私は昔から好奇心が旺盛でした。私の創作プロセスの大部分を占めるのが、リサーチです。ほとんどのアイデアは映画や文学、詩、あるいは新聞記事の中に見つけた短い一文などから生まれるのですが、こういったアイデアのネタはいつも持ち歩いているメモ帳に書き留めるようにしています。写真という媒体以外から受ける刺激にも常にアンテナを向けていて、そういったものからアイデアを閃くことがよくあります。
例えば、巡礼をテーマとした私の大きなプロジェクト『Ex-Voto』は、南フランスの重要な巡礼地であるルルドを題材にした映画から着想を得ています。私のアイデアの多くは、心の受け皿を広くし、自分が暮らすこの世界に対して好奇心を抱くことで湧いてきます。また、リサーチした内容やネタを書き込んだメモ帳、スケッチブックからアイデアが生まれることもあります。
仕事の組み立て方という観点で言うと、被写体をどのように表現したいかという明確なイメージがある場合もありますが、厳密なコンセプトプランを持って臨んだり、事前に綿密な撮影計画を立てたりすることはほとんどありません。現場に着いてみたら、事前に考えていたことなんて全て吹き飛んでしまう、なんてことは日常茶飯事です。最終的にどういった作品に仕上げたいかという感覚的なイメージは持っていますが、それもほとんどの場合、その被写体となる方や撮影場所が放つ本質や雰囲気を切り取るといったアプローチになります。また、その日の運任せにする余白みたいなものも大切にしています。時には、運や偶然の産物というものも、写真には必要だと思っているからです。
だから、できる限りの下準備はして、ある程度の計画は立てますが、時には予期せぬハプニングが起こることを想定した上で、撮影に臨むことが多いです。
背景やロケ地の選択など、意識する要素はあります。頭の中で、どう見せたいかという構想はありますが、いつもイメージ通りにいくとは限りません。ただ、撮影時の空気感という意味では、昔ながらの大きな大判カメラで撮影することが多いので、研ぎ澄まされた集中力が必要です。また、とても穏やかで落ち着きのある雰囲気作りをすることが好きです。私は常々、写真家自身のパーソナリティが、撮影現場の空気感に滲み出るものだと思っています。私自身はとても物静かで穏やかな性格なのですが、巡礼者の方々を撮影する時などは、なるべくその穏やかな雰囲気を醸し出せるように努めました。
『Lost Summer(ロスト・サマー)』というプロジェクトでは、コロナ禍でプロムパーティー(高校生のために開かれる卒業ダンスパーティー)が中止になるという事態に直面した、10代の若者たちを撮影しました。当時、世界中の人々を巻き込んだ混乱の最中にあった彼らの表情は、やはり憂鬱な雰囲気ですし、そこには喪失感や失われたプロムパーティーへの憧れがありました。でも、私は彼らには物悲しさだけではなく、立ち向かっていくような感情を持っていてほしかったし、ありのままを見せてほしかったのです。撮影にあたっては、動き回らないことと、目線をカメラに力一杯向けてほしいというディレクションをしました。私のポートレート撮影に不可欠な要素である「静けさ」を捉えたいと考えていました。
ここでも強調したいのは、基本的には被写体自身が自分らしさを表現できるよう、なるべく余白を残すようにしているということです。ポートレート撮影の場合、ほんの少しの仕草の違いで、作品のイメージががらりと変わり、面白いものが出来上がったりします。特にプロムの作品では、女子と男子では身のこなし方が異なるという点にも気がつきました。仕草や手の位置などは、写真全体の印象を左右する重要な要素でもあります。
私にとってポートレート撮影とは、私と被写体が互いに呼応しあって作り上げるコラボ作品のようなものです。2つが1つになった時に、唯一無二のものが生まれる、そんな感覚です。
賞の存在は、以前から認識していました。他の写真賞へ作品を応募した経験もあり、すでにある程度の成功も手にしていたのですが、ソニーワールドフォトグラフィーアワードには、新作を応募することにしました。審査員の中には、写真集の編集者やキュレーター、美術館の館長などが名を連ね、その多様さに驚いたことを覚えています。応募しようと決めたのは、世界的に権威ある賞だからというだけではなく、ちょうどその年にディスカバリー部門というカテゴリーが新設され、それがその頃私が着手していたプロジェクトにぴったりだと感じたからです。というのも、巡礼をテーマにした新作のプロジェクトは、人々が信仰する心を発見し、そしてその土地との繋がりを発見するという内容だったのです。元々は、ソニーワールドフォトグラフィーアワードに作品を応募するつもりはなかったので、巡り合わせが良かったともいえるかもしれません。受賞の連絡を受けた時には応募したことを忘れていたので、心から驚きましたし、とても嬉しかったです。
個人的なプロジェクトに取り組む際には、様々なカメラや機材を使います。メインカメラは昔ながらの大判フィルムカメラで、全て5x4サイズのシートフィルムを使って撮影をしています。この手法は非常に時間も手間もかかりますし、気を付けなければいけないことも多く、また繊細で正確な作業が求められます。ソニーの助成金きっかけにドキュメンタリーの長編映画『Mother Vera』を制作した際には、α7R IIIなど全てソニーの機材を使って撮影をしましたが、これは非常に気に入りました。レンズは主に、被写界深度が私の好みに合う50mmのものを使用しました。また、ミラーレスカメラなので動作音も非常に静かで扱いやすく、修道院のような静かで厳かで、シンとした雰囲気の中での撮影に適していました。
このカメラには仰々しさがないところも、気に入っています。とても控えめで、修道院の中での撮影にはもってこいの最高の機材です。『Mother Vera』は、できれば2024年に公開したいと思っています。
心を込めて作品を作ることが大切だと思います。こんな風に言うとありきたりで安っぽく聞こえるかもしれませんが、やはり自分の好奇心が突き動かされるものに向かうべきです。好奇心が突き動かされないものを題材に作品を作っても、それは空虚なだけです。個人的なプロジェクトの場合は特に、自分の想いや、自分の興味が作品に表れていなければいけないと私は思います。
写真業界全体に関してとなると、まずは諦めることなく、ただひたすらに努力を重ね続けることが大切です。これ以外の職業につくことは考えられないというくらい、がむしゃらに打ち込んでください。学生さんの中には「将来は映画監督にもなりたいし、弁護士にもなりたいし、写真家もいいなと思うし、テレビのディレクターになるのもいいかもしれない」などと言う人がいますが、そういう人には「写真家を目指すのであれば、写真家だけを目指しなさい。なぜなら、この業界はライバルも多く、心の底から写真家になりたいと思った人しか成功しない世界だから」と答えるようにしています。何かアドバイスを贈るとしたら、この世界で成功するためには途方もない時間がかかるので、とにかくコツコツと続けるべし、ということでしょうか。私にも、賞が獲れるようになるまでは、20年間の下積み時代がありました。だから、まずは自分の作品をあなた自身が信じること。自分の信念を貫き通し、諦めないでいることはもちろん大切ですが、同時に身の回りの出来事にも常にアンテナを張り続けることです。
そうすることで、写真以外から受ける影響や刺激が創作に活かせると思います。外からの刺激を受けることで創作意欲が沸き、作品にはこれまでになかった視点や奥行き、折り重なる深みといった要素がプラスされ、さらなる高みへと引き上げてくれます。
私は、これまでの経歴的にも家系的にも、どちらかというと学者肌の人間です。家族全員がそうなので、クリエイティビティというのは、ただ写真を撮るのが上手だとか、絵が上手だとかだけでなく、さまざまな形で現れるものだと考えています。私の場合、絵を描くのがとても苦手なので、そういった意味でのクリエイティブなセンスはないと思っています。
私にとってクリエイティブであるということは、いかに作品の物語にのせて自分の想いを表現するかということです。そこにこそ、私の"Voice"があると感じます。私の撮る写真には、作品の中にもその物語の中にも、私の欠片みたいなものが入っているように思います。でもそれは、作品を、自分の承認欲求を満たすための道具として使っているという意味ではありません。作品と、その作品を作った作家の個性は切っても切り離せない関係にあるという意味です。
だからこそ、写真家は作品を通して、自分が何者なのかということや、その時に感じたことを素直に表現することを恐れてはいけないと思うのです。むしろ、そうすることで作品に力強さが加わるので、怖がらずに自分をさらけ出す気持ちがとても大切だと思っています。
『無題』Ex-Votoシリーズより (ソニーワールドフォトグラフィーアワード2018, Photographer of the Year, ディスカバリーカテゴリー, プロフェッショナル部門) / 『無題』Ex-Votoシリーズより (ソニーワールドフォトグラフィーアワード2018, Photographer of the Year, ディスカバリーカテゴリー, プロフェッショナル部門) / 『無題』Ex-Votoシリーズより (ソニーワールドフォトグラフィーアワード2018, Photographer of the Year, ディスカバリーカテゴリー, プロフェッショナル部門) / 『I Diavoli, Prizzi, Sicily』Gli Isolaniシリーズより / 『Le Maddalene, Militello Rosmarino, Sicily』Gli Isolaniシリーズより / 『Is Sonaggiaos, Ortueri, Sardinia』Gli Isolaniシリーズより / 『Sos Corriolos, Neoneli, Sardinia』Gli Isolaniシリーズより / 『Sos Merdules, Ottana, Sardinia』Gli Isolaniシリーズより / 『Fabian』Lost Summerシリーズより / 『Jameela』Lost Summerシリーズより / 『Precious』Lost Summerシリーズより / 『Samuel』Lost Summerシリーズより