ガストロノミー・フラッグシッププロジェクトレシピ創作支援AIアプリ:
GUIプロトタイプ

食の未来を創造するために

「人類の想像力とクリエイティビティを解き放つAIの創出」を目指して設立された株式会社ソニーAIは、
ソニーの既存事業領域である「ゲーム」「イメージング&センシング」に加え、「食」という領域において
ガストロノミー・フラッグシッププロジェクトという挑戦を始めています。世界最高峰の料理の祭典 マドリード・フュージョン 2020において、
このプロジェクトの一端を担う、シェフの創造性向上に貢献するレシピ創作支援AIアプリのGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)プロトタイプを
紹介しました。そのデザインに込めた想いやこだわりをメンバーが語ります。

(写真右から)ソニーAI COO:ミカエル・シュプランガー、アロマスペシャリスト/ソムリエ:フランソワ・シャルティエ氏、
シャルティエラボ共同研究者:二コラ・ロシェ氏、ソニーAI ディレクター:藤田 雅博、
ソニーグループ クリエイティブセンター デザインプロデューサー:梨子田 辰志

*フランソワ・シャルティエ氏はGrand Prix Sopexa 1994(ソペクサ・グランプリ1994)で世界最優秀ソムリエを受賞し、
ソニーAI ガストロノミープロジェクトのアドバイザーの一人です。

未知の味を創る
「新しいレシピ」を目指して

そもそもガストロノミー・フラッグシッププロジェクトとは何だろうか。そして、レシピ創作支援AIアプリとはどのようなものなのか。

ミカエルソニーが培ってきたAIやロボティクスを「食」という領域に活かせば、新たな価値を創出できるのではないか。そのような考えから始めたのが、ガストロノミー・フラッグシッププロジェクトです。このプロジェクトで取り組むのは主に2つ。1つは、レストランにおける新たなツールとしてシェフと共に美味しい食事を作る調理支援ロボットの開発。もう1つが、未知なる美味しさを目指し、人の健康や環境のサステナビリティにも配慮しながら、新たな料理の創作に励むシェフをサポートするレシピ創作支援AIアプリの開発です。いずれもソニーのAIやロボティクスの強みを活かせるものとして2020年のソニーAI設立以前から研究開発を続けています。

梨子田私がプロジェクトに参加したのは2018年。当時、ミカエルたちから「社内外の人々に説明しやすいように、AIやロボティクスが導入された未来のキッチンスタイルを視覚化した映像を一緒につくってくれないか」と相談され、「AI×ROBOTICS×COOKING」というコンセプトムービーをクリエイティブセンターのチームで制作しました。そのムービーは主にロボットアームによる新しい調理方法や器具の可能性を示唆する内容に仕立てたのですが、制作の最中、ミカエルと「AIやロボットが自律的に調理するためには、味やレシピの研究も必要なのでは?」と話し合いました。その会話がレシピ創作支援AIアプリの起点になっています。

「AI×ROBOTICS×COOKING」コンセプトムービー

ミカエルレシピ創作支援AIアプリで目指しているのが、AIを活用し、シェフのクリエイティビティを拡張するような「新しいレシピ」の創出です。AIが得意とするのは、大量のデータをもとに特徴を算出し、予測につなげるところにあります。そして、料理において大きな要素となるのは多種多様な食材です。それらのポイントから、世界中の食材に関する味・香り・風味・分子構造などの多様な情報をデータベース化し、それらを解析しながら、新たな食材のペアリングや調理法などを提案するAIアプリをつくれば、シェフの発想力を刺激できるのではないかなど、構想を練っていました。

そんな折、世界の一流シェフが集う料理の祭典 マドリード・フュージョン2020で、この取り組みを紹介する機会に恵まれました。そこで、レシピ創作支援AIアプリの第一歩として、食材のペアリングにテーマを絞ったGUIプロトタイプの開発を梨子田に依頼。想定以上のものを期待していたため、あえて自分の構想は細かく伝えず、「新しいレシピとは何か」と抽象的な問いかけから考えてもらい、単なるグラフィックのデザインではなく、ソニーAIが目指す食の未来を予見させるようなGUIプロトタイプをつくってほしいと伝えました。

梨子田「新しいレシピとは何か」という問いを、いかに解釈し、具現化していくか。従来のレシピは料理を再現するものでしたが、新しいレシピとは、未知なる料理や味覚を創造するものではないかと考えました。そこから、レシピ創作支援AIアプリが目指すべき姿とは、メニューの創作に挑むシェフに対し、食材の新たなペアリングを提案したり、将来導入されるであろう調理支援ロボットを制御してサポートしたりするなど、ただの機器ではなく、チームの一員となるような存在なのではないかとミカエルに話したところ、彼も「それでいい」と同意してくれました。

そのような未来のイメージを見据えつつ、同時にGUIプロトタイプのデザインコンセプト作りに取り掛かりました。まず今回のテーマである食材のペアリングについて、世の中にすでにある見せ方をリサーチすると、一般的なシェフにとって馴染みのない無機的な図や数式で表されているものが大半を占めていました。さらに、実際の料理の創作現場を取材すると、シェフが独断で考えるのではなく、スタッフみんなでアイデアを出し合っているケースが多いことがわかりました。そこで、すべてのシェフが共有できる「わかりやすい表現」、感性を刺激する「味覚の視覚化」、チームで話し合いながら創り出す「対話型への対応」をコンセプトに定めました。

シェフのクリエイティビティを
次なる次元に導くもの

マドリード・フュージョンは、来場客である多くのシェフや食品関係者を前に、登壇するシェフや専門家が自らの活動をプレゼンテーションしていく場。そのような場に合わせて、GUIプロトタイプをどうデザインしていったのか。

ミカエルマドリード・フュージョンのプレゼンテーションで大切だったのは、オーディエンスであるシェフたちの興味を引く斬新な食材のペアリングの提案と、それを魅力的に見せるGUIプロトタイプのデザインでした。食材のペアリングについては、本プロジェクトのアドバイザーでアロマ科学の世界的権威であるフランソワ・シャルティエ氏の協力のもと、例えば、ウニとチーズとチョコレートを組み合わせた新メニューなどのアイデアを考えていきました。一方で、GUIのデザインについては、梨子田のインスピレーションをいかすべく、あえて具体的な指示は出しませんでした。

梨子田このイベントは「ソニーが食の領域に挑む」という料理界への宣言にもなるため、GUIのデザインはすべてのシェフにとってわかりやすく、かつ誰も見たこのこない手法で食材のペアリングを表現したいと思いました。一般的なAIの仕組みの表現は、数百種類の食材の名前を平面上に点在させ、相性のよい食材同士を線でつなげて見せるものが多く、その結果、線が入り乱れ、複雑になってしまい、シェフがどこを見たら良いのかわからないという課題があると考えていました。

そこで、食材が漂う宇宙のような三次元空間をつくりだし、目当ての食材を中央に配置し、その周りに相性がよい食材が集まってくるシンプルで未来感があるデザインを考案。さらに、画面の奥へと空間が続くようにし、親和性が低い食材を遠くにぼかしながら配することで、その先にも食材の組み合わせが無限にあることを表現しました。また、会場のシェフの審美眼に叶うように、食材のシズル感を追求。各食材の写真には色味が際立つものを選び、それを透明なラップフィルムで包んだような処理にすることで、その食材の新鮮さや美味しさを感じられるように演出しています。

GUIプロトタイプ

梨子田今回の最大のポイントとなったのが、食材同士の相性の良さをいかに表現するかということでした。当初は食材同士をラインでつなぐなどの表現を試していましたが、どうしても複雑に見えてしまう…。その解決のヒントになったのが、アドバイザイーであるシャルティエ氏の「食材のペアリングは1+1=3以上になる」という言葉でした。例えば、AとBという食材を合わせると、全く違うテイストが生まれるのが、ペアリングの醍醐味。それを表現するために、食材同士が結合して膨らみ、色彩を加えることで新しい味覚が生まれてくるようなデザインをつくりだしました。

ミカエルこの新しい味覚が生まれてくるデザインを見たとき、有機的な動きが非常に面白いと感じました。実際の創作現場において、シェフがいろいろな食材の組み合わせを試すなか、彼らの頭の中で起こっている創造の瞬間を可視化しているようで、まさに感性に響くデザインに仕上げてくれました。

梨子田操作については、多くのシェフが直感的に使えるように配慮しました。ただ手法については、ミカエルと意見が分かれました。ミカエルはプロトタイプとして未来的で実験的なインタラクションを望んでいたのですが、私はシェフたちに実用性を感じてもらいたいと主張し、誰もが入手しやすいタブレットを提案しました。また、シェフが触ってみたくなるように、各食材が揺らいでいる状態にし、自然にタッチ操作へと導くようにしています。

さらに、操作方法でこだわったのが、調理チームの一員としてシェフやスタッフとの対話に対応する音声インターフェースでした。問いかけたことに機械的に答えるのではなく、例えば、食材のペアリングを提案する際も「この地域にはこの食材がないので、地元のあの食材で代用したらどうか」などと、シェフと会話しながら、新しい料理の創出に誘うようなインターフェースを目指しました。

世界中のシェフとともに、
食の未来を創っていく

マドリード・フュージョン2020でのプレゼンテーションでは、どのような反響があったのか。さらに、今後の展望は?

ミカエルプレゼンテーションの最中、観客席のシェフや食品関係者の多くが、スクリーンに映し出されたGUIプロトタイプの映像を撮影しており、大変な興味を持ってくれているという手応えを感じました。レシピ創作支援AIアプリの第一歩目としては大成功だと思いますが、これはあくまでもプロトタイプ。この先、シェフにより具体的な提案ができるように、AIアプリの内容もデザインも進化させていかなければなりません。料理をつくること、料理を食べることは素晴らしい体験であり、私たちはこのプロジェクトを通じて、その価値を革新し、スケールアップできるように研究開発を続けていきます。

梨子田マドリード・フュージョンで出会ったシェフたちから、「AIでこういうことをやりたい」という声をいただき、すでに新たなコミュニケーションが始まっています。このレシピ創作支援AIアプリの目標は、食材のペアリングを提案するアドバイザーや、調理支援ロボットを制御してスタッフの役割もこなす、シェフのパートナーとなる存在。その目標に向けて、多くのシェフや外部企業とコラボレーションし、AIの進化に合わせてデザインも改善していきたいと思います。

さらに今後、このレシピ創作支援AIアプリを通じて、新たな美味しさの創出はもちろんのこと、食事による健康維持や、将来危惧される食料不足問題などを含めたサステナビリティにもより積極的にアプローチしていきたい。食の未来に貢献するために挑戦を続けていきます。

食材のペアリングという魅力を最大限に引き出した、レシピ創作支援AIアプリのGUIプロトタイプ。
クリエイティブセンターは今後も、ガストロノミー・フラッグシッププロジェクトに協力し、
食の未来の創造に貢献していきます。