「教育」でも「インターン」でもない。ソニーと神山まるごと高専が挑む、未来の事業を生み出す「共創」のカタチ。

ソニーグループ株式会社(以下、ソニー)は、一般社団法人 Arc & Beyond※1(以下、Arc & Beyond)とともに、神山まるごと高等専門学校※2(以下、神山まるごと高専)の学生と事業開発を行っています。具体的にはソニーおよびArc & Beyondのプロジェクトに興味と熱意のある学生を募集。両者が持つ開発スキルと、学生の創造性を掛け合わせた産学共創による事業開発です。
事業開発に関わったメンバーとして、今回、ソニーからは萩原さんと小路さん、神山まるごと高専からは吉田さんと溝渕さんにお話を聞きました。
学生が社会人から学ぶための授業や仕事体験のためのインターンでもない、事業開発のための共創プログラムからどのようなシナジーが生まれたのか。その全体像と共創による価値に迫っていきたいと思います。
※1 一般社団法人Arc & Beyondについての詳細はこちらをご覧ください
※2 神山まるごと高等専門学校についての詳細はこちらをご覧ください

- 吉田 尚翔

- 溝渕 晃大
学校の中に社会を再現する、プログラム。
── まずは、今回のプログラムが立ち上がったきっかけと、プロジェクトの概要について教えてください。
小路:もともとソニーは、神山まるごと高専のスカラーシップパートナーとして参画しており、開校以来1~2年生向けにプログラムの提供なども行っています。それに加え、3年生以降の学生が主体的に自身のやりたいことに取り組めるよう、さらに一歩踏み込んだ実践的な連携ができないかという議論を先生方やスタッフのみなさんとも進めてきました。そこから生まれたのが、「学校の中に社会を再現する」ということをコンセプトにした今回の事業開発のための共創プログラムです。学校の中でただ一方的に学ぶだけではなく、本人たちが壁にぶつかりながらも実践の場で経験を積んでほしいという思いがありました。
ただ、パートナー企業として初の取り組みでもありますし、ソニーとしても年少者(18歳未満)を含めたアルバイト雇用は過去に例がありません。人事部協⼒のもと制度設計から着手した我々にとってもチャレンジングな取り組みでした。

萩原:プロジェクトの中身についてですが、私が10年程前に開発して事業化したMESHというプロダクトがあるんですね。アイデアを形にできるIoTブロックで、プログラミング言語を知らなくても、やりたいことを直感的に、手軽に組み立てることができます。主にプログラミング教育の場で使っていただいているのですが、MESHの特長である「誰もが作り手になれる」ということを生かして、たとえば福祉領域やビジネスの現場などもっと社会のさまざまな場面で価値を発揮できるのではないか、という可能性を感じていました。
そこで今回、神山まるごと高専のお二人にはMESHを使ってどのようなビジネスが成り立つのかということを一緒に考えていただくことにしました。

── 具体的にはどのようなことを、学生のお二人に依頼されたんでしょうか?
萩原:実際に二人にやっていただいたこととしては、過去に実施した顧客調査の結果(実際のビジネスシーンでMESHを利用いただいた企業十数社分)を読み込んでもらい、各々の視点で課題の明確化、真因の特定、改善策としてのソリューション案を作成してもらいました。また、その後は実際にラピッドプロト※1や実際に動作するワーキングプロト※2の作成を進めていきました。最近ではユーザー候補の個人・法人にヒアリングしてもらい、フィードバックを得て改良していくというプロセスを共に歩んでいるところです。
※1 ラピッドプロトタイピングの略で、製品開発において迅速に試作品(プロトタイプ)を作成する技術や手法のこと。
※2 ワーキングプロトタイピングの略で、ユーザーからのフィードバックを収集して機能や操作性等の検証と改善につなげるための、実際に動く試作品のこと。
ただ、今回の取り組み背景も含めて、何かこちらで考えて作業レベルに分解したものをお渡しするのは違うんじゃないかと思いまして。最初にお伝えしたのはMESHとしてのコンセプトや事業概要くらいで、あとは、誰が顧客でどのような課題があり、どのような解決策があり、それをどう製品・サービスで実現するのか、またそのプロセスをどう検証するのかということもまずは自分たちで考えてみてください、といった依頼の仕方でした。
── なるほど、かなりざっくりとした内容というか、あえて入口のところからビジネス全体を考えてもらうということなんですね。
萩原:そうですね、今回お二人に期待したのは我々にはない柔軟な発想です。ビジネスの経験を重ねていくとどうしてもバイアスや思い込みに囚われてしまうので、ゼロからフレッシュな状態で思考してほしいと考えました。

学生である、という強みを生かす。
── 吉田さんと溝渕さんのお二人は、自ら手を挙げてプロジェクトに参加されたということですが、その理由を教えてください。
吉田:以前に別の授業でMESHに触れたことがあり、プロダクトとして面白いと感じるとともにまだ何か可能性があるような感覚がありました。そんなタイミングで今回の募集があったため説明会に参加したのですが、そのときにお聞きしたMESHや今回のプロジェクトにおけるコンセプトにも共感したため応募を決めました。

溝渕:初めて私がMESHと出会ったのは、小学校の1年生か2年生のときでした。たまたま見ていた雑誌にMESHが取り上げられていたのですが、他のIoTデバイスにはないデザインや機能面が印象的で、強く心惹かれていました。そのときの記憶がずっと頭の片隅に残っていたのですが、それが今回、MESH開発者の萩原さんと一緒に働ける機会があると知って本当に驚きました!自分自身が感動を受けたプロダクトを通じて、自分も社会に貢献したいという思いで応募しました。

── 実際にチームに入られて、お二人はどのようにプロジェクトを進められたのでしょうか?特に意識したことや工夫した点などはありますか?
吉田:プロジェクト全体において私が特に意識していたのはAIの活用です。私たちはデジタルネイティブ世代と言われていますし、神山まるごと高専の特色としても普段からよくAIを使っているため、一つの強みになると考えました。
一方で、すべてAIを使ってしまうと自分が参加する意味がなくなるので、たとえばアプリケーションのUI※について検証する際は、まずは自分である程度作成したうえでそれを学習させていくつかパターンを作る際にAIを使ってスピードアップを図りました。
※UI(ユーザーインターフェース)とは、ユーザーとシステムが接する部分のこと。画面のデザインや文字の配置、操作方法なども含まれる。
溝渕:私も、尚翔先輩(吉田さん)と同様にAI活用を意識していました。加えて、学生だからこそのフットワークの軽さも強みの一つと捉えていました。たとえばワーキングプロト作成後にヒアリングを行うことが決まったら、その日のうちに友人・知人に声を掛けて、実際に使ってもらって意見を聞いてみたり。技術やプロトタイプに関する情報の守秘義務の扱いやヒアリングの進め方などは、小路さんや萩原さんにサポートいただきながら、できるだけ早く動くということを常に意識していました。

「教える」「教わる」という関係を越えて。
── 吉田さん・溝渕さんには活動時の工夫などをかいつまんでご紹介いただきましたが、ここまで活動を共にしてきた萩原さん・小路さんから見て、いかがでしたか?
萩原:AIの使い方は彼らから学ばせてもらった部分が大きいですね。プロトタイプのやり方も、従来であればペーパープロト※などを手作業で作っていましたが、彼らはAIを駆使して対話の中で脳内にあるイメージをワーキングプロトとしてスピーディーに構築していました。これによって圧倒的に仮説検証のサイクルを早めることができたと感じています。
※ペーパープロトタイプの略で、ウェブサイトやアプリなどの画面デザインを紙とペンで手書きして作る試作品(プロトタイプ)のこと。
小路:二人とも事業開発やビジネスにおける思考プロセスの素地ができているので、新しいフレームワークを提示した際も吸収力が高く、理論と実践を両輪で回していくことができています。このあたりは、起業家育成に特化した神山まるごと高専ならではだと感じました。
また、溝渕さんから「フットワークの軽さ」という言葉がありましたけど、とにかく動いてみようという姿勢には、こちらのメンバーみんなが刺激を受けていたと思います。社会人と学生という立場や世代を越えて、共に刺激を与え合い切磋琢磨できているのも、私たちも彼らも本気で事業開発と向き合っているからでしょうね。

「本気の共創」がソニーと次世代にもたらすもの。
── 吉田さん・溝渕さんは、このプロジェクトを経験して何か変化を感じたり、気づいたり学んだりしたことはありますか?
吉田:自分がやったことに対して報酬が支払われるということで、仕事に対する責任感が芽生えたと思います。課外活動などではどうしても妥協してしまうようなところもありましたが、仕事に対する向き合い方や意識が大きく変わりました。
また、学校の授業では出会うことができないさまざまな業界の社会人の方々とインタビュー等を通じて話すことができたことも大きな経験になりました。
溝渕:新規事業のステップやビジネスのフレームワークについて授業では習っていても、自分自身でやってみないとわからないことがたくさんあるので、一つひとつの実体験が大きな学びになりました。また逆に、ジョブ理論※1やPMF※2といった考え方はこのプロジェクトを通じて知ったものだったのですが、後に授業でも紹介されて、授業で習うことはちゃんと実践と繋がっているんだと感じました。
※1 ジョブ理論とは、顧客ニーズをジョブ(解決したい仕事)と捉えることで、プロダクト開発に生かすという理論のこと。
※2 PMF(プロダクトマーケットフィット)とは、製品やサービスが顧客ニーズを満たし、市場に受け入れられている状態のこと。事業の成功を判断する指標として用いられる。
── では、最後に。吉田さん・溝渕さんはまだ卒業まで少し時間がありますが、お二人の可能性溢れる将来に向けて、社会人の先輩として萩原さん・小路さんからメッセージ(エール)をお願いします。
小路:事業開発のための共創プログラムには二人に1期生として加わってもらいましたが、この活躍を次の世代、またその次の世代にも繋いでいってもらいたいですね。10月からまた新たなメンバーも別のプロジェクトに加わりましたので、二人にはぜひ引き続きトップランナーとして走り続けてもらい、積極的な姿勢、貪欲な姿勢を継承していってもらいたいと思っています。
萩原:今回、MESHを通じて私たちが二人と出会えたように、将来二人が作るサービスや事業で新たに繋がる人や人生が変わる人も出てくるだろうと思います。そういう良い連鎖を作っていけるといいですね。そして、二人が卒業してからもまた将来に、ビジネスで一緒に何かできる機会があれば、これほどうれしいことはないですね。

<編集部のDiscover>
萩原さん、小路さん、吉田さん、溝渕さんにインタビューをしていて感じたのは、みなさんの自然な空気感でした。学生と社会人、年齢差(二回りほど歳は離れているはず)を感じさせないフラットな関係性、遠慮や過度な気遣いによる堅さがなく、かといって馴れ合いの関係でもない。おそらくこれが、一つのゴールに向かって共創する、チームとしての理想の関係性なんだろうなと感じました。
神山まるごと高専との事業開発のための共創プログラムはこれからも続いていきます。吉田さん・溝渕さんをはじめ、学生のみなさんの活躍をこれからもどうぞご期待ください!













