「FavoriteSpace」世界中が"好き"でつながる
ソーシャル
エンタテインメント空間
同じ"好き"という想いを持つ人々が、地域や言葉を超えてつながり、新しいカルチャーを築いていくために。
ソニーのテクノロジーとエンタテインメントのノウハウを活用したサービス「FavoriteSpace™」が、2024年8月に始動しました。
コラボレーションの相手は、世界トップクラスのサッカーチーム「マンチェスター・シティ・フットボール・クラブ」。
バーチャル空間にファンとチーム、ファン同士の自由な交流の場を設け、新たな体験価値を紡いでいく取り組みです。
この「ソーシャルエンタテインメント空間」の創造に、ソニー クリエイティブセンターも参画。場と体験のデザインに臨みました。
実世界と仮想空間の双方から、世界中を"好き"でつなげる画期的な試み。挑戦の軌跡を振り返り、さらなる可能性をひも解きます。
(左から)ソニーグループ クリエイティブセンター:清水 辰徳、反畑 一平、石井 智裕
「FavoriteSpace」の仮想空間に広がる「マンチェスター・シティ・エリア」の紹介ビデオ。
"好き"でつながる
「ソーシャル
エンタテインメント
空間」
世界トップクラスの実力と人気を誇る、イギリスのサッカーチーム「マンチェスター・シティ・フットボール・クラブ(以下マンチェスター・シティ)」。その本拠地であるエティハド・スタジアムが仮想空間上に再現され、世界各地※1のファンがアバターで集結。選手に声援を送り、肩を組んで勝利の喜びを分かち合い、試合後は3Dの再現映像を見返しながら、ファン同士やチーム、選手との一体感を高めていく——。スマートフォン向けアプリ「FavoriteSpace」上に構築された、まったく新しい「ソーシャルエンタテインメント空間」の一コマです。
しかし、熱い想いを持つファンの世界観を現実×仮想空間の組み合わせによって拡張し、新たな体験の場を提供する道のりは、実験と試行錯誤の連続でした。交流の舞台となる場のデザイン、アバターやジェスチャーなどコミュニケーションにまつわるデザイン、さまざまな催しで盛り上がりを演出する時間軸のデザインまで。プロジェクトに挑んだデザイナー3名が、自身の想いを振り返り、その先に広がる"ファンエンゲージメント×デザイン"の可能性について語ります。
※1 イギリス、アメリカ、日本でサービスを提供しています。(2024年12月時点)
8月にスマートフォン向けアプリがローンチした「FavoriteSpace」について、プロジェクトの目的や背景から教えてください。
反畑プロジェクトの大元は2021年11月、ソニーグループとマンチェスター・シティとのオフィシャル・バーチャル・ファンエンゲージメント・パートナーシップ契約が発表されたことに遡ります。両社の協業のもとに新たなファンコミュニティの実現に向けた試みがスタートし、3年近い歳月をかけて開発や実証実験が進められてきました。ソニーグループにおいてもさまざまな領域の人材が参加していますが、私たち3名はUI/UX、アプリ内空間やユーザー用のアバター、サウンドやグラフィックなどのデザインを手がけています。
石井デザインはもちろん、技術や事業連携の側面でもさまざまな試みが盛り込まれています。例えば、試合時の選手たちの動きをさまざまな角度からリプレイできる機能。これはソニーのグループ会社Hawk-Eye Innovations(ホークアイ)のシステムを活用したもの。実際の試合中の選手の位置や動きをトラッキングし、そのデータを3Dモデルとして再現しています。デザインの観点からしても、リアルなサッカーチームやそのファンを対象としつつ、バーチャル上の体験を組み合わせて新しいコミュニケーションのあり方を提案する、前例のないプロジェクトになりました。
清水しかも協業先のマンチェスター・シティは、イングランドのプロサッカー1部リーグであるプレミアリーグの中心的存在であり、極めて戦術的なチームとして知られています。試合中の選手のポジショニングや動きをさまざまなアングルから見返しながら、世界中のファン同士がバーチャル空間上で語り合う……これは本当に画期的な体験だと思います。
実は私自身、2023年3月にデザイナーとして入社した際に、真っ先に目に留まったのがこのプロジェクトでした。サッカー経験者でありファンでもある目線から何か貢献できることはないかと考え、ぜひ参加したいと手を挙げた次第です。
ブランド×ファンの世界観を、
デザインの力で拡張する
スポーツというフィジカルな世界との接点を意識しながら、仮想空間を活用してコミュニケーションの可能性を広げるプロジェクトです。多領域にわたる知見とノウハウが必要とされたのではないでしょうか。
石井プロジェクトには研究開発部門やソニー・インタラクティブエンタテインメント出身のメンバーも集い、エンタテインメント業界に高い知見を有するソニー・ミュージックソリューションズも参画して、マンチェスター・シティと協議を重ねながらさまざまな技術やノウハウを結集する形になりました。試作しながら検証を行うプロトタイピング的なアプローチに加え、ベータテスト※2ではご協力いただいたファンの方々の意見を反映しつつ、ブラッシュアップを重ねていきました。
※2 ベータテスト…ソフトウェアやネットサービスにおいて、開発段階のベータ版をユーザーに提供し、使用体験を通じて機能面やユーザビリティなどを評価してもらう実地試験。一般的に、開発初期の実施をアルファ(α)テスト、後期〜最終段階のものをベータ(β)テストと呼ぶ。
ファン同士の交流の場となるバーチャルスタジアム。
反畑「FavoriteSpace」内の交流エリアには、マンチェスター・シティの本拠地であるエティハド・スタジアムが再現されています。思い出深いのは、デザインリサーチのために現実のスタジアムを訪れた時のこと。試合を観戦したり、施設内の空間を見学したり……初めて訪れたはずなのに、よく知っている場所のような感じがしたんです。理由は、ベータ版のアプリでずっと仮想空間上のスタジアムに入り浸っていたから。エンジニアからも同じく「初めてなのに懐かしい感じがする」という話を聞いていたので、その理由を身をもって実感しました。
清水世界トップクラスのスタジアムだけに、試合となれば膨大な数の人が集結して、ものすごい熱気に包まれるそうです。地元だけでなく世界中から視線が注がれているクラブチームだけに、彼らの思い入れに応えることがまず第一の使命。細部のデザインに至るまで、気の抜けない作業の連続だったと思います。
反畑その点、仮想上のスタジアムに実在しない空間を設けたのは、非常に挑戦的な試みでした。例えば、ユーザー同士の交流のためにデザインされたカフェのような空間「THE SHIP」。現地スタジアムに使われている素材やバナー、ブランドのグラフィックといったデザイン要素を参照しながら、現実の延長線上として楽しんでもらえる方向性を探っていきました。最終的に、仮想空間としてわかりやすい記号性と、現地で見られる展示物やグラフィックを融合させたデザインを試みています。
現地を訪問した際の写真。
「THE SHIP」の空間デザイン。
(左)現地を訪問した際の写真。(右) 「THE SHIP」の空間デザイン。
石井画面に点在する3Dオブジェクトのテクスチャひとつ取っても、リアルにどこまで近づけるのか、それともゲーム的な表現に寄せたほうが親しみやすいのか……かなり頭を悩ませました。そこで取り組んだのが、ブランドのフィロソフィーをまず私たち自身が深く理解すること。その過程なくして、ファンの方々に心から受け入れてもらえる空間にはならないと考えています。
清水ファン心理というものは、わずかでも「違う」と感じると一気に冷めてしまうもの。その上で問われたのは、単に現実のエティハド・スタジアムを仮想空間上に構成することではなく、マンチェスター・シティのオフィシャルな世界観をいかに拡張できるかでした。いかにブランドとファンが育んできたイメージを"増築"し、現実と仮想空間を地続きに感じられるようにできるか……この空間においてデザインが果たす役割には、極めて大きなものがあると思います。
空間デザイン要素に加えて、コミュニケーションデザインの側面からはどんな点に気を配りましたか。
反畑大きなところでは、アバターの感情表現です。アバターの表情をはっきりさせて顔や手足を大きめにデザインするなど、ユーザー同士で感情を共有しやすくしています。また、世界中の人々が自分らしさを表現できるよう、髪の毛や肌の色、身にまとうアイテムに至るまで、多様性の面でも多くの選択肢を用意しました。現実の自分自身に似せるもよし、仮想空間上の別人格になり切るのもよし……さまざまな自己表現が可能です。
アバターのデザイン検証。顔や体型、衣服など、多種多様なカスタマイズを楽しむことができる。
アプリのアバターセレクト画面。
(左) アバターのデザイン検証。顔や体型、衣服など、多種多様なカスタマイズを楽しむことができる。
(右) アプリのアバターセレクト画面。
石井この「FavoriteSpace」には、まずスタジアムという空間のデザインがあり、次にアバターというユーザー自身を表現するためのデザインがあります。そしてもう一つ意識したのが時間のデザインです。試合当日だけでなく、前後の時間をどう楽しんでもらうか。試合前なら、スタジアムツアーやクイズなどで知識を深めて、マンチェスター・シティをより近く感じてもらう。一方、試合後にはファン同士でハイライト再生を見返して気持ちを共有することで、次の試合へ想いをつなげる。さまざまな催しを通じて、時間軸のサイクルを生み出す仕掛けを意識しました。
その試みの一つといえるのが、アプリ内での活動をスクラップブック的にまとめた「FAN BOOK」です。マンチェスター・シティでは試合日程に合わせた「マッチデイ・プログラム」という冊子が発行されており、ファンにとってその時々の思い出が詰まった宝物ともいえるアイテムになっています。これにヒントを得て、試合日などの情報提供に加え、日々のアクティビティをサポートしたり、写真を撮ってコレクションしたりといった、仮想空間ならではの体験を"思い出"として見返しながら会話できるような工夫を凝らしました。
マンチェスター・シティ発行の「マッチデイ・プログラム」からヒントを得た「FAN BOOK」。
ここから始まる、
ファンカルチャーの新たな展望
清水「FavoriteSpace」のロゴデザインにも、このアプリの世界観の1ピースとなるべく細心の注意を注ぎました。着手した当初はこのアプリが持つ「Favorite」という意味の具現化を極めて主観的な視点で行っていましたが、プロジェクトチームと対話を重ねるなかで視野を広げ、世の中には多様な"好き"があることへの理解と、その人たちが一つの場所に集まることの意味合いを明確にしていった結果、シンプルかつ馴染みやすいロゴタイプに仕上げることができました。「O」の字を大きくあしらったのは、人々の"好き"というカルチャーの入り口になるようにという意図を込めてのこと。私自身の気持ちと向き合い、そこから解放されるプロセスがあったからこそ、さまざまな人の"好き"に応えるニュートラルなデザインに仕上がったと感じています。
「FavoriteSpace」のロゴデザインより、制作過程のロゴ案。
「FavoriteSpace」のロゴデザインより、確定したロゴタイプ。
「FavoriteSpace」のロゴデザインより、(左)制作過程のロゴ案。(右)確定したロゴタイプ。
反畑大切なのは、ファンの方々の"好き"という想いをいかに持続的に、かつ深く掘り下げていけるか。その上でも、とにかく念入りにリサーチを重ねました。アバターのユニフォーム一つ取っても、現行のものと過去のディティールを比較したり、メーカーごとの特徴を把握したり……。マンチェスターを象徴するロックバンドの楽曲をひたすら聴いてみて、サポーターたちが共有している肌感覚に少しでも近づこうと心がけたりもしました。
そうした想いを込めてデザインを練り上げ、ベータテストに臨んだわけですが、協力ユーザーからの反応や、気づきを得たことがあれば教えてください。
反畑ユーザーが私たちの予想を超えた使い方を編み出していく、その様子が何よりも面白かったですね。例えば、試合の応援用の花火アイテム。誰が言い出すともなく、購入した花火を並べておいて、得点すると一斉に打ち上げるようになった。勝利後にはアバター達が肩を組んで一斉にジャンプする「ポズナン※3」が始まったり……。ファンが自発的に楽しみ方を見つけて、その輪が広がっていく様子に感動させられました。
石井ファン同士の会話や交流の様子をふまえて、アバターの感情を表現する「エモート」機能も充実させました。スタジアムでマフラーを掲げるお約束のアクションや、仲間と一緒にジャンプしたり、頭の上に「?」マークを浮かべたり……。こういったアバターによる身体表現は、これからのコミュニケーション作法において当たり前になっていくような気がします。「ポズナン」のように同じ空間に同じ目的で集い、同じポーズでシンクロするのは、「いいね」とはまた違った、新しい"共感"を伝える表現といえるでしょう。
※3 「ポズナン」…アバターが一斉にジャンプする行為「ポズナン」は、楽しさや一体感を表現するための象徴的なアクションとなっている。
「エモート」機能の表現例より、スタジアムでのガッツポーズ。
「エモート」機能の表現例より、「THE SHIP」でのフィスト・バンプ(グータッチ)。
「エモート」機能の表現例より、(左)スタジアムでのガッツポーズ。(右)「THE SHIP」でのフィスト・バンプ(グータッチ)。
ようやくアプリがローンチし、第1弾としてマンチェスター・シティのエリアが公開されたところです。現在の手応えや、新たなデザインの可能性をどう感じていますか。
清水異なるカルチャーが混ざり合う、新しい場の可能性を感じています。私自身、高校のサッカー合宿でブラジルを訪れた際に、現地と日本のサッカー文化の違いに衝撃を受けました。世界的に異文化交流に対する注目が高まっているように、これまでは現場でしか味わうことのできなかったカルチャーがこの仮想空間上で共有され、理解が深まっていったならと期待しています。
石井まさしく、この空間ならではのカルチャーが育まれつつあると感じています。例えば、選手の誕生日に向けてファンたちが自撮り写真を投稿すると、それが想いのこもった一点物のファンバナー(横断幕)に集約され、スタジアムの前に掲出されます。すると今度はそれに応えて、選手からも感謝のメッセージが掲示されたりする。いわば、"場"自体がコミュニケーションのキャンバスになっているような感じでしょうか。この空間で、ファンの方々自身が楽しみ方を発見し、新たに編み出していく……そんな場になることを目指しています。
反畑それは言い換えるなら、選手やチーム、ファンといった人たちのコミュニケーションの"枠の外"をどうデザインできるか、ということかもしれません。盛り上がって喜びを共有する日もあれば、悔しさを分かち合う時もある。ファン一人ひとりが自分らしく感情を共有し合い、新たな文化を築いていく余地をどうデザインしていくか。これからもぜひ、探求を続けていきたいと思います。
「FavoriteSpace」のローンチ記念キャンペーンの一環として、ユーザーが投稿した写真を現地スタジアムのビッグビジョンでも表示。
バーチャルとリアルのつながりを象徴する出来事となった。