2026年4月10日
Sony Women in Technology Award with Nature の舞台裏:
初代受賞者から審査員へ - Amanda Randles氏との対話
2025 Sony Women in Technology Award with Nature (WIT) 受賞者の一人、Amanda Randles氏は、「各患者固有のデータを用いて治療戦略を最適化するデジタルツイン技術」に焦点を当てた研究を行っています。これは、患者の日常生活を継続的にモニタリングし、病気の早期診断と、治療の判断の精度を高めるための計算モデルです。
こうした最先端の研究と社会的インパクトを兼ね備えた取り組みは、Sony Women in Technology Award with Nature の理念を体現しています。
本アワードは、ソニーグループ株式会社とNatureがパートナーシップを組み、テクノロジーを通じて社会に前向きな影響をもたらす、キャリア初期から中期の女性研究者を表彰する年次のグローバルプログラムです。
初代受賞者として、そして今回は審査員として、このアワードとの関わりが彼女の研究にどのような影響を与えてきたのか。Amanda氏に自身の研究、アワードでの経験を語ってもらいました。
Sony Women in Technology Award with Natureのアワードセレモニーにてにて基調講演を行うAmanda氏
アワードで加速したAmanda氏の研究
──このアワードは研究にどのような影響を与えましたか?
アワードを受賞した当時、私たちは各患者固有の心臓血管動態に関するシミュレーション結果を提供し、治療戦略を最適化するデジタルツイン技術に関するPoCを終えたばかりでした。
初期の心不全研究では、「少数の患者を対象に行われる侵襲的検査で医師が取得する測定結果を、これらのシミュレーションは再現できるのか?」という非常に基本的な問いを立てていました。このアワードの受賞により、私たちはその研究の幅を広げることができました。
──このアワードによって、新たなコラボレーションは生まれましたか?
はい。このアワードがきっかけで、同じく初代受賞者の一人であるKiana Aran氏と出会い、密に協力しながら研究を進めています。彼女は、私たちの新しい手法の一部を検証するための実験を担当しています。
現在は心不全をテーマにした研究で共同の助成を受けて、この分野をさらに広げ、遺伝的要素や赤血球の理解も組み込もうとしています。本アワードを受賞するまでは想像もしていなかった展開で、本当に大きな助けになっています。
──授賞式のために東京を訪れ、ソニーのさまざまなチームとも交流されました。
研究に影響を与えそうなソニーの技術に触れる機会はありましたか?
はい。現在、データの可視化を目的として、ソニーの Spatial Reality Display
(空間再現ディスプレイ) を使ったユーザースタディを始めています。
Spatial Reality Displayは、その場に実物があるかのような立体的な空間映像を再現し、特別なメガネやヘッドセットなどを使わず裸眼で見ることができるディスプレイです。臨床医は、複雑なシステムを設定する時間がありませんし、多くの臨床環境では、使用するために装着しなければならないヘッドマウントディスプレイは実用的とは言えません。裸眼で高解像度の表示ができる点が、Spatial Reality Displayの大きな魅力です。
これまでのところ、医師たちからは「こんなものは見たことがない」という新規性を評価する声や、「使いやすい」という好意的な反応をいただいています。
Amanda氏とソニー株式会社のチームメンバーが、Spatial Reality Displayをレビューしている様子
コミュニティや産業界との連携
──このアワードへの参加は、受賞者同士のコミュニティ形成にどのように
つながりましたか?
受賞者同士のWhatsAppグループがあり、将来お互いのキャリアをどう支え合えるか、そして今後どのように女性を支援していけるか、といった話をしています。実際、初めて顔を合わせてから10分もしないうちに、そうした話題になりました。
競い合うような雰囲気はまったくありません。常に「どうすれば周りの人たちを支え、後押しをすることができるのか?」という姿勢です。すでに、お互いを別のアワードに推薦し合っている人たちもいました。
誰かが有利になろうとしているわけではなく、自然に「お互いのために何ができるか?」という空気で、それが素晴らしいと思いました。
──審査員も務められましたが、ご自身の考え方にどんな影響を与えましたか?
本当に身が引き締まる思いでした。候補者の皆さんが素晴らしく、選ぶのはとても大変でした。
誰もが自分の研究に心から情熱を注いでいて、「次の有望分野だから」という理由でやっているわけではありません。本気で社会に変革をもたらそうとしているのです。
様々な分野で、これほど大きな進展が見られたことに、わくわくしました。
アドバイスとロールモデルの重要性
──応募を検討している女性たちに、どのようなアドバイスを送りますか?
「もう少し成果が出てから、来年応募しよう」と言う人の話は、これまでに何度も
聞いてきました。
特に女性の場合、自分を積極的にアピールすることに躊躇することが多いと思います。自ら応募書類を書き、「私はこの賞にふさわしい」と言葉にするのは、容易なことではありません。
でも、応募プロセスそのものが、とても良いトレーニングになります。このアワードへの応募を通じて、「なぜ自分の研究がインパクトを生んでいると思うのか」「なぜ自分はこの研究に情熱をかけているのか」を言語化します。結果に関わらず、やってみるべきプロセスです。
リスクを取って挑戦すること、そして必要なサポートを求めることは、
とても大切だと思います。
──STEM分野に進む女性が減ってしまう大きな分岐点は、どこだと感じますか?
間違いなく高校生の頃です。大学に入る前の段階で、対策を講じる必要があります。
女性でもできる、家庭を持ちながら研究者として活躍できる、という姿を見せる、「ロールモデルがいること」はとても重要です。
私は大学時代、女性のロールモデルに恵まれていました。ある時、息子が「自分は男の子だから科学者になれないかもしれない」と言ったことがありました。彼の知っている科学者は、全員女性だったからです。
多数派が基準になるので、可能性を「見える化」することが重要なのです。
テクノロジー分野における女性の未来
──このアワードは産学連携の取り組みです。学術研究の知見を社会に活かすために、資金面以外でどのような連携が考えられますか?
エンタテインメント分野で開発された技術、たとえば映画向けの大規模流体解析や、スポーツ解析で使われる計測技術などは、医療分野とも多くの共通点があります。基盤となる手法は、人々が想像する以上に幅広い分野へと展開できます。
異なる専門分野の人たちを同じ場に集めることがとても重要です。そのような場で「どう協力できると思いますか?」と問いかけると、面白い化学反応が起こります。
短い研究発表の後に、自由なブレインストーミングを行うような、インフォーマルな場でもイノベーションは生まれます。普段は交わることのないグループ同士が会話をするだけで、大きなインパクトが生まれることも多いのです。
──このアワードプログラムを、より意義のある形に進化させるとしたら、
どこに注力したいですか?
継続的にコミュニティづくりをしていくことが重要だと思います。
たとえば大きな国際会議と併せて受賞者同士が定期的に集まれる機会があれば、つながりをより強固にできるはずです。
分野を越えてアイデアを交換し、互いのキャリアを支え合える場をつくることには大きな価値があります。すでに自然発生的なコラボレーションが生まれているので、そのネットワークを広げ、長期間維持していくことが意味のある取り組みになると思います。
──長期的に見て、このようなプログラムにとっての「成功」とは
どのような状態でしょうか?
最終的な理想は、「区別する必要がなくなること」だと思います。誰もが等しく評価され、共に支えあい、光が当たる状態です。そこにはまだ至っていません。
第2回のアワードセレモニーが東京で行われた際、審査員として出席し、受賞者と「どうすればお互いを支え合えるか」「女性研究者が、より一般的なアワードに推薦されるようにするにはどうすればいいか」というテーマに対して活発に意見を交換し合える機会がありました。このコミュニティは、互いに助け合い、成長していける場となる可能性を秘めています。
このグループの一定数が、次のレベルのアワードを受賞し、そこに至るまでを支え合えるようになったら、とても素晴らしいと思います。女性は、自ら前に出ることに躊躇しがちです。
その点は、しっかり向き合っていく必要があります。
クロージング
Sony Women in Technology Award with Nature は、社会に実質的なインパクトをもたらす研究を称えるために設立されました。本アワードの発起人であり、ソニーグループ株式会社 チーフテクノロジーフェローの北野宏明は、その背景を次のように語っています。
「女性研究者の貢献は、もっと可視化され、支援されるべきだと私たちは考えています。専門性や経験の多様性は、あれば良いものではなく、革新的な技術を生み出し、最も困難な課題に対して抜本的な解決策を講じるために不可欠なのです。」
また、Nature 誌編集長であり、本アワードの共同創設者でもあるMagdalena Skipper氏も、
次のように語っています。
「研究、テクノロジー、イノベーション分野におけるジェンダー不均衡は、依然として深刻な課題であり、早急に対処する必要があります。すべての人が、キャリアのあらゆる段階にある女性研究者を支援する責任を持つべきです。基盤となる研究を推進しているキャリア初期から中期の研究者こそが、現在であり、未来なのです。」
このアワードの詳細は、以下をご覧ください。
Sony Women in Technology Award with Nature (WIT)
