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自然資本関連開示 (TNFD)

TNFD提言に沿った自然資本関連情報開示

ソニーグループ株式会社 (当社) は、人類の生活の基盤である自然資本、およびそこから供給される生態系サービスの重要性を認識しており、従来から「ソニーグループ環境ビジョン」に沿った長期目線での活動を進めてきました。自然関連財務情報開示フレームワークであるTNFDが2023年9月に公表されたことにともない、当該フレームワークに沿った開示を宣言する「TNFD Adopters」にも登録し、あらためてビジネス全体と自然とのかかわりについて評価を行いました。
TNFD提言の要請に基づき、主要事業のバリューチェーンを対象とした自然資本への依存・影響の度合いによるスクリーニングと、その結果を踏まえ、イメージング&センシング・ソリューション (I&SS) 分野、エンタテインメント・テクノロジー&サービス (ET&S) 分野、ゲーム&ネットワークサービス (G&NS) 分野における直接操業およびバリューチェーン上流の鉱物資源の採掘を対象としてLEAPアプローチ (Locate、Evaluate、Assess、Prepare) に沿った自然関連課題の分析を行った結果は、以下の通りです。

方針

当社は、事業活動や地域貢献活動を通して、自然や生物多様性の維持・回復を積極的に推進し、生態系サービスの保全と持続的な利用に努めます。特に、製品ライフサイクル上で自然資本・生物多様性への依存や影響が大きいステージにおいては、目標を定めて取り組みます。原材料・部品調達の環境配慮を通じて、自然や生物多様性の維持、回復を積極的に推進し、また製品・包装材の省資源化を進めます。

TNFDの一般要件

マテリアリティの適用

本レポートでは、TNFD提言に基づき、ダブルマテリアリティの考え方を採用しています。具体的には、「当社の事業活動が自然資本に与える影響 (インパクトマテリアリティ) 」と「自然資本の変化が当社の事業・財務に与える影響 (財務マテリアリティ) 」の双方の観点から、自然関連の依存、影響、リスクおよび機会を特定・評価しています。

開示のスコープ

本レポートでは、当社の事業分野のうち、自然への依存・影響が相対的に高いI&SS分野、ET&S分野およびG&NS分野の自社製造事業所に加え、サプライチェーン上流における製造委託先の拠点、および鉱物資源の採掘プロセスを分析評価の対象としています。

自然関連課題がある地域

I&SS分野、ET&S分野およびG&NS分野の全ての自社製造事業所と、主要な製造委託先の拠点、およびサプライチェーン上流の鉱物資源の採掘に関連する鉱山を対象に、TNFDが「優先地域」の位置要件として定義している「影響を受けやすい地域 (sensitive location) 」に該当する拠点の特定を行いました。

ほかのサステナビリティ関連の開示との統合

当社は、自社の事業が健全な地球環境により成り立っているとの認識のもと、気候変動、資源、化学物質、生物多様性の4つの視点について自らの事業活動および製品ライフサイクルを通した環境負荷ゼロを目指しています。また、気候変動、資源、化学物質、生物多様性の環境課題は相互に関連すると認識しており、これらの環境課題の関係性を考慮しながら、分析し、自然関連情報の開示を行っています。

検討される対象期間

本レポートでは、短期を2年未満、中期を2年以上6年未満、長期を6年以上として時間軸を定義しています。

ガバナンス

当社は、会社法上の「指名委員会等設置会社」を現時点において最も適切な経営の機関設計として採用しており、そのもとで、取締役会は、グループ経営に関する基本方針その他重要事項について決定するとともに、CEOおよび執行役を含む上級役員に対して、それぞれの責任範囲を明確にした上で業務執行に関する決定権限を大幅に委譲することにより、迅速な意思決定を可能にしています。
取締役会は、中期経営計画および年度事業計画を定期的に審議・決定しており、自然資本・生物多様性を含むさまざまなリスク・機会を踏まえてかかる審議・決定を行っています。その上で、上級役員が、経営計画、事業計画に沿った戦略の遂行、業務の執行を行い、取締役会が、適宜、その状況について報告を受け、議論する体制となっています。
かかる取締役会からの権限移譲を受けて取締役会の一員でもある当社のCEOは、ソニーグループ全体に対して適用される、地球環境に関する当社の理念や自然資本・生物多様性に関する事項を含む基本方針を定めた「ソニーグループ環境ビジョン」、環境計画および環境中期目標 (Green Management 20XX) を決定する責任と権限を有しています。また、取締役会により選任された環境を含むサステナビリティに関する事項を担当する上級役員は、ソニーグループのグローバル環境マネジメントの基本的な枠組みを定めた社内規則である「ソニーグループ環境マネジメントストラクチャー」を制定し、当社の環境担当部署を通じて、各ビジネスユニット・事業所による「ソニーグループ環境ビジョン」の実現に向けた諸活動や、「ソニーグループ環境マネジメントストラクチャー」の遵守・運用などを監督しています。さらに、TNFDに対応するため、当社の環境担当部署が中心となり、シナリオ分析などを通じた自然関連リスク・機会の分析と把握、対応策の検討などを実施しています。これらの執行側での活動状況については、定期的に取締役会に報告し、そのレビューを受けています。なお、報酬委員会は、CEOを含む取締役、執行役およびその他の役員の個人別報酬の方針を決定し、これら役員の個人別報酬の額および内容を決定もしくは決定状況を監督する権限を有しています。ソニーグループの一部の事業(ET&S分野、I&SS分野およびG&NS分野)においては、各事業が重視している環境を含むサステナビリティ課題への取り組みについてKPIを設定し、各事業の業績評価の一部に組み込んでいます。また、ここでの評価結果は各事業を担当する上級役員の業績連動報酬に反映されています。

リスク管理

当社の各ビジネスユニット、子会社、関連会社、社内部署は、それぞれの担当領域において定期的にリスクを検討・評価し、損失のリスクの発見・情報伝達・評価・対応に取り組んでいます。また、当社の執行役を含む上級役員は、自己の担当領域において、当社グループに損失を与えうるリスクを管理するために必要な体制の整備・運用を推進しています。さらに、グループリスク管理を担当する執行役は、関連部門による活動を通じて、当社グループのリスク管理体制の整備・強化に取り組んでいます。また、かかる体制およびその運用状況については、定期的に取締役会が報告を受け、その妥当性について確認しています。
自然資本・生物多様性に関連するリスクについても、かかる体制のもと、各ビジネスユニット、子会社、関連会社、社内部署が、事業戦略・事業計画を策定する際に、必要に応じて評価・分析を行っています。

自然資本・生物多様性の戦略

分析の対象範囲のスクリーニング (ENCOREによるマッピング)

まず、ソニーグループの事業全体と自然との関係性を可視化するためにTNFDが推奨する分析ツールであるENCOREとBiodiversity Risk Filterを活用して当社の主要事業に対する自然資本への依存・影響を定量化しました。その結果、当社の事業分野のうち、I&SS分野、ET&S分野およびG&NS分野における自然への依存・影響が相対的に高いことを認識し、これら3つの分野をLEAPアプローチに沿った分析の対象範囲に設定しました。
また、当社が製造するエレクトロニクス製品には、さまざまな鉱物資源が含まれており、近年、環境配慮の側面からもステークホルダーの関心が高まっています。このような背景を踏まえて、バリューチェーンにおける分析対象範囲には、自社の製造拠点の「直接操業」プロセスに加え、サプライチェーン上流における製造委託先の拠点、および「鉱物資源の採掘」プロセスも含めました。

優先地域の特定 (Locate)

次に、I&SS分野、ET&S分野およびG&NS分野の全ての自社製造事業所 (28拠点※1) と主要な製造委託先の拠点、およびサプライチェーン上流の鉱物資源の採掘に関連する鉱山 (重要な鉱物31種の鉱山898拠点※2) を対象に、TNFDが「優先地域」の位置要件として定義している「影響を受けやすい地域 (sensitive locations) 」に該当する拠点の特定を行いました。TNFDで紹介されている分析ツールやデータベース※3を組み合わせて分析を実施し、「生物多様性にとって重要な地域」「生態系の完全性が高い地域」「生態系の完全性が急速に低下している地域」「物理的な水リスクが高い地域」「先住民、地域コミュニティ、ステークホルダーへの便益を含む生態系サービスが重要な地域」の5つの各判断基準に照らし、該当する拠点の有無や各スコアを確認し、影響を受けやすい地域に位置している拠点を特定しました。その結果、自社製造事業所の73%、主要な製造委託先拠点の23%、関連する鉱山の32%が生物多様性の重要な地域 (WDPA (World Database on Protected Areas) の保護地域の半径5km圏内に近接する地域) で操業していることに加え、自社製造事業所の17%、主要な製造委託先拠点の38%、関連する鉱山の41%が水リスクの高い地域で操業していることを認識しました。

評価結果概要: 自社製造事業所、主要な製造委託先の拠点

判断基準 評価指標 影響を受けやすい地域の割合 評価結果概要
自社製造事業所 主要な製造委託先の拠点
01
生物多様性にとって重要
1-1 WDPA 73% 23%
  • 自社製造事業所が保護地域の周辺に位置する割合が高い
1-2 KBA 47% 23%
  • 生物多様性の重要性が科学的に認められている地域周辺に位置する自社製造事業所の割合は半数程度
1-3 IUCN Red List of Threatened Species
  • IUCNのRed Listは、STARで指標化されているため、STARで評価することが妥当と判断
1-4 STAR 23% 15%
  • 絶滅危惧種や固有種などの種にとって重要な地域周辺に位置する拠点は比較的少ない傾向にある
02
生態系の完全性が高い
2-1 Biodiversity Intactness Index 37% 31%
  • 生態系の完全性が高い地域の周辺に位置する拠点は30%~40%程度。
  • 4拠点はスコア5の地域で操業している
03
生態系の完全性が急速に低下
3-1 Ecoregion Intactness Index 0% 0%
  • 生態系の完全性が急速に低下している地域における操業は確認されなかった
04
物理的な水リスクが高い
4-1 WRI Aqueduct (Water Stress) 17% 38%
  • 水ストレスの高い地域で操業している製造委託先の拠点の割合は比較的高い傾向にある
4-2 WRI Aqueduct (Riverine Flood) 10% 54%
  • 洪水リスクの高い地域で操業している製造委託先の拠点の割合は比較的高い傾向にある
4-3 WRI Aqueduct (Water Quality) 33% 62%
  • 水質リスクの高い地域で操業している製造委託先の拠点の割合は比較的高い傾向にある
05
先住民、地域コミュニティ、ステークホルダーへの便益を含む生態系サービスが重要
5-1 Critical Natural Asset Layers (Local Nature's Contributions to People / LNCP) 17% 15%
  • LNCPが高い地域に位置する割合は約15%程度
5-2 WDPA (PA_IPLC) 0% 0%
  • 先住民・地域コミュニティの統治管理する保護地域における操業は確認されなかった

評価結果概要:鉱山拠点

判断基準 評価指標 影響を受けやすい地域の割合 評価結果概要
01
生物多様性にとって重要
1-1 WDPA 32%
  • 鉱山が保護地域の周辺に位置する割合は全体的に多くはない。一部の鉱山拠点が高い
1-2 KBA 20%
  • 鉱山が生物多様性の重要性が認められている地域の周辺に位置する割合は全体的に低い。一部の鉱山拠点が高い
1-3 IUCN Red List of Threatened Species
  • IUCNのRed Listは、STARで指標化されているため、STARで評価することが妥当と判断
1-4 STAR 21%
  • 鉱山が絶滅危惧種や固有種などの種にとって重要な地域に位置する割合は全体的に低い。一部の鉱山拠点が高い
02
生態系の完全性が高い
2-1 Biodiversity Intactness Index 39%
  • 全体的には50%を下回る数値が多い。一部の鉱山拠点が高い
03
生態系の完全性が急速に低下
3-1 Ecoregion Intactness Index 0%
  • 影響を受けやすい地域に位置する鉱山拠点は1拠点のみ
04
物理的な水リスクが高い
4-1 WRI Aqueduct (Water Stress) 41%
  • 水ストレスは一部の鉱山拠点で高い傾向にある
4-2 WRI Aqueduct (Riverine Flood) 24%
  • 全体的に洪水リスクは低めの傾向。一部の鉱山拠点は高い傾向にある
4-3 WRI Aqueduct (Water Quality) 44%
  • 水質リスクが高い地域に位置する拠点割合が半数近い
05
先住民、地域コミュニティ、ステークホルダーへの便益を含む生態系サービスが重要
5-1 Critical Natural Asset Layers (Local Nature's Contributions to People/LNCP) 44%
  • 影響を受けやすい地域に位置する拠点割合が半数近い
5-2 WDPA (PA_IPLC) 2%
  • 先住民・地域コミュニティの統治管理する保護地域に位置する鉱山拠点は少ない

評価拠点

地域 評価を行った拠点数
自社製造事業所 ※1 鉱山 ※2
日本 19 1
日本以外のアジア 7 252
ヨーロッパ 2 81
アフリカ 0 174
北アメリカ 0 111
南アメリカ 0 131
オセアニア 0 148
合計 28 898
  • ※12026年3月31日時点でISO 14001グローバル環境マネジメントシステム認証の対象範囲に含まれている拠点数です
  • ※2鉱山の拠点情報について、ソニー製品に含まれる可能性の高い鉱物資源の採掘場所を一般情報から入手できる範囲で推定しました
  • ※3IBAT (World Database on Protected Area/WDPA、Key Biodiversity Area/KBA、Species Threat Abatement and Restoration/STAR) 、Biodiversity Intactness Index、Ecoregion Intactness Index、WRI Aqueduct、Critical Natural Asset Layers

自然資本に対する依存と影響の特定と評価 (Evaluate)

その上で、I&SS分野、ET&S分野およびG&NS分野の自社製造事業所と主要な製造委託先の拠点、およびサプライチェーン上流の鉱物資源の鉱山を対象に、自然への依存・影響の特定と評価を行いました。その結果認識された主要な自然資本への依存・影響は、以下の通りです。

I&SS分野 ET&S分野とG&NS分野 バリューチェーン上流の鉱物資源の採掘
主な依存の内容 半導体の製造工程(洗浄や加工など)で純水を使用するために、水資源に大きく依存している 防風林などの生態系が洪水・暴風雨からの物理的な保護機能を果たすことで、生産工場などのインフラが持続的に操業可能である 多種の鉱物資源(レアメタル含む)が製品に使用されており、鉱物資源への直接的な依存がある
依存する主な生態系サービス 水の供給、暴風雨の緩和、洪水の緩和、土壌・堆積物の保持、水質浄化、水流の調整、気候調整など 水の供給、暴風雨の緩和、洪水の緩和、土壌・堆積物の保持、気候調整など 気候調整、土壌と土砂の保持、水流の調整、洪水の緩和、水の供給、その他の供給サービスなど
依存する主な環境資産 淡水生態系、陸域生態系、陸地、水資源からもたらされる生態系サービスが重要であると考えられる 陸域生態系、陸地、水資源からもたらされる生態系サービスが重要であると考えられる 陸域生態系、淡水生態系、鉱物・エネルギー資源、陸地、水資源からもたらされる生態系サービスが重要であると考えられる
主な影響の内容 半導体工場は水資源が豊富な地域に建設しており、工程で生じた化学物質は適切処理しているものの、潜在的には過剰な取水による地下水の減少や化学物質による水質汚染といった影響が懸念される I&SS分野ほどではないが水の使用や、製造工程からの排水、廃棄物、汚染物質、GHGの排出といった一般的な電子機器の製造工場に共通する影響が懸念される 採掘のための開発行為を通じた生態系への影響が懸念される
懸念される主なインパクトドライバー 陸域生態系利用の変化、水使用、GHG排出、水質汚染、土壌汚染、固形廃棄物、攪乱など 陸域生態系利用の変化、水使用、GHG排出、固形廃棄物、攪乱など 陸域生態系利用、淡水生態系利用、水使用、その他の資源の利用、GHG排出、GHG以外の大気汚染、水質汚染、土壌汚染、固形廃棄物、攪乱、生物学的変化など(※ ただし、採掘方法によって影響の大きさやあり方が異なる)
影響する主な環境資産 陸域生態系、淡水生態系、海洋生態系、水資源に対する影響に注視する必要があると考えられる 陸域生態系、淡水生態系、水資源に対する影響に注視する必要があると考えられる 陸域生態系、淡水生態系、鉱物・エネルギー資源、水資源に対する影響に注視する必要があると考えられる。

上記の分析結果から、いずれの事業分野においてもリスク・機会につながりうる重要な依存と影響があることを認識しました。つまり、Locateフェーズにおいて特定された影響を受けやすい地域は、同時に重要な依存・影響とリスク・機会の存在する「優先地域」であると言えます。

リスクと機会の特定 (シナリオ分析) (Assess)

Evaluateフェーズで特定したI&SS分野、ET&S分野、G&NS分野と鉱物資源の採掘における自然への依存と影響をもとに、TNFD提言の提示する類型を参照して自然関連リスクと機会のロング・リストを作成しました。その上で、シナリオ分析を実施し、ロング・リストに挙がっているリスクについて財務的評価とインパクト評価の両面で重要性評価を行いました。
シナリオ分析の前提としては、2030年時点を想定し、TNFD提言が提唱している「生態系サービスの劣化」と「市場と市場以外の力の整合」の2軸で描かれる4つのシナリオのうち、リスクの高さと起こりうる可能性の観点から、次の2つの世界観を選定しました。

  • シナリオ#2: 自然の劣化による物理的リスクと、ネイチャーポジティブに向けた政策・法規制などによる移行リスクの双方が高くなるという世界を想定しており、当社にとっての自然関連リスクが最も高くなると考えられます。
  • シナリオ#3: 自然の劣化による物理的リスクは高いものの、各国政府や消費者などのステークホルダーの自然資本への関心は低いため移行リスクは低いという世界を想定しています。ネイチャーポジティブな経済への移行は始まったばかりであることから、現段階では、このシナリオに将来的に移行していく可能性も想定しておくべきであると考えました。

TNFDによる例示的なシナリオと活用したシナリオ

図:TNFDによる例示的なシナリオと活用したシナリオ。概要を本文に記しています

この2つのシナリオの世界観を前提条件とし、各リスクの重要性評価を実施しました。重要性評価では、各リスクを財務影響の強度と発生可能性の2つの観点から評価し、重要性の高いリスクを特定しました。機会については、リスクの低減が機会につながるとの考えから、重要性評価により特定された重要性の高いリスクへの対応策についてAR3Tフレームワーク (企業活動の優先順位付け: 自然への影響の回避、削減、回復・再生、変革) を用いて整理し、自然関連の機会として認識しています。
優先地域の特定と前記のプロセスに基づいたシナリオ分析の結果、I&SS分野、ET&S分野、G&NS分野、鉱物資源の採掘において重要性の高いリスクと機会として認識した内容と、優先順位の高いものについてマイナスインパクトを回避・軽減するための対応策は、次の表の通りです。

重要性評価結果の傾向として、シナリオ#2では、物理的リスクと移行リスクの両方が重大と評価されました。物理的リスクには、水不足や水質汚染による生産現場の運営コスト増加や土地改変などにともなう生態系の劣化による建物への直接的被害や復旧コストの増加が含まれます。移行リスクとしては、自然関連法規制の強化にともなう対応コストの増加や周辺の自然環境への負荷の影響にともなう評判悪化といったリスクが高く評価されました。
一方で、シナリオ#3では、物理的リスクの重要性はシナリオ#2と大きな差はありませんでしたが、ステークホルダーの自然課題への関心は高くないと想定されることから、移行リスクの重要性はシナリオ#2よりも低く評価される傾向にありました。
また、I&SS分野、ET&S分野およびG&NS分野ではいずれも直接操業の製造工程を想定していることから同様の自然関連リスクと機会が特定されていますが、各分野間での主な違いとして、I&SS分野の半導体製造工程ではより多くの水消費が想定されるため、ET&S分野やG&NS分野よりも水資源関連リスクの強度は大きくなると評価しています。

自然資本に関するリスクと機会 (対応策)

I&SS分野、G&NS分野、ET&S分野 (製造委託先含む製造事業所)

リスク・カテゴリー 認識したリスクと機会 主な依存 主な影響 対応策
物理的リスク
  • 過剰な取水や塩水化、気候変動による水資源不足や化学物質による水質汚染にともなう、生産現場の生産プロセス・タイミングの見直しなどの運営コスト増加や操業停滞による収益悪化(特にI&SS分野はリスクが高い)
水の供給 水使用、水質汚染
  • 水使用量の多いサイトにおける水使用量原単位5%の改善と水リスク地域に立地するサイトにおけるリスク低減活動の実施
  • 半導体や電子機器製造における国内外の事業所での、排水リサイクルの推進や水使用量の削減。ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング株式会社 熊本テクノロジーセンター(熊本テック)では、地下水涵養も実施し、2025年度は熊本テックの取水量を上回る約305万m3を涵養
  • 工場建設などの土地改変や排水による生態系の劣化と自然災害防止機能の弱まりにともなう、建物への直接的被害と復旧コストの増加
暴風・洪水の緩和 陸域・淡水生態系利用
  • 洪水などの自然災害が自社生産活動におよぼすリスクアセスメントの定期的な実施
  • 事業所構内の緑地や周辺地域の生態系において、地域のニーズに応じた自然回復活動や生物多様性の保全活動を推進
  • 気候変動による豪雨増加などによって生じる土砂災害を要因とした工場の操業停止や道路の寸断にともなう、生産性の低下や復旧コストの増加
気候調整、土壌・土砂の保持 GHG排出、陸域生態系利用
  • 洪水などの自然災害が自社生産活動におよぼすリスクアセスメントの定期的な実施
  • 気候変動への適応、緩和に関する施策は、気候変動の対応策を参照
移行リスク
  • 自然資本関連法規制(水源保全、海洋汚染、土壌汚染、生態系保護など)の強化にともなう、対応コストの増加
水使用、水質・土壌汚染、生態系利用
  • グローバルに統一した環境マネジメントシステムの構築と継続的な改善
  • 事業所の水使用状況や立地する地域の水リスクに応じた水源の選定や保全(水使用量削減・再利用の推進、排水時の周辺環境への影響の最小化)の実施
  • 事業所周辺地域における清掃活動の実施
  • 事業所構内の緑地や周辺地域の生態系において、地域のニーズに応じた自然回復活動や生物多様性の保全活動を推進
  • 水の使用や製造工程からの排水、廃棄物、汚染物質、GHGの排出による水質汚染や土壌汚染など周辺の自然環境の悪化による周辺コミュニティ、ステークホルダーからの評判悪化にともなう、企業価値の低下や収益悪化、訴訟問題による対応コスト増加
水使用、水質・土壌・大気汚染、固形廃棄物
  • 懸念の高い化学物質の使用量削減と代替
  • 水質法規制などの遵守と規制レベル以上の排水管理の実施
  • 事業所の水使用状況や立地する地域の水リスクに応じた水源の選定や保全(水使用量削減・再利用の推進、排水時の周辺環境への影響の最小化)の実施
  • 事業所構内の緑地や周辺地域の生態系において、地域のニーズに応じた自然回復活動や生物多様性の保全活動を推進
  • 注)上記の分析は、想定したシナリオおよび前提条件に基づいて分析を行った結果であり、実際に発生する事象と異なる場合があります。また、上記の対応策は、認識したリスクや機会に対して十分な効果をもたらさない場合があります

鉱物資源の調達 (サプライチェーン上流)

リスク・カテゴリー 認識したリスクと機会 主な依存 主な影響 対応策
物理的リスク
  • 鉱物資源の大量採取による利用可能な鉱物資源量の減少や資源競争の激化にともなう、原材料としての鉱物資源価格の調達コスト増加
鉱物資源の供給 鉱物資源の利用
  • 資源の枯渇性・偏在性・採掘時の環境負荷や採掘による生物多様性の損失、地域コミュニティへの影響などの観点から「重視する資源」を特定し、再資源化とバージン資源由来の部材使用をゼロとすることを推進
  • 重視する鉱物資源(タンタル)の再資源化において回収効率改善を推進
  • 高リスク地域における鉱物の採掘にともなう悪影響の特定とその防止または軽減に向けた取り組みを行う業界団体やアライアンス(Responsible Business Alliance (RBA) のResponsible Minerals Initiative (RMI)、JEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)など)に対する積極的な協力および支援の実施
  • 気候変動への適応、緩和に関する施策は、気候変動の対応策を参照
  • 気候変動による干ばつの影響から水資源の枯渇や採掘活動による水質悪化、地盤の不安定化などにより鉱山の事業活動が停滞し鉱物資源量が減少することにともなう、鉱物資源供給の停滞や停止と製品売上の減少や調達コストの増加
気候調整、水の供給、土壌の保持 陸域・淡水生態系利用、水使用
  • 気候変動による豪雨増加などを要因とした採掘現場などの土砂災害によるサプライチェーンの寸断や採掘活動の停止にともなう、鉱物資源供給の停滞・停止と製品売上の減少や調達コストの増加
気候調整、土壌の保持 GHG排出、陸域生態系利用
  • 気候変動への適応、緩和に関する施策は、気候変動の対応策を参照
移行リスク
  • 鉱山運営サプライヤーに対する環境法規制の強化にともなう、責任ある調達などのデュー・ディリジェンス対応コストの増加や法規制未対応サプライヤーの操業停止による原材料調達難による売上の減少
陸域・淡水生態系利用、水使用
  • 高リスク地域における鉱物の採掘にともなう悪影響を特定し、その防止または軽減に向けた取り組みを行う業界団体やアライアンス(RBAのRMI、JEITAなど)に対して積極的な協力および支援を実施
  • 責任あるサプライチェーンの実現を目指し、一次サプライヤーを通じて二次以降のサプライヤーにも「ソニーサプライチェーン行動規範」の遵守を要請するなど、自社およびサプライヤーへのアセスメントを徹底
  • 採掘活動による陸域・淡水生態系利用や汚染物質の排出など環境負荷の大きい採掘現場から調達されている鉱物資源の使用にともなう、ステークホルダーからの評判悪化によるブランド価値の棄損と収益の減少
陸域・淡水生態系利用、水質・土壌・大気汚染
  • 注) 上記の分析は、想定したシナリオおよび前提条件に基づいて分析を行った結果であり、実際に発生する事象と異なる場合があります。また、上記の対応策は、認識したリスクや機会に対して十分な効果をもたらさない場合があります

自社製造事業所における対応策の事例

自然への依存経路・影響経路の特定

前記の優先地域の特定とシナリオ分析の結果、I&SS分野、ET&S分野およびG&NS分野の製造事業所においてリスク・機会につながりうる重要な依存と影響があることを認識しました。例えば、各種電子機器の実装基板を製造するソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ株式会社 稲沢サイト (愛知県稲沢市) は、WDPA (World Database on Protected Areas) 指標において生物多様性にとって重要な地域に立地していることが判明しました。稲沢市は、濃尾平野のほぼ中央に位置し、木曽川の恩恵を受けた平坦な地形を生かし、稲作が盛んな地域です。こうした地域で操業する製造事業所において想定されるインパクトドライバー、自然の状態 (環境資産) 、生態系サービスを特定した結果は以下の図の通りです。また、自然関連のリスクと機会は、自然への依存経路と影響経路から生じ、激甚化災害などの物理的リスク、規制や条例の強化などの移行リスク、地域の生態系を回復・保全するといった機会を特定することができました。

製造事業所で想定されるインパクトドライバー、自然の状態 (環境資産) 、生態系サービス (陸域・淡水生態系) の特定

図:製造事業所で想定されるインパクトドライバー、自然の状態 (環境資産) 、生態系サービス (陸域・淡水生態系) の特定

ランドスケープアプローチ

自然への依存度や影響が高い「優先地域」において、自然再生や自然リスクへの対応を進める上では、地域の自治体や市民による取組みを含めた景観レベルや流域レベルでの取組み (ランドスケープアプローチ) を推進することが推奨されています。こうした広域的な取組みを具体的に進めていくためには、ランドスケープの中で保全、再生の優先度が高い場所を特定し、重点的に取り組む場所を明確にすることが重要となります。また、AR3Tフレームワーク (企業活動の優先順位付け:自然への影響の回避、削減、回復・再生、変革)の考え方を採用することが重要となります。
稲沢サイトでは、公益財団法人日本自然保護協会の協力のもとで2026年1月に2回に分けて専門家ヒアリングを行い、生態系の希少性や相補性、連続性といった観点から稲沢市における21カ所の「生物多様性の重要地域」を特定しました。選定された重要地域の中には、稲沢サイトが連携して活動を行ってきた活動地「祖父江のホタルを守る会実験田」も含まれていました。活動地では無農薬による稲作を通してホタルの保全を行っています。また、重要地域において生物多様性の指標種評価※4を行った結果、活動地は植物と鳥類のどちらの観点からも指標種の種数・希少度の両面において自然の状態が良好な場所であることが示唆されました。稲沢市の重要地域で行われている地元の生物多様性保全活動と連携することは、先述した稲沢サイトがおよぼすインパクトドライバー (土地利用) の影響 (周辺生態系の分断化や生息地の変化など) に対応する効果的な活動になると考えられます。特定されたそれぞれの重要地域が抱える課題やその緊急性などを整理すると共に、関係者間での議論を通じて具体的な活動内容を検討していくことで景観レベルでの生物多様性の保全を進めていきます。

整理を行った稲沢市の重要地域の概要

図:整理を行った稲沢市の重要地域の概要

ソニーでは、サイトの事業活動における生態系サービスへの依存と影響を踏まえた、または地域の生態系に応じた生物多様性の回復・創出・保全活動を継続的に実施しています。ソニーの事業所における生物多様性保全活動の一覧については、「ソニーの事業所における生物多様性保全活動一覧 (GRI101) 」をご参照ください。

  • ※4生物多様性指標種評価:高川 et al., 2025, 種組成のネスト構造を考慮した指標種による生物多様性評価手法

自然資本・生物多様性の指標・目標

自然関連に関する指標と目標 (Prepare)

当社では、2010年に環境計画「Road to Zero」を策定し、環境中期目標を5年ごとに設定して活動を進めています。環境中期目標の設定においては、達成年から逆算し、各時点で環境負荷がどのレベルになっているべきかを考え、年度ごとの目標内容に反映しています。これにより、「環境負荷ゼロ」に向けて、活動の進捗に修正を加えながら、着実に実行することができます。
2020年9月には、2025年度までの環境中期目標である「Green Management 2025」を発表し、製品のライフサイクル全般を5つのステージ (商品 / サービスの企画および設計、オペレーション、サプライチェーン、物流、回収・リサイクル) に分類し、各ステージで4つの視点 (気候変動、資源、化学物質、生物多様性) からの具体的な目標を設定し、活動を推進していました。
これら4つの視点からの目標は、自然資本と密接に関係しており、ソニーグループとして特定した自然関連リスクと機会への対応策とも関係しています。

  • 「気候変動」では、I&SS分野、ET&S分野およびG&NS分野の重要なリスクとして特定されている水資源不足や土砂災害については、気候変動が、その発生の主要な要因として特定されています。そのため、気候変動の適応や緩和に貢献する対応策は、今回特定された自然関連リスクの低減にもつながります。「気候変動」の視点で掲げている目標とその取り組みの推進については、気候関連に関する指標と目標に記載の通りです。
  • 「資源」の視点からは、例えば、水使用量の多いサイトでは水使用量原単位の5%改善(基準年2020年度)5、水リスク地域に立地しているサイトではリスク低減活動の実施※6を掲げています。さらに、原材料・部品サプライヤー、製造委託先に対し、立地する地域の水枯渇リスクを考慮した水使用量削減目標の設定と進捗管理を求めることも目標としています※7。これらの目標は、I&SS分野、ET&S分野およびG&NS分野で特定された水資源に関するリスクに関連しています。サプライチェーン上流の鉱物資源の採掘においても、ソニーグループでは、重要な鉱物資源の使用量削減や再資源化のため、重視する鉱物資源 (タンタル) の再資源化において回収効率を1.5倍 (基準年2020年度) にすること※8や地域社会のニーズに適応したリサイクルスキームの構築・維持※9を目標として掲げており、鉱物の大量採取による資源量の減少や資源獲得競争の激化による鉱物資源価格の高騰に関するリスクに関連した目標となっています。
  • 「化学物質」では、ソニーグループは、懸念の強い環境管理物質について、リスクの高い用途において代替を行うこと※10や特定の物質の使用を禁止すること※11を目標として掲げています。サプライチェーンにおいても、ソニーグループへ納入される原材料・部品・製品や製造委託先から納入される製品・半製品に関して、ソニーグループが制定した基準に沿った対応を求め、管理すること、ならびに原材料・部品サプライヤーや製造委託先に対しては、ソニーグループが別途指定する物質の製造プロセスでの使用禁止、および適正管理を求めることを目標に設定しています※11
  • 「生物多様性」の視点からも、地域の生態系に応じた生物多様性保全活動の継続的な実施や事業所周辺地域での清掃活動の実施のほか、原材料・部品サプライヤーと製造委託先に対し、生物多様性への配慮と取り組みを求めることを目標として掲げています※12。これらの目標は、 I&SS分野、ET&S分野およびG&NS分野の製造拠点からの汚染物質排出などによる周辺環境への環境負荷増加にともなう評判リスクに関連しています。

水使用量や廃棄物発生量などのTNFDの中核開示指標に関連するデータについては、環境データをご参照ください。また、ソニーの事業所における生物多様性保全活動については、「ソニーの事業所における生物多様性保全活動一覧 (GRI101) 」をご参照ください。

  • ※5データブック「環境データ集計の方法および考え方」中の「環境データ集計の対象期間と範囲および精度」「集計範囲」「事業所データ」に記載している集計範囲のうち、水使用量が多いサイト(2024年度の水使用量が50万m3以上)が対象です。データの集計方法および考え方については、データブック「環境データ集計の方法および考え方」に記載の「資源に関連するデータの集計方法と考え方」「水使用量・取水量・排水量」「水使用量」をご参照ください
  • ※6データブックの「環境データ集計の方法および考え方」中の「環境データ集計の対象期間と範囲および精度」「集計範囲」「事業所データ」に記載している集計範囲のうち、水リスク地域立地サイトが対象です。水リスク地域立地サイトは、WRI (世界資源研究所) やWWF (世界自然保護基金) が提供する水リスク評価ツールを組み合わせ、両ツールで総合リスク評価結果が3以上の地域の事業所を指します
  • ※7ET&S分野、G&NS分野、I&SS分野およびその他分野における原材料・部品サプライヤー、ならびに、ET&S分野およびG&NS分野における一部の製造委託先が対象です
  • ※8ソニーの関連会社で、日本の家電リサイクル法に基づきリサイクル事業を行う会社が対象です
  • ※9ET&S分野およびG&NS分野において、世界各国および地域のリサイクル法規制を遵守しています
  • ※10G&NS分野、ET&S分野、I&SS分野、および、その他分野の一部の会社が対象です
  • ※11ソニーグループ株式会社、G&NS分野、ET&S分野、I&SS分野、および、その他分野の一部の会社が対象です
  • ※12ET&S分野、G&NS分野、I&SS分野およびその他分野における原材料・部品サプライヤー、ならびに、ET&S分野およびG&NS分野における一部の製造委託先が対象です