Sci-Fiプロトタイピング SF作家とともに描く
未来のデザイン
「ONE DAY, 2050 /
Sci-Fi Prototyping」

ソニー クリエイティブセンターのデザイナーがSF作家と協働し、
「2050年の東京」の物語を描き出したプロジェクト「ONE DAY, 2050 / Sci-Fi Prototyping」。
SF(サイエンス・フィクション)を用いて未来を構想し、逆算的に今後の道筋を考える
「Sci-Fiプロトタイピング」の実践によって、デザインの可能性を拡張する試みです。

これまでの発想を超え、新しい視座のもとに紡ぎ出された「SF短編小説」と
「デザインプロトタイピング」は、いかにして結実を果たしたのか。
2021年9月のGinza Sony Parkでの展示に続く、
12月の「KYOTO STEAM-世界文化交流祭-」での展示に際し、
プロジェクトに参加したデザイナーたちにインタビューを行いました。

ソニーグループ
クリエイティブセンター
デザイナー
松原 明香

ソニーグループ
クリエイティブセンター
デザイナー
鈴木 匠

ソニーグループ
クリエイティブセンター
デザイナー
青島 千尋

ソニーグループ
クリエイティブセンター
デザイナー
北恵 昴

ソニーグループ
クリエイティブセンター
統括課長
大野 茂幹

"SF小説×デザイン"で、
まだ見ぬ世界を描く試み

テクノロジーの発展と社会の多様化を背景に、めまぐるしく変化し続ける「VUCA」*1の時代。先の読めない状況のなか、クリエイティブセンターはデザインの新たな活用法を探り、イノベーションを導く取り組みを進めています。
その一つが、Sci-Fiプロトタイピングを取り入れたソニー初の試み「ONE DAY, 2050 / Sci-Fi Prototyping」。ソニーのデザイナーとSF作家がコラボレーションし、Sci-Fiプロトタイピングの手法で「2050年の東京」を描き出すプロジェクトです。「2050年」「東京」「恋愛」という3つのキーワードを大きな傘とし、「WELL-BEING」「HABITAT」「SENSE」「LIFE」の4つのテーマを設定。断続的にワークショップを重ねて探求した成果が、デザイナーによる「デザインプロトタイピング」と、SF作家による「SF短編小説」に結実しました。
デザイナーとSF作家の協働という、これまでにないプロジェクトはどのようにして進められ、いかなる眺めを描き出したのか。全体の流れを振り返りながら、参加デザイナーたちにインタビュー。プロジェクトを通じて得た気づきや、デザインプロトタイピングに込めた想い、新たなデザインの可能性などをひも解いていきます。

*1 「VUCA」:技術の進歩や社会情勢の流動化などを背景に、既存の方法論では対処や予測が難しい状況を表すビジネス用語。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字の組み合わせによる。

2050年の未来をプロト
タイピングするプロジェクト

今回、Sci-Fiプロトタイピングを実践するに至った経緯について教えてください。

プロジェクトリーダー 大野 茂幹私はクリエイティブセンター全体の横断プロジェクトなどに携わる立場ですが、新しいデザイン手法を開発する活動の一環として、今回のプロジェクトを立ち上げることにしました。クリエイティブセンターは今年で60周年を迎えますが、エレクトロニクスをベースとする製品やロゴ、パッケージなどのデザインに始まり、ソニーの事業領域がエンタテインメント、金融、ビジネスソリューションへと拡大するにつれて、UI・UXデザイン、サービスデザイン、ブランディングに至るまで、活動の幅を広げてきた経緯があります。その一方で、今や未来の予測不可能性は高まるばかり。デザインに求められる役割が拡大するなかで、新たに未来を切り拓く方法が求められている。そうしたなか、クリエイティブセンター独自のデザインリサーチプロジェクト「DESIGN VISION」*2を通じて、Sci-Fiプロトタイピングという手法に着目しました。

*2 ソニーのデザインリサーチプロジェクト『DESIGN VISION』 〉

SF作家の想像力とデザインとの掛け合わせによって、どのような効果が生まれると考えたのでしょうか。

大野新型コロナウイルスのパンデミックによって予想し得なかった事態が起きたように、現在から未来を予測(フォーキャスティング)する従来のリサーチ手法では、今や数年先の見通しすら難しい状況です。これに対してSci-Fiプロトタイピングは、SFを用いて長期的な未来をイメージし、そこから逆算(バックキャスティング)して今取り組むべき課題をあぶり出していく。以前から取材やデザインアワードなどでご一緒していたテクノロジーメディア『WIRED』日本版が2020年に「WIRED Sci-Fiプロトタイピング研究所」を設立したことを受けて、協力を依頼しました。

なお、このプロジェクト全体の企画運営に携わるプロデューサーの立場としては、ソニーとSFは「テクノロジーベースで未来を創る」という点で共通点があると感じていました。しかし、SFは物語の性質上、災害や戦争などディストピアを描くことが多いのも事実です。テクノロジーに対する不安を解消しながらも、どこまで現実的な未来を想像できるのか、やってみなければわからない状況でした。

SFには時代などの設定が必要ですが、2050年を想定した理由は何でしょうか。

大野2045年に予想されるシンギュラリティの後、若手社員たちがまだ現役で働いているであろう時代を想定しました。チーム編成についても、2050年の未来を自分事として考えてもらうため、立候補してくれた若手デザイナーを起用し、テーマごとに振り分けてチームを組みました。テーマは「WELL-BEING」「HABITAT」「SENSE」「LIFE」。これらはクリエイティブセンターのデザイン開発における重点領域のテーマから選びました。

さらに、東京を舞台にすること、恋愛をキーワードにすることも設定に加えています。このうち「恋愛」については、ソニーグループが経営の方向性として掲げる「人に近づく」を念頭に置いて、人を中心とするストーリーを構築してもらうために取り入れたキーワードです。このように大枠の要素を固めたところで、4テーマそれぞれに2050年の未来を想像し、プロトタイピングしていく作業が始まりました。

ありがとうございます。ここからは、4チームそれぞれのデザイナーにプロトタイピングの裏側について聞いていきたいと思います。後ほどあらためて、全体の振り返りをお願いいたします。

テーマ1:「WELL-BEING, 2050」 人に寄り添い、心の健康を高める
AIカウンセラー

デザインプロトタイピング「Resilience Program(レジリエンス プログラム)」:
人々がレジリエンスを身に付けるサポートを行う2050年のAIカウンセラー。
ウェアラブルデバイスが感情の変化を計測しストレスを緩和する様子を、
映像によって提示する。(Ginza Sony Parkの会場風景)

担当テーマは「WELL-BEING」ですが、これは日頃の業務とはどう重なりますか。

チームリーダー 青島 千尋普段携わっているのは、スマートフォン「Xperia™」のコミュニケーションデザインや、ソニーネットワークコミュニケーションズのネットワークサービス「NURO」のブランディングなど。長くても1〜2年後を想定したデザインが中心ですが、今回は30年も先の未来のデザインということで、まったく異なる視野や発想が求められました。そこで考えたのが、「WELL-BEINGという考え方が世の中に浸透したとしても、人が生きる上で避けて通ることのできない出来事、例えば仕事の失敗や失恋、身近な人の死といった辛い体験やストレスは、2050年になってもゼロにならないだろう」ということです。この発想を出発点にメンバーと話し合い、あらゆるストレスから立ち直る回復力=レジリエンスをAIの力を借りて身につける方法を考えていきました。

プロジェクトの前半では、参加デザイナーが一人ずつSF小説を書いて発表し、アイデアを集束させていったそうですね。どんなストーリーを執筆されましたか。

青島異国の地で出会った男女が、相手の感情を可視化できるコンタクトレンズ型のウェアラブルデバイスを相手に秘密で利用しながらやりとりするシーンです。小説を書くのは初めてだったので大変でしたが、書いてみて新鮮だったのは、自分とは違う価値観を持つ人のことを想像しながら物語を綴ることで、人に寄り添う視点が広がったこと。そこから議論を重ねるなかで、何をもって幸せと感じるかの定義は人によってまったく違うこと、AIはあくまで行き詰まっている人をサポートする立場であり、最終的にどう行動するのかを判断するのは人間であるべきだといった方向性を固めていきました。議論として盛り上がったのは、SF映画では美しい人、もしくは無機質なロボットの姿で描かれることが多いAIの表現について。「そうした姿のAIカウンセラーに、自分の心の中を100%見せることができるのだろうか」という疑問が出たのです。そこから、「神は万物に宿る」という日本特有の感性に基づき、「人は八百万の神を感じるものに対してなら心を許せるのではないか」という考えかたに至りました。
こうした点をふまえ、サポートを求める人だけでなく、他人に指図されたくない人の価値観も大切にしながら、AIのあり方を丁寧に模索していきました。

Ginza Sony Parkの会場風景より、
ウェアラブルデバイスのモック(模型)展示。

そうした気付きを、どのような形へ落とし込んでいったのでしょう。

青島発表したのは、個人に適した姿形へ自由に変化し、最適化されたカウンセリングを施してくれるAIカウンセラー。人体の血管が集まる部位にごく薄いウェアラブルデバイスを貼り付けることにより、センサーがストレス・ホルモン値や血液情報を計測。異常値を計測するとコンタクトレンズを介してカウンセラーと話し合うかどうかを選択できるレジリエンスプログラムが起動する仕組みです。このデバイスは皮膚に埋め込むようなものではなく、もっと気軽にファッションの一部として身に着けられるようなデザインを心がけました。

展示会場のアンケートではさまざまな感想をいただき、病気の事前回避や健康維持のために早く実現してほしいといった声などが寄せられ、数多くの気づきにつながる経験になりました。人に寄り添うテクノロジーが心の健康を保ってくれるという、一つの選択肢を提示することができたと感じています。

「WELL-BEING」チーム:伊藤 圭祐、中山 凌輔、青島 千尋、三島 章正

テーマ2:「HABITAT, 2050」 環境や異文化と共生する
水上移動式住居

デザインプロトタイピング「Floating Habitat(フローティング ハビタ)」:
気候変動などの影響で人々が海上を移動して暮らす2050年。
多種多様な文化圏の人々が集まり、自然環境と共生するエコシステムの様子を、
水上移動式住居のモック(模型)と映像で表現した。(Ginza Sony Parkの会場風景)

海面に浮かぶ移動式住居を発表されましたが、そのコンセプトについて教えてください。

チームリーダー 北恵 昴「2050年には気候変動や政治的な問題の影響で、居住できる国を失った人々が海上へ生活拠点を移している」という設定に基づき、住居の形状や共同体の形を自律的に変化させていくことで、さまざまな環境の変化に順応し、海上生活をより安全で快適なものにサポートしてくれる水上移動可能な住居を提案しました。このアイデアのヒントになったのは建築家の丹下健三さんが提案した「東京計画1960」。これは東京湾に海上都市の軸線をつくる提案でしたが、その約100年後である2050年、人々の移動や交流がより流動的になった時に都市や住居の形はどのようになるか、SF作家の麦原遼さんと意見を交わしました。そして、生活と環境と住居が深く結びついた未来を想定し、リアリティのある形に少しずつシフトさせていきました。

Ginza Sony Parkの会場風景より、
水上移動式住居のモック(模型)展示。

住居のデザインだけでなく技術面でも、さまざまな機能性が考慮されていますね。

北恵はい。住居間の電力供給のエコシステムについて、ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)のオープンエネルギーシステムの研究員に相談したり、海上生活の一番の障害となる波の揺れに関しても、aiboをはじめとするロボットの倒立振子の設計に携わる社内のエンジニアに協力を仰いだりするなどして、技術面におけるアイデアの精度を高めていきました。また、テクノロジーだけでなく住居間の交流の仕方も重要になると考え、村や国家などがコングロマリットに形成されるような新しい共同体の構築の仕方を想定し、拡張性を連想させる正六角形や三角形をモチーフにしました。

その上で考えたのは、たとえ居住できる国を失った人であれ、必ずしも質素な家に住む必要はないということ。誰もが「こんな家なら自分も住んでみたい」と思えるようなデザインを意識しました。

30年後の未来のデザインを考えるなかで、どのような気づきを得ましたか。

北恵私自身は現在BRAVIAやその周辺機器のデザインに携わっていますが、普段はどうしても技術ありき、現行品の課題ありきでアイデアを展開しがちで、現状から大きくジャンプアップしたアイデアが出にくい点に問題を感じていました。今回は、SF小説で設定された世界観と有識者から得た知識からアイデアを展開し、作中の登場人物がそれを利用したときの反応を想像しながらアイデアを収束させたわけですが、最終的に大胆でありながら繊細な感覚を揺さぶるようなアイデアになったのはこのデザイン手法の効果であり、魅力ではないでしょうか。

また、SFの父として知られるジュール・ヴェルヌは、「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」という言葉を残していますが、そのためには未来を実現する情熱が必要です。幸いなことにソニーは、そんな情熱を持った人であふれています。ソニーのデザイナーとして、その情熱を集約させ、わかりやすい形状でビジュアライズし、さまざまな人の共感を集めて巻き込み、さらに加速させていくことで、遠い未来を少しでも近い未来にしていかなければならない。デザイナーの使命感を、あらためて心に刻む機会になりました。

「HABITAT」チーム:新井 笑佳、北恵 昴、清水 良広、弓場 大夢

テーマ3:「SENSE, 2050」 嗅覚による
体験共有型エンタテインメント

デザインプロトタイピング「Sensorial Entertainment(センソリアル エンタテインメント)」:
記憶の中の香りを再現する、2050年のサービスとツール。
感情データを解析し、嗅覚をデジタルで再現する仕組みをモック(模型)と映像で展示。
(Ginza Sony Parkの会場風景)

「SENSE(感覚)」という大きなテーマを、どのようにしてひも解いていったのでしょう。

チームリーダー 鈴木 匠五感のうち、ソニーのエンタテインメント領域のなかでも開拓途中の分野である嗅覚に着目しました。津久井五月さんに執筆いただいたSF小説には、現在のパンデミックの影響でマスク着用の文化が継続している未来を舞台に、香りだけを味わうバーチャルレストランが登場します。そこで使われる嗅覚を用いたサービスと、マスク型のツールを構想しました。ユーザーの記憶の中の香りを再現することで、過去の思い出を追体験させ、新しいコミュニケーションを生み出すという設定です。

ご自身が書かれたSF小説では、どのようなアイデアを発表されましたか。

鈴木2050年のエンタテインメントという切り口から、人間以外の動物の感覚をフィードバックして体験させるという内容のSF小説を書きました。他にもさまざまなアイデアが出ていましたが、テクノロジーの観点で決め手になったのは、香りを自由自在に再現する技術が現時点では存在しないこと。また、感性的な面で決め手になったのは、津久井さんの小説の登場人物たちが性愛から切り離された関係を構築する際の嗅覚の描かれ方が印象的だったことでした。

これらの視点から、メンバー内で嗅覚に関する研究データやエンタテインメントへの活用例などについてデスクトップリサーチを行う一方、より独創的なアイデアを求めて、ソニーが以前発売していたパーソナルアロマディフューザー「AROMASTIC」の開発に携わったエンジニアへインタビューを行うなかで、嗅覚を活用したエンタテインメントの可能性が広がっていったのです。さらに着目したのは、人の嗅覚と記憶や感情には、深い結び付きがあるということ。こうして、「身の回りのセンシングデバイスから情報を取得し、香りによって新たな体験を提供する」という設定を突き詰めていきました。

Ginza Sony Parkの会場風景より、
香りを再現する機能を備えたマスクのモック(模型)展示。

嗅覚という領域について、科学的・技術的にも緻密な設定に取り組んだわけですね。そのなかで今後の社会につながる気づきなどがありましたら、教えてください。

鈴木大きな気づきとしては、人と香りを共有する体験にはこれまでにないエンタテインメントの可能性が感じられるということ。と同時に、それは人と人の新たな結びつきにもつながるのではないか、ということです。リサーチのなかでも、アルツハイマー病予防における匂いの重要性や、新型コロナウイルス感染後の嗅覚・味覚障がいなどの研究事例、さらには恋愛や絆を深める効能など、香りにはウェルビーイングの向上につながる大きな可能性があるという発見に恵まれました。

日頃はオーディオ・ビジュアル領域における新規事業や、R&Dを中心としたインダストリアルデザイン、UXデザインに携わっているのですが、こうした業務ではまず事業計画に基づいてPoC (Proof of Concept:概念実証) を行い、そこで得られた気づきやインサイトからデザインのゴールを設定します。ところが今回はゼロベースから「何をデザインするべきか」自体を考えなければならなかった。普段は同じゴールを目指すデザイナー同士、未来のエンタテインメントに想いを馳せ、異なる価値観をぶつけ合いながらプロトタイピングしていくプロセスを経験したことが、今後も大きな意味を与えてくれるのではないかと思います。

「SENSE」チーム:松本 安佳里、阿部 玄、鈴木 匠、片山 奈美

テーマ4:「LIFE, 2050」 人生の可能性を提示する
ライフプランニングツール

デザインプロトタイピング「Life Simulator(ライフ シミュレーター)」:
ライフスタイルや価値観が多様化した2050年において、人生の可能性を高精度にシミュレーションするサービス。
その人の意思に基づいて人生のデザインをサポートする様子を、
インタラクティブな映像展示で発表した。(Ginza Sony Parkの会場風景)

「LIFE(人生)」というテーマは、未来の人々の生き方そのものに関わる課題だと思います。どのように掘り下げていきましたか。

チームリーダー 松原 明香SF作家の藤井太洋さんの小説では、2050年には生きるために必要な「ジョブ(職)」と人生を楽しむための「ワーク(仕事)」が分離して、さまざまな形の社会保障が存在する状況が想定されています。人の生き方そのものに関わるテーマだけに、そこからこのデザインプロトタイピングへたどり着くまでにかなりの苦労がありました。

インスピレーションを受けたのは、小説の登場人物たちが多様な生き方を選択し、パラレルな人生を歩む様子です。既存のライフプランニングサービスはお金や資産が中心ですが、今後は人生を構成する要素の多様化に伴い、より多面的に人生を描き出すものになっていくのではないか。こうした議論を重ねていくうちに、「人生の可能性を広げてくれる、夢のあるライフプランニングサービス」という視点が浮かび上がりました。

Ginza Sony Parkの会場風景より、複雑で多様な人生の選択肢と
可能性を提示するサービスの映像展示。

そのサービスのあり方を考える上で、どのようなリサーチを行ったのでしょう。

松原社内ヒアリングをはじめ、国内外の議論をデスクトップリサーチし、それをチーム内で議論して一つひとつ方針や設定を決めていきました。例えば人とAIの関係性やプライバシーに関わる事例としては、フィンランドにおけるAIを活用した社会保障制度をはじめ各国のAIを活用した事例について調べ、それを元に「どうあってほしいか」「どうあるべきか」という議論を重ねました。そこから「その人の主体性を尊重し、AIはあくまでサポートに徹すること」といったサービスのあり方を導き出し、デザインプロトタイピングに落とし込んでいったのです。具体的には、体験者の方に複数のシナリオの中から一つを選択していただく体験を設計。展示を通して「その人自身が人生を決める」という主体性を確保しながら、テクノロジーと付き合う関係性を表現しています。

シナリオの構成にあたっては、現状のニュースや未来予測の文献から10年、20年後のステップを仮説化し、一つひとつリファレンスを取りながら説得力を高めていきました。自分でSF小説を書くというワークショップで学んだテクニックが、ここで大いに役立ったと思います。また、ソニー生命などのライフプランニングツールに関わるデザイン担当者へのヒアリングから得た、現状の課題や顧客のニーズの変化、今後必要になり得るものなど、実務に基づく情報を盛り込むことで、デザインプロトタイピングにリアリティをもたせることができました。

4チームの中で唯一、展示にインタラクションを用いることで、人とテクノロジーの関係性をシナリオとして具体的に表現したわけですね。

松原はい。チーム内での議論に加えて、展示もまた、対外的な議論の場になったと捉えています。良い印象も悪い印象も合わせてフィードバックをいただき、議論を重ねていくことで、世の中を良くしていくことができるはず。そう考えることで、当初は普段の業務とかけ離れていると思われた2050年という未来が、現在の延長線上にあると感じられるようになりました。デザインを通じて社会に一石を投じる姿勢にこそ意義がある。デザイナーとしても、実際に来場いただいた方から直接フィードバックを受け取ることができ、大いに勇気づけられたと感じます。

また、SF小説を書くという手法には、社会の視点からプロトタイピングできるというメリットがあるのではないか。これまで心がけていたユーザー視点に留まらず、サービス全体に対してよりマクロな視点から社会に与える影響を考えてみること。さまざまな角度から、今後につながる新しい視座を得ることができたと感じています。

「LIFE」チーム:小俣 森生、松原 明香、木村 敏之、金田 紗季

社会と人の関係を、
物語視点からデザインする

今回のプロジェクトを振り返って、全体の視点からどのような手応えを感じていますか。

プロジェクトリーダー 大野 茂幹通常は事業計画や技術戦略に用いられることが多いSci-Fiプロトタイピングをデザイン開発に取り入れる新しい試みということで、デザイナーも小説家の方々にとっても手探りの取り組みとなったと思います。その上で大きな意義としては、物語を構想することにより、社会システムの視点に立ってデザインを考えるきっかけが生まれたこと。というのも、社会的な課題解決につながるデザインを実現するには、ミクロな視点だけでは不十分です。これからのデザイナーに求められるのは、ミクロからマクロまで、さまざまなスケールで社会と人の関係を捉えていく能力ではないでしょうか。物語を通してデザインや技術開発、事業などの戦略までを幅広く含めて語ることが、デザイナーの新しい役割にもつながっていくはずだと考えています。

デザインプロトタイピングと並行して作成された「未来年表」。未来の状況を予測するだけでなく、現在から2050年へ至る架空の社会と技術の変遷をバックキャストし、背景となる時代の流れについて理解を深めた。
※年表は架空の話です。実際のソニーの商品、サービス等とは一切関係ありません

また今回は、展示という形で発表の場を設けたことで、社内・社外を問わず大きな反響がありました。一つ、会場で寄せられたコメントを紹介させてください。「デザイナーのみなさんが30年後の未来に向けて、最新鋭の技術を大胆に採用しつつ、人間への愛情に満ちた視座で考え続けようという意思も伝わってくる展示内容でした」。まさに私たちが伝えたかったメッセージそのものです。

とはいえ、今回はあくまで未来予測をしたまでのこと。この成果をどう未来につなげるか、これからの社会のためにデザイナーが果たすべき役割とは何か…。引き続き力を結集して、取り組んでいきたいと思います。