【前編】正解のない「10年後の未来」をどう描く?CEV策定・推進プロジェクトの舞台裏 ── Visualization(可視化)

ソニーグループの10年後のありたい姿として、2024年の経営方針説明会で発表された長期ビジョン「Creative Entertainment Vision(以下、CEV)※」。ソニーグループ株式会社 社長 CEO(当時、副社長 兼 CFO)の十時からの「明るくワクワクするような未来を描いてほしい」というオーダーに対し、真正面から向き合ってきた社員がいます。そこで今回は、『正解のない「10年後の未来」をどう描く?CEVプロジェクトの舞台裏』と題して、この壮大な問いに挑むプロジェクトの軌跡をVisualization(可視化)とPromotion(推進)それぞれの側面から、前編・後編の2回に分けてご紹介します。
前編のテーマは、Visualization(可視化)。ソニーグループ株式会社 クリエイティブセンターのメンバーは、エンジニアから事業企画、トップマネジメントまで、グループの各領域のキーパーソンとともにこの壮大なビジョンをいかにして可視化したのか。一見すると大胆なアイデアから始まった議論、未来のイメージを明確にしながらも想像の余地を残すために3回も作り直した映像へのこだわりなど、クリエイターたちが奮闘した舞台裏について、主にクリエイティブセンターの守屋さんにご紹介いただきます。
※ Creative Entertainment Visionに関する詳細は、こちらのページをご覧ください。
Creative Entertainment Vision
「デザイナーとして一番華のある仕事」に携わる喜び
── まずは、この壮大なプロジェクトがどのように始まったのか、その成り立ちから教えてください。十時さんから「明るくワクワクするような未来を描いてほしい」というオーダーがあったと伺っていますが、守屋さんはクリエイティブセンターのデザイナーとしてこのお題を受けたとき、率直にどのような思いを抱かれましたか?
守屋:私がこのプロジェクトにジョインしたのは2022年の9月からですが、半年ほど前から既にプロジェクトは動き出していました。当時の私は、フィジカルとバーチャルを横断するような技術を使った別の案件に携わっていたのですが、上司から「新しいプロジェクトの相談に乗ってほしい」と声をかけられ、プロジェクトメンバーに加わりました。

私はこれまでさまざまな製品・サービスのUI・UX※デザインに関わってきましたが、今回のように「会社の未来の姿を描く」というのは、デザイナーという職業において一番華のある仕事だと考えています。学生時代に、かつて戦後のアメリカやヨーロッパでは未来を可視化することをデザイナーたちが担ってきたという事例を見る機会があり、「いつか自分もこういう仕事ができたらいいな」とずっと憧れていたんです。ですから、上司からこの話をいただいた時、食い気味に「ぜひやらせてください!」と答えていたと思います。デザイナーとして、このような機会をいただけたことは本当にうれしく、上司にも感謝しています。
※UI(ユーザーインターフェース)とは、ユーザーと製品・サービスとの接点や操作する仕組み全般のこと。UX(ユーザーエクスペリエンス)とは、ユーザーが製品やサービスを利用する際に得られるすべての体験のこと。
突拍子もないアイデアから始まった「Sci-Fiプロトタイピング」
── 未来を可視化していくプロセスについて伺いたいのですが、どのようにして「10年後の未来」の輪郭を作っていったのでしょうか?
守屋:私がこのプロジェクトにジョインしたときには、すでにさまざまなアイデアがありました。そこから、大きく分けて二つのアプローチを取ったと伺っています。一つは、現在の既存事業からの進化を考える「フォーキャスト」のアプローチ。そしてもう一つは、あらゆる未来の可能性から逆算する「バックキャスト」のアプローチです。
実はこのプロジェクトの少し前に、クリエイティブセンターが企画した「Sci-Fiプロトタイピング」というSF(サイエンス・フィクション)を用いて未来を構想し、逆算的に今後の道筋を考える手法を用いたプロジェクト※がありました。そのフレームワークを活用し、まずSF的なアプローチで思い切り未来を描いた上で、現在の我々の事業やソニーグループのPurposeである「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」に向けて逆算していくという手法を取りました。
※Sci-Fiプロトタイピングの手法で「2050年の東京」の物語を描き出したプロジェクト「ONE DAY, 2050 / Sci-Fi Prototyping」についての詳細はこちらをご覧ください
SF作家とともに描く未来のデザイン「ONE DAY, 2050 / Sci-Fi Prototyping」
── 最初はあえて制約を設けないアイデア出しからスタートしたそうですね。
守屋:はい。最初のアイディエーションでは、突拍子もないアイデアが次々と飛び交いました。「こんなワクワクする未来があるんだ!」といった驚きや、ときには大爆笑が起きるような、多様性に富んだアイデアボードが作られました。

そこから議論を重ねていく中で、当時の時代背景(コロナ禍によるフィジカルな体験価値の再発見など)も踏まえ、「バーチャルとフィジカルが重なった、多次元のリアルに価値があるのではないか」という仮説に辿り着きました。これがのちに「Create Infinite Realities」というCEVのコンセプトにつながっていきます。
── そこからアイデアはどのような方向性へと絞り込まれていったのでしょうか?
守屋:アイディエーションを通して、いくつかの方向性の柱が形成されていきました。例えば、フィジカルとバーチャルを超えてクリエイターが共創する「クリエイティブアカデミー」のような仕組み。フィジカルな旅行にXR技術を重ねて体験を変化させる「Immersive Travel(イマーシブトラベル)」。その延長線上にある、ロケーションベースエンタテインメント(LBE)の構想。そして、人間の生活を支える「食」もエンタテインメントの一部であるという視点などです。
議論を惹起(じゃっき)するための青写真「BLUEPRINTS 2035」
── さまざまなアイデアから柱となる方向性を定めた後、それをどのようにプロジェクトに落とし込んでいったのでしょうか?
守屋:アイデアというものは、自分たちの頭の中だけにとどめておくのではなく、人に伝えて共有することで初めて成長し、洗練されていきます。そこで我々は、議論の土台として「BLUEPRINTS 2035」という、まさに青写真となるアイデア集(冊子)を社内向けに制作しました。 これをもとに、トップマネジメントからR&D(研究開発)のエンジニア、エンタメ制作の現場のキーパーソン、さらには外部の有識者まで、横断的に議論を重ねていきました。

── クリエイティブセンター単独で完結させるのではなく、ビジネスサイドや技術サイドの方々をディスカッションパートナーとして巻き込んでいったのですね。その議論の中で、特に印象的だった出来事はありますか?
守屋:R&Dのマネジメントの方々とお話しした時のことが非常に印象に残っています。「10年後にはこんな技術があるのでしょうか?」と我々が提示した未来観に対して、「いや、そんなものじゃない。ソニーの技術ならこういうことまで可能なんじゃないの?」と、こちらのチームメンバーの想像をはるかに超えるような、もっと突拍子もない技術的アイデアを逆に提案していただいたんです。我々が自由に発想したアイデアに対して、技術のプロフェッショナルたちがさらに上の次元で応えてくれる。これがソニーの技術力の凄さであり、「ソニーらしさ」だなと肌で感じた瞬間でした。
飯田:その後、ソニー・ピクチャーズ アニメーションやアニプレックスなど、グループ各社のキーパーソンを集めてワークショップを行っておられましたね。
守屋:はい。海外のグループ社員にも、この「BLUEPRINTS 2035」や初期のビジョンムービーを見てもらいながら、「我々が描く未来の世界はこうですが、皆さんはどう感じますか?」と直接意見をぶつけ、フィードバックをもらうという活動を地道に続けました。

3回作り直したこだわりと、グループ各社のプロフェッショナルとともに取り組んだ映像制作
── CEVのビジョンムービーは、完成までに3回も作り直したと伺いました。
守屋:CEVをより広く伝えていくためには、単なる技術の羅列ではなく、人間の感情に寄り添うストーリーが必要だと考えていました。2023年に試作版としてバージョン0を作り、そこに意見をいただきながら、人間を中心に据えた3つのストーリー(クリエイターの成長ストーリー、旅先でのエンタテインメントストーリー、LBE空間で家族との時間をともにするストーリー)を起点に映像をブラッシュアップしていきました。そうして、2024年の経営方針説明会用に制作したのがバージョン1。そして、2025年1月に開催されたCES®※に向けて、イメージのブレをなくすようさらに改良を重ねたのがバージョン2です。
※CES®とは、毎年1月に米国(ラスベガス)で開催される、世界最大級のテクノロジー見本市のこと。
飯田:私がCEVのビジョンムービーを初めて目にしたのは2024年の経営方針説明会のタイミングですので、バージョン1ですね。細部に至るまで非常に作り込まれていて具体的でありつつも抽象的でもあり、見る側にも想像の余地が残されていて、未来の姿を考えさせられる作りになっている点がとても印象的でした。
── 3回にわたる映像制作プロセスにおいて、特に印象に残っていることはありますか?
守屋:最も印象に残っているのは、バージョン1の映像制作での経験です。ロサンゼルスのカルバーシティにあるソニー・ピクチャーズのスタジオに、ソニーグループ各社から多くのプロフェッショナルが集結し、バーチャルプロダクション撮影を行いました。
私にとってはこれまでの仕事の範囲を大きく超えた経験であり、現場はワクワクとドキドキの連続。バーチャルプロダクション撮影は、当日は一発撮りで進むのですが、そこに至るまでのCGの作り込みなどの仕込みに約2ヶ月を要しています。現場では、撮影当日に映像のノイズが出てしまうという予期せぬトラブルもあり、「今日しか撮影の時間が確保できないのに!」とヒヤヒヤしましたが、技術チームがすぐに対応し、見事にトラブルを解消してくれました。リアルタイム・エンタテインメントの現場で活躍する方々のプロフェッショナルな対応を目の当たりにし、我々もその熱量に直接触れることができたのは、デザイナーとしてのキャリアにとっても非常に大きな経験でした。

<編集部のDiscover>
今回の記事ではVisualization(可視化)に焦点を当て、さまざまなアイディエーションを経てコンセプトが生まれ、映像化されて公開に至るまでのプロセスをご紹介しました。次回はPromotion(推進)をテーマに、CEVを社内外にどう広めていったのか、そしてCEVの現在地についてもご紹介したいと思います。次回もどうぞお楽しみに!
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