Pablo De Larrañaga Aramoni (Theater BFA 2024), blink, 2023. Immersive installation with light, sound, performance.
Performer/choreographer: Madison Stamm; direction consultant: Héctor Álvarez; performance consultant: Ryan Nebreja. Photo by Rafael Hernandez, courtesy of CalArts.
Pablo De Larrañaga Aramoni (Theater BFA 2024), blink, 2023. Immersive installation with light, sound, performance. Performer/choreographer: Madison Stamm; direction consultant: Héctor Álvarez; performance consultant: Ryan Nebreja. Photo by Rafael Hernandez, courtesy of CalArts.
SIGNALS「狭間」を発明していく試み—
CalArtsが描き出す、創造性と
テクノロジーの次なる地平
自動車、鉄道、あるいは学校の教室——。
もしそれらすべてが「物語を五感で体感するイマーシブな場」になるとしたら、
エンタテインメントはどこへ向かうのでしょうか。
イマーシブ時代の創造拠点
ロサンゼルスに拠点を置くカリフォルニア芸術大学(CalArts)は、こうした問いを単なる机上の空論ではなく、来るべき将来における「教育と実装の問題」として注視し、積極的な取り組みを展開しています。既存のメディア形式やジャンルの境界内に安住するのではなく、テクノロジーと表現が交差する"未知なる領域"で活躍する、次世代のストーリーテラーを育成しようとしているのです。
そのようなCalArtsを今回訪れたのは、「クリエイティブの未来」を探るべく、クリエイティブセンターが、毎年行っているトレンドリサーチの一環でした。デザイナーとリサーチャーが独自の視点でこの最前線の取り組みを間近に目撃し、その熱量を肌で感じ取ることが主な目的だったのです。
テクノロジーと創造性がかつてないほど密接に結びつく現在、「没入型ストーリーテリング」はもはや一部の実験的な表現手法ではなく、エンタテインメント全体を網羅する基盤になりつつあります。
CalArts学長のラヴィ・ラジャン氏、学内の横断プログラム「D.R.E.A.M.S.」を率いるトラヴィス・クロイド氏ら教授陣との対話から浮かび上がってきたのは、「次世代における物語のクリエイションと存在意義」という極めて先進的なテーマでした。
このD.R.E.A.M.S.とは、ドム・ドーランおよびドーラン・ファミリー・ファウンデーションからの寄付によって2025年に始まった試みで、AI、XR、ロケーションベースエンターテインメント(LBE)を中核に、映画、ゲーム、音楽、アニメーションといった多様なメディア表現を統合することを目的としています。
新しい表現形式を生み出す実験を重ねてきたCalArtsの歴史を背景に、企業パートナーシップや、「モジュラー・シアター」に代表されるパフォーマンス空間を活用しながら、LBEの未来を形づくるためのインキュベーションプログラムとしての役割を担っています。
California Institute of the Arts Main Building
Photo by Scott Groller, courtesy of CalArts
「共進化型のエコシステム」を
形成する
CalArtsは、ウォルトとロイ・ディズニーが構想した「分野を横断する芸術センター」という理想のもとに誕生した学校です。そのDNAは現在、さらにアップデートされ、新たなフェーズを迎えています。
ここで語られる重要なキーワードが、「In-between spaces(領域の狭間)」。それは、映画とゲーム、舞台とXR、フィジカルとデジタルといった既存の区分が溶け合う未知の場所を指します。CalArtsは、新しい表現形式はこの“狭間”から生まれると考えています。研究開発、コンピューティング、ストーリーテリング、そして身体的体験——。これらを個別に扱うのではなく、同時に進化させる「共進化型のエコシステム」を形成することで、エンタテインメントそのものの概念を設計し直そうとしています。
学生が"現場のスケール"を
体得する
CalArtsの教育がユニークとされる理由のひとつが、産業界との距離の近さです。例えば、NASAのジェット推進研究所(JPL)やカリフォルニア工科大学(Caltech)と連携し、宇宙探査を「人間の物語」として紡いでいくプロジェクトが進行しています。
こうしたプロジェクトを通じて、学生たちは、単なる課題制作ではなく、数万人規模の体験を前提としたプロジェクトの立案、設計、事前の空間シミュレーション、そして現場への実装まですべてを一貫して経験することで、「プロフェッショナルな仕事の重力」を身体で理解するようになります。
制作は、Unreal Engineのようなゲームエンジンや、Apple Vision Proを用いた空間シミュレーションなどのデジタルから始まります。物理的な建設・設営に入る前に、コストを最小限に抑えつつ、体験の流れや感情の起伏をシミュレーションし、徹底した検証を行います。
リアルな劇場で物語を
プロトタイピングする
CalArtsの思想を象徴するのが、キャンパス内にある築50年のモジュラー・シアター。壁、床、天井を自在に組み替えられるこの劇場は、舞台というよりも、物語をプロトタイピングするための実験装置に近い存在です。
現在同校では、ストーリーテリング、テクノロジー、そして人間の体験価値を横断的に結びつける試みが進められています。このイニシアチブに沿って、モジュラー・シアターでも、外部パートナーと手を組んで、デジタル技術によって新たな拡張機能を導入する計画が検討されています。さらには、ロサンゼルス各地で利用可能なLBEのラボ空間を拡張するため、追加拠点を確保するパートナーシップの最終調整も進めています。
こうした幅広い取り組みの究極的な目的は、空間と体験そのものを起点とした、新たなストーリーテリングの表現体系を試作・検証していくことにあります。
分野横断は"思想"ではなく
"日常"となる
CalArtsでは、アニメーション専攻の学生がパフォーミングアーティストと組み、作曲家がインタラクションデザイナーと協働し、さらには映像作家がゲームエンジンを用いてプロトタイピングを行う光景が日常的に繰り広げられています。
CalArtsにおいて、単一の分野にとどまらない「インターディシプリナリティ(学際性)」の考え方は、単なるスローガンではなく、学生の生活環境そのもの。こうした環境を提供することにより、領域を横断することは単なる机上の理論ではなく、生きた実践となり、さらには学生にとっての"日常(ルーティン)"となっていくのです。
この過程で重視されているのは、「ツールよりも感情(Emotion before Tool)」という哲学です。つまり、観客にどんな感情の変化をもたらしたいのかを最初に定義し、そのために必要なメディアや技術の仕様を選び取っていきます。
このアプローチこそが、既存のフォーマットを単に模倣するのではなく、新たな表現形態を発明することのできる、オールラウンドなクリエイターを生み出します。
CalArts School of Art; Art and Technology program
Projection Mapping class
Photo by Rafael Hernandez, courtesy of CalArts
日常空間が"物語を宿す場"
へと進化する
CalArtsにとって、LBEとは、既存アトラクションの延長線上に位置するものではありません。空間、光、音、身体の動線そのものが、キャラクターやプロットと同じ重みをもつ物語の構成要素を成しており、観客は「パッシブな鑑賞者」ではなく、「物語の内部を移動する存在」として設計されます。
また、体験の個別最適化がさらに進む一方で、従来の専用娯楽施設を離れて、LBEが日常の空間へと広がっていく可能性も、CalArtsは視野に入れています。つまり、ARグラスや空間コンピューティングが普及し、自動車、電車、博物館、ホテル、公共空間など、あらゆるロケーションが「物語を宿す場」へと進化していく未来です。そこでは、一人ひとりの関心や、その時々の気分に応じて、複数の体験のレイヤーが組み合わされ、それぞれ異なるかたちで物語が展開されていくのです。
Manasa Hunsur Manjunath (MFA2 Art and Technology), Cerebral Symphony, 2024
Photo by Presley Yang, courtesy of CalArts
広がり続ける「世界」として
物語を構想する
CalArtsが重視するもう一つのコンセプトが、「ワールドビルディング」です。物語を一本の脚本として完結させるのではなく、複数のメディアを行き交いながら進化し続ける世界として構想していくアプローチです。
なぜならCalArtsでは、物語がイマーシブな表現環境で展開されることを前提に設計することで、IP(知的財産)を生み出すプロセスそのものを再定義できると考えているからです。ひとつの作品を完成形として閉じるのではなく、体験として広がり続ける「世界」を構想することが、次のクリエイションにつながるという発想です。
その一例が、『ブレードランナー』のような映画史に残る名作を、空間的な広がりをもったストーリーとして再解釈・拡張する取り組みです。学生たちは、その世界観の中に複数のストーリーラインを紡ぎ出し、観客がそれぞれ異なるかたちで物語と向き合える構造をデザインしていきます。こうした試みを積み重ねることで、従来の二次元スクリーンにとどまらない、「シネマ」という表現方法が有しているポテンシャルをさらに深化させているのです。
境界のない時代に不可欠な
クリエイターを育てる
今回の対話が浮かび上がらせたのは、アートと工学、フィジカルとデジタル、観客と環境といった境界が、ともに共鳴し進化していく未来のランドスケープです。境界が次第にその実体を失っていく中で生まれる「狭間」に自ら踏み込み、異なる分野、コンセプト、テクノロジー間を自由に行き来しながら、これまでにない新たな表現や体験を形にしていく——。そんな流動的な世界に身を置き、真の創造性を発揮できる次世代の才能を、CalArtsは生み出していこうとしているのです。
Jonghoon Ahn (MFA Art and Technology) Generated Cinema, 2025
Photo by Abraham Perez, courtesy of CalArts
チャイ・イー・ラム
コミュニケーション・デザイナー/リサーチャー、
デザインセンター・ヨーロッパ
CalArtsでの対話を通じて、私が強く感じたのは、「In-between spaces(領域の狭間)」をあえて受け入れ、そこに可能性を見出そうとする同校の姿勢でした。アートとテクノロジー、そして実験が交わるその曖昧な領域こそが、新しい表現の出発点になるという考え方です。
ファカルティのメンバーが描いていたのは、クリエイターが特定のフォーマットに縛られず活動できる未来です。物語は、決まった媒体から生まれるのではなく、空間や感情、そして世界観の設計そのものを起点として立ち上がってくる。そんな発想が共有されていました。
印象的だったのは、劇場のような物理的な場所よりもっと重要なのは、ものの考え方そのものを更新することにあるというアプローチです。リニアでスクリーン中心の発想を離れ、フィジカルとデジタルを行き来しながら物語を構想していく。そこには、開かれた態度と協働への意識、そしてまだ形すら明確でないアイデアを実践・検証していく意志が求められます。これこそが、CalArtsが語る「狭間を発明する」という考え方なのです。
サイモン・ヘニング
プロダクト&エクスペリエンスデザイナー、
デザインセンター・ヨーロッパ
CalArtsで語られるクリエイティビティの未来とは、スクリーンの中で完結する物語ではなく、広がり続ける「世界」そのものです。物語は一度つくって終わるものではなく、環境や状況に応じて姿を変えながら生き続ける。そんなIPのあり方が、当たり前になりつつあります。
その中で重視されているのが、「ワールドビルディング」という考え方です。クリエイターたちは、一つの脚本に答えを求めるのではなく、独自のルールや感情を有した世界をまず最初に描き出し、これを起点に、どんな物語が生まれ、どんな体験へと展開できるのかを探っていきます。
「ツールよりも感情(Emotion before Tool)」というアプローチも、こうした考え方と深く結びついています。最初に設計するのは技術ではなく、「観客や体験する人が何を感じ」「どんなつながりを形成するのか」です。その輪郭が見えてはじめて、表現にふさわしいメディアやテクノロジーが選び取られていく。こうしたアプローチによって、物語はフィジカルとデジタルの間を行き来し、変化し続ける環境の中でも意味・価値を失うことなく存在し続けます。
CalArtsが見据えているのは、まさにその「狭間」で生まれ進化していく、新しい物語の形なのです。
クリエティブセンターのメンバーと、CalArtsの教授およびスタッフ
D.R.E.A.M.S.について
D.R.E.A.M.S.(Digital Research Entertainment Arts Media Storytelling)は、CalArtsが主導する、産業界と強く結びついた教育・研究イニシアチブです。LBEや没入型メディア分野でのキャリアを見据え、学生が現場で通用する実践力を身につけることを目的としています。ドーラン・ファミリー・ファウンデーションの支援のもと、有給インターンシップや学生向けのベンチャー支援制度、特定分野のスキルに特化した短期・専門プログラムを組み合わせ、業界をリードする企業や第一線のクリエイターと実際のプロジェクトに取り組む機会を提供しています。
拠点となるのは、パティ・ディズニー・センター・フォー・ライフ&ワーク。アート、テクノロジー、ストーリーテリングが交差する"リアルなプロジェクト"が稼働するハブとして機能し、実験と革新、そしてクリエイティブな協業を重んじてきたCalArtsの精神を、次世代へ向けてアップデートしていく取り組みとして知られています。