Cutting Edge

2022年6月7日

環境に配慮したセルロース系材料の高機能化

近年、環境に配慮したサステナブルな素材に注目が集まっています。「透明な紙」というアイデアを手掛かりに、高機能なセルロース系材料の開発と実用化をめざした探索活動を進めています。


  • 笠原 誠司

    Challe-Suppo

Index
一年目の結果をバネにして二年目は専門分野で再チャレンジ
最も学びになったことは「川上から川下まで」
材料を研究開発していくうえでの今後の課題
植物由来の材料「セルロースナノファイバー」

一年目の結果をバネにして
二年目は専門分野で再チャレンジ

2019年に入社して以来、材料解析やシミュレーション技術を活用した、無機半導体の研究開発をしています。学生時代は化学を専攻しており、導電性ダイヤモンドの研究をしていました。卒業後の進路を選ぶ中で、若手にも積極的に裁量を与えられる環境に魅力を感じ、ソニーに入社しました。そのため、入社後も自由に自分の研究やアイデアを発表できるチャンスがあれば、何でもチャレンジしてみようと決めていました。社内に「チャレさぽ」というボトムアップイベントがあると知ったのは、ちょうど大賞獲得テーマにプロジェクト遂行権が与えられ開発費用を頂けることになった年。待望のチャンスがやってきたと思いました。


チャレさぽ大賞を受賞したのは入社2年目の時でしたが、実は入社1年目にも専門とは関係のない、電子書籍に関するテーマでエントリーしています。社内からポジティブなフィードバックもいただいたのですが、その時は受賞を果たせませんでした。導電性ダイヤモンドや無機半導体など、それまでの自分の専門性と関係なく、説得力に欠けていたのではないかと思います。


より専門に近いテーマで再挑戦しようと、2020年開催に向けてテーマを探していた時に「大手カフェチェーン店が、日本国内の全店舗でストローをプラスチック製から紙製に切り替える」というニュースが目に留まりました。SDGsへの貢献や地球環境に対する責任についてはそれまでも議論されてはいましたが、いよいよ身の周りでも具現化され始めるんだと実感しました。


一方で、プラスチックを紙で代替するというアイデアはまだ広く受け入れられているわけではないとも感じました。その理由の一つとして、プラスチックの「透明である」という特長が紙では実現されていない点に思い当たりました。例えばカフェであれば、カップの透明性により一目で中身を確かめられること、あるいはアイスの飲み物を涼し気に感じることが重要かもしれません。そこで、「透明な紙」という新たな素材があれば、プラスチックを紙に切り替える取り組みを加速できるのではないかと考えました。

最も学びになったことは「川上から川下まで」

発表に向けた情報収集を開始すると、「透明な紙」がセルロースナノファイバー(CNF)という素材により実用化されていることを知りました。CNFという素材自体も、20年ほど前から研究されていて、透明・軽量・丈夫という優れた性能を持つことは材料研究の世界では広く認知されています。


それにもかかわらず、私たちの生活の中で目にすることはまだ多くはありません。様々な要因が考えられますが、カーボンファイバーやポリエチレンなどの既存の化学材料と比較して高価であることが要因の一つだと感じています。新しい材料である以上コストが高くなりますが、それを上回る強烈なアピールポイントを具現化しきれておらず、社会的に普及する段階には至っていないのが現状かと思います。


CNFという材料一つをとっても、材料の特長や性能からその使われ方まで視野を広げると、材料開発において、最終的にいかに企業や消費者が手に取りたいと思ってもらえるかが重要だと実感しました。自戒の意味も込めて言いますが、特に企業の研究開発では、技術を手段として、どのような価値を実現するかを考え続けることが重要だと感じています。優れた技術であっても、具現化できず価値創出に結びつかないのであればそのインパクトは薄れていくでしょう。その点、ソニーはB2Cの様々な製品の生産から販売までを手がけているので、生産時の課題やユーザーの意識をふまえて研究に臨むことができ、恵まれた環境だと感じています。

セルロースナノファイバー開発のイメージ

材料を研究開発していくうえでの今後の課題

大賞受賞後は、「透明な紙」からテーマを広げて、セルロース系材料をソニーのサプライチェーンの中でどう役立てるかの探索活動を続けています。潜在的な価値を具現化するには、製品開発者やユーザーのニーズをつぶさに分析することが重要です。特に、本テーマは新しい試みであることもあり、社内外で積極的にコミュニケーションを取りながら研究開発を進めています。


ソニーグループ内では、この数年で新たな材料が製品化されています。完全ワイヤレスイヤホン「WF-1000XM4」のパッケージに使用されている、市場回収したリサイクルペーパーや竹、さとうきびを活用した「オリジナルブレンドマテリアル」や、aiboのパッケージで使用している、ペットボトル由来のリサイクル材を50%使用した独自のフェルト素材などが、具体的な例です。


これらの製品の担当者から話を聞いたり、技術戦略コミッティと呼ばれる、ソニーグループ内で技術毎にエンジニアが集まる活動に参加したりすることで、新素材の開発における知見を得ています。現場レベルで材料を扱うエンジニアや、商品開発に関わる社員の話を聞くことで、日頃の材料解析の業務だけでは知ることのできない課題が分かり、こうしたやり取りの重要性を感じます。


今後もソニーで材料の研究開発をすることによって、サステナブルな社会に貢献していきたいと思っています。自分の開発した材料が実際にソニー製品に使われるまで、まだまだ道のりは長いですが、周囲の力も借りながら進めていきたいと思います。

COLUMN

植物由来の材料「セルロースナノファイバー」

紙とは、植物から余分な成分を除去し、セルロース繊維を取り出して成形したものです。本来セルロース繊維は透明ですが、紙は白く見えます。これは水が透明なのに雪は白く見える原理と同じです。物体の表面や内部で可視域の光が透過されると透明に見えますが、紙の場合は表面の凸凹や内部の空隙により光が散乱されるため、白く見えます。逆に、白いティッシュペーパーに水を垂らすと透明に見えますが、これは水が内部の空隙を埋め、散乱を低減するためと考えることができます。


セルロースナノファイバー(CNF)はセルロース繊維を機械処理や化学処理によって可能な限り小さく(ナノ化)したもので、繊維の大きさは一般的な紙の1000~10000分の1程度と言われています。一定の値より細かくなるとシートにしても空隙が生まれなくなるため、CNFはセルロース本来の透明なシートになります。CNFは植物由来の環境に配慮した透明材料であることに加え、鋼鉄の5分の1の軽さと5倍の強度、高弾性、高保湿性、高ガスバリア性、親水性、低熱膨張率などの特長を持つため、自動車や航空機の部材、建築材料、電子デバイス、塗料、化粧品添加剤などさまざまな用途が期待されています。

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