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アパレルからPFAS対策まで、多様な用途に展開するソニーの独自開発素材「トリポーラス」 〜環境省の技術実証事業にも採択〜

    左から、ソニー知的財産サービス株式会社 矢藤 有希、ソニーグループ株式会社 儀我 有子、ソニー知的財産サービス株式会社 田畑 誠一郎、ソニー知的財産サービス株式会社 山ノ井 俊

    ソニーが生み出したTriporous™(トリポーラス™)は、籾殻から生まれた天然由来の多孔質カーボン素材です。独特の微細構造により、従来の活性炭と比べてさまざまな物質を吸着できるため、消臭・抗菌等が求められるアパレル分野での活用や、水・空気の浄化、PFAS対策など、さまざまな用途で展開が広がっています。今年6月には、住友商事との共同提案により、環境省の「令和7年度補正予算PFOS等の濃度低減のための対策技術の実証事業」にも採択されました。今回は、トリポーラスの開発の狙いやこれまでの活用事例、今後の展開などについて、ソニー知的財産サービス株式会社とソニーグループ株式会社の担当者4名に聞きました。

    ※有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の総称。PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)もPFASの一種

    目次

    循環型社会に貢献するサステナブルな素材

    トリポーラスが考案されたのは、2007年に遡ります。現在も開発担当を務める田畑が、余剰バイオマスを原料としたバッテリー電極材料の研究開発に取り組んでいた際、米の籾殻に多く含まれるシリカ(ガラス成分)に着目し、従来にはない独特な細孔構造を持つカーボン素材を開発しました。その後、この素材が優れた吸着特性を持つことが分かり、トリポーラスの誕生につながりました。

    トリポーラスには、従来の活性炭と異なる大きさの穴がたくさんあり、2nmのマイクロ孔、2〜50nmのメソ孔、1μmを中心とした50nm以上のマクロ孔が複合して存在しています。開発担当である山ノ井は、「特にマクロ孔やメソ孔が物質の通り道となるため、粒子内の拡散が速く、従来の活性炭で吸着しづらかった大きな有機分子やウイルスなども容易に吸着します。また、活性炭に比べて吸着スピードが速い上に、ウイルスや菌の除去率は99%以上という結果も確認されています」とその特徴について説明します。

    Triporous™ 吸着と捕集のイメージ【ソニー公式】

    原料である米の籾殻は、日本だけで年間約200万トン、世界中では年間約1億トン以上も排出されています。1トンの籾殻から約100kgのトリポーラスが製造可能なため、世界中で大量に排出されている籾殻をリサイクルすることにより、環境に配慮した循環型社会の実現にも貢献します。また、籾殻からトリポーラスを製造することは、同じ量の籾殻を焼却廃棄する場合と比較して、温室効果ガスの削減とPM2.5の大幅な低減が期待できるため、大気汚染の改善と気候変動の緩和にも貢献が期待されています。

    光合成による稲の成長と排出されるもみ殻、それを利用したトリポーラスの循環の図

    アパレル業界からPFAS対策まで、幅広い用途で活用

    トリポーラスは、用途に合わせて形状や粒度を調製できること、その吸着性能を生かした効果・効能に優れていることから、消臭・抗菌繊維などのアパレル分野から、浄水フィルターなどの水浄化分野、エアフィルターなどの空調産業分野、洗浄剤などのヘルスケア分野まで、さまざまな用途への応用が進められています。

    アパレル分野では、トリポーラスを繊維に用いることで消臭・抗菌・抗ウイルス効果のある製品の開発が進められています。トリポーラスの小さな細孔がにおい分子を素早く吸着する一方、大きな細孔が繊維表面での細菌やウイルスの増殖を抑制する効果があります。

    現在は、イッセイ ミヤケ、スタイレム 今治謹製、アスワンやコクヨなど、複数の企業が製品の開発を進めており、アパレル製品だけでなくハンカチなどの生活雑貨、カーペットやオフィス家具などの製品が発売されています。

    イッセイ ミヤケ

    スタイレム 今治謹製

    アスワン

    コクヨ

    トリポーラスを練り込んだ繊維を活用した各社の製品例 ※コクヨ製品は一部の張地に使用

    「トリポーラスの特性を各所に説明して可能性を探していた時に、アパレルやスキンケア業界の方とのご縁により、これだけ多種多様な製品が生まれました。現在では日本に限らず世界中のアパレル製品やスキンケア製品に採用されています」とマーケティング担当の儀我は語ります。

    トリポーラスはソニーが開発した素材ですが、幅広い製品への展開を実現するには、一緒に用途・販路を開拓してくれる協力企業の存在が欠かせません。協力企業の知見をオープンイノベーションで掛け合わせることで、トリポーラスの活用可能性は大きく広がってきました。

    中でもブレイクスルーとなったのは、トリポーラスを繊維に練り込む際に、特有の細孔を埋めずに繊維と複合化できたことです。その経緯について、山ノ井は「どの素材であればトリポーラスの細孔を埋めずに繊維化できるのか、繊維強度など品質を維持した状態でどれくらいトリポーラスを含有させることができるかなどの複合化条件を探るのは非常に苦労しました」と語ります。これらの課題に対しては、協力企業と一緒に材料の加工や製造条件の開発を進めていきました。そして、試作品の性能や強度を何度も評価し、改良を重ねることで、実用的な品質を備えた商品の実現につながりました。山ノ井はまた、「繊維ができてからも、消臭や抗菌などの機能を業界の方針に則って説明する必要がありました。従来のソニーには無い知見に関するルールや規格評価方法などを勉強できたことも大きかったです」と説明します。

    さらに注目すべきポイントは、近年問題となっているPFAS対策に活用できる可能性があることです。PFASは、これまで衣料品や調理器具、建材などさまざまな場面で活用されてきましたが、その一部について健康や環境への影響が指摘されており、飲料水の安全性にも懸念が生じています。トリポーラスは、その独特な細孔構造により、従来の活性炭と比較してさまざまな種類のPFASを効果的に素早く吸着することが分かっており、問題解決への貢献が期待されています。

    トリポーラスのPFAS対策への活用の転機となったのは、2021年に国立研究開発法人産業技術総合研究所のPFAS対策技術コンソーシアムで担当者が意見交換を行ったことを機に、同研究所とスウェーデンのエレブルー大学から有効性の評価を得られたことでした。評価にあたり、25種類ものPFASの吸着性が調べられた結果、国内で入手できる吸着剤15種類の中で、トリポーラスが最も高い吸着性能を示すことが判明。現在、さまざまな場所で検証が進められています。

    2024年以降、国内の河川や地下水などのさまざまな水環境中のPFASに対するトリポーラスの除去効果と、その有効性を多くの専門家たちと一緒に確認した結果、排水、地下水、土壌中などのような、PFAS以外の有機物が混ざった状態でも、吸着性能が優れているというデータも得られています。田畑は「実際の環境ではラボスケールでの想定とは異なる点が多々ありました。天気や場所によってPFASの濃度や組成、フィルターの交換寿命が異なることもあります。新しい社会課題であるPFASに対して、専門家と一緒にトリポーラスの使い方も柔軟に考えていきたいです」と期待を寄せます。

    多摩地域でのPFAS実証実験の様子(蛇口から出る地下水を右側のトリポーラスカートリッジ搭載装置でろ過し、PFASを除去している)

    世界のPFAS問題解決への貢献を目指す

    現在、国内のさまざまな場所でも問題となっているPFAS。日本では、有望な技術を現場で実証しながら、有効な対策技術を確立する動きが進んでいます。今回採択された環境省の実証事業では、これまでトリポーラスが処理したことのない高濃度のPFASの水を使って実証を行う計画です。また、既存の設備をそのままPFAS処理に用いるために必要なトリポーラスの加工技術についても開発を行います。

    「今まではトリポーラスの用途を広げることに注力してきましたが、今後はより水浄化・PFAS対策への応用へ集中していきたいです」と、トリポーラスのプロジェクトリーダーを務める矢藤は今後の展望を語ります。環境省の実証事業で効果が確認された場合、国内外のさまざまな場所へのPFAS対策の導入をより加速できる可能性が高まります。日本、ひいては世界のPFAS問題解決に貢献することを目指して、ソニーは今後もトリポーラスの社会実装を進めていきます。

    矢藤 有希(やとう ゆき)

    ソニー知的財産サービス株式会社 役員室 特許権利化業務、通信・ネットワーク技術の開発・事業に従事し、知財分析や新規事業創出の統括職を歴任。2017年よりトリポーラスプロジェクトの事業全体をリードしている。

    田畑 誠一郎(たばた せいいちろう)

    ソニー知的財産サービス株式会社 トリポーラスチーム 電池材料の研究開発に従事し、その過程でトリポーラスを開発。現在はトリポーラスを活用し、PFAS問題を含む社会課題の解決を目指したオープイノベーションを推進している。

    山ノ井 俊(やまのい しゅん)

    ソニー知的財産サービス株式会社 トリポーラスチーム 電池材料の研究開発に従事し、2015年よりトリポーラスの事業開発を担当。現在は幅広いパートナーとの協業を開拓し、トリポーラスの製品開発から販売促進を広く担当している。

    儀我 有子(ぎが ゆうこ)

    ソニーグループ株式会社 事業推進部 メカニカルエンジニアとして入社後、商品企画へ転身し、新規事業・新規商品の企画に携わる。2024年よりトリポーラスのマーケティングを担当している。

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