ソニーグループからスピンオフ、世界展開を進めるウェアラブルサーモデバイス「REON POCKET」のいまと未来
東京では6月から30度越えの日々が続き、年々暑さが厳しくなりつつある夏が今年もやってきました。そうした酷暑も相まって、ソニーの新規事業プログラムから生まれたウェアラブルサーモデバイス「REON POCKET」は、毎年完売する人気ぶりです。2023年には、さらに事業を加速すべく「ソニーサーモテクノロジー株式会社(STTI)」を立ち上げ、2024年にはソニーグループからスピンオフ。そして今年は日本だけでなく、世界22の国と地域にもビジネスを広げる予定です。REON POCKETの温度ビジネスの現状と見据える未来について、STTI 代表取締役社長の伊藤健二に聞きました。
目次
暑さによる体と環境への課題意識を機に、温度ビジネスを創出
REON POCKETは2019年に、ソニーの新規事業創出プログラム(現:Sony Acceleration Platform)から誕生しました。開発者でもある伊藤は、元々カメラのエンジニア。画質を上げるためにも不可欠な、カメラから生じる熱を冷却する技術を扱っていました。そんな伊藤がREON POCKETのアイデアを思い付いたのは、2017年。上海への出張時のことでした。
「外が非常に暑い一方で、屋内は空調が強すぎて寒いという体験をして、温度差による体への悪影響と、過度な冷房による環境負荷の両方に課題意識を持ちました。そのとき、カメラで培った技術を使って、人を直接冷やすというアイデアが思い付きました」
伊藤は帰国後、すぐにプロトタイプを作り始め、Sony Acceleration Platformのオーディションに応募。クラウドファンディングを経て、2020年に一般販売を開始しました。
「毎年新商品を発売していますが、ありがたいことに完売が続いています。そうして事業が一定の規模に達したことや、法人向けに新たに始めたサービスを機動力高く進めるべく、STTIを設立してソニーからスピンオフすることに決めました」
STTIでは、現在REON POCKETのほかに、「REON WIZ」「REON BIZ」という2つの事業も手掛けています。REON WIZは主に更年期世代のニーズに応えることを目的としたコネクテッドサービス。専用端末とアプリにより、急なほてりや暑さに対して、個人に合わせた温度調節を通じサポートするサービスです。
REON BIZは法人向けの温度ソリューション・IoTクラウドサービス。多様なセンサーを搭載したタグをオフィスや倉庫などに設置し、ファシリティの温度や、人の流れを可視化。空調と連携して、温度の最適化を行います。
コネクテッドサービスREON WIZ
温度ソリューション・クラウドサービスREON BIZ
海外と法人での展開を見据えたハイエンドモデル「REON POCKET PRO」
2020年に最初のREON POCKETを一般発売後、REON POCKET 2、REON POCKET 3…とナンバリングシリーズを展開してきましたが、今年はハイエンドモデル「REON POCKET PRO」を初めて発売しました。従来よりも冷却面積が増大し、吸熱性能や駆動時間が向上したほか、スマートフォンのアプリを介さず本体のボタン操作のみでも使いやすく進化しました。
実はこのハイエンドモデルを開発したのは、海外展開と法人展開を加速するためだと伊藤は説明します。
「2024年4月にイギリスでREON POCKET 5を発売したところ、欧米の市場ではより大きなサイズが好まれる傾向が見られました。また、中東など日本以上に暑さが厳しい国ではより強い冷却が必要です。加えて、法人使用で一番ニーズの高い倉庫作業においては、スマートフォンでの操作が不要で長時間駆動することが求められています。海外や法人向けにはサイズが大きくても性能特化のモデルが必要だと考えました」
左: REON POCKET 5、右: REON POCKET PRO
REON POCKET PROは、性能向上に伴い前モデルよりも価格は上がったものの、国内販売開始後、約2日で1.5万台を受注し、一時的に品薄になるなど、非常に好調な滑り出しを見せています。
「REON POCKET 5は暑くなり始めた6月に売上げが伸びましたが、REON POCKET PROは初動が非常に早く驚きました。年々、世の中の暑さに対する感度が上がり、お金を使ってでも暑さ対策をしたいというニーズが強くなっているのだと思います」
ソニーの販売拠点を活かし22の国・地域で展開へ
「暑さは日本だけではなく、世界の共通課題。そのため、開発当初から世界展開を視野に入れていました」
伊藤がそのように語る通り、REON POCKETは初代から一貫して、グローバルに対応する品質基準で作られています。2022年にREON POCKET 3で香港に進出したのを皮切りに、各国のソニーストアを中心としながら年々販売先を増やし、最新機種のREON POCKET PROは22の国と地域で展開する予定です。特に、韓国、台湾、香港など、高温多湿で公共交通機関が発達しており、外を歩く機会が多い国や地域の売り上げが好調です。
シンガポールのソニーストアでも入口付近にREON POCKET PROが陳列されている
ここまで早く海外展開を進められた背景には、ソニーの販売会社の協力があったと伊藤は明かします。インフルエンサーの影響力の強い東南アジア、伝統的なメディアの影響力が大きいヨーロッパなど、国や地域によって異なる商品の認知・購買行動をそれぞれの販売会社は熟知しています。また、REON POCKETのニーズが高い『公共交通機関を使うユーザー』は、ソニーのヘッドホンのユーザー層とも共通しています。伊藤は「各国の事情と、ソニー製品で培ったノウハウやデータをもとにREON POCKETのPRを現地の販売会社に考えてもらえることが、ソニーならではの強みです」と胸を張ります。
加えて、STTIのスピンオフ後も、ソニーのエンジニアと最新技術に関する情報交換をしたり、REON POCKETで開発したデバイスをソニーの他の事業に提供したりと、ソニー内での連携は続いています。
ドバイでもREON POCKET PROの発表会を実施
多様性を受け入れながら、温度を通じて人々に快適さを提供する
STTIが今後目指しているのは、REON POCKETの海外市場と法人市場での事業拡大です。その目標に向けて、伊藤がキーワードとして挙げるのが「多様性」です。REON POCKETは、日本では主にビジネスパーソンの通勤時の使用が多く、小型・軽量で着けても目立たないことが評価を得ています。一方、東南アジアなどでは、あえて最新のガジェットを見せたいという趣向もあるなど、海外や法人市場での拡販に向けては、多様なニーズに対応していく必要があります。伊藤は「REON POCKETのコアとなる技術はより確固たるものに進化させつつ、体型・用途などに適応する商品・サービスにしていきたい」と意気込みます。
小型軽量で着けていても目立たないのが特徴
また、STTIの立ち上げ後、事業の機動力も上がったことから、法人向けサービスのREON BIZにも注力したいと伊藤は力を込めます。
「REON BIZのサービスを強化する他社との協業も加速しています。今後は、ファシリティの温度環境の可視化だけでなく、空調設備や照明との連携など、ファシリティマネジメントを一括するサービスに進化させていきます」
なお、海外の方がファシリティの規模は圧倒的に大きいため、将来的にはREON BIZの海外展開も視野に入れています。
STTIの挑戦する温度ビジネス。かつてソニーがウォークマンで「音楽を持ち歩く」文化をつくったように、REON POCKETを通じて、「温度を持ち歩く」新たな文化が世界中で根付くかもしれません。伊藤の描く未来に向けたSTTIの挑戦は、これからも続いていきます。
「最新のテクノロジーを応用し、温度を通じて人々に快適さを提供すると同時に、環境への負担も減らしていきたいです。100年先、200年先の未来がより良い世界になるよう、STTIは温度を軸にこれからも事業を拡大していきます」
伊藤 健二(いとう けんじ)
ソニーサーモテクノロジー株式会社 2006年にソニー株式会社に入社し、カメラの商品設計に従事。その後、現Sony Acceleration Platformにて新規事業の立ち上げを経験したのちに、2019年からREON POCKETの立ち上げと事業の運営を行う。2023年10月より、ソニーサーモテクノロジー株式会社の代表取締役を務める。