誰もが自由に発想し、形にできるアイデアの祭典「SEC IDEA FES」から見る、ソニーのボトムアップカルチャー。

ソニーグループ(以下、ソニー)には、創業以来脈々と受け継がれる「自由闊達」な風土があります。業務の空き時間などを活用して自主的に開発を行う「机の下活動」や、公式・非公式を問わず業務の枠を超えて社員が集まるボトムアップ活動から、数々のイノベーションが生まれてきました。
そして、こうしたソニーのボトムアップカルチャーを象徴するイベントが、「SEC IDEA FES」※です。新しい商品・技術のアイデアにとどまらず、次世代リーダーの育成やボトムアップの組織文化醸成そのものも目的としたこのイベントは、いかにして生まれ、どのように運営されているのか。事務局から森本さん、実行委員からは副委員長の武下さんと、イベント企画を担当した酒井さんに話をお聞きしました。
※SECは、ソニー株式会社の略称。「SEC IDEA FES」は、年に一度のアイデアの祭典であり、SEC全体のボトムアップイベントです。

- 森本 太郎
2025年10月27日~11月7日までのオンライン展示と、11月5日~6日のリアル会場(ソニーシティ品川)とのハイブリッド形式で開催された「SEC IDEA FES 2025」。過去最大となる495展示の他、ステージ企画や体験型イベントも実施され、来場者数は2900人にのぼりました。マネジメント層も多数来場した他、技術領域や担当製品の異なる社員同士が交流する場となり、大いに盛り上がりました。


社員の発想力が光るユニークな試作品まで、さまざまな「未来のアイデア」が並びました。
創業以来脈々と続いてきた、ソニーのボトムアップカルチャー。
── まずは事務局の森本さんにお聞きしたいのですが、「SEC IDEA FES」の成り立ちについて教えてください。
森本:現在の「SEC IDEA FES」という形になったのは2023年のことですが、ルーツはもっと昔から脈々と続いてきた3つの活動にあります。我々の組織はもともとモバイル、テレビ・オーディオ、カメラといった事業部に分かれており、それぞれ独自にボトムアップ活動を行っていました。それが、2023年に組織体制が変わり、事業部の垣根がなくなったことから、ボトムアップイベントも一つにしようじゃないかということで、「SEC IDEA FES」がスタートしました。
── 森本さんが担当されている事務局の他、毎年選任される実行委員の数は50名と、かなり大規模なイベントです。SEC全社をあげてボトムアップ活動に取り組む理由を教えてください。
森本:事務局として設定しているイベント開催の主な目的は、「新しいリーダーの育成」「ボトムアップ組織文化の向上」「マネジメントのボトムアップ支援の意識づけ」「技術者知識レベルの底上げ」「社員アイデアの発掘」の5つです。
── 商品や技術のアイデア発掘だけでなく、リーダー育成や組織文化向上といった内容が含まれているのが特徴的です。特に前半3つの目的について、簡単に解説いただけますか?
森本:「SEC IDEA FES」の実行委員は、他部署や社外の人を巻き込み、イベントの企画・運営を自律的に行います。こうした経験を通して、新しいリーダーを育成したいというのが一つ目の目的です。
次に組織文化という点では、ソニーにはもともと「机の下活動」と呼ばれる、業務の合間や就業後に社員が自発的に面白いものを作ってしまう文化があります。こうしたボトムアップ活動を会社がサポートし、共有・交流の場をつくることで、ボトムアップ文化のさらなる醸成にもつながると考えています。またボトムアップ活動には、主体的に活動する社員を支援するマネジメントの理解が欠かせません。そういった観点から、マネジメント層への意識づけも重要だと考えています。

「たのしい」だけで終わらせない、つながる、つづく、場づくりの工夫。
── 「SEC IDEA FES」は毎年テーマを掲げており、2025年は「つながる、つづく、未来のアイデア」ということでしたが、ここにはどのような想いが込められているのでしょうか?
武下:まず「つながる」には、組織や部署の壁を超えた横のつながりを大切にしたいという想いを込めています。そして「つづく」には、活動の成果を未来へつなげるという意味があります。ボトムアップ活動は、ともすれば「社員が好きなことを勝手にやっている」自己満足の活動と受け取られる懸念もあります。だからこそ、個人の熱意ややりたいことを事業や新しい価値創造へとつなぎ、発展させていきたいという「SEC IDEA FES」としての意志を込めました。最後の「未来のアイデア」は、ソニーらしさの象徴でもある感動やワクワクを表現したものになります。
── では、そうした想いをどのように、イベントコンテンツに落とし込んでいったのでしょうか?
武下:私が担当していたイベント企画班ではチームを3つに分け、各チーム3案ずつイベント企画案を持ち寄りました。その中から、「つながる」「つづく」「未来のアイデア」の要素をすべて満たしているかどうかを精査し、最終的に5つの案に絞り込みました。
案を絞り込んでいく例として、「つながる」なら、一つのお題に対して異なる意見やアプローチが生まれることで参加者同士の議論や共創が生まれるかどうか。「つづく」は、ものづくりや他者と議論することの本質的なおもしろさを感じてもらい、日々の業務にもその熱量を持ち帰れるかどうか、といった定義に基づいて検討を重ねました。

技術の壁を越え、誰もがクリエイターになれる「MESH企画」の挑戦。
── 5つの企画の中から、MESH ※ を使った参加型イベント「IDEA 爆発!! ~MESHで作る面白装置~」について、具体的なブラッシュアップの過程を教えてください。
酒井:当初は「MESHを使って自由に何かを作ってもらおう」という漠然とした案でしたが、作品の評価軸や募集部門そのものをテーマに沿った形に設定し直しました。具体的には、人・モノ・コトの連携を問う「つながる部門」、習慣化や持続可能な仕組みを考える「つづく部門」、そして自由な発想の「未来IDEA部門」の3つです。
あわせて、エンジニアに限らず誰もが参加しやすいよう、コンセプトを「面白装置」や「アイデア」を主軸に置く形に調整しました。さらに、参加ハードルを下げるとともに参加者がより自由にアイデアを膨らませられる部門を作りたいという思いから「ユーモア・アート部門」も新設し、多くの方に「つくる楽しさ」を感じてもらえるよう工夫しました。
※MESHとは、身近なものとセンサーやスイッチなどの機能を組み合わせ、プログラミングすることで、さまざまなアイデアを形にできるツールのこと。
MESHについての詳細は、こちらのページをご覧ください。

最も良かった作品を決定する「委員会賞」受賞作品。
「AiBotaniQ」は、飼い主が近づいたら話しかけてくれたり、お水が足りなければおねだりすることも。
水をあげると喜んで感謝しますし、多すぎると止めてほしいと頼んできます。また日かげは嫌いなので、自分で日なたを探しに旅立ちます。

森を歩くロボット「MORIS(モリス)」は、Mori + Sensorから名付けられた、森と人の共生を象徴する機械。
光や人の気配を感じて12本の脚で歩き、顔のLEDを灯します。
森と人のあいだを静かに歩きながら、環境が続いていく物語を紡いでいます。

とにかく「役に立たないけど、なんか見ておもしろい」ものを作ろうということをコンセプトにして制作。
MESHをたくさん並べた光景からドミノ倒しを連想し、
またチームメンバーが万博で見た「大屋根リング」からも影響を受け、今回のアイデアに繋がりました。
自律と熱意が組織を変える。「SEC IDEA FES」が次世代に残すもの。
── あらためて、「SEC IDEA FES」から得られたものは、何かありましたか?
武下:「知っている」ということと「やってみる」ということには、大きな差があると感じています。つまり、「SEC IDEA FES」というイベントがあるということは知っていても、実際に参加してみることでしか得られない情報や体験があります。実行委員として、こうした機会を提供できたことが、個人的な成果でもあると感じています。
また、企画段階から難しい局面はたくさんありましたが、困難な状況でも決してあきらめずに団結できる、ソニー社員の熱量の大きさをあらためて感じました。
酒井:イベント企画については、入社3年目までの若手メンバーだけで行ったということは大きな経験になりました。また、普段の業務では、自身が担当するオーディオ領域以外の方との接点はほとんどないのですが、イベントを通じて全く異なる部署や職種、多国籍なメンバーと関わることができたことが良かったと思います。
森本:今回は、出展エントリーが495と過去最大になったこともあり、たいへんうれしい反面、来場者の方々にはご不便をおかけした点など、課題も見つかりました。ただ、多くの社員が一堂に会し、誰に話しかけてもポジティブなコミュニケーションが生まれる、心理的な安心感や一体感を強く感じられる場をつくることができたことには満足しています。
── 「SEC IDEA FES」を通じて再確認できた「ソニーらしさ」のようなものはありましたか?
森本:ソニー社員の「こだわりの強さ」は、特にこうしたボトムアップ活動の中では大いに出てきますね。仕事ではもちろんきっちりされているんですが、こうしたイベントではとことんこだわってこだわって、納期のことも忘れてしまう…そんな方が多いと感じます。
酒井:まさに私も、ソニー社員のこだわりの強さや、ものづくりに妥協しない姿勢を感じていました。というのも、イベント参加チームの物品購入は運営側が行うことになっていたのですが、そのレスポンスの遅さに対してお叱りをいただくこともあり…業務以上の(?)本気度を感じて、運営としても身の引き締まる思いでした。
── そうしたご苦労もありながら、業務時間外の時間を使って実行委員をやってみて、どうでしたか?
酒井:よかったと思います。反省や改善点も多々ありましたが、これだけ大勢の方が参加するイベントの運営に携わる経験はなかなかありません。入社2年目にして、こうした経験を積めたことは大きな自信にも繋がりました。
武下:私も、やってよかったと思っています。学生時代からスポーツもやってきた中で個人的に感じていることではあるのですが、「感動」は楽しいことだけではなく、難しい課題に直面したときにそれを乗り越えるからこそ生まれるのではないでしょうか。業務外の時間を使って取り組むわけですから、それぞれ無理をしないといけない部分もたくさんあるでしょうし、みんなそれをわかって参加しています。だからこそ、本当にやる気のある人たちが集まりますし、そうした仲間とともに難しい課題に挑戦することでつくられる「感動」、自分自身が得られる成長感など、プラスの側面の方が大きいと思っています。

<編集部のDiscover>
「SEC IDEA FES」を記事で紹介してみようと考えていた当初は、「MESH企画」に代表されるようなイベントとしてのおもしろさ、誰もがアイデアを共有できるワクワク感や盛り上がりに注目していました。企画を進め、みなさんに話をお聞きする中で、もちろんそういった部分もたくさん見えてはきましたが、さらに興味深かったのは、このイベントが人材育成や組織開発施策としても機能していることでした。ユニークな技術や商品が生み出される背景には、ユニークなアイデアが共有されて生かされる、組織の風土を耕しつづけ、ボトムアップ文化を醸成する仕組みと担い手がいるんですね。
















