Perspectives vol.12
A-POC ABLE ISSEY MIYAKE 宮前義之氏との
2回目の対話

トリポーラスがつむいだ
「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE」との協業

ソニーのデザイナーが、各分野の豊富な知見や知識がある人のもとを訪ね、
多様な思考に触れつつ学びを得る「Perspectives」。

「Perspectives vol.9」で、東京・富ヶ谷にあるイッセイ ミヤケ本社を訪れ、
デザイナーの宮前義之さんと話したコミュニケーションデザイナーの北原隆幸。
その出会いをきっかけに、宮前さん率いる新ブランド「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE(エイポック エイブル イッセイ ミヤケ)」に、
ソニーの素材「トリポーラス」が採用されることに。

今回、再び富ヶ谷を訪れ、新ブランドについて、トリポーラスの採用の経緯や次なる展開などについてふたりで話した、
必然の出会いからつむがれたその後のストーリー。

きっかけは2年前の「Perspectives」での
出会い

宮前義之さきほどカレンダーを見返したら、北原さんと出会ったのが約2年前。2011年から8年にわたり担ってきたISSEY MIYAKEのデザイナーを退任した直後で、新しいことに挑戦しようとしていたタイミングでした。あのとき、北原さんに教えてもらった「トリポーラス」という素材に興味を持ち、その可能性を模索したことが、2021年3月にスタートした新ブランド「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE」の「TYPE-I(タイプ・ワン)」につながりました。

北原隆幸「生地を試してみたい」と言われた宮前さんにトリポーラスを練り込んだ糸をお送りして、その後、検討が進んでいるという話は聞いていました。採用が決まったという連絡をもらったときには驚きました。そうなったら嬉しいとは思っていたものの、実物を拝見するまで実感が湧きませんでした。

宮前義之トリポーラスの原料は稲のもみがら。お米は日本の主食で、生活に近い存在。バイオマス素材でもあります。素材にストーリーがあることが興味を持ったきっかけでした。2021年は、弊社の50周年にあたり、新型コロナウイルスでライフスタイルが変化して、今後、自分たちがどんなものづくりをしていくかを改めて考えたタイミングでもありました。ものづくりの責任が問われ、これまで以上に、どのような素材を使うかに向き合わないといけない。普段から、服づくりを通じて社会を見つめ、社会にあるさまざまな課題をどのように解決できるかを考えていく。自分にとって、それがものづくりの原動力になっています。

最もベーシックな
3アイテムをリリース

北原自分は、トリポーラスのコミュニケーションやブランディングを担当していたので、素材としての可能性と同時に課題も認識していました。長所は、水や空気を浄化する力とさまざまな領域の製品へ展開できる可能性です。トリポーラスを練り込んだ糸で織った生地は、脱臭などの機能を備えるメリットもあります。課題は、単に練り込むだけではなく、性能を維持したまま糸としての強度を保つことや、黒色の生地しかつくれないところですね。そこが、ある種の制約だと感じていました。

宮前黒い生地しかできないというのは、服づくりにおいて大きな制約です。でも、だからこそ、そこに奮い立つというか、どうにかしてこの素材を社会に実装したいという気持ちが生まれました。ものづくりで面白いのは、制約を与えられたうえで、何ができるか。黒い生地しかできないという制約があったからこそ、黒という色にここまで向き合うことができました。

©ISSEY MIYAKE INC. Photo by Hiroshi Iwasaki

北原そしてでき上がったのが、ジャケットとパンツ、ポロシャツですね。

宮前TYPE-Iというプロジェクトで、既存の染色では実現できない、特別な質感を持った黒の3アイテムをリリースしました。黒なのに、洗っても色褪せしにくいのもこの素材ならでは。まずは世に出して、いろんな人たちの反応をもらいながら進めていこうと考えて、ベーシックな3アイテムに絞り込んだのです。

共通するポイントは
「人にどうアプローチするか」

北原自分が今回行ったことと言えば、きっかけづくりというか、種まきとでも言いましょうか。それでも自分の行動を褒めるとするなら、最適なタイミングで最適な相手にご紹介できたことです。

宮前このマッチングは単なる偶然ではなくて、北原さんはそのときに、「協業なくして、ものをつくれない時代です」と話していました。ものづくりに対するマインドに通じる部分があったからこそ、いい出会いにつながったんだと思います。

北原アパレルなら、綿をつくる人がいて、生地や糸のメーカーやそれを加工する工場があって、流通や販売する店舗があります。どの工程も不可欠で、ある意味、協業と言えます。さらに、今の時代は、生産者と消費者の境目がなくなってきています。「A-POC」は、布から服をつくるところにもユーザーの参加を促して、着る人を巻き込んでいる。「人が着ることで服が完成する」というものづくりを昔から実践されていました。

宮前A-POC ABLE ISSEY MIYAKEは、1998年に誕生したA-POCを継承し、発展させていくブランドです。20年以上前に始まった、「A Piece of Cloth(一枚の布)」を意味するA-POCは、服が一本の糸からつくられ、着るまでのプロセス全体を新たな視点でデザインしてきました。買った人が生地に自らハサミを入れるという行為そのものが、新しいものづくりに挑むメッセージでもありました。

北原ソニーのPurpose(存在意義)は、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、 世界を感動で満たす」。これは、ソニーが一方的に感動を与えるのではなくて、受け取った人のクリエイティビティを刺激し感動が生まれる。つまりどうやって共感してもらえるか、どうやって巻き込むことができるかが重要だと思っています。人にどうアプローチするかを考えているところが、イッセイ ミヤケとソニーで似ている点。同じ志を持っていると、それが呼び水となってつながって、協業が広がっていくと思います。

宮前確かに、A-POC ABLE ISSEY MIYAKEという新しい可能性を探す取り組みを始めた瞬間から、同じような価値観を持った、異分野、異業種の方々とのつながりが増えてきました。A-POC ABLE ISSEY MIYAKEにはプロジェクトとシリーズの2つのラインがあって、プロジェクトは、人とつながるプラットフォーム。TYPE-Iもそうですが、協業のラインをプロジェクトと呼んでいます。

素材からつくるプロセスが
一番の面白さ

北原生地メーカーから生地を購入して服をつくるアパレルブランドが多いなか、イッセイミヤケの各ブランドは素材からつくられていますね。

宮前イッセイ ミヤケでは、1970年代から、工場の職人さんや織り屋さん、生地屋さんとダイレクトにコミュニケーションしながらものづくりを続けてきました。そうした積み重ねにより、織り屋さんと連動しながらデジタル技術を使い、自分たちでデータを管理することで、必要な量だけ織る「小ロット多品種」ができる。極端に言えば、1つの商品を10着だけつくって販売することも可能です。アパレル業界では一般的に1反50メートルが最小ロットですが、そうした従来の方法には限界がある。新しいことを実現するには、素材開発から着手しないと難しいと考えています。

北原均一なものを安価に多くつくろうとすると、不良率を下げるとか、そもそも原価を抑えるにはトリポーラスのような高付加価値な素材はあまり使えない。ダイレクトにコミュニケーションするからこそ、目指す表現に近づけるというわけですね。

宮前素材からつくる理由には、単純に好奇心もあります。「なにか新しいことがやって来ないかな?」と新しい素材の誕生を待つのではなくて、「こういうことができないかな」という自らの衝動が抑えられない。素材からつくるというプロセスを楽しんでいるし、そこがものづくりの一番面白いところでもあります。

「Perspectives vol.9」の対談後に北原が見学に行った試織の現場

第2弾は現代美術家と
協業した黒いブルゾン

北原TYPE-Iの枠を越えて、トリポーラスを使った新しいアイテムが発表されたばかりです。

宮前現代美術家の宮島達男さんとのプロジェクト、「TYPE-II Tatsuo Miyajima project」です。宮島さんは、LEDのデジタルカウンター作品を発表し続けてきました。「それは変化し続ける」「それはあらゆるものと関係を結ぶ」「それは永遠に続く」という3つのコンセプトに基づいて、0〜9のデジタル数字で「時間」や「生命」を表すアート作品です。1〜9が時間や生命を表す反面、ゼロは闇を意味しています。闇があることで、時間や生命が引き立つ。今回、「TYPE-II-002」というアイテムの数字の背景に、トリポーラスでできた生地を使って、深い黒を表現しています。TYPE-Iを開発したときのR&Dを他のプロジェクトにも応用することで、黒を活かした表現の幅を広げることができました。

北原トリポーラスの黒なら色褪せせず、永遠の無を表現するという使い方ができますね。

宮前トリポーラスを使った生地なら宮島さんが表現したい黒に到達できるのではないかと考えました。以前はコレクションというスケジュールに合わせて、半年という短いサイクルでものづくりを続けてきましたが、A-POC ABLE ISSEY MIYAKEは既存のコレクションのスケジュールから開放されたブランドです。本来、半年で新しい服は生まれないし、同じチームでできることは限られています。今後はさらに、いろいろな人とのコミュニケーションにより、より自由なものづくりをしていきたいです。

北原衣服は歴史的には身体を守る機能から始まり、今では自己表現や身体の一部としてアイデンティティを表すものになっていると思います。トリポーラスを用いた衣服を着ることが自分らしいとか、着てみたいと思えるような、共感を呼ぶ物語を共につむいでいけると嬉しいですね。

宮前そうした取り組みを視野に、じっくりやっていきたいですね。A-POC ABLE ISSEY MIYAKEの黒のスタンダードと言えば「これ」となるように、TYPE-Iを育てていきたいと思います。

宮前義之/みやまえ・よしゆき
株式会社イッセイ ミヤケ
デザイナー

北原隆幸/きたはら・たかゆき
ソニーグループ株式会社
クリエイティブセンター
シニアアートディレクター

構成/「AXIS」編集部

文/Junya Hirokawa

写真/Junya Igarashi

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