2022年9月1日
魔改造の夜|チャレンジャーたちに迫るスペシャルトーク①
若手エンジニアとベテランメンターのコラボレーションが大きな成果を生んだ
エンジニアたちが極限のアイデアとテクニックを競う、NHK BSプレミアムの技術開発エンタテインメント番組「魔改造の夜」。
“子どものおもちゃ”や“日常使用の家電”を魔改造しモンスターマシンへと姿を変える興奮と感動の夜会。その第5弾「ネコちゃん落下25m走」と「電気ケトル綱引き」に、ソニーグループのエンジニアたちが挑戦、1か月半魔改造に励み、闘いに挑んだ。
本シリーズでは、モノづくりへの熱き思いを持った挑戦者たちに迫る。
今回はメンターとして携わったベテランエンジニア2人と、若手4人に話を聞いた。
メンター
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鳳 康宏
株式会社ソニー・インタラクティブ
エンタテインメント
ハードウェアエンジニアリング&
オペレーション本部 -
森永 英一郎
ソニーグループ株式会社
AIロボティクスグループ
若手メンバー
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厚地 穂乃佳
ソニー株式会社
モバイルコミュニケーションズ事業本部 -
岩船 美友
ソニーグループ株式会社
R&Dセンター -
坂根 領斗
株式会社ソニー・インタラクティブ
エンタテインメント
ハードウェアエンジニアリング&
オペレーション本部 -
土井 貫嗣
ソニーセミコンダクタ
ソリューションズ株式会社
モバイルシステム事業部
仕事も趣味もモノづくり
──まずは自己紹介をお願いします。
森永:業務では、新しい商品を開発してきました。最初の3年は基礎技術を研究開発、その技術を使った新しい商品を提案し、次の2年は事業部と一緒に商品開発し、落ち着いたところで、研究所に戻って次の技術を開発するという大体5年周期で開発を行ってきました。これまでにGPS受信機やカーナビ、デジタルカムコーダー、Net MD、ミラーレスカメラ、aiboと様々な商品を開発してきました。趣味はロボット作りと地域ボランティアで、ロボットの全国大会に出たり、お祭りなどでロボットプロレスの講演をしたり、ロボット体験操縦のコーナーを担当したりしています。小さい頃からモノづくりが大好きで、モノづくりの仕事がしたくてソニーに入社しました。
森永が過去に携わった製品の一例(左:『MZ-N1』、右:『NEX-6』)
鳳:業務ではPlayStation®シリーズのメカ設計をしています。学生時代は機械工学科で専攻は振動でした。熱に関しては専門外だったのですが、PlayStation®2を設計していた時に、冷却設計のために熱について改めて勉強する必要にせまられ、今では熱設計の本を出したりもしています。趣味でも自宅でいろんなものを作っています。昔は四足歩行ロボットやCDプレーヤーを作ったりしていましたが、最近は一周回って木工にはまっていて、家具などを作って販売もしています。
鳳が作成・販売する木工作品
土井:スマートフォン向けのイメージセンサーの開発に携わっています。学生時代の専攻は半導体物性です。イメージセンサーは半導体ですので、自分が専攻していた分野に従事する形となりました。入社後はプロジェクトリーダーの集まる部署に配属され、現在は様々なスマートフォンに搭載されるイメージセンサー開発のプロジェクトリーダーを務めています。
岩船:業務では、人の自然な振る舞いを活用し、機器との自然なインタラクションを目指すNatural User Interfaceの要素技術の開発を担当しています。学生時代はデジタルファブリケーションを研究していました。3Dプリンターで任意の方向にしか曲がらない構造の設計や、発泡材の発泡倍率をコントロールして硬さを最適化する方法についての研究していました。趣味はモフモフなぬいぐるみを作ることです。
厚地:私はXperia™スマートフォンの無線通信の設計を担当しています。学生時代は情報通信システム工学科で、6Gや2030年頃に使われるであろう125GHz~300 GHzの周波数帯の電波の研究をしていました。
坂根:PlayStation®5の光学ドライブの機構設計をしています。大学時代は機械工学科で感性工学に関する研究をしていました。
──皆様色々なバックグラウンドをお持ちの中、今回「魔改造の夜」のプロジェクトに参加された理由は何だったのでしょうか?
森永:エンジニアとして限界に挑戦することに魅力を感じていました。昔から面白い番組だと思っていてチャンスがあったら参加したいと思っていました。
岩船:私は、メンターのお二人のようなソニーのレジェンドエンジニアの方々や、普段の業務では関りがないエンジニアの方々と一緒にお仕事がしてみたいと思い、応募しました。
坂根:私は企画として面白そうということと、モノづくりの経験を積みたかったことの二つです。学生時代はそこまでモノづくりをやってきたほうではなかったので、モノづくりの機会を増やしたいと思うとともに、自分がどれだけできるのか挑戦したくて応募しました。
チームでのモノづくりの楽しさ
──ここまで多くの別の部署の方と深くかかわる機会は貴重だと思います。今回それぞれが感じた苦労や楽しさを教えてください。
岩船:私はちょうどコロナ禍の入社だったので、毎日出社してみんなで一緒にモノづくりをするという機会がなかったこともあり、今回はとても刺激的で楽しかったです。また、大きなチームでやったからこそ、最後にみんなで積み上げてきたものが一気に形になったとき、チームの力ってものすごいんだなと実感しました。
「ネコちゃん」の歩行方法を検討(左から土井、岩船、森永)
坂根:今回は量産部品の設計とは異なり、設計から加工まで全てを自分で行わなければいけなかったことが面白さでもあり、難しさでもありました。また、チームメンバーのモノづくりのスピードがすごく早くて、それについていくのが大変でした。自分が作った部品の上位互換が次の日には出来上がっていたこともありました。
鳳:みんなよく手が動くし、自分で考えて行動してくれるので、なにかを指示する必要など全くありませんでした。こういうレベルの人たちは自由に泳がせるのが一番ですので、みんなの能力にブレーキをかけないように心掛けていました。また若いメンバーや専門外のメンバーが委縮したり遠慮したりせず、活発な意見交換ができるような雰囲気を作りました。魔改造は楽しまなかったらやる意味がありませんので。
森永:6m落下させるというお題と6週間という短期間でモノを仕上げないといけないことが苦労でもあり楽しいところでもありました。最初は6m落下を甘くみていたのですが、失敗すると一生懸命に作ったものが壊れて一からやり直しの現実に気が付いた時は絶望しました。また、6週間という時間でちゃんとテレビで自慢できるレベルまで仕上げる必要があるにも苦しみました。本番まであと1週間という時点でも課題がクリアできてなくて本当にしびれました
土井:僕は、自ら手を動かして、実際にものが出来上がるところが面白かったです。日頃業務で扱っている半導体は、設計から製造投入して出来上がるのに5ヶ月くらいかかります。出来上がるものも「小さくて黒い四角いもの」なので、モノづくりとしてのやりざまが全く異なります。「魔改造の夜」で経験した、タイムリーに物が出来上がってタイムリーに改良できるというのは普段の業務とは異なり新鮮で楽しかったですね。
カイト(「ネコちゃん」の落下をサポートする機構)を作成する土井
とにかく手を動かす大切さ
──「魔改造の夜」を通して成長したと感じた面はありますか?
厚地:「電気ケトル綱引き」のお題は、蒸気に関する開発など誰も経験したことがなかったのですが、そういった中で形にしたことで、やったことがないことに対してやってみようとする前向きな精神は今回さらに加速した気がします。蒸気を扱うというのは普段なら簡単に手を出せる分野ではないですが、こういう機会、お題だったからこそやってみようという精神でできたかなと思います。
担当した「お茶の魔ケトルMKZ-1300N」と厚地
岩船:私も魔改造期間を通じて、自分の手を動かし、形にしてみることの大切さを体感することができました。また、「道具って作れるんだ」ということが新しい発見でした。例えば、森永さんが穴あけ治具を自作されていて、手作業でも効率よく・精度よく加工するにはこんな方法があったのかと、驚きました。普段から自分でモノづくりをされている方だからこその工夫を、直接見て学ぶことができ、視野が広がりました。
鳳:メンバーに最初に伝えたのは「アイデアに価値はない。議論から価値はうまれない。試して初めて価値が出る。失敗してもその情報が価値になる。何も得られなくてもその経験が価値になる。思いついたらすぐに手を動かして試すこと」でした。
モノづくりの階段は、自分の手で、1段目からしっかりと登っていくことが大事です。
特に今回はお題が蒸気だったという事もあり、「俺は知ってるんだ」というスタンスの人がいなかったので、みんなで基本的なところからひとつずつ試していけたのがすごくよかった点だと思います。
坂根:私はモノづくりの姿勢を学べた点が成長だと感じます。自分の手を動かしてモノづくりの感覚を養うことが大切だと改めて感じました。また、ケトルチームのリーダーをやって、モノづくりのリーダーはチームを回す調整役に徹するのではなく、先頭に立ってモノを作る姿勢を見せることが大切だと知りました。
ケトルチームメンバーに囲まれる坂根リーダー
森永:やって見せることは大切だと思います。
土井:僕も本当にそう思っていて、行動でしか人からの信頼は得られないので、人から信頼を勝ち取ろうとしたら行動で示すことが大変重要ですよね。
森永:いいですね、成長していますね(笑)。
常に心に留めている言葉
──皆さんが普段から大切にしている姿勢や心に留めている言葉を教えてください。
森永:私が言い続けているのは「努力は人を裏切らない。努力の先に運がある。前進あるのみ」ということです。時々過去を振り返って反省することも大切ですが、それよりも次の一手を考える方が大切だと考えています。上手くいかなくても、あまり反省しすぎないで、それよりも前を見て次の一手を考え実行してみてください。そうやって経験をどんどん重ねていくことが成長につながっていきます。自分は何十年間、その精神でやってきたら上手くいったので、皆さんも苦しくなったら「前進あるのみ」と心の中で叫んで前を見てみてください。
鳳:私が一番好きなのは「心を込めて仕事をしなさい。そうすればあなたは必ず成功する。なぜなら、ほとんどの人はそこまではやらないからである」というエルバード・ハバード(アメリカの思想家、教育者)の言葉です。PlayStation®を作っているときも、別にすごいモノを作ってやろうと思っているわけではなくて、理に適った素性の良い設計をベースとして、自分にやれることを徹底的にやっているだけなんです。
今回の魔改造でも「今、この場で、自分たちの手で、ここにある道具だけで」できることを徹底的にやるという姿勢がポイントだったと思います。若手の皆さんには、素人レベルでも構わないから、自分の出来る範囲のことをしっかり徹底的にやることが重要だよ、ということが伝わっていたらと思います。
土井:私は「+2のgive」を大事にしています。例えば、誰かに「ペンを貸して」と言われたら、ペンを貸すだけでなく、そこでペンと紙(プラス1)を渡せたらいいですよね。さらに紙と三色ボールペン(プラス2)を渡せたら最高だと思います。人から何かを頼まれたり、人から指示を受けたりする時に、その人は何を求めていて、どういう目的で依頼をしてきているのかをしっかり考えた上で、アウトプットを出す。物事の本質を考えながら行動することを心がけています。
坂根:僕は入社2年目のエンジニアですが、2年目だから無理だという風に決めつけずにとりあえず挑戦してみることをすごく大事にしています。今、自分が出来ることを考えて、100%以上の力でやることが大切だと思っています。泥臭く、地道に自分のできることを頑張るようにしています。
メンバー全員が頑張り屋さん
──「魔改造の夜」では色々なメンバーと関わり学びも多かったと思いますが、尊敬するメンバーやエピソードを教えてください。
厚地:私は誰とは限定できないです。前の会社にも尖った人が沢山いるなと思っていたのですが、今回ソニーのエンジニアと初めてたくさん関わって、皆さん担当製品にとらわれず、持っている知識量が非常に多いなと感じました。今思い返せば、皆さんの顔を思い出しても、それぞれのすごい点を見つけられた1ヶ月半でした。
岩船:私も同感です。また、今回沢山ご指導を頂いた森永さんには、特に感謝と尊敬の気持ちがあります。ロボット設計初心者の私にも、実践を通じてメカ設計を教えてくださいました。実際に手を動かしたからこそわかることも多くありました。
森永:メンバー全員が頑張り屋さんで、どのメンバーも印象的でした。どんなに苦しくても、笑いが絶えることなく、本当に素晴らしい仲間だと感じました。80人の素晴らしいメンバーと知り合うことができ幸せでした。
鳳:うまくいかなくてしんどい時とか、納得いかないことがある時でも、誰も悲壮感漂っている感じがせず、基本的に明るく、楽しく笑いながら仕事ができたので、メンタル的にもさすがな人たちだなとすごく思いましたね。技術力だけじゃないですよ、今回集まったメンバーは。
森永:これからもまたどこかで一緒に仕事をする機会があると思います。その時が楽しみです。その時までみんなそれぞれが経験と技術を磨いて、また一緒にやりたいですね。
左上から岩船、鳳、厚地 左下から森永、土井、坂根
