2026年4月1日
「聴く」から、「参加する」へ。
デジタル空間で進化する音楽体験ーSony Immersive Music Studiosの挑戦
今日のエンタテインメント業界では、ファンはより深く、よりインタラクティブな体験を求めています。そうしたニーズに応えるべく、ソニー・ミュージックは、没入型のデジタル空間を通じてアーティストとファンをつなぐ取り組みを進めています。
この取り組みの中核を担うのが、2020年に設立された Sony Immersive Music Studios(Sony IMS) です。本記事では、Brad Spahrへのインタビューを通じて、その取り組みとビジョンに迫ります。
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ブラッド・スパー
Distinguished Engineer
Sony Immersive Music Studios
Sony IMSは、「ファンが集う場所」であるゲーム、バーチャルコンサートなどの仮想空間の中で、アーティストの世界観を起点とし、高品質な映像・音響技術を使った音楽体験の創出をミッションに掲げています。同スタジオは、フォートナイト や、ロブロックス といったデジタル空間において、アーティストがこれまでにない新しい形の創作に挑戦できるよう、ツールの提供、そして技術的なサポートを行ってきました。
「ファンは、バーチャル空間においてもアーティストの本来の姿が正しく伝えられることを求めています。そして、アーティスト自身もそれを望んでいます」と語るのは、Sony IMSのゼネラルマネージャーであり、ソニーのDistinguished Engineerでもあるブラッド・スパーです。
「私たちが協業するアーティストは、使用する色使いや世界観、伝えたい感情のニュアンスに至るまで、確固たるビジョンを持っています。デジタル空間といった新しい表現の場で、アーティストのビジョンを忠実に具現化することが私たちの役割です」
ブラッドのチームは、PARTYNEXTDOOR、Myles Smith、JADE、Sleepy Hallow、Farruko、Iniko、Madison Beerといったアーティストのプロジェクトを支援してきました。
これらのプロジェクトは、まるでリアルな会場にいるかのように感じるバーチャルコンサートや、ゲームプラットフォーム上で展開されるインタラクティブな体験まで多岐にわたり、ファンエンゲージメントを深化させると同時に、アーティストのクリエイティブな可能性を大きく広げています。
Create Infinite Realities: Where Music Meets Gaming [BTS] | Sony
ソニーおよび Sony Immersive Studios の舞台裏に迫るには、こちらの動画をご覧ください。
音楽業界のスピードでコンテンツを創り出す
従来のゲーム業界では、長期的な計画に基づき、数年単位のスケジュールでコンテンツ制作を進行させるケースが一般的です。一方、Sony IMSがデジタル空間で取り組むプロジェクトは、音楽ビジネスに近い時間軸で制作されています。
「私たちは、音楽業界のスピードに合わせて動く必要があります。たとえばフォートナイト向けのプロジェクトでは、企画から完成までが10〜14週間というケースもあります。これは、一般的なゲーム制作とは異なるスピード感です」とブラッドは語ります。
このスピード感での制作を可能にしているのが、Unreal Engineの開発者から音楽分野の専門家まで、多様なスキルを持つメンバーが集結し、複雑なプロジェクトを迅速かつ効率的に実行する、少数精鋭のクロスファンクショナルなチームです。Sony IMSの制作現場では、身体や顔に物理的なマーカーを付けないモーションキャプチャや、キャラクターや人間の顔の動きを自動的に計算・生成する機械学習ベースの計算エンジン、FACS*といった先進的な技術が活用されており、アーティストの思い描くビジョンを高いクオリティでスピーディかつ低コストで具現化しています。
「高品質な没入型コンテンツを、素早く、そしてコストを抑えながら制作することに私たちは誇りを感じています」とブラッドは続けます。
*FACS:Facial Action Coding System(顔面動作符号化システム)
組織や事業を越えたコラボレーション
Sony IMSは、ソニーグループ全体に広がるエコシステムの一員として、最先端テクノロジーの活用やベストプラクティスの共有にとどまらず、音楽、ゲーム、映画といった複数のエンタテインメント事業を横断したコンテンツ制作にも取り組んでいます。
ブラッド・スパーは、2025年、ソニーのCorporate Distinguished Engineerに選出されました
こうした現在の環境について、ブラッドは「ソニーに在籍してきた中でも、最も強いシナジーを感じている」と語ります。
ゲームや映画といったソニーグループのエンタテインメント事業のメンバー、そして世界各地のR&Dチームと継続的にコミュニケーションを重ねることで、新しい技術やイノベーションについて学びながら、Sony IMSの取り組みを共有しています。部門や組織を越えた交流が、同社のR&Dロードマップに影響を与えるだけでなく、新たなコラボレーションを創出しています。こうした取り組みによって、ソニーグループ全体の競争力が高まり、各事業の価値と実行力の向上につながっています。
没入型コンテンツで進化する、音楽体験のかたち
Sony IMSは、没入型コンテンツがアーティストの表現の幅を広げ、ファンとのつながり方をより豊かなものにしていくと考えています。この考えの元、ソニー・ミュージックの現場と連携しながら、アーティストを第一に考え、新しいテクノロジーを取り入れたデジタル空間上での体験を探求しています。音楽にインタラクティブな仕組みが合わさることで、アーティストが新しい表現に挑戦し、ファンがこれまでにない形でアーティストが生み出すコンテンツを楽しめる場を創り出しているのです。
ブラッドは「Unreal Engineのようなゲームエンジンを使うことで、これまでになかった新しい表現の場が生まれました。アーティストのアイデアや世界観をもとにした、まるでファンタジーのような世界を体験できる場です。実際に協業してきたアーティストたちは、フォートナイトの上で表現された、「もう一人の自分」をとても楽しんでいます。自らゲームをプレイし、その世界やファンの反応を理解しているからこそ、こうした試みに対しても前向きで、反応は非常にポジティブです」と語ります。
没入型コンテンツは、これまでの音楽や映像コンテンツから置き換わるものではなく、アーティストにとって新しい表現を実現できる場です。とりわけミュージシャンは、共感や「自分らしさ」を通じてファンとつながり、その関係性が強いファンコミュニティを生み出してきました。
Sony IMSは、そうした本質的な魅力が、新しい表現の場においても失われることなく自然に伝わるよう、アーティストを支えています。
さらにデジタル空間では、現実世界の制約から解放され、より自由な表現が可能になります。ソニーが『Infinite Realities』と呼ぶこの考え方のもと、ファンは音楽を聴くだけではなく、アーティストと新しい形でつながることができるようになります。こうした「聴く」から「参加する」への体験の変化は、フォートナイトやロブロックスを交流の場として使いこなす若い世代に、特に強く受け入れられています。
ブラッドは、デジタル空間での革新的な体験を通じて、アーティスト、エンジニア、そしてファンを結びつけてきました
「子どもたちは、フォートナイトやロブロックスといったプラットフォームを、友人と集まり、会話し、一緒に世界を探索するソーシャルな場として使っています。そのため、このようなプラットフォームでの音楽体験においても、ただ聴くだけではなく、誰かと一緒に何かをする体験が求められています」とブラッドは語ります。
次世代に向けたメッセージ
テクノロジーの進化によって、アイデアや世界観を形にし、人々に届けることはこれまで以上に身近になってきています。一方で、その発想を実現させるには、テクノロジーを活用しクリエイティブなアイデアを体験へと落とし込むことができる、エンジニアとアーティストの存在が欠かせません。そして、これまでにない新しい体験を実現するには、誰も足を踏み入れたことのない領域に行き、自分たちのビジョンを信じ、挑戦し続けることが必要です。
このような、前人未到の領域での挑戦を目指す人に向けて、どのようなアドバイスがあるのでしょうか。
「大切なのは、考え続けるだけでなく、まず動いてみること。好奇心を持ち、試行錯誤をし、人と話し、外の世界に出て学び、そして勇気を持つことです。挑戦を重ね、ときには失敗しながらも続けていくことで、自分の感覚が磨かれ、本当に情熱を注げるものが見えてきます。」
これが、ブラッドの答えです。
こうした粘り強さは、彼自身のキャリアにも表れています。ブラッドがソニーに採用されるまでには1年以上の時間を要しましたが、決して諦めることはありませんでした。最終的に入社できたのは偶然ではなく、自ら行動し続けたからこそ道が開けたのだと思う、と振り返ります。
そして今も、その姿勢は変わっていません。
人も、テクノロジーも、市場も、常に変化し続けています。だからこそ、変化を恐れず、学びながら進化し続けていくこと、これこそが、これからの時代を切り開くために欠かせない姿勢なのです。
