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ソニー社員発の一般社団法人「Arc & Beyond」とは? 〜持続可能な社会課題解決に挑み、プログラミングなどの教育機会の創出を少年院から拡大〜

    テクノロジーやビジネスの経験に富んだソニー社員が結集してボトムアップで立ち上げた、一般社団法人Arc &Beyond。教育や体験を得る機会の格差をはじめ、創造性の発揮や感動の享受を妨げている社会課題の解決をめざす事業に取り組んでいます。 そして2025年度には、Co-Founderの石川洋人、萩原丈博が授業内容の構築と導入に尽力したプログラミング教育が、少年院でスタートする予定です。石川と萩原が子どもたちの支援に乗り出したきっかけから、ソニーの枠を超えてさまざまなステークホルダーを巻き込み、社会課題の解決を持続可能なビジネスにしようと奮闘する現在まで、その想いと狙いを紹介します。

    目次

    ICT教育は喫緊の課題

    Arc & Beyondの石川と萩原は、これまでもプログラミングなどを通じて少年院など、「ディスコネクテッド・ユース(Disconnected Youth)」の社会復帰の支援に取り組んできました。
    少年院で2025年度から始まるプログラミング教育は、ソニーが開発したIoTブロック「MESH™(メッシュ)」を使用したプログラミングと問題解決を組み合わせた授業です。萩原が主体となって授業のカリキュラムを企画・開発し、法務教官が授業のプロトタイプを体験しながら実際に在院者に授業を行うために改良を加え、少年院で導入していきます。授業では、センサーやプログラミングを使って⾝近な課題を解決する経験を積むことで、論理的な思考や課題に対処するための柔軟な想像力がつきます。また、チームで話し合いながら課題に取り組むことで、コミュニケーション力も鍛えられます。

    現在、プログラミング教育は義務教育の課程で必須となるなど、社会のデジタル化に伴い、その重要性が急速に認識されています。法務省でも、職業指導の一環として少年院へのICT教育の導入を進めてきました。さらに、成人年齢が18歳に引き下げられたことで、過去に比べ、少年院を出た後、成人として社会で即戦力として働く可能性が高まっています。プログラミングは在院者にとって、社会復帰後すぐの就労や選択肢を広げるために、今まさに必要な実践的で効果的な学習の一つです。

    そして今回の教材の企画・開発には、米国でさまざまな事情により学校に通えず、仕事に就く機会も失っている子どもたちの支援事業創出に取り組んできた石川と、MESHを開発した萩原の長年の知見が大いに生かされています。

    少年院での模擬授業の様子

    子どもたちが学校から離れない環境を

    石川はソニーグループの米国子会社「Takeoff Point」でMESHの販売を担当してきました。しかし、米国ではすでにさまざまなプログラミング教材が市場に参入しており、販売になかなか結び付きません。それでも営業で小中学校に通う中、家庭の事情や犯罪に巻き込まれるなどの理由で学校生活からドロップアウトしてしまう子どもたちの存在に注目するようになります。

    「子どもたちがいない場所に営業しても意味がない。それよりも子どもたちが学校から離れないような環境、勉強との接点を持てるようなきっかけを我々大人がつくるべきだと思いました」。

    子ども向けに市民センターで行われているボランティア活動に参加。子どもたちにMESHの使い方を教えながら、「プログラミングを習得すれば自分でビジネスをしてお金を稼ぐことができる」と伝えると、「勉強は意味がない」「どうせ自分には無駄」と投げやりだった子も、「プログラミングってこんなに簡単なの」「手を動かすのが楽しい」と、希望を口にするようになりました。石川たちの活動は評判を呼んでメディアからも取り上げられ、あちこちのセンターから依頼されるように。大きな手ごたえと、社会課題解決を目的とするビジネスのニーズを強く感じました。

    さまざまな学校現場に出向き、教諭へのトレーニングなどを行った。

    テクノロジーのハードルを下げ、チャレンジ精神を生む

    石川はこの経験をもとに、2021年からは日本でも挑戦を始めます。萩原たちと法務省を訪問し、社会復帰に向けたプログラム教育の有用性について説明。全国を飛び回り、複数の少年院で模擬授業も行いました。在院者の中には、コミュニケーションのサポートが必要だったり、医療的なケアが必要だったりする子どももいます。模擬授業を通して、萩原たちMESHの開発者側も一人ひとりの事情に沿ったツールの効果的な使い方を学んでいきました。

    在院者が模擬授業を楽しんでいる姿を見て、法務教官からは「少年たちや職員の輝く目を見て、やらない理由はないと思った」「少年たちには難しいのではないのかと思っていたが、教えなくてもどんどん進めて、非常に生き生きとしていた」との声が寄せられました。萩原は「プログラミングに難しいイメージを持っていたところに、MESHを導入し、ぐっとテクノロジーのハードルが下がることで、ツールを生かして自分たちの環境を変えていけると実体験として意識できたのでは」と、分析します。

    そして、プログラムにはインパクト評価の手法が導入されました。萩原は「プログラムがどのような成果を生むのかを可視化するのが重要です」と、狙いを語ります。評価の目的は、単に数値化することではなく、プログラムの改善と継続的な発展を促すこと。例えば、子どもたちの社会性の向上や、学習意欲の変化を測定し、それに基づいたカリキュラムの最適化を行っていきます。また、NPOや企業と連携して、社会復帰後、継続的なサポートに役立ててもらうことも目標の一つです。

    未来の教室の実証事業では、秋田県や宮城県でワークショップを開催した。

    障がいのある子どもたちや地方にも機会を

    さらにArc & Beyondとしては、障がいのある子どもたちとの共創や、都市部との教育格差が問題となっている地方へのプログラムの拡大も進めています。MESHは小学校約3000校で活用されていますが、通常学級に限らず特別支援教育でも幅広く活用されています。2024年に実施された筑波大学附属学校の交流イベントでは、小学生から高校生まで、障がいの有無にかかわらず児童・生徒たちがMESHを使って制作物をつくり、発表に挑戦するなど、インクルーシブな取り組みとの連携を始めています。

    また、経済産業省が主導する新しい学習の基盤づくりなどを目指す「未来の教室」実証事業では、秋田県と宮城県の地域をフィールドに、地域の民間事業者が学びの機会を自走可能な形で実施するために必要なスキームの実証を行いました。各地の地域コーディネーターを介して、両県で合わせて約55の地元企業や行政と面会し、教育における地域課題のヒアリングや地元の子どもたちとその保護者計約115人を招いたワークショップを開催し、教える側に高度な専門知識がなくても実施できるプログラム運営や自律的にワークショップが継続できる仕組みの検討を行いました。今後、MESH以外のデジタルテクノロジーの活用や官民連携などを加速させていきます。

    Arcは"架け橋"、Beyondは"超えていく姿勢"。共創しながら、社会課題を超えていくという想いが込められている。

    持続可能な社会貢献モデルの構築へ

    Arc & Beyondには、現在、約20人のメンバーが在籍しています。新規事業立ち上げの経験者、自動車のソフトウェアエンジニア、Sound AR(拡張現実)の研究者、営業や事業開発を経験してきたビジネスパーソン、経理・広報の専門家、CSR領域に長けたサステナビリティ人材—。それぞれが固定的な役割にとらわれず、 メンバーの多様な個性や強みが混ざりあうことで、新たなイノベーションにつながります。これだけ多様なバックグラウンドのメンバーが集まったのは、単なるスキルセットの適合だけではなく、代表の石川をはじめとするCo-Founderたちの社会課題に真摯に取り組みたいという想いに共感したからでした。

    ただ、一言で社会課題の解決と言っても、歴史的・制度的な背景を持つ構造的な問題が根底にあったり、技術的・経済的な制約の解消や社会全体の価値観・行動様式の変革が求められたりと、複数の要因が絡み合う課題に長期的なアプローチが求められます。一時的な対策では持続可能な解決になりません。

    そこで、Arc & Beyondは法人形態として、非営利型の一般社団法人を選択しました。これは、短期的な利益追求ではなく、社会的インパクトを最大化することを重視したからです。また、出資していなくても、技術・サービスやアイデアを提供することで経営に参画できる形をとることで、社会課題というと難しく聞こえて、しり込みしてしまう企業や団体への敷居を低くしました。「課題解決に乗り出そうと考えたら、誰でも共創できる仕組み」(石川)を構築しました。

    ファンドパートナーとソリューションパートナーの2つの枠組みで構成される運営スキームを導入。ファンドパートナーはArc & Beyond基金(非営利徹底型)に拠出し、ソリューションパートナーは技術や事業を提供する形で支援を行います。パートナーには設立当初から、多くの企業や団体が関心を示し、多数の問い合わせが寄せられました。基⾦を投資運⽤した運⽤益を事業運営に充てることで、より長期的な目線で事業を進めていくことが可能になります。

    日々、さまざまな企業や団体との連携に奔走している石川は「社会課題の解決には、1社だけでは限界があり、さまざまな企業や団体との共創が必要。枠組みを超えて、社会的価値で目線を合わせれば、世の中は変わる」と、想いを語ります。設立2年目となる4月からは、さまざまな社会的障壁により、創造性を育むことや感動することが難しい状況下のあらゆる人々に対し、機会を創出し、社会への参画・活躍を促すことで、価値創造の連鎖を生む取り組みを行います。そのために、多様なパートナーと共創し、イノベーションを共創するプラットフォームを構築することを目指し、動き始めています。

    石川 洋人(いしかわ ひろと)

    一般社団法人Arc & Beyond 代表理事/Co-Founder
    ソニーグループ株式会社 事業開発プラットフォーム CSV事業室 室長
    大学卒業後、米国投資銀行に入社。2003年にソニー株式会社(現・ソニーグループ株式会社)に転職し、海外事業を担当。2009年に米ミシガン大学でMBA取得後、ソニーのトップマネジメントのスタッフとして構造改革を推進。2015年にTakeoff Pointを設立。社会課題をビジネスで解決する事業を複数立ち上げる。2024年に一般社団法人Arc & Beyondを設立し、代表理事/Co-Founderを務める。複数のアクセラレータープログラムのアドバイザーや、日米の大学・高校での起業家教育・支援にも携わる。

    萩原 丈博(はぎわら たけひろ)

    一般社団法人Arc & Beyond 業務執行理事/Co-Founder
    ソニーマーケティング株式会社 B2Bプロダクツ&ソリューション本部 B2Bビジネス部MESH事業室 室長
    2003年にソニー株式会社(現・ソニーグループ株式会社)入社後、ネットワークサービスの企画開発や、機械学習など知的情報処理の研究開発に従事。2011年-2012年スタンフォード大学訪問研究員として、Human Computer Interaction領域で研究。2012年に「MESH™」の原型となるプロジェクトをスタートし、2015年に事業化。 MESHは現在、全国各地の小学校プログラミング教育や、大学や社会人研修などに活用されている。2024年に一般社団法人Arc & Beyondを共同設立し、業務執行理事/Co-Founderを務める。

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