ソニーグループでは、毎年9月に全世界の拠点で、ダイバーシティについて共に考え、行動するダイバーシティウィークを開催しています。今年のダイバーシティウィークでは、国内では「Dimensions of Diversity: The Power of Belonging みいだそう、自分のカタチ。ひろげよう、仲間のチカラ」というテーマのもと、「居場所をひろげる力〜今届けるワタシたちの声〜」と題した講演会・トークセッションを、9月11日にソニーシティで開催しました。このイベントは、公益財団法人日本財団の後援で、国内のソニーグループ社員のほか、国内のThe Valuable 500(※)署名企業の社員や、企業・大学・団体職員を対象にしています。トークセッションの模様はオンラインでも配信しました。
宇津木 妙子さん
(女子ソフトボール元日本代表監督)
阿部 潤子さん
(株式会社 Connecting Point 代表取締役)
石川 陽介さん
(公益財団法人日本財団 インクルージョン
推進チーム チームリーダー)
第一部は、居場所の作り手側として、女子ソフトボール元日本代表監督の宇津木 妙子さんによる講演を行いました。58年間もの長きにわたり、現役選手から指導者、現在は後進の育成やソフトボールの普及と、さまざまな立場でソフトボールに関わり続けている宇津木さんの経験談を交えながら、個を活かすチームづくりについてお話しいただきました。
5人兄弟の末っ子として生まれた宇津木さんは、小学1年生のとき、お母様から兄弟の中で自分一人だけふるまいが変わっていて、テストなどで低い点数を取ると「あなたは恥ずかしい」と言われたそうです。お母様に認めてもらうためには、勉強ではなくスポーツしかないと思ったと語りました。宇津木さんがソフトボールと出会ったのは、中学1年生のとき。ソフトボール部の顧問の先生に「人間は同じ親から生まれても、同じ環境で育っても、みんな違って個性がある。あなたの長所はなんですか?」と問われ、「かけっこが速いこと、我慢強いこと、責任感が強くて、ただ元気。それが長所です」と答えたところ、「それを生かしてソフトボールで県大会優勝目指して頑張ろう」と言われたことが、ソフトボールを始めるきっかけになったと話しました。
宇津木さんはその後、高校、実業団の選手を経て、ソフトボールの指導者に転向。自分はどんな指導者になりたいかを考えたとき、原点となったのが、中学のソフトボール部の顧問の先生の言葉でした。宇津木さんは、それぞれ違う選手の個性を生かして伸ばすために、選手たちと向き合い、一人ひとりを知ることからスタートしました。38年前、当時所属していた工場の責任者から女子ソフトボール部の監督をやってみないかと言われたときは、お父様に相談したそうです。お父様からは「もし監督になったら、選手たちはあなたの背中を見て育つ。選手はそれぞれ個性のある人間で、ただソフトボールを教えればいいというわけではない」と助言を受け、まず選手たちに日常の挨拶、時間厳守の規律、整理整頓など、人としての基本マナーを指導したそうです。そして同時に、彼女が現役時代にやったすべての練習やトレーニングを、自分の背中を見せながら、選手たちと一緒に行ったと言います。その結果、徐々に選手たちの意識やモチベーションが高まり、当時3部リーグの最下位だったチームが、約4年間で1部リーグにまで昇格。「常に選手たちとコミュニケーションをとりながら、自分の思いを伝え、選手たちの意見を受け入れる。選手一人ひとりと向き合い、個々の長所を生かして伸ばし、個の力でチームを強くする。これが私の指導者としてのやり方です」と宇津木さんは話しました。そして、この指導方法は企業内のチームにおいても同じことであり、「自分はどういう人間なのかを知っているか。部下とちゃんと向き合っているか。上司に言いたいことを言っているか」と参加者全員に問いかけました。
宇津木さんは現在、ビックカメラ女子ソフトボール高崎のシニアアドバイザーとして、また、東京国際大学女子ソフトボール部の総監督として両チームを指導しています。若い監督には、決して自分の真似をする必要はないと語る宇津木さん。「皆さんも、上司の真似をすることはない。会社のマイナスにならない限り、自分のやり方をどんどん発信しながら組織やチームを作るべきだと思う」と話し、講演を締めくくりました。
第二部は、居場所を開く側として、The Valuable 500の署名企業で働く、障がいのある4名の社員がプレゼンテーションを行いました。この企画は、障がい者本人が声をあげる機会が少ない現状を踏まえて、当事者に語っていただくことが、一番理解が深まるという主旨の下、設けました。コメンテーターには、宇津木さんに加えて、株式会社Connecting Pointの阿部 潤子さんと、公益財団法人日本財団の石川 陽介さんを迎えました。
最初のプレゼンターは、株式会社資生堂の山下 貴幸さん。高校3年生のときにスノーボードによる事故で頚髄を損傷し、障がいを負うことになったそうです。その後、リハビリを行い大学に入学し、就職活動をする中で、「障がい者であっても本気で結果を出すことを期待する。必要な配慮はするが、特別扱いはしない」という資生堂の考え方に共感して、入社を決意されました。最初はできないことが多かったそうですが、上司や周りの社員の理解、配慮があって、仕事を習得することができたと話されました。経験を積む中で、障がいに対する真の理解や配慮が障がい者の活躍の幅を広げるのではないかという気づきが得られたそうです。そして、できないことばかりに目を向けるのではなく、できることを伸ばし、いかに会社に貢献できるかの視点を持つことが大事だと、身をもって実感したそうです。さらに、障がいのある人は、自分はどんな配慮でもしてもらって当然という考え方を持ってはいけないとも言及。自分にはどういう配慮が必要なのか、どういうことなら自分でもできるのかを、上司や周りの社員とコミュニケーションをとることで、障がいの有無にかかわらず働きやすい職場構築につながると思うと述べました。
山下さんのプレゼンテーションに対し、石川さんは「社会人になってから自分の働き方や能力、考え方について会社を通じて学ぶというのが素敵だなと思った。人間は大人になってから学ぶことがたくさんあるということを改めて思わされた」とコメントしました。
2人目のプレゼンターは、株式会社レゾナック・ホールディングスの中村 仁さん。発達障がいのある中村さんは、大学でロボット工学を専攻し、将来はロボット開発のキャリアに進むもうと思っていたそうです。しかし、大学4年、大学院2年で就職活動に失敗。職に就きたいという希望があり、障がい者就労移行支援施設に入り、1年間の訓練の後、現在の上司に出会い、2度の実習を経てレゾナックに入社しました。大学で学んだ専門分野へのこだわりを一度捨てて、謙虚に新しい別分野の問題解決に取り組んだことや、不安の中でも立ち止まらず、行動を続けたことが、今の私を作っていると語りました。入社当初は、一つ失敗すると頭の切り替えができず長く引きずってしまう自身の特性が強い課題となっていたそうです。一度聞いたことを忘れないようにひたすらメモを取った結果、何が書いてあるのかわからなくなり、行うべき業務のポイントを見落としていたと言います。上司が、メモを取った後の情報の整理の仕方を教えてくれて、それからは業務の見落としが減ったそうです。同時に不安や焦りもなくなり、だんだん仕事を楽しめるようになったと話しました。以前は社会に自分の居場所がないと思っていた中村さんですが「今は自分の活動によって、自分と同じ境遇の人たちを活性化し、社会に認められていくことが仕事を続ける原動力になっている。これからも困難を乗り越えて居場所を作り続けていきたい」と述べました。
中村さんのプレゼンテーションに対し、阿部さんは「一番すごいと思ったのは、就職活動を通じて自分の専門性を一旦横に置いたこと。直面した課題に対して、どうすれば超えられるのかポジティブに考えることが、今の中村さんを作っているのだなと感動した」とコメント。宇津木さんは「とてもいい上司と出会われましたね。そういう上司なら仕事で結果が出せるだろうし、これからの人生もバラ色になるのではないでしょうか。上司と向き合ってコミュニケーションを取りながら、自分にできることをやっていってほしい」とコメントしました。
3人目のプレゼンターは、参天製薬株式会社のモハメド アブディンさん。視覚障がい者のアブディンさんは、母国スーダンの障がい者教育・就労支援をサポートする団体の運営にも携わっています。日本では障がい者雇用が増えている一方、採用から1年以内に3割から4割の障がい者が仕事を辞めているデータについて説明しました。原因は複合的で難しいとしながらも、職場の雰囲気や人間関係など、障がい者が働くことへの理解が進んでいない点が大きな課題ではないかと提起しました。また職場の雰囲気と人間関係を改善し、障がいのある人が生きがいを感じて働き続けられる職場にするために、皆で対話をしてお互いを知ることが必要だと述べました。対話をするときに、障がい者の立場から、皆に理解してほしいことは2つ。1つは、障がい者である以前に、まず一人の人として見てほしいということ。認められたい、成長したい、自分の家族を幸せにしたいのは同じなので、一人の人として理解してほしいこと。もう1つは、障がい者が働く上で本当に必要な配慮をしてほしいということ。たとえば、視覚障がい者は会議でプリントを配られても、内容がわからず会議に参加できないが、事前にデータを共有されれば、音声読み上げソフトで確認して会議に臨むことができる。「本当に必要なことについてきちんと対話ができれば、例として挙げたデータのように4割の障がい者が離職せずに済むかもしれません。それどころか、職場の全員がお互いに向き合って、皆にとってハッピーな職場環境ができます。一に対話、二に対話、三に対話だと思います」と述べました。
アブディンさんのプレゼンテーションに対し、阿部さんは「印象に残っているのが『まず一人の人として見てほしい』というフレーズ。障がいのある人も一人の人であることに、私たちはどこまで想像力を働かせることができるのか、そのメッセージが心に響いた」とコメント。石川さんは「人生の先輩であるアブディンさんに、対話のコツや具体的なヒントをいただけたら嬉しい」とコメント。それに対してアブディンさんは「話し合う相手に一人の人間としての生活があり、目指す世界があることを想像することだと思います。また、対話は一方通行ではないので、どういう環境であれば心地よく働けるかを、障がい者側も積極的に発信しなければなりません。しかし、そうやって発信しても何にも変わらないという経験をしている人もいるということも頭の片隅においていただきたいです」とコメントしました。
4人目のプレゼンターは、ソニー株式会社の長瀬 陽介さん。早産の影響で足に障がいが残った長瀬さんは、自らの体験を踏まえて障がいのある人とない人のコミュニケーションについて話しました。長瀬さんは電車やバスで、勇気を振り絞って自分に席を譲ってくれた方に対しては、たとえその時座りたくなかったとしても、ありがたくその人の親切心を受け入れて譲ってもらうことを心がけているといいます。その理由は、障がいの種類やレベル、程度によって、障がいのある人が必要とすることは異なるため、障がいのない人の側からそれを推し量るのはハードルが高いと考えるからです。むしろ、 自分から障がいのない人の心に歩み寄り、寄り添うことを積極的に行っていると述べました。一方、あまり神経質にならずに、障がい者と気軽にコミュニケーションを取ってほしいとも言及。コミュニケーションにおける双方向の歩み寄りは、障がいの有無に限らず、仕事や日常生活において重要なことなので、このコミュニケーションの学びを応用して、多くの人と障がい以外の対話もたくさんしていけるように心がけたいと話しました。
長瀬さんのプレゼンテーションに対し、宇津木さんは「私には共に生活をしているダウン症の子がいます。そして、ソフトボールの普及活動で特別支援学校を訪問することも多いのですが、障がいのある子どもたちと触れ合っていると、どうしたらその子がもっと成長できるか、もっと喜んでくれるかを常に考えるので、お互いに生かし合っていると感じます。お互いが一人の人として、生かし合い、認め合うことがとても大事だと思います」とコメントしました。
続いて、宇津木さん、阿部さん、石川さんによるクロストークが行われました。モデレーターを務めたソニーピープルソリューションズ株式会社 ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン推進室長の森からの「障がいのある人との最初の接点、そのとき思ったこと」の問いに、宇津木さんは「ソフトボール普及活動で特別支援学校に行ったときに、最初はどうやって接したらいいのかわかりませんでした。しかし、ソフトボールのやり方を教えたら、理解して寄ってきてくれて、障がいなど関係なく子どもたちと触れ合うことができました。また、全盲の5歳の子が試合を観にきてくれたときは、ボールを手渡してから、ソフトボールの話をしました。物や手などを使って、それぞれの人の個性の中で感じとれるようにしてあげることが大事だと思います」と述べました。
阿部さんは「大学時代に、障がいのある子どもたちのための学童保育クラブでアルバイトをした時に、初めて知的障がいのある人たちと接しました。子どもたちの中には、自分の意思を言葉で伝えることが難しい子どももいて、彼らの思いを私がどうやって汲み取っていけるかを必死に考えていました。私が、子どもの思いを汲み取れなければ、パニックに陥ってしまうこともあるので、その状態だけは避けようとする必死さも当時はあったとは思います。でも、結局はお互いに楽しい時間を過ごしたいという気持ちがあって、徐々に向き合っていけるようになりました」と述べました。「さまざまな対応が必要な子どもたちを前に、もうやりたくないとは思わなかったのですか︖」との森からの問いには「思いませんでした。おんぶをしていて肩を噛まれたときは『なぜ今、噛む︖』とは思いましたが、むしろ噛むまでに至った彼の気持ちに純粋に興味が湧きました」と答えました。
宇津木さんと阿部さんの話を受けて、石川さんは「一人でいると自分がどういう人間かわからないと思いますが、自分と何らかの違いがある人と向き合ったとき、人と比べることで自分や相手が見えてくることがあります。障がいのある方と仕事をすると、そういった面が出てこざるを得ない場面があり、自分の理解だけでなく相手の理解も進むと感じます」と述べました。
また、森は宇津木さんに対して「ソフトボールの選手も一人ひとり個性があって、打つのが上手い人がいれば、投げるのが上手い人もいます。その個性を組み合わせてチームを作ることも多いと思います」と問いかけると、宇津木さんは「その通りで、選手それぞれの個性を伸ばすために私が指導者になって一番に考えたのは、選手一人ひとりの血液型や家族構成などを書き込んだ個人カードを作って、コミュニケーションを取りながら一人ひとりに役割を伝え、生かしていくことでした」と答えました。
さらに、森は「これは私の主観ですが、日本では障がい者と薄い膜越しに接している人が多い印象があります。しかし海外ではその薄い膜がなくて、障がい者に対して『あなた、何ができないんだっけ?』と気軽に聞く人もいます。日本と海外で、そういった違いを感じたことはありませんか?」と海外の障がい者について詳しい石川さんに質問。石川さんは「日本では、その場における各自の立場を大事にするため、直接的ではないコミュニケーションをすることが多く、お互いの壁を乗り越えにくい。日本人はシャイなので、障がいがある人もない人も、自分と異なる人を理解し、壁を乗り越えるためには、相当な心のエネルギーが必要なのかもしれない」と答えました。
それに対して宇津木さんは一緒に生活をしているダウン症の子について「その子は私と一緒にどこへでも行くが、周りに受け入れられているのは、私と関係性があるからです。そういった立場がなくても、もっと自然に受け入れてほしいと思います」と述べました。
最後に「本日のテーマである『居場所をひろげる力』を一言で言うと何でしょうか?」との森からの問いに、石川さんは「あくまでも組織においてですが、その組織が存在する目的やミッションまで立ち返って、自分のユニットは何をすべきか、自分は何をすべきかを考えたとき、自分ができることや得意なことが必ずあると思います。それをきっかけに自分の居場所ができていくのではないかと思います」と答えました。
阿部さんは「いつも自分自身に問いかけているのは『きれい事を言い抜く勇気』という言葉です。ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)は『きれい事』として語られることが多いです。今日ここに集まっているようなDE&Iに興味・関心をお持ちの方は、現実的に居場所を広げていくことができる人たちだと思います。ぜひ、きれい事を言い抜いてほしいです」と答えました。
宇津木さんは「私は自分の居場所を一生懸命探しながら、ただただソフトボールをやってきました。そこには壁もありましたが、それを乗り越えて自分の居場所を作りました。環境を作るのは自分自身だと思います。自分が作った環境で心地よくやれるのが一番です」と答えました。
イベントの終わりに森は「障がいのある方と話をすると、自分が知らない楽しい経験を話してもらえることが多く、自分の中に蓄積されるものが増えていくような気がして、嬉しい気持ちになります。今日は4名のプレゼンターの話を聞き、新しいことをたくさん知ることができて嬉しかったです。『知る』楽しみがあれば、居場所はどんどんひろがっていくと思います。また、ご登壇いただいた宇津木さん、阿部さん、石川さんの話を聞いていて、お三方ともそれぞれに新しいことを知りながら楽しみたい気持ちがあるのではないかと思いました。今日ご参加いただいた皆さんにも、それぞれ自分ごととして感じていただけたことがあれば嬉しいです」と述べ、居場所は誰にでも広げられる可能性を示しイベントを締めくくりました。