上げた。プロジェクトの名は「Rebloom Flower Project(リブルームフラワープロジェクト)」。
そこには、再び咲いた花々だからこそ担える可能性が秘められていた。
INDEX
【第1章】ただただ、もったいない。
「ゴミ袋に入れられた、綺麗なお花たち。その姿がどうしても頭から離れなかったんです」。
そう語るのは、日本サステナブルフラワー協会代表理事の安永かおりさんだ。会社員を辞めてキャンドルを手がける道に進んだ後、ウェディング業界での仕事が増えていく中、式の後に廃棄された花々を見たのがすべての始まりだったという。
「母がお花好きだったこともあり、生活にはいつもそばにお花がありました。お花の色や香りに元気をもらうことも多くて。だからか、まだ綺麗なうちに捨てられてしまうなんてもったいない…と思ったんですよね。そこで思い切って式の担当者に『お花のために、私にできることってありませんか?』と聞いてみたところすぐに話が進み、廃棄花の回収と再利用の取り組みを行うことに。正直当時はサステナビリティの意識はなく、ただただ、もったいないからどうにかしたいという気持ちだけで突き進んでいきました」。
その後取り組みを続けるうちに、廃棄花の問題(以下、フラワーロス)が想像以上に大きいことに気づいたと安永さんは語る。
「自宅の一角に集めてドライフラワーにしてから再利用するという流れで進めていたのですが、だんだん自分の手には負えないほどの量のお花が届くようになってしまって。どのぐらい廃棄花があるのかも知らずに始めてしまっていたんですよね。このままではいけないと思い、取り組みに共感して集まってくれた仲間とともに日本サステナブルフラワー協会を立ち上げることにしたんです」。
安永さんが言うようにフラワーロスは長年問題視されており、日本サステナブルフラワー協会の他にも取り組みを行う団体はいくつかある。しかし、社会課題としての認知度はまだまだ低い。こうした背景を踏まえ、フラワーロスに関心を向けてもらうことも目的の一つとして同協会は設立された。イベントでの廃棄花の回収を軸に、『リブルームキャンドルやポプリ』などのブランド展開、キャンドル作りのワークショップ開催、廃棄花を救うアーティストの育成、資格取得支援などを手がけている。
実際にキャンドル作りに参加した方からは「一度式場で飾られたお花を使うからこそ、なんだか縁起が良いような、幸せな気持ちで作ることができました」という声が届いており、フラワーロスへの関心を高めるだけでなく、廃棄花が持つ可能性を知るきっかけにもつながっている。
【第2章】一度贈られた花。それは想いが込められた花。
そんな日本サステナブルフラワー協会とSMEJがタッグを組むに至ったのは、SMEJのサステナビリティ推進部に所属する神山薫さんが、ある展示会にて同協会のブースに訪れたのがきっかけだった。
「サステナビリティへの関心を持ってもらいやすい取り組みをしたいと思い、さまざまなイベントに足を運んでいたんです。ただ、一口にサステナビリティと言っても領域がとても広いので、エンタテインメント業界だからこそできることはないか、ソニーミュージックとしてやる意義があるものに出会えないかということも考えていて。そんな中で日本サステナブルフラワー協会さんと出会い、取り組みの背景にあるフラワーロスへの想いをお聞きしてピンと来たんです。同協会さんにご協力いただくことで、ライブなど音楽イベントに届く祝い花の再利用ができるのではないかと。そしてそれは、エンタテインメントを手がけるソニーミュージックだからこそやる意義があるのではないかと」。
当時の神山さんは、SMEJのサステナビリティ推進部に配属されてまだ1ヶ月弱。神山さん自身サステナビリティについて勉強中だったこともあり、フラワーロスという言葉を知ったのもこのときが初めてだったという。
「展示会の後日に日本サステナブルフラワー協会さんのアトリエにお伺いし、フラワーロスの現状や取り組みについて詳しくお聞きしました。こんなに廃棄されているのかと率直に驚いたのを覚えています。同時に、ぜひ一緒に取り組みたいと改めて強く思いました」。
安永さんは当時について、「エンタテインメント業界のフラワーロスに切り込むのは相当難しいと思っていたので、ご相談いただいた際は本当にうれしかったです。セキュリティ面など注意した上で関係各所のご協力が叶うなら、この取り組みは大きく前進するはず。道がひらけていくようなワクワクを感じました」と振り返る。
2人が言うように、エンタテインメント業界と人々の心を彩る花の関係は切っても切り離せない。特にライブやイベントではたくさんの祝い花が届く。この祝い花について、神山さんは「その名のとおりお祝いの気持ちを表した花なので、贈り主の想いが詰まった花とも言えるんですよね」と語る。
「そうした想いの詰まった祝い花の大半をライブ終演後、まだ綺麗なうちに撤去し、廃棄してしまうのではなく違うかたちで再利用することは、想いを循環させることでもあると思います。花を通じて想いをつなげていくと言いますか」。
想いの循環という点について、安永さんは「贈り主はもちろん、お花の事業者さんの想いも詰まっていますよね」と続ける。
「お花に携わる仕事をされている方にフラワーロスの取り組みについて話すと、多くの方が『すごくいい活動だね、頑張ってね」と応援してくださるんです。そうした方々の想いも乗せて、贈り主、祝い花の事業者、そして受け取る人、すべての想いを循環させていくことが大切だと考えています」。
【第3章】再び咲いた花が持つ、熱と記憶。
こうした経緯から、日本サステナブルフラワー協会とSMEJの協力によって祝い花の再利用プロジェクト『リブルームフラワープロジェクト』が生まれた。このプロジェクトでは、まずはイベント関係者との交渉から進めていく。
「イベントの進行を妨げるようなことは絶対にしないと伝えた上で、プロジェクトの意義や回収のタイミング、再利用の流れまで丁寧に説明しています。するとイベント主催者や現場のスタッフの方をはじめ、ライブに出演するアーティストの方からも『実は、前々からもったいないと思っていたんですよね」という声が上がってくるんです。そうした声をいただくたびに、このプロジェクトの意義を痛感します」と神山さんは語る。
承諾を得た後は、イベント終了を待って速やかに祝い花を回収する。限られた時間の中で、一本一本丁寧に手作業で回収していくのもこのプロジェクトの特徴だ。花の選別はするのかと聞くと、安永さんは「いえ、基本的にはすべてのお花を回収します」と答えた。
無事に回収が終わると、日本サステナブルフラワー協会のアトリエに花を運び入れてドライフラワーにする。そして後日、イベントの装飾やキャンドル、ポプリなどのノベルティなどに再利用していく、というのが本プロジェクトの大まかなプロセスだ。神山さんによると、ソニーグループのオフィス装飾や展示装飾に使われることもあるとのこと。
「ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントのオフィスエントランスにドライフラワーの装飾を飾ったり、映画の劇場用展示装飾として使ったりと、回収した花をソニーグループ内でも再利用しました。すると社内外から数多くの問い合わせが来るようになったんです。回収先を見つけるだけでなく、再利用先を広げるという意味でもソニーグループの力を発揮できるのだと思いました」。
今日ではさらに再利用先が広がり、ライブで回収した花をファンの方向けのイベントに活用することもあるという。
「『ぼっち・ざ・ろっく!』の劇中バンドである結束バンドのライブで回収した花を、ファンの方々が参加するイベントの装飾やバンドメンバーが調合したアロマを使ってポプリを製作するワークショップで再利用した際には、とても喜んでいただけたんです。特に『自分が行けなかったライブに飾られていた花を直接見ることができてよかった』『アイテムとして自分の手元に残せてうれしい』といったお言葉はとても印象に残っています。祝い花を再利用することは、ライブの体験や会場の空気を届けることでもあるのだという大きな気づきを得ました」と神山さんは語る。
【第4章】可能性があるかぎり、咲き続ける。
2025年11月、12月某日。祝い花の回収に同行させてもらえるということで複数のイベントを訪問することに。そこでまず目に飛び込んできたのは、リブルームフラワーを用いた展示にカメラを向けるファンの方々の姿だった。アーティストであるjo0jiさんの新アルバムのセルフライナーノーツが書かれたキャンバスを囲む、鮮やかな花々。展示の近くに置かれた「リブルームフラワープロジェクト」のキャプションボードに目をやり、「廃棄されるはずだったお花を使ってるんだって、いいね」と呟く方もいる。こうした展示は美しい装飾としての機能を発揮するだけでなく、フラワーロスへの認知拡大にも寄与しているのだ。
楽曲にあったイメージの花言葉と花の装飾をリンクさせた展示
安永さんは「このプロジェクトを始めてから、取り組みへの認知がぐっと上がったように思います」と語る。
「これまでフラワーロスの問題に触れる機会のなかった方にも注目してもらえるようになり、とても嬉しいです。今後はさらに認知が広がっていく気がしますし、プロジェクトそのものに対しても興味を持ってくれる方を増やしていきたいと思っています」。
実際の祝い花の回収現場に立ち会うと、花が傷つかないようスタッフの誰もが丁寧に作業を進めていた。会場とファンの方々の笑顔を彩ったこの花々は、次はまた別のかたちで誰かの笑顔を生み出していくのだろう。
今後の展望について神山さんに尋ねると、「活用の幅をもっともっと広げていきたい」と答えてくれた。
「ソニーグループ各社と連携し、リブルームフラワーを多くの方々に届けていきたいです。特にアーティストや作品のファンの方々に喜んでいただけるような活用をしていこうと考えています。他にもまだまだできることはあるはずなので、プロジェクトを持続させつつ視野を広げていきたいです」。
そして安永さんは「いつか、お花を捨てるという行為が過去のことのように語られる未来が来たらいいですよね」と言う。「冒頭でお話ししたように花にはたくさんの魅力がありますから、その魅力を生かしていけたらと思います」。
一度使われた花であることは決してマイナスではない。むしろ、多くの可能性とまだ見ぬ感動を秘めている。さまざまな人の想いを循環させる「リブルームフラワープロジェクト」は、きっと今後、私たちをもっと驚かせてくれるはずだろう。
Seeds of Emotion 〜 心が動いた、その瞬間。 〜
安永 かおり(やすなが かおり)
日本サステナブルフラワー協会 代表理事
フラワーロスを減らすため、廃棄花を回収し利活用を行う取り組みを主導。
神山 薫(かみやま かおる)
ソニー・ミュージックエンタテインメント サステナビリティ推進部
社内外のサステナビリティの取り組みを手がける。
Seeds of Emotion
花を通じて、ライブでの体験や会場の空気をかたちにして
残すことができると知ったこと

Seeds of Emotion
綺麗なお花を捨てるなんてもったいないという気持ちが、
伝播していく瞬間に立ち会えたこと