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投資のその先へ。Sony Innovation Fundが育むグローバルな共創のエコシステム

    新しい事業は、優れた技術やアイデアだけで生まれるわけではありません。資金や事業開発の知見、適切なパートナー、そして挑戦を続ける起業家などが結びついて初めて、社会に届く事業へと育っていきます。
    2016年に設立されたSony Innovation Fund(SIF)は、ソニーグループのコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)として、グローバルでのスタートアップへの投資に加え、ソニーグループの各事業との協業促進や、社内プロジェクトの事業化支援に取り組んできました。設立10周年を迎え、これまでに蓄積してきた知見やデータを生かしながら投資活動と価値創出のあり方を高め続けています。

    本記事では、SIFの歩みを振り返りながら、どのように有望な投資先を見出し、投資後の成長支援やソニーグループとの協業を通じて、新たな事業や価値の創出につなげているのかをひも解きます。SIFの投資活動を担うソニーベンチャーズ株式会社で代表取締役社長を務める波多野 和人のほか、英国・ロンドン、インド・ベンガルール、米国・ロサンゼルスを拠点に活動するメンバーに話を聞きました。

    [目次]

    10年の歩みが導く、投資運用の進化

    2016年に設立されたSIFは、ソニーグループのCVCとして、当初はソニーグループの資金によるスタートアップ投資から活動を開始しました。その後、外部投資家が参画するファンドへと運用の枠組みを広げるとともに、グローバルでスタートアップへの投資を行い、ソニーグループの各事業との協業促進に取り組んできました。2021年には、ソニーグループ内のファンド運営を事業として推進するため、100%子会社のソニーベンチャーズ株式会社を設立。現在は同社を中心とする投資専門チームが、SIFの投資活動や投資先の成長支援を推進しています。

    これまでの投資先は、世界各地の約220社に上ります。現在も約170社に対して支援を継続していますが、波多野の下、10年にも及ぶ活動を通じて蓄積してきた知見やデータを生かし、投資運用のさらなる高度化を進めています。
    波多野は「外部投資家からお預かりした資金を運用する以上、投資リターンをお返しする責任があります。これまでの運用パフォーマンスを振り返ったとき、さらに進化の余地があると考えました」と振り返ります。

    スタートアップ投資は、成果が表れるまでに長い時間を要します。波多野は、過去の投資実績やデータを分析し、従来の知見や経験に統計的なアプローチを組み合わせることで、投資判断とポートフォリオ運営の高度化を目指しました。

    こうした分析を踏まえ、以前は幅広い領域に分散していた投資対象を、SIFとソニーグループの強みを生かせる6つのセクター※に絞り込みました。さらに、確信度の高い案件にはより重点的に投資する方針へと転換しました。「リターンだけでなく、ポートフォリオ全体のリスクをどう最適化するかも重視しています。データ分析を進める中で、異なるセクターを組み合わせることがリスクの低減につながることも見えてきました」(波多野)。

    • ※:ディープテック、クライメートテック、エンタープライズテック、フィンテック/DLT(Distributed Ledger Technology)、エンタテインメント、LBE(Location-Based Entertainment)の6つ。

    「投資」で終わらない、価値創出と成長への道筋

    もう一つの大きな進化は、投資後の価値創出の強化です。
    過去の分析から、投資した後に投資先スタートアップとソニーグループの事業部門との協業を活発化することが、投資パフォーマンスの向上に大きく寄与することが分かりました。
    そこで、投資前の段階からソニーグループの各事業部門の意見を取り入れ、将来的な協業の可能性も見据えて投資判断を行う体制へと見直しました。「投資先と事業部門が連携できるかどうかが、投資判断における重要な要素です」と波多野は強調します。

    加えて、投資先のバリューアップに向けて、事業部門のメンバーをSIFに受け入れるほか、SIFのメンバーが事業を兼務するなどの人材交流を行い、ソニーグループ内の各組織とのネットワークを強化しています。「事業との協業を進める上で重要なのは、誰がキーパーソンなのか、誰が最前線で知見を持っているのかを理解することです。事業部門との兼務体制によって、その解像度が圧倒的に高くなります」(波多野)。

    SIFの活動は、スタートアップへの投資や投資後のバリューアップにとどまりません。投資活動を通じて培った知見やネットワークを、戦略投資やM&A、ソニーグループ内で生まれた技術や事業アイデアの社外での事業化を支援するコーポレートインキュベーションにも生かしています。波多野は、「投資そのものを目的とするのではなく、それを起点に新たな事業や価値を生み出し、成長につなげることが重要だと考えています」と語ります。

    [写真中央が波多野 和人、左が英国・ロンドン赴任中の松島 弘、右がインド・ベンガルール赴任中の深田 陽子]

    グローバルなチームがつなぐ、共創のエコシステム

    北米、欧州のほか、アフリカやインドなど、グローバルな投資先を持つSIFは、これまでも世界の主要拠点に人材を配置してきましたが、近年、拠点間の人材ローテーションにも力を入れています。その背景にあるのは、各地域で得た知見や経験を組織全体で共有し、地域間の認識の違いを埋めることで、チームとしての力を高めたいという波多野の考えです。

    ロンドンでエンタテインメント領域の投資を担当している松島 弘は、現地の人々のファッションや身に着けているグッズ、書店に並ぶ日本の漫画、さらにはライブ会場の観客層などから、数字だけでは見えないトレンドを感じ取っていると言います。「音楽事業も兼務しているので、現地で開催される日本のアーティストの公演にも足を運びます。英国ではどのような層に受け入れられ、どんな熱量で楽しまれているのかをリアルに知ることができます」

    車通勤が主流のロサンゼルスから東京に赴任したスコット・シェーンも、電車とバスでの通勤を経験したからこそ得た気づきがあったと言います。「最初は満員電車に慣れませんでしたが、やがて日々の通勤が発見の時間になりました。多くの人がスマートフォンでゲームやアニメ、マンガを楽しんでいる様子を見て、日本の人々が日常の中でどのようなエンタテインメントを楽しんでいるのかを知るとともに、モバイルゲームやアニメ、マンガに対する関心の高さを実感できました」

    投資や価値創出には、技術やビジネスモデルの評価だけでなく、数字には表れにくい消費者の姿や熱量を捉えることも欠かせません。現地で生活し、人々の行動を自ら目にすることが、新たな事業機会を見いだす手掛かりになります。

    [スタートアップイベントに登壇するシェーン(左から二番目)]

    現地だからこそ、できること・生まれること

    さらに、各地域の市場やトレンドを理解するだけでなく、現地の慣習や文化に根ざした関係性を築くことも重要です。
    シェーンは、「私の経験では、米国での業務では紹介を起点にスピーディーに物事が進むことが多い一方、日本での業務では対面でのコミュニケーションを重ねながら、時間をかけて信頼関係を築くことが重視されます。現地に則した形でしっかりと信頼関係を育むことで、事業ニーズをより深く理解し、適切な投資機会を見出しやすくなります」と語ります。

    ベンガルールに赴任している深田 陽子も、現地ならではのコミュニケーションの重要性を感じています。「インドは、若い人材と活気あるスタートアップエコシステムを有する成長市場です。多くの起業家が創業当初からグローバル市場を視野に入れています。対話を重視する文化もあり、現地にいるからこそ、起業家や現地の事業部門と密にコミュニケーションを取れると実感しています」
    また深田は、「現地に人員を配置して継続的に活動するSIFの姿勢が、スタートアップコミュニティとの信頼関係を育み、デューデリジェンスに必要な情報をより深く把握することにもつながっています」と語ります。

    [インド・ベンガルールにて現地の事業部門メンバーにSIFの活動を紹介し共創の可能性を探る深田]

    その上で共創を生み出すためには、投資判断の前段階からスタートアップとソニーグループの事業部門が互いを理解し、関係を築いていくプロセスも重要です。有望な企業や協業の可能性がある案件は、本格的な投資検討に入る前から事業部門に紹介するなど、できるだけ早期から投資先候補と事業部門の双方とコミュニケーションを開始し、時には、本格的な投資検討に先立ってPoC(概念実証)を進めることもあります。

    シェーンは、「日本企業は米国に事業機会を求め、米国のスタートアップはアジア市場へのアクセスを求める中で、SIFは単なる資金提供者ではなく、両者をつなぐ橋渡し役になれるのです」と語ります。SIFが行っているのは、オープンなコミュニケーションを続けながら、それぞれの目指す方向性や時間軸を丁寧にすり合わせること。「今すぐ協業につながらなくても、状況が変化したときに再びつなぎ直すことで、新たな機会が生まれることがあります」

    [2026年6月にフランス・パリで開催された欧州最大規模のスタートアップイベント「Viva Tech 2026」に登壇した松島(右から二番目)]

    さらなる価値創出に向けて

    この10年間、投資を起点としながら、ソニーグループの事業部門や世界各地のスタートアップ、人材をつなぐ役割を広げてきたSIF。そのSIFの活動を通じて生まれた協業や価値創出の実例は、2026年10月13日から16日に幕張メッセで開催される「CEATEC 2026」のソニーグループブースでもご紹介しています。ぜひ会場でご覧ください。

    SIFはこれからも、世界各地で得た知見とネットワークをつなぎ、ソニーグループとスタートアップが互いの強みを生かせる機会を広げながら、アイデアを新たな事業と価値へ育てていきます。

    波多野 和人(はだの かずひと)

    ソニーベンチャーズ株式会社 代表取締役社長 ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)財務部での経験を経て、ソニーモバイルコミュニケーションズやソニーネットワークコミュニケーションズで経営企画・新規事業創出などに従事した後、2024年1月より現職。社長就任後は、データに基づくセクターアロケーションの最適化や人材ポートフォリオの再構築など、Sony Innovation Fundの投資運用と組織の高度化を推進している。

    松島 弘(まつしま ひろし)

    ソニーベンチャーズ株式会社 シニア・インベストメント・ダイレクター ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)人事部を経て、ソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)でのゲーム制作、企画・法人営業などに従事した後、Sony Innovation Fundに参画。現在は英国・ロンドンにて、エンタテインメントやスポーツ、Web3領域の投資活動を担当している。2023年より株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントを兼務。

    深田 陽子(ふかた ようこ)

    ソニーベンチャーズ株式会社 ダイレクター/Head of Sony Ventures India ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)でソフトウェアエンジニアとしてイメージング事業におけるコンシューマー向け製品開発や法人向け事業開発などに従事した後、Sony Innovation Fundに参画。現在はインド・ベンガルールにて、ディープテック、クライメートテック、エンタープライズテック、エンタテインメントテック領域を中心に投資活動全般をリードしている。

    スコット・シェーン

    ソニーベンチャーズ株式会社 シニア・インベストメント・ダイレクター ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントでM&Aやジョイントベンチャー、投資案件における法務支援に従事した後、Sony Innovation Fundに参画。米国・ロサンゼルスを拠点に、ゲームやロケーションベース・エンタテインメントをはじめとするエンタテインメント領域の投資活動を担当している。2025年8月から2026年8月までの1年間、東京本社で勤務。