越境し、挑戦する人を増やす。ソニーと東京大学が始める新しい人材育成のかたち
ソニーグループでは、将来を担う人材の育成・支援に社内外で取り組んでいます。その取り組みの詳細と狙いを今後、3回にわたって紹介していきます。第1回目の今回は、ソニーが新たに始めた人材育成の土壌づくりについてです。専門分野を深めながらも、異なる領域の人たちと出会い、新しいことに挑戦してみたい—。そんな思いを持つ学生に向けて、新たな学びの場が始まります。
ソニーグループ株式会社は2026年7月、東京大学とともに「ソニーグループ人材育成基金」を東京大学基金内に設置しました。基金を通じて行う取り組みの一つが、東京大学大学院工学系研究科に10月に設置される越境イノベーション研究センターの人材育成プログラム「IGNITE」です。
東京大学だけでなく、東京藝術大学やデジタルハリウッド大学、さらには8月24日までのエントリーと選考を経て全国から選抜される学生たちが、分野や所属を越えて学び、挑戦する場です。その詳細や想いを紹介します。
「越境」から生まれるイノベーション
IGNITEには、全国から多様なバックグラウンドを持つ学生が集まります。テクノロジー、ビジネス、アート。それぞれ異なる分野の学生たちが出会い、議論し、チームを組みながら未来を構想し、その新しいアイデアを現在の状況に即して実装していきます。
そこで重視されているのが「越境」です。学部や専攻、大学、企業といった境界を越えながら、新しい価値を生み出していくことを目指しています。
今回の基金設立や人材育成プログラムの企画・運営を担当しているソニーグループ株式会社 人事部門 技術人事部 チーフイノベーションプロデューサーの杉上 雄紀は、こうした人材について「自分たちの領域だけに閉じずに異なる背景を持つ人たちを巻き込みながら、なにをなぜどのようにやるかを共に考えて実現させていく存在、越境する起業家人材」だと説明します。
また、東京大学では越境イノベーション研究センターを中心に、「挑戦者を支援する施策の効果検証やイノベーションを生み出すエコシステムのデザイン」という教育モデルそのものの研究も進められます。人材育成を実践するだけでなく、その仕組み自体を研究対象としていることも特徴です。
テーマもチームも、まだ決まっていなくていい
IGNITEは、すでに完成したアイデアを持つ人だけのためのプログラムではありません。杉上は「テーマもチームもまだ決まっていない学生にも相性が良い」と話します。やりたいことが具体化していなくても、好奇心や野心さえあれば、多様な仲間との出会いや学びを通じて、自分自身のテーマを見つけていくことも、このプログラムの大切な目的の一つです。
プログラムでは、デザイン思考やリーンスタートアップなどの実戦的な内容に加え、哲学、倫理学、地政学などのリベラルアーツにも触れながら、自ら問いを立てる力を育みます。また、企業との協創プロジェクトや学生主体のプロジェクトを通じて、アイデアを磨き、実証や社会実装に挑戦します。
魅力の一つが、多様な実践者たちと出会えることです。起業家、社内ベンチャー経験者、投資家、教育プログラムの実践者など、多様なバックグラウンドを持つメンター陣が学生たちの挑戦に伴走します。さらに、エンタテインメントやリジェネラティブなどのテーマの専門家・実務家にトレンドや市場ニーズを聞くイベントも予定されており、普段の大学生活では得られない視点や知見に触れることができます。
次の時代をつくる人材を、社会全体で育てる
ソニーグループは創業以来、テクノロジーとクリエイティビティの力で新しい価値を生み出してきました。その原動力となってきたのは、一人ひとりの好奇心や挑戦心です。
社会全体に目を向けると、少子高齢化やグローバル競争の激化など、日本が直面する課題はますます複雑になっています。こうした課題に向き合うためには、既存の枠組みにとらわれず、新しい可能性を構想し、周囲を巻き込みながら実現へと導く人材が求められています。
杉上は、「日本全体で越境し挑戦する人材の母集団を増やしていくことが重要」と話します。起業、社会起業、文化起業や研究、企業での事業開発など活躍の場はさまざまですが、重要なのは分野や組織の枠を越えて挑戦する人が増えていくことです。
8月から始動、エンダウメント型で長期サポート
人材育成や教育は、短期間で成果が見えるものではありません。そのため、今回は、エンダウメント型基金という仕組みを採用しました。
一般的な寄付が寄付金そのものを活用するのに対し、エンダウメント型基金では基金の元本を維持しながら、その運用益を教育や研究活動に活用します。ソニーグループと東京大学は、一過性の取り組みとして終わらせるのではなく、長期的に挑戦の場を支え続ける仕組みとして、この基金を設立しました。
10月からのプログラムの本格始動を前に、8月にはIGNITEの体験イベントも開催されます。8月19日には東京大学本郷キャンパスで、「文化起業ワークショップ」と「ソニーミュージックコラボ・ワークショップ」を実施予定です。
ソニーミュージックとのコラボ・ワークショップでは、トップマネジメントに音楽業界の今を聞き、日本の音楽を世界へ届ける新たな提案、社員からフィードバックを受けます。10月からはこのテーマで協創プロジェクトを実施予定です。2026年度のIGNITEへのエントリーは8月24日までです。
杉上 雄紀(すぎうえ ゆうき)
ソニーグループ株式会社 人事部門 技術人事部 チーフイノベーションプロデューサー ソニー株式会社にソフトウェアエンジニアとして入社後、ホームエンタテインメント領域の商品企画や社内スタートアップの立ち上げと事業開発に従事。2023年より人事に異動し、産学連携を通じた越境人材の育成を推進している。