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Creative Entertainment Visionソニーグループの
"ありたい未来"を
描くデザインの試み(前編)

2024年5月に東京・品川のソニーシティで開催された、「2024年度経営方針説明会」。
この日発表されたのが、10年後のソニーのありたい姿を描いた長期ビジョン「Creative Entertainment Vision」。
フィジカルとバーチャルの境界を超えてクリエイターと共創し、無限の感動を届けていくというソニーの未来の世界観がお披露目されました。
このビジョンの制作に、ソニー クリエイティブセンターのデザイナーたちも携わりました。エンジニアから事業企画、トップマネジメントまで、
各領域のキーパーソンと2年に渡り議論を重ね、"ありたい未来"をビジュアライズする——
その前例なき試みに託した想いとは。デザインチームへのインタビューを、前編・後編の2本立てでお届けします。(前編)

(左から)ソニーグループ クリエイティブセンター:
藤田 すずか、赤川 聰、守屋 松一郎

グループ全社の未来を描く
プロジェクト

「私たちは、クリエイターとともに、フィジカルとバーチャルが重なる多層的な世界をシームレスにつなぎ、クリエイティビティとテクノロジーの力による無限の感動を届けていきます」。「2024年度経営方針説明会」で、社長 COO 兼 CFOの十時裕樹(ととき ひろき)が語った言葉。"10年後のソニーのありたい姿"を描いた「Creative Entertainment Vision」の発表にあたり、コンセプトムービーに託された未来への道筋について、力強いメッセージを発しました。

このビジョンは、十時とソニーグループの各領域で活躍する人材が力を合わせ、2年以上にわたる協働を経て作り上げたもの。クリエイティブセンターからも、さまざまなバックグラウンドを持つデザイナーたちが参画し、十時をはじめとするトップマネジメントや各分野のスペシャリストなど、領域や立場を超えた人々との議論に尽力。クリエイティブエンタテインメントカンパニーとしてソニーが向かうべき道筋を、デザインの観点から描き出しました。

クリエイティブセンターのデザイナーが経営層との信頼関係を深めながら、グループのクリエイティブハブとして領域を超えた連携を図っていく——。その全貌とプロセス、ブレイクスルーについて、プロジェクトに携わったデザイナー3名が語ります。

2024年度経営方針説明会で公開された
「Creative Entertainment Vision」の
コンセプトムービー。
音声解説付き動画

10年後のソニーのありたい姿を描いた「Creative Entertainment Vision」。まずはその背景や、クリエイティブセンターが携わるに至った経緯を教えてください。

赤川このビジョンは、これまでの経営方針説明会で発表されてきた短期・中期スパンの経営計画よりも長期的な視点で、ソニーのPurpose(存在意義)である「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」の推進に向けた道筋を示したものです。プロジェクトとしての発足は2年前、十時から依頼を受けたことに遡ります。ソニーの10年後に向けた道筋を、各事業の連携によるアプローチとともに提示する。クリエイティブセンターとしても、まさに経験のないチャレンジになりました。

守屋10年後のありたい姿、これこそが今回のプロジェクトのポイントだと思います。つまり、単なる未来のフォーキャスト(予測)にとどまらず、10年後の目指すべき未来を描き出すと同時に、今後の道筋をバックキャスト(逆算)していく試みにもなっている。デザイナーである私たち自身が十時とともに各事業領域のトップをはじめとするキーパーソンと議論を重ね、実現性を検証し、深めてきた知見やビジョンを集約していく。発表されたコンセプトムービーだけでなく、そこへ至るプロセスにも極めて大きな意義があると思います。

藤田印象的だったのは、十時の「明るくワクワクするような未来を描いてほしい」という言葉です。技術や社会など近年のめまぐるしい変化を見ても、グループ全社という規模で10年先のあり方を想定するのは決して簡単なことではありません。その上で、この言葉が大きな手がかりになったと感じています。

フォーキャスティングとバックキャスティングを組み合わせて10年後のありたい姿を描き出すアプローチ。フォーキャスティングによる「既存領域から継続的に進化すること」という視点と、バックキャスティングによる「未来から逆算した望ましい姿」という視点の交点を探った。

デザインの観点から経営層と意思疎通を図る点でも、より高次元のスキルが求められるプロジェクトだと思います。なお、クリエイティブセンターのデザイナーが組織のビジョン策定に携わったケースとしては、過去にどのような例がありますか。

赤川クリエイティブセンターとしても近年、ビジョン作りに携わる機会が増えてきました。具体的には、モバイル領域のビジョンの再定義プロジェクトに始まり、半導体事業を中心とするソニーセミコンダクタソリューションズのビジョン策定にも携わるなど、デザインのノウハウと実績が評価を得て、今回のプロジェクトにつながったと実感しています。

藤田私自身もソニー株式会社のコーポレートブランディングなど、ビジョン作りに携わる機会に恵まれてきました。経営方針説明会に関しても、近年はデザイナーが議論の場に参加し、伝えたいメッセージをグラフィックレコーディングでチャート化するなど、マネジメント陣との接点を深めてきたことが評価に結び付いたのではないでしょうか。

未来予測と
Sci-Fiプロトタイピングを
併用し、コンセプトを抽出

ソニーグループは、ゲーム&ネットワークサービス、音楽、映画、エンタテインメント・ テクノロジー&サービスなど、幅広い事業領域を有しています。それら多くの領域とコミュニケーションを深める上で、どのようなメンバーを招集し、プロジェクトを進めていきましたか。

「Creative Entertainment Vision」のデザインプロセス。クリエイティブセンターは、各事業領域をつなぐクリエイティブハブとしての機能を担った。

赤川プロジェクトには十時の声がけにより、各事業の若手から中堅クラスのリーダーが参画し、クリエイティブセンターのメンバーと一緒に議論を重ねました。クリエイティブセンターのチーム編成にあたっては、多様な領域から若手を多く起用することで、今後自分たちが背負うであろう10年後のありたい姿を描いてほしいと考えました。藤田のような実績ある若手を中心に、プロダクトからUI、ビジョン策定まで幅広い経験と実力のある守屋のようなデザイナーにも声を掛け、10名程度のメンバーでスタートしています。

守屋大まかなタイムラインとしては、2022年度をフェーズ1、23年度をフェーズ2として、対外的な発表をゴールとする流れです。フェーズ1でリサーチとアイデア展開、コンセプトメイキングを行い、フェーズ2ではコンセプトの精緻化とともに、対外発表に向けたプロトタイピングと実制作に取り組む。私自身は最初のリサーチの途中段階から参加したのですが、既に膨大な量のアイデアが壁全面に貼り出されていて、驚いたのを覚えています。10年後を見据えたプロジェクトメンバーの熱い意志を感じるとともに、アイデアのオリジナリティとユニークな視点に目が醒める想いがしました。

藤田最初のアイディエーション(アイデア創出)では多種多様な意見が飛び出して、発想がどんどん膨らんでいきました。その後の議論で印象的だったのは、気候変動などの社会的な課題や技術をベースにした未来予測などにとらわれすぎず、「自分自身がどんな未来を作りたいか」に重きを置くアプローチです。日頃のデザイン業務ではプロダクトやサービスなど、着地すべき目標や対処すべき課題があらかじめ明確化されているケースが多いのに対し、今回はその目標自体を描き出していく点が特徴的でした。

赤川方向性を定める上で十時が明確にしてくれた指針は、ソニーグループが重視する“人”と“感動”が中心の視点でした。そこから、子どもたちの可能性を広げたい、食についても考えてみよう、老後に活躍できる社会とは……といったアイデアを膨らませ、ソニーの事業領域との接点を探るアプローチを深めていきました。なお、この時点で決まっていたのはビジョンメッセージの方向性を示すことと、それに基づいた世界観をビジュアライズすることまで。それが果たしてどんな形のアウトプットになるかは未知数でした。

守屋全体を振り返っても、初期段階で発想したアイデアがプロセス全体を通して大きな方向性を導いていったことは確かです。それを元にフェーズ1では「BLUEPRINTS 2035」と題した約50ページの冊子と映像を制作。グループ各社のエキスパートやマネジメント層との対話を重ねていきました。

フェーズ1の知見を集約した冊子「BLUEPRINTS 2035」。

フェーズ1では、SF(サイエンス・フィクション)の想像力を活用するSci-Fiプロトタイピングの手法を取り入れています。クリエイティブセンターでもデザインリサーチのプロジェクト「DESIGN VISION」の一環として取り入れたことがありますが※1、今回はどのように活用されましたか。

赤川実はこのプロジェクトのきっかけの一つは、十時が2021年に開催されたクリエイティブセンターによるSci-Fiプロトタイピングの展示※2を訪れ、デザイナーが持つ"未来を描き出す力"を実感したことに遡ります。その上で今回もSci-Fiプロトタイピングの手法を活用し、実際に自分たちで未来のシナリオ執筆にも取り組みました。Sci-Fiプロトタイピングはある時点の未来を設定し、そこへ至る進展を逆算していくバックキャスティングのアプローチですが、今回はさらに事業や技術などの実現性を踏まえたフォーキャスティングを掛け合わせています。一例として、R&D部門のエンジニアへのヒアリングや、社会トレンドの専門家のレクチャーを通して知見を深め、フィジカルとバーチャルの融合やAIの進化、若い世代の意識などを盛り込んだ未来年表を制作しました。

藤田そうした取り組みから導き出されたフェーズ1のキーコンセプトが、フィジカルとバーチャルが融合を遂げた新しい現実のあり方「Infinite Realities」です。「バーチャルに偏るあまり、フィジカルな体験がおろそかにされてはいけない」という議論に基づき、双方の世界をいかに重ね合わせていくかを主題に、3つの未来ストーリーを制作しました。

※1 ソニー クリエイティブセンターのデザイナーがSF作家と協働し、「2050年の東京」の物語とデザインプロトタイピングを制作。2021年9月に東京・銀座のGinza Sony Park、12月にはロームシアター京都で展示を行った。

※2 (参考記事)SF作家とともに描く未来のデザイン「ONE DAY, 2050 / Sci-Fi Prototyping」

事業領域を超える
コミュニケーションデザインの
試み

フェーズ1では1年間の作業のアウトプットとして、キーコンセプトと3本のストーリーに基づく冊子と映像を社内の関係者向けに公開しています。その狙いについて、教えてください。

守屋エンタテインメント領域へ方向性を定めつつ、フィジカルな体験をどう高めていくか。この問いに基づいてコンセプトをまとめ、それを元に議論を深めることが狙いでした。と同時に、映像表現には未来のビジョンをイメージによって伝える力がある一方、リサーチで得た知見や未来への道筋、その裏付けとなった有識者の言葉や数値的なデータに基づく考え方を伝えるには、別のメディアによるアプローチが必要だと考えました。これが、映像と冊子をパッケージとして構成した理由です。

フェーズ1の知見を集約した冊子「BLUEPRINTS 2035」の紙面より。

赤川発足から1年かけて考えてきたことをどんな形で伝えるべきか……私たちもかなり頭を悩ませました。結論として、私たち自身がそれをストーリー性のある文章やインフォグラフィックスとして提示した結果、各事業のマネジメントやエキスパートからのフィードバックを引き出しやすくすることができたと思います。冊子制作にあたっては、ソニーの新規事業の創出と事業開発を支援するプラットフォーム「Sony Acceleration Platform」のエキスパートにも参加していただき、検証を重ねています。ただし、ここで重要なのは答えの提示ではなく、各領域のキーパーソンを巻き込み、一緒に未来を想像していきましょうというメッセージを発信すること。十時からも、ぜひ社外の方々も含めて想いを伝えてほしいと要望を受けました。

藤田冊子上でも映画や音楽、アニメなど、各業界の市場動向について検証を行い、2035年のエコシステムをチャート化しています。デザイナーの立場ながら、各事業に携わる方々と数値的な検証まで突き詰めていくのは前例のない経験で、大いに勉強になりました。

赤川クリエイターとファンの織り成すコミュニティや、ソニーのIP(Intellectual Property/知的財産)を駆使した共創体験型施設によるLBE(Location Based Entertainment)の提案といったストーリーに加え、その裏付けとなるビジネスのエコシステムを提示したことで、トップマネジメントの方にもより深く、納得感に基づく反応を得ることができたと感じます。
デザイナーがクリエイティブセンターから出て、領域を超え、グループを担うそうそうたる方々と長期的な事業のビジョンについて議論を重ねていく。今振り返ってみても、本当にエキサイティングなプロセスでしたね。心動かされたのは、分野や立場の違いを超えて、非常にポジティブな意見交換ができたこと。私たちが投げかけた未来像に向けてどうアプローチしていくか、事業など実践的な観点から多く質問が寄せられました。それが最終的なアウトプットへ続く大きな流れになったことは、間違いありません。

2024年7月24日 クリエイティブセンターにて実施