"特性"を戦力に、働く領域を広げる。ソニー希望・光の挑戦とは
ソニーグループは、事業と人材の多様性を強みとして、これらを有機的に結びつけることで生まれるシナジーにより、新たな価値創造に取り組んでいます。その一端を担うのが、ソニーグループ株式会社の特例子会社であるソニー希望・光株式会社(SKH)です。SKHでは、グループの多彩な事業と地続きの現場で、知的障がいや精神障がいのある社員の可能性をひらく取り組みが進んでいます。今回は、社員のクリエイティビティを生かした企画への挑戦や、個性を生かせる新たな業務の獲得など、活動の広がりとともに、社員一人ひとりがいきいきと働く現場の様子をお届けします。
目次
その人ならではのインスピレーションがかたちになる瞬間
8月、株式会社ソニー・ミュージックソリューションズ(SMS)のオフィスに、SKHのメンバーが訪れました。SMSでは、障がいのあるクリエイターや、多様な感性・背景を持つ人々との共創を通じて新たな価値を生み出す「Creative Vision Project」に取り組んでいます。今回、SKHもその取り組みに参画し、インクルーシブデザイン※の実践を軸とした共創プロジェクトの第一弾が開催されました。
※多様なユーザーを包含・理解することで新たな気づきを得て、一緒にデザインする手法。
ワークショップがスタート
会場では、SMSのデザイナーとともに、SKHのメンバー約20名が3つの創作ワークショップに挑戦しました。印刷された写真の上に透明のボードを重ね、絵の具やペンで"感じたもの"を描くワークショップでは、4本の筆に異なる色を一度に含ませて勢いよくストロークを走らせる人、絵の具とマーカーを使い分けて質感の対比をつくる人、サメ好きを宣言して正面・俯瞰と多視点で描き重ねる人など、それぞれの表現が爆発。解き放たれた自由な感性がそこかしこで溢れました。
思い思いの絵を描くSKHのメンバー
「失敗も芸術だよね」「アートセンスが爆発してますね」とお互いに声をかけ合いながら、会場は終始にぎやか。和気あいあいとした雰囲気の中、わずか1時間ほどで何十枚もの作品が仕上がりました。まさに"多様な感性が新たなデザインを生む"というプロジェクトの趣旨が、その場で形になった瞬間でした。
完成した絵
完成した絵は、元の魅力を生かしつつ、SMSのデザイナーの手でプロダクト向けに形を整えられ、国内ソニーグループの社員とその家族のための夏フェス「All Sony Festival」内のメインイベント、家族の職場参観日「Family Day(ファミリーデー)」で開催したモノづくりワークショップでサコッシュのコラージュデザインに使われました。この実績が大きな手ごたえとなり、次なる共創プロジェクトに向けた動きもすでに始まりつつあります。
環境整備からIT/映像領域まで、グループの仕事を担う
SKHは2002年に設立以降、ソニーグループにおけるさまざまな業務に取り組んでいますが、そのスタートは環境整備(清掃)でした。その後、総務カウンター運営やメール集配、名刺印刷、経理資料作成など、事務サポート領域へと拡大。さらに2019年からは、アーカイブ資料のデジタル化や画像アノテーションなどIT/映像系の仕事に本格着手し、現在は①オフィス環境整備②事務サポート③IT/映像の三本柱でソニーグループを支えています。
その中でも、ソニーグループならではの仕事の一つであるIT/映像業務の立ち上げは、小さな一歩から始まりました。事務サポート業務の一環で、エンジニアのスキルを図るための社内向けテストの製本を納品。すると、その仕事の丁寧さから、そのテスト原稿を電子化する仕事を追加で委託されました。そこで、一字一句間違えてはならないソースコードを電子化。依頼品に加えて、誰がやっても同じ品質で再現できるように手順そのものを60ページに及ぶマニュアルとして構造化し、納品しました。その地道な積み上げを関係者が高く評価し、顔認証やオートフォーカスなどのカメラ機能を根底で支えている、画像アノテーション業務の依頼へとつながったのです。
画像アノテーションとは、画像の中に映っている物や人物・動作などにラベル付けをすることで、AIが正しく認識・学習できるようにする仕事です。SKHでは2020年にトライアルを経て本格化し、当初3名から始めてメンバーを増やしながら、約1年半で10万枚のデータを作成。その正確性から、最初に取り組んだ4000枚は、後続の精度を測る際の「基準データ」として扱われました。そのデータを用いて開発されたフルサイズミラーレス一眼カメラ 『α7R V』は、「カメラグランプリ 2023」において、最優秀賞である「大賞」を受賞しています。
業務リーダーの入倉崇
現在では、エンタテインメントロボット『aibo』のための画像アノテーションにも取り組んでいます。業務リーダーでサポーター(障がいのある社員をサポートする社員)の入倉崇を筆頭に十数人で、aiboに家庭内の居室や家具を識別させるため、リビングや台所といったデータ上で家具を立方体で囲い、「椅子」「ベッド」とラベルを付与していきます。
さらに、品質担当の美間暁⽣がラベル定義の矛盾や境界ケースを一つひとつ洗い出し、週1回の定例会で開発エンジニアとすり合わせ。美間は蓄積された判別事例の資料約400枚のほぼ全てを記憶しており、作業の正答だけでなく「なぜそう判断したか」を開発側に説明したり、意図を確認したりと、「お客様の考え方に直接触れられるのが面白い」と話します。ルールを与えられる側ではなく、ともに作る側。「開発現場との表裏一体の協業」(入倉)が、当たり前の関係性になっています。
品質担当の美間暁生
特性を"戦力"に変える工夫
質の高いサービスをクライアントに提供するため、SKHの職場では、一人ひとりの特性に寄り添いながらも、仕事としての基準を下げることはありません。例えば、あいまいな指示では迷ってしまうメンバーには作業の定義を明文化し、文字だけでは理解が難しい人には図解中心のマニュアルを用意。チェック作業が苦手な人には個別のチェックシートを設計し、苦手を "仕組み"によって調整します。業務リーダーの入倉は「これは苦手と決めつけない。工夫すれば改善できることもある」と話します。
こうした地道な現場の工夫の積み上げによって、障がいのある社員数は2007年の27人から2025年10月時点で183人へと6倍以上に。業務の幅が広いので、1日の中でITと清掃を担うなど複数を兼務する社員が多く、事務サポートに携わっていた社員が「ITに挑戦したい」と、新たな仕事にチャレンジするケースもあります。
職場で大切にされているのは、"できること"に人を当てはめるのではなく、"その人が本来持っている特性が生きる場所"を見極める視点です。だからこそ、誰かの特性を理由に守るのではなく、「じゃあ、こういう形ならもっと力を発揮できるのでは?」と、前向きに提案する文化があります。
美間は「皆さんがお互いの得意不得意を自然に想像し合っている。だから余計なストレスなく集中できる」と語ります。互いの個性が前提として共有されているからこそ、一人ひとりが自分のペースで求められる成果を出し続けられる。日々の仕事で証明される多様性の力を、SKHの現場は確かなかたちで示し続けています。
入倉 崇(いりくら たかし)
ソニー希望・光 株式会社 事業2部 ビジネスソリューション5課 1992年にソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)に入社、B2Bビジネス領域でさまざまな業務に携わり、直近ではデジタルシネマカメラのマーケティング担当を経て、2023年にソニー希望・光株式会社にてサポーターを務める。
美間 暁⽣(みま あきお)
ソニー希望・光 株式会社 事業2部 ビジネスソリューション5課 2023年にソニー希望・光株式会社に入社、ソニー製品の開発に関連するAIアノテーション業務や品質保証業務を担当