アニメで夢を描ける社会へ。アフリカで始まるTAIDOの挑戦

エンタテインメントは人の心を動かす。では、社会課題を解決する力にもなり得るのだろうか。世界各地で多くの社員が活躍しているソニーですが、その影響はなんとアフリカの若者たちにまで及んでいます。ソニーが設立した一般社団法人 Arc & Beyond※1は、アフリカのアニメーション制作スタジオと連携し、現地アニメーターを育成する「TAIDO(タイドウ) Project」※2を実施しています。若者の安定雇用の難しさを社会課題ととらえ、アニメーション制作を通じて雇用機会を創出するとともに、アフリカの物語を世界中に届けることを目指しています。なぜ、社会課題の解決に「アニメーション」という手段を用いるのか。このプロジェクトは未来世代への投資にどのように繋がっているのか。今回はプロジェクト主催者への取材を通して、その実態と挑戦を支えるソニー社員の信念を探ります!
※1詳細は以下のページをご覧ください。
Arc&Beyond
※2詳細は以下のページをご覧ください。
Arc & Beyond、アフリカの2つの制作スタジオと連携するアニメーション制作プログラム開始 – Arc&Beyond

- 廣瀬 羽音
アフリカの人たちが本当に伝えたいことを描く。挑戦への第一歩

── TAIDO Projectは現在どのようなフェーズにあるでしょうか。
プロジェクト自体始まったばかりで、昨年はまずアニメーションを一緒に作ってみるというところからスタートしました。雇用創出につながる大きなプロジェクトにすることを目指して、第一歩を踏み出したところです。最終的には、アニメーターを育成する環境をつくることを思い描いていますが、まずはすでにアニメ制作の経験があって、電力や通信網などのインフラが整っている方々をターゲットとして、プロジェクトを始動しました。そのため今回は最初からアフリカにあるアニメーションスタジオに声をかけて、特に私たちの思い描く未来に共感してくださった方々と連携してアニメをつくりました。
── 現地のスタジオからの反響は、いかがでしたか。
アフリカでは、多くのアニメーターがアニメの作り方を独学で学んでおり、学ぶ場が不足しています。アフリカのアニメーターにとって日本のアニメの影響は想像以上に大きく、今回関わった方々の多くが、日本のアニメをきっかけにアニメに関心を持っており、現在も最新作品がリアルタイムで楽しまれています。一方で、日本の2Dアニメーションの作り方を学ぶ場や機会はアフリカにはほとんどないため、今回のプロジェクトは彼らにとっても貴重な機会になったようです。誰もが知るアニメの最前線で制作進行に携わる、日本アニメのエキスパートである「がめがめさん※」もプロジェクトに参加してくださっているのですが、週に一度打ち合わせをしながら、適宜鋭い指摘をして修正や変更を重ねました。それが、彼らにとって非常に大きな学びになったようで、「チームで一緒にやりたい」とも言ってくれました。
※詳細は、以下のページをご覧ください。
同じ「アニメ制作」でも、作り方はこんなに違った|TAIDO Projectの中の人
── 3月に東京で開催された「TAIDOアフリカンアニメーションアワード2026※」では、制作されたアニメを発表されたとのことですが、そのときの様子も教えてください。
制作発表会は、完成したアニメーションをより多くの方に届け、アフリカ×日本の共創とグローバルなビジネスにつなげることを目的に開催しました。まずは日本のアニメ業界の方々から関心を得ることを第一の目標とし、講評会を設けたところ、アニメ業界を牽引する多くの企業にご参加いただけました。その結果、想像以上に多くの関心が得られ、アフリカに着目している方がこんなにいらっしゃるんだと新鮮な驚きでした。
アニメ制作の技術はさておき、独特な物語やリズムが良いなどと評価していただけて、彼らの物語の魅力と可能性に確信が持てました。
また、東映アニメーションさんがご厚意で日本語の吹き替え版やアフレコ見学の機会を作ってくださったのですが、アフリカのアニメーターの方々も、日本のアニメ制作の一端を経験して感動していました。
日本とアフリカ双方のみなさまが、お互いの物語や技術に感動して、どうしたら一緒にビジネスを作っていけるか議論することもできたので、多くの可能性を見出すことができた発表会だったと思います。
※詳細は、以下のページをご覧ください。
「TAIDOアフリカンアニメーションアワード 2026」開催 ~アフリカのアニメクリエイターが来日、日本アニメ産業との「共創」の幕開け~ – Arc&Beyond
── アニメにはアフリカの文化が反映されていると伺いましたが、具体的にはどのようなところなのでしょうか。
制作において重視しているのは、「彼ら自身が発信したい物語」を表現することです。そもそも、外部の視点で異なる文化を描くことは難しく、例えば私たちも「海外からの視点で書かれた日本」に違和感を覚えることがあると思います。アフリカの方々は、同様の経験を重ねてきました。自分たちで表現する機会は限られている一方で、外から一方的に描かれることが多かったのです。やはり、文化はその中にいる人が一番分かっているので、それを描きたいという想いを尊重することで、結果として一番面白いものになると信じています。そのため、今回も彼らにどういう物語を伝えたいかというところから考えてもらいました。一つ例を挙げると、アニメ※の冒頭に出てくる太鼓はアフリカのトーキングドラムというものを表現しています。トーキングドラムは、皮の引っ張り方で音階を変えて、たたき方によって物語を遠くまで伝えたり、周囲の人と感情を共有したりするのに使われているそうです。私も先日初めて現地で聞いてきたのですが、太鼓ひとつとってもそれだけの文化的背景があることが本当に興味深くて、部族によってもそれぞれに文化があって、魅力的だと感じました。日本についても、忍者や侍などの文化が、特にアニメを通じて大きく世界に広まっていますが、アフリカにもそういったエンタテインメントになる種のような文化が山ほど眠っているのだなと感じています。基本的に彼らが描きたい物語を表現していく中で、私達も「外から見るとこういうところが面白いよ」などと伝えながら物語を作っていく可能性を感じました。
※実際のアニメーションは、以下の動画をご覧ください。
【日本語吹替版】Trials of the Spear | CR Motion Plus
インドはIT、アフリカは…アニメ?
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── そもそも、アフリカの社会課題に着目したきっかけは何ですか。
キャリアの中で、インドの新規事業に携わっていた際、ビジネスエリアに中東・アフリカも含まれており、アフリカと触れ合う機会がありました。その中で、インドではIT産業が大きく成長し、多様な背景を持つ人々がそこを目標に野心を持てる環境が整っていることを知りました。一方で、アフリカの方々にとって目標になる職業・産業は何だろうと思いました。夢を持って挑戦し、努力することで自分の人生を切り開いていけるような産業をアフリカでも育てられないかと思ったことがきっかけです。
── 社会課題解決にはさまざまな手段がある中で、エンタテインメント、特にアニメを利用しようと考えたのはなぜですか。
アフリカの産業について考えていた中で、アフリカで日本のアニメが爆発的に流行しているというニュースを偶然目にして、アフリカでもアニメが愛されていることを知りました。私自身もアニメに影響を受けてきた一人であり、ソニーの強みであるアニメ・エンタテインメントの力を生かして産業を生み出すことができたら、と考えました。
── プロジェクトの始動にあたり、まずどのようなことから行動されたのでしょうか?
アフリカのことも何も分からなかったので、関連する団体や個人に無茶ぶりに近いかたちで積極的にお話を聞きました。専門性がないからこそ、人を頼ることに物怖じせず動けたことで、結果的にスピーディーに進められたのではないかと感じています。
── 北畠さんご自身はアニメ制作の経験があったのでしょうか?
全くありませんでした。なので、私がこのプロジェクトの中で担っていた役割は、アニメオタクという立場ですかね(笑)。誰よりもアニメが好きだからこそ、現地のアニメーターとも共感しながら、一緒に制作を進めることができたのだと思います。
違うことばかりでも共通する、"アニメが大好き”という想い

── 技術や設備、カルチャーなど、日本との違いに直面したことはありますか。
むしろ共通点を探す方が難しいほどです(笑)。地理的にも離れているし、文化も言葉も何もかも違いますが、アニメが大好きでアニメ産業を大きくしたいという想いは共通していました。その根底にある想い以外は、違うことを前提で進めていたので、違和感はありませんでした。制作過程については、案外似ているところも多く、むしろアフリカの方が効率的だと感じる場面もありました。また、現地のアニメーターにとっても日本人と一緒に仕事をするのが初めてで、現地では日本人オフィスの方々に、日本人と関わる時に注意するべきことなどを確認してくれていたそうです。このようにお互いにカルチュラルギャップがあることを前提にしながら、お互いを尊重し、理解し合おうとしていたため、大きな違いに直面して困難になることはありませんでした。
── 今後どのようにビジネス的意義や利益を生みだしたいとお考えですか。
やはりアフリカ発アニメの知名度や人気を上げ、グッズ展開などができれば大きなビジネスになると考えています。去年はまず短いアニメーションを作りましたが、次はもう少し長い作品を作りたいです。そしてそれを世の中で人気にするために発表の機会などを工夫していきたいですね。
アフリカの若者が夢を持つきっかけをつくりたい

── 今後のプロジェクトの展開について教えてください。
アニメはグローバル市場なので、アメリカやヨーロッパにもアフリカの物語を届けていきたいです。また、アフリカの方々は、自分たちの物語を語ることができなかったという、憤りに近い想いと、アニメを描きたいというポジティブな情熱の両方を持っています。今回共創する中で、その熱い想いこそが原動力なのだと感じ、我々も巻き込まれていったので、その情熱の暁に雇用創出などの社会課題の解決はあるのかなと思っています。彼らが描きたいものは本当にたくさんあって、何年、何十年かけても描ききれないほどだと感じています。だからこそ、今後もアフリカの物語を世の中に届けていきたいです。現在はアフリカの神話や伝統文化が物語の源泉になっていますが、もっと日常に近い文化についてもアニメで表現できたら、題材は無限にあると思っています。さらに、アニメは総合芸術であり、声優や音楽などの関連分野にも広がりがあります。そのため、産業を大きくすることでアニメーター以外の雇用創出にもつなげられたら魅力的です。
── アニメーションはアフリカにどのような効果をもたらすのでしょうか。
ラゴス国際見本都市というところで発表した際にも、アフリカの方々にとってアニメは「海外から来たもの」という認識が強いことを実感しました。「もしあなたの好きなアニメをつくっている人たちと一緒にアフリカの人たちがアフリカの物語をつくるとしたらどう感じる?」と尋ねると、「夢みたい」などと大きなリアクションが得られました。そのため、この活動をアフリカの若者に届くような形で発信することで、夢を持ってくれる方が確実にいるんじゃないかなと思っています。
── 好きなアニメが自分の国で作られていると知ったら夢がありますね。
そうなんですよ。アフリカでは、地域によっては大学に進学すること自体が難しく、一生懸命お金をためて学び、大学を卒業しても、その学びを生かせる仕事の機会が限られているという現状があります。こうした状況が続くことで、新たな挑戦への意欲が生まれにくく、国全体の発展にも影響していると感じています。私たちのプロジェクトで全てを変えられるとは思いませんが、アニメを産業として根付かせ、アニメーターという職業が正当に評価される社会を実現したいと考えています。その結果、少しでもアニメが好きな若者が目標を持ち、努力し、実際に夢を叶えられる環境を生みだせたらと願っています。
<編集部のDiscover>
今回の取材を通して、アフリカの若者が夢を持つきっかけをつくりたいという北畠さんの想いには、強く心を動かされました。慈善活動や支援などさまざまな手段がある中で、アニメというエンタテインメントを通じて、楽しくポジティブな形でアフリカの課題にアプローチしている点に、大きな可能性を感じました。また、アフリカにはまだ知られていない魅力的な文化がたくさんあることを知り、プロジェクトの今後がより楽しみになりました。アフリカのアニメーションの広がりを、これからも見ていきたいと思います。












