【後編】正解のない「10年後の未来」をどう描く?CEV策定・推進プロジェクトの舞台裏 ── Promotion(推進)

ソニーグループの10年後のありたい姿として、2024年の経営方針説明会で発表された長期ビジョン「Creative Entertainment Vision(以下、CEV)※」。ソニーグループ株式会社 社長 CEO(当時、副社長 兼 CFO)の十時からの「明るくワクワクするような未来を描いてほしい」というオーダーに対し、真正面から取り組み続ける社員がいます。そこで今回は、『正解のない「10年後の未来」をどう描く?CEVプロジェクトの舞台裏』と題して、この壮大な問いに挑むプロジェクトの軌跡をVisualization(可視化)とPromotion(推進)それぞれの側面から、前編・後編の2回に分けてご紹介します。
後編のテーマは、Promotion(推進)。可視化されたビジョンを、いかにして全社11万人の社員や世界中のクリエイターに浸透させ、彼らとともに未来を創造していくのか。「Company(経営層)」「Consumer(社外のクリエイターやパートナー)」「Employee(社員)」という3つの視点を柱に取り組んだプロジェクトの舞台裏について、主にブランドコミュニケーショングループの飯田さんにお話しいただきました。また記事後半では、CEVの現在地点や、守屋さん・飯田さんが描く10年後の未来についても語っていただきます。
※ Creative Entertainment Visionに関する詳細は、こちらのページをご覧ください。
Creative Entertainment Vision
ビジョンをどう伝えるか。3つの視点で挑んだプロジェクト
── 飯田さんがPromotion(推進)側のプロジェクトを本格的にリーディングするようになったのはいつ頃ですか?
飯田: 私が深く関わるようになったのは、2025年1月にアメリカで開催されたCES®※に向けたコミュニケーションプランの構築段階からです。例年、CESでの発信はブランドコミュニケーショングループの立場から担当していましたが、この年のテーマが満を持して「CEV」になったんです。そこで、守屋さんのいらっしゃるチームと一緒に、半年くらいかけて内容を固めていきました。
※CES®とは、毎年1月に米国(ラスベガス)で開催される、世界最大級のテクノロジー見本市のこと。
その後、2025年の4月からは社内外に浸透させるためのプロモーションプロジェクトが立ち上がり、そのリード役を私が担当することになりました。
── これまでやってこられたブランドコミュニケーションと、CEVのPromotion(推進)プロジェクトにはどのような違いがあるでしょうか?
飯田: これまで私たちが取り組んできたのは、広くソニーに興味関心を持ってくださる「ソニーファン」のみなさまに向けて多様なソニーの魅力を伝えていくブランドコミュニケーションです。それが今回は、CEVという長期ビジョンを実際のコミュニケーションプランに落とし込んでいくというもので、私自身も初めての経験で、難しいと感じる一方で、非常にやりがいのあるプロジェクトでした。
具体的なアプローチとしては、Promotion(推進)を単なる社外に向けた発信にとどめず、「Company(経営層の視点)」「Consumer(社外のクリエイターやパートナー向け)」「Employee(社内の社員向け)」という3つの視点を柱とすることにしました。というのも、CEVに関する認知を増やして理解と共感を促進するには、外部だけでなく社内に向けた視点が重要だと考え、さらにCEVが長期ビジョンである以上、経営層の考えや思いもしっかりと汲み取って反映させていく必要があると考えたからです。実際に、トップマネジメントの皆さんに活動のご説明とご意見をヒアリングさせていただいた際に、「CEVは人によって解釈が少しずつ違い、それぞれのCEVというものがあり得る。だからこそCEVが、『自分はこう思う』という議論を惹起(じゃっき)するものであるために、社員一人ひとりへの『CEVの自分ごと化』をぜひ進めていってもらいたい」というメッセージをいただき、背中を押していただきました。
その結果、私たちブランドコミュニケーショングループだけではカバーしきれない広範囲にわたる取り組みとなり、クリエイティブセンター内の部署だけではなく、広報やIRチーム、経営企画などさまざまな部署と連携した大規模横断プロジェクトになりました。

ストーリーで実感させる「エンタテインメントへの注力」
── 社外(Consumer)に向けた発信としては、具体的にどのような取り組みを行ったのでしょうか?
飯田: 社外向けには「Creative Entertainment Vision Portal」※1というサイトを立ち上げ、CEV関連のさまざまなコンテンツをご紹介しています。その中の事例をいくつか取り上げると、たとえば、クリエイターが思い描く未来を、ソニーのテクノロジーがどう実現させていくかに焦点を当てたブランドキャンペーン動画を企画・製作しました。他にも、PlayStationの大ヒットゲーム作品『The Last of Us』を題材にクリエイターとの共創を描いたストーリーや制作の裏側を深掘りする『Create Infinite Realities』、CEVを実現するために重要な役割を果たすバウンダリースパナー※2の挑戦を描いたショート動画など、多様な切り口のコンテンツを用意しました。

※1社外向けにCEV関連の発信をまとめたポータルサイト「Creative Entertainment Vision Portal」
Creative Entertainment Vision Portal
※2バウンダリースパナーとは、組織や分野の境界を超えて人と人をつなぎ、知識や活動を共有して、新しい価値を生み出す人のこと。
── 社外(Consumer)に向けたさまざまな取り組みの中で、飯田さんご自身が特に印象に残っているものはありますか?
飯田: 「統合報告書 Corporate Report 2025」の巻頭特集「Creative Entertainment Vision」内『The Last of Us』の事例紹介におけるストーリー作成は、私にとって最初の大きなチャレンジとして印象に残っています。エンタテインメントへの注力を社内外に理解してもらうために、ゲームとして生み出されたIP※が、ドラマになり、さらにロケーションベースの体験型アトラクションへと拡張していく、といった「IPの360度展開」というストーリーテリングを、守屋さんたちが作ったコンセプトに落とし込みながら、フレームワークなどの形で具体的に可視化していきました。
※IPとはIntellectual Propertyの略で、創造的活動によって生み出されたアイデアや創作物など、知的財産のこと
── それは非常に説得力がありそうですね。
飯田: この資料を作成するにあたって、本当に多くの部署の方と議論を重ね、多くのアドバイスをいただきました。そうした中で、私自身もエンタテインメントに注力することの意味をあらためて学ぶことができましたし、社内のメンバーからも「なるほど、こういうストーリーテリングができるんだ」と理解が一気に進む手応えを得ることができました。これまでのソニーは、技術革新からプロダクトが生まれるというアプローチが主流でしたが、今は「こんな映像表現がしたいから、この技術が必要だ」という議論も現場で活発に行われているように思います。

「CEVは大喜利である」。社員の自分ごと化を促すインナーブランディング
── 一方で、社内(Employee)向けの浸透施策もまた、非常に難易度が高かったのではないでしょうか?
飯田:おっしゃる通りです。ソニーには多種多様な事業会社があり、社員の業務内容もさまざまです。エンタメ領域の人とテクノロジー領域の人では、CEVの捉え方も異なります。単一のメッセージをトップダウンで落としても、本当の理解にはつながりません。そこで、インナーブランディングに特化したチームが推進役となって、各事業会社に寄り添う形でガイドラインを作ったり、ワークショップのツールキットなどを作ったり。社員一人ひとりが自分の実業務に紐づけてCEVを理解しつつも、みんなで同じ方向を向けるような環境を整えることに腐心してくださいました。


── 社内向けイベントでは、「CEVは大喜利である」というユニークな解釈も生まれたとお聞きしました。
守屋: まさに私もスピーカーとして登壇していたトークセッションだったのですが、同じく登壇者の一人が「CEVは大喜利である」と表現されたんです。CEVには決まった正解があるわけではなく、人によって解釈が違っていい。自分なりの答えを導き出すための「お題」のようなものだ、と。そうしたメッセージも後押しして、参加者の方々にも、CEVを自分ごと化して捉えるポジティブな姿勢がどんどん広がっていきました。

バウンダリースパナーと、ソニーのカルチャー
── Promotion(推進)活動を通して、「ソニーらしさ」を感じられた瞬間はありましたか?
飯田:バウンダリースパナーが、ソニーには本当にたくさんいらっしゃいます。自分のアイデアを持って「こういうことをやってみたい」と他部署へ相談に行ったり、自分が作った技術をエンタメの現場へ売り込みに行ったり。そういった自由闊達なコラボレーションがいろいろな現場で自然発生するカルチャーこそが、ソニーの最大の魅力であり、未来を作っていく力なのだと、改めて強く感じました。

── すでにあらゆるところで、一人ひとりのCEV活動は動き始めているのですね!CEVに関する最新のニュースなどがあれば教えてください。
守屋: CEVは、社内外を巻き込んだ開発のテーマとなり、社会実装が始まっています。
たとえば、ソニーグループ横断の技術交換会「Sony Technology Exchange Fair2025」※では、「感動を生むテクノロジー」として技術開発視点からCEVにアプローチし、未来のエンタテインメントをどのように実現していくかといった観点で展示が行われました。
※ Sony Technology Exchange Fair2025に関する記事はこちら
Sony Technology Exchange Fair 2025レポート
飯田:社外向けの発信は、先程もご紹介した「Creative Entertainment Vision Portal」にまとまっていますが、他にも、ソニーグループのポータルサイト「sony.com」※トップページでも、ソニーグループ各社が推進するCEVに関する最新事例をご紹介しています。こちらもあわせてご覧いただければと思います。
※sony.comはこちらをご覧ください
https://www.sony.com/ja/
── では最後に、お二人が(個人的に)考える、CEVを通して実現してみたい未来の姿について教えてください。
守屋: 「Narratives Everywhere」※——CEVが描く3つのフェーズのひとつが指し示すのは、個人的にも心から見てみたい世界の姿です。一人ひとりの胸の内に静かに宿っていた物語が、ひとつのメディアの枠を超え、空間へ、体験へ、モノへ、日常のあらゆる瞬間へと溶け込んでいく世界。ワクワクが、生きることそのものに織り込まれた世界。クリエイターにとっても、その物語を受け取る人たちにとっても、それはきっと、作る価値のある未来だと信じています。
※Narratives Everywhereに関する詳細はこちらのページをご覧ください。
想像を超え、ワクワクするストーリー性のある体験を世界中に広げる Narratives Everywhere
飯田:私はもともと、コンピューターグラフィックスのプロダクションからキャリアを始めています。当時は「最先端の技術を使って、まだ見ぬエンタテインメントを創造する」というテクノロジーが先導する世界でした。今、CEVが目指しているのは、その先にある世界——多様化する「ユーザーが見たいもの」「クリエイターが創造したいもの」を、最新の技術が叶えていく世界だと感じています。同時に、映画や音楽、アニメを愛する一人として、現代は情報やコンテンツに溢れていて、「これ以上、本当に新しいものが生まれるのだろうか」と感じる瞬間もあります。だからこそ、CEVのような取り組みには大きな意味があるのではないでしょうか。
10年後の未来も、ユーザーやクリエイターという「人」が中心にある手触り感と、最先端の技術が良い形で融合した、誰もが楽しめる優しい世界であってほしい。ソニーグループの中で、世代を超えて共に未来を想像し創造していくカルチャーが根付き、これまで体験したことがない、驚くようなエンタテインメントが生まれてくることを楽しみにしています。

<編集部のDiscover>
10年後の未来を描いたCEVプロジェクトについて、前編ではVisualization(可視化)に、後編ではPromotion(推進)に焦点を当ててご紹介してきました。ここまでの軌跡についても、今回の記事には書ききれないくらいたくさんの物語がありましたが、CEVの実現を通して未来にはもっともっとたくさんの物語が生まれていくはずです。CEV関連のニュースは、記事の中でもご紹介した「Creative Entertainment Vision Portal」や「sony.com」を通して発信していきますので、具体化され社会実装されていく「未来」をこれからも楽しみにしていてください!
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